シーン5.5:唐突
「エレナ――」
声が、どこからともなく聞こえる。だが、それは私の意識の中に響くだけで、現実には存在しないものだった。
突然、目の前にカラスの金色の目が迫ってきた。その瞬間、私の視界が暗転した。
「――っ!」
私は跳ね起きた。
冷や汗が背中を伝い、息が荒い。目を見開いて周囲を見回すが、どこにもカラスの姿はない。
まだ夢の余韻が残っている。あの金色の目が、まるで現実に引き戻されるように頭の中に浮かんでくる。
「……また、あの夢を見たのね…」
自分の腕を掴んで、ようやく冷静を取り戻す。汗がじっとりと背中に滲み、心臓は激しく打っていた。
しばらくして、私はようやく寝台から立ち上がった。
窓の外はほんのり明るく、夜明けが近いことを告げていた。
夢のことを忘れようとしても、胸の奥にはざらついた違和感だけが残った。
私は深く息を吸い、心を落ち着けようと試みた。
今日は、イリスとギルドに行く予定だったはずだ。
また新しい一歩を踏み出さなければならない――そのことだけを考えるようにした。
朝、イリスはギルドに私を連れていった。
「パーティーを組むには、登録が必要よ。面倒だけど、これも最初の一歩だから」
イリスはすでに「白銀のイリス」と呼ばれる名のある冒険者で、受付嬢が丁寧に頭を下げる様子に、私は少し緊張した。
そして私たちは正式にパーティーを組むことになった。