シーン1:私の瞳
私の胸の奥で何かが砕け散った。
気づけば家の一部が崩れ落ち、瓦礫が足元に転がっている。
右目の金色がぼんやりと輝き、左目の黒が重く私を包み込んでいた。
また抑えられなかった……。
「出て行きなさい!」
ラウラの叫びが耳に突き刺さる。
彼女の鋭い視線が私の黒と金の瞳を捉えた。
不気味な目が彼女を苛立たせているのは分かっていた。
継母のラウラにとって私の「闇の力」は恐怖そのものでしかなかった。
私は手で顔を覆い、震えた。家族にまで、この力が及んでしまった……私はここにいてはいけない。
「……その力で、いずれ誰かを殺すわ。」
彼女の冷たい言葉は、家を壊した私の行為を裏付けるものでしかない。
心が張り裂けそうだった。
ずっとこの力に怯えて生きてきた。
感情が揺さぶられるたびに、光と闇の均衡が崩れ、私が望まなくても何かを壊してしまう。誰かを傷つけるだけの存在なんだ。
「出ていきなさい。もう近づかないで。」
継母の言葉は冷たく響くが、その奥には一瞬、苦しみが見えた。
しかし、それが何かはまだわからない。
私は静かに自室へ戻り、荷物をまとめた。家を出るしかないと悟りながらも、心の中には後悔と悲しみが押し寄せた。
鏡に映る自分を見つめる。
淡い銀色の髪は、父が作った「陰陽の髪飾り」で束ねられているが、完全には私の暴れる魔力を抑えられない。
この瞳――片方は深い黒、もう片方は金色――は、幼い頃から冷たい視線を集めてきた。この瞳が私に課した運命から、逃れることはできないのだろう。
扉がそっと開く音が聞こえた。
振り返ると、ルカが立っていた。彼の緑の瞳が、私のオッドアイをまっすぐに見つめていた。その瞳には恐れの色はなく、何かを受け入れるような静かな光が宿っていた。
「待って、姉様。これを」
ルカの手には金貨や銀貨が詰まった袋、そしていくつかの宝飾品があった。
「しばらくこれで凌いで…戻ってきてください。」
彼の声は震えていたが、冷静だった。その優しさに、私は一瞬心が温まった。しかし、彼の小柄な体に秘められた決意が、私をさらに苦しめた。
「ルカ…ありがとう。でも、私はもう戻れないんだ」
私は彼の頭に手を置き、感謝の気持ちを込めて優しく撫でた。銀色の髪が指先で揺れる。その瞬間、ルカの瞳が揺れ、声が震えながらも言葉を続けた。
「ダメだよ、姉様。母様は、僕がなんとかするから。絶対に戻ってきて…」
彼の幼い体が私にしがみつき、守ろうとする気持ちが痛いほど伝わってきた。
彼の存在が、私をここまで慕い、支えようとしていることに胸が締めつけられる。ルカは私の心の支えであり、彼の気持ちを裏切るような気がしていた。
「ルカ、君がこの家を守って。母様と一緒に、しっかりと生きてね」
私は優しく微笑み、ルカの手をそっと解いた。
彼はもう一度だけ私を強く抱きしめ、静かに手を離した。そして、私は静かに家を後にした。寒い夜の空気が私を包み込んだが、ルカの温もりはまだ私の中に残っていた。
外に出ると、灰色のコートに身を包んだ私の体に、冷たい風が吹き付ける。足元は旅人用のブーツで固めていたが、心の中の寒さを和らげることはできない。それでも、前に進むしかない。