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妖精の国

家事を終え、日課である薬草を摘みに森へいく。

ケイトは魔法が使えない代わりに、採取した薬草を売ることで日銭を稼いでいた。広大な森で薬草を探すのは本来ならば困難なことだが、森に詳しい妖精たちが道案内してくれるおかげで、ケイトは薬草を比較的たやすく採取することができた。


『こっち、こっちだよ。ケイト、ついてきて』


妖精が先導するように先を飛んでいく。ケイトは足元に注意しながら妖精についていく。新芽がいたるところで地面から顔を出しているのを見かけて、春の訪れを感じた。

妖精は薬草を見つけると、その場でくるくると旋回(せんかい)し始める。

ケイトは口元を微かに緩めながら妖精に近づき、腰を落とした。薬草を摘み取り、肩から下げた鞄に入れる。暗くなるまで、それの繰り返し。


「あっ、雨だ」


夢中で薬草を摘んでいると、ふいに雨が降りだした。


「ちょっと早いけど今日は此処までにしよう。あれ、みんなは?」


辺りを見渡しても妖精の姿が見当たらない。気まぐれな妖精たちのことだ、何処かへ遊びにいっているのだろう。その時は大して気にもせず、ひとりで町へ帰ろうとした。

だが、今日は森の奥へ入り過ぎたようだ。どこまで歩いても家にたどり着けず、林道をさまよい続ける。普段なら妖精が帰り道を教えてくれるから迷子になったりしないのに、今日に限って妖精はひとりも見当たらない。


しばらくして、雨脚が強くなってきた。歩くたびに、足元から湧き上がる泥水が靴を汚す。春先とはいえまだまだ冷える。服が濡れたせいで身体が(こご)えて、何度も泣きたくなった。しかし、ケイトは泣かずに、歩くことを選ぶ。入り組んだ林道をケイトはさまよい続け、いつしか森の最奥に足を踏み込んでしまった。


そこは、幻想的な光が溢れる場所だった。

様々な色の花が咲き乱れ、香り高い風が吹き抜けていた。紫、黄色、虹色……それぞれの花が異なる香りを放ち、甘やかな風とともにケイトの頬を優しく撫でる。

つい先ほどまでの土砂降りが嘘のように、空はどこまでも澄み渡っていた。


なかでも目を奪われたのは、

――透明の輝く羽を持つ美しい妖精たちだ。


彼らは、それぞれが個性的な姿をしていて、美しい歌を口ずさみながら、花々の間をくるくると舞っていた。その光景は、まるでおとぎ話に出てくる妖精の王国そのものだった。


思わず息を呑み、ケイトはその場に立ち尽くす。

こんな素晴らしい場所が存在するなんて!


その時、妖精のひとりがケイトに気が付いた。

煌めく羽をはためかせ、近寄ってくる。艷やかな銀髪に透けるように白い肌、それに切れ長の涼やかな目元。どこか中性的な雰囲気を漂わせる、美しい端正な顔立ちをした妖精だった。


『おや、君は……』


その妖精が微笑んだ瞬間、胸がどきん、と高鳴る。

ケイトは慌てて頭を下げ、挨拶をした。


「こ、こんにちは!あの、森の中で迷子になってしまったのだけど、……此処は何処だか教えてもらえる?」


『ここは妖精の国だよ』


――妖精の国!

予想もしなかった返答に、ケイトは目を丸くした。

知らないうちにそんな場所に来てしまったことにも、そもそも妖精の国が実在していたことにも驚きだ。


『驚いたかい?普通は人間は入って来られないから、僕たちの国はあまり知られていないからね』


「うん、妖精の国なんて初めて聞いた。でも、私はどうして来れたんだろう?」


『君は特別な人間だから、ここにたどり着いたんだろう』


「私が特別な人間……?」


『そう』


妖精はやわらかく頷き、ケイトの翠色(みどりいろ)の瞳を覗き込んだ。

芽吹いたばかりの若葉の色だ。水をたたえた湖面に初夏の陽が差し込んだ時のように、きらきらと輝く。


その色は、生命の始まりを予感させるような、瑞々しい輝きに満ちていた。


ケイトの亜麻色の髪にもよく映えて、その瞳をいっそう美しく際立たせている。


『……とても綺麗な瞳だね』


その美しい妖精の声は、風に混じる鈴の音のように穏やかで、どこか切ない響きを孕んでいた。

その声音には、ただの美しさを讃える以上の、深い意味がこもっていた。


『君は、妖精が見える目を持っている。それは特別な力だ』


「特別……」


ケイトの頬がほんのりと赤くなる。

その目のせいで罵られる事はあっても、“特別”だなんて言われたことは生まれて初めてだった。それに至近距離で見つめられて、嬉しいやら恥ずかしいやら、落ち着かない気分になる。

色んな感情がごちゃ混ぜになって、さっと視線を逸らした。


「こっ、こんな綺麗な景色は初めて見た。こ、来れて良かった。あのっ、私の村への帰り方を教えてもらえる?」


妖精はすまなそうに眉を下げる。


『すまない、人間の国への行き方は僕たちには分からない。だけど、人間の君が闇雲に帰ろうとしても迷子になるだけ。最悪、野垂れ死にしてしまうよ』


「えっ……」


その言葉に思わず声を漏らした。けれど、ケイトは我が家に帰れないと分かっても、不思議と辛くなかった。それどころか、ほっとしている自分がいて驚いた。

頬に手を当てて、これからのことを考える。


「そう。帰れないなら……、帰り方が分かるまで此処に居させてもらう事は出来る?」


『勿論だとも。好きなだけ此処で過ごすといい』


どうせ帰ったところで家族に虐げられる毎日に戻るだけなのだ。家族も自分が居なくなったところで悲しんだりはしないだろう。

それならば、妖精達の好意に甘えてこの国に滞在することにケイトは決めた。


『とは言え、人間には分からないことばかりだろう。僕の名前はリューシー。良ければ、滞在中は僕が面倒をみよう』


「そうしてくれると助かるな。私の名前はケイト。リューシー、よろしくね!」


次からは妖精たちとの暮らしの話になります。

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