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異世界家政婦おばちゃん、悪役令嬢を叱り飛ばす!~あんた、そんなんやから嫌われんねん!~

作者: しずく葉

序章:転移の経緯はスルーでええやん?


私は伊藤和代、56歳。

大阪生まれの大阪育ち。商店街の人情とおせっかいで育った、おばちゃん中のおばちゃんや。


ひょんなことからこのへんてこりんな世界に来てもて、今は王都の食堂で働いてる。

魔法やら騎士やらおっても、腹は減るしメシは食う。人の世って、どこも変わらんね。


ある日の昼下がり、食堂の扉が「からーん」と鳴って開いた。


「いらっしゃいませ〜! 本日の日替わりは、牛すじ煮込みプレートやで〜!」


いつものように笑顔で出迎えると、見慣れない上品なおっちゃんがひとり入ってきた。

なんや、えらい立派な服着てるやん。貴族かな?


「……ふむ。こちらの料理を試してみようか」


めちゃくちゃ偉そうやけど、注文は素直に聞くあたり、まだマシなタイプや。


「はいはい、おっちゃん、そこ座って待っとき。すぐ持ってくるからな」


気負いゼロの対応に、最初は目を丸くしてたけど、料理を出してしばらく経つ頃には妙に機嫌がええ。


食後、そのおっちゃん――

実は王都でも有名な“あの”公爵様やったらしい――が言うてきた。


「実は……家に、ちと手のかかる娘がおってな」

「家政婦として来てくれんか?……いや、ぜひ頼みたい!」


……え、わたし?

なんで食堂のパートからいきなり公爵家の家政婦に!?

でもまぁええか。食いっぱぐれないし、屋根もあるし、何より――


「娘さん? よっしゃ任せとき! おばちゃんがビシッとしつけたる!」


こうして私は、異世界のお嬢様更生プロジェクトに巻き込まれることになった――。


第一章:わがまま令嬢、降臨。


「こちらが我が娘、レティシアです」


その名を聞いた瞬間、私は察した。


──こいつ、絶対めんどくさいやつや。


金髪縦ロールに、ピンクのフリフリドレス。これでもかという高飛車なポージングに、鼻で笑うような視線。


「……下々の者が、父と何を話しておりましたの?」


おお、出た出た。テンプレやな。


「レティシア。今日からこの和代さんが、家政婦としてお前の世話をしてくれることになった。礼を言いなさい」


「……は? 庶民の家政婦なんて聞いてませんけど?」


「ほう、言うたな」

私はニヤリと笑った。


「まぁええわ。そんかわり言うとくけど、私のやり方でいくからな? うちの流儀は“躾けは愛とツッコミで”やで」


「なっ……!?」


レティシア嬢、顔を真っ赤にしてぷるぷる震え出した。

おお、怒りゲージMAXやな。でもな、そう簡単には折れへんのが大阪のおばちゃんや。


「ほれ、飴ちゃん食べとき」


「え、いりませんわそんな庶民の……って、いちご味……」


一瞬だけ顔がほころぶのを、私は見逃さなかった。



第二章:一進一退の攻防


数日後――


和代が部屋に入ると、ソファにドカッと座り、

ふくれっ面のレティシア嬢が腕を組んでいた。


レティシア「まったく、いつまで待たせるのかしら! ドレスのままなんて窮屈で仕方ないわ!」


和代「ええっ!? あんたまだ着替えてへんの!? メイドさんは?」


レティシア「呼んでいるのに、全然来ないのよ。信じられないわ。下働きのくせに、私を待たせるなんて!」


和代「……あのなぁ。自分がどれだけ恵まれとるか、ちょっと考えてみ?」


レティシア「何ですって!?」


和代「こっちは毎日、夕飯の後は洗濯物たたんで、風呂掃除して、明日の弁当の下ごしらえまでしてんのよ。ドレス着たまま待ってるだけのあんたが怒ってどないすんねん!」


レティシア「……ッ!」


和代(内心)

(あかん。これは飴ちゃんチャンスやな)


和代はポケットから飴をひとつ取り出し――

「しゃーないな、ちょっとだけよう我慢したご褒美やで」と手渡す。


レティシア「べ、別に欲しいわけじゃ……。でも、もらっておいてあげるわ」



第三章:ほんの少しの素直さ


「……おはようございます、和代さん」


「お? レティちゃんが自分から挨拶するなんて、雨でも降るんちゃう?」


「もうっ、からかわないでください!」


「ほんならご褒美や。今日は青リンゴ味やで〜」


「……別に……嬉しくなんか……ないですけど……」


(ニヤッ)

ちょっとは素直になってきたなぁ。

もうちょいで“普通のツンデレ”ぐらいには進化しそうや。



終章:おばちゃんの勝利はまだ先


公爵:「娘が……笑った……だと……」


使用人たち:「お嬢様が『ありがとう』って言いました!」


和代:「せやろ? おばちゃん、だてに年食ってへんねんで」


まだまだ手はかかるけどな。

それでもこの子、ほんまはええ子や。

素直になるんは、ちょっと時間がかかるだけやねん。


今日もポケットには飴ちゃん。

次は何味にしようかと、ニヤリと笑いながら私はまたレティちゃんのもとへ向かうのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

今回は、世話焼きな大阪のおばちゃんを異世界に送り込んでみました。

悪役令嬢の常識を次々とひっくり返す和代さん、いかがだったでしょうか?


普段は異世界転生・転移系の物語を中心に書いていますが、今回はテンポよく読めるコメディ短編に挑戦してみました。

楽しんでいただけたなら嬉しいです。

また別のおばちゃん、もしくは別の世界でお会いしましょう!

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