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アルンとカイ

 昨日はトラブって帰宅が遅くなったので1日開いてのログイン。

 コンテナの中ですらわかる外の明るさ。なんていい天気なんだろう。光は溢れ、草木は香り、子どものひそひそ声が聞こえる……。


「ようせいさん、きょうも いないのかな?」

「たぶん」

「また あえるかなあ」

「んー……」


 カイ坊やとおそらくアルン君!ここ、ここ!妖精はここにいまーす!


「あーっ!ようせいさん!」 


 コンテナの扉を開けて妖精の宿の天辺から降りると、真下にいた子どもたちに輝かんばかりの笑顔に出迎えられた。やあやあ!何日ぶり?10日ぶりぐらい?


「ようせいさん、げんき?」

「病気とかなってない?」


 そうだよね。このくらいの年齢の子の10日なんてめちゃくちゃ長いよね。恙なく過ごしておりましたとも。妖精の宿をサッと一周したり、2人の頭上を飛んだり、くるくるっと三回転を決めて元気アピールをしたら、そのまま追いかけっこが始まってしまった。


「待ってー!」

「ようせいさん、はやーい!」


 ふふん、素早さが取り柄の妖精に追いつけるかな!?


「もう少し!」


 おっと!本気を出してないとはいえ、しっかり追いついてきたアルン君の手がかすった。いい動きするね!ここで急旋回して……ええーーー!?ちょ、ちょっと待って逃げようとした先にカイ坊やが待ち構えてる!追い込まれてる!?追い込まれていたの私!?


「つかまえた!」


 わたわたしてる間にカイ坊やにポンチョを掴まれて、猫のようにぷら~んとぶら下げられることになった。ちょっとブランコみたいで楽しいなコレ。

 ていうかNPCは接触できるんだね。私からも触れるのかな。カイ坊やの腕に手を伸ばすと普通に弾かれた。ですよね。


「つぎは ようせいさんが、おにね!」


 よっしゃ任せろー!触れることができないので、イネ科の雑草の穂が付いてる部分を引っこ抜いて手の代わりにする。逃げ回る子どもたちにピシピシ当てていたら、あっちも同じように草を使って応戦してきて、今度は草チャンバラ。

 ピシピシきゃあきゃあと童心に返ってちびっ子と遊んでるうちに、いつのまにか1時間過ぎてた。突然ハッとしたアルン君が空を見て慌て始める。


「あっ……カイ、もう行かないとじーちゃんにおいてかれる!」

「わー!やだやだ!」

「妖精さん、おれたち帰るね!」

「こんどは、すばこ みにいこうねー!」


 巣箱ね。忘れかけてたわ。手をつないでバタバタ去って行く2人に手を振って、こっそり後を付けてみた。けど秘匿スポットを出る瞬間に【隠密】を使ったらしく姿があっという間に消えた。さすがジークリンデさんの【感知】をすり抜けるだけあるな。ヒデンの忍者の隠れ里疑惑が更に大きくなる。


 そういえばまだご飯を食べてなかったと拠点に戻り、インベントリを開いて食料の入った袋を取り出し、水を飲んでパンをかじって――大急ぎで全部片づけた。


 ――落とし物渡すの忘れてたああ!!!待ってー!待ってー!

 猛スピードでヒデンの方向に飛んだものの、2人の姿が見当たらない。あれー!?あそこに見えているのがヒデンの門だよね?獣道そのまま進んだのにどこにもいなかったけど……もう一度道を戻って……あ!そうだった【隠密】で姿が見えないんだった!!


「ようせいさん?どうしたの?」


 あっちから気づいてくれた、よかった……!走っていたのか、息を切らして不思議そうにしているアルン君とカイ坊や。カイ坊やの前に廻り貝を差し出す。あなたの落とし物をお届けに参りましたよ。


「めぐりがい?カイたちにくれるの?」

「これ、カイのめぐり貝だ。ほら、ここかけてる」


 カイ坊やが両手で受け取った廻り貝の口の部分を、アルン君が指す。

 この廻り貝ね、他の素材にはない絶妙な存在感があって、拾った瞬間に自動で【鑑定】が働いて落とし物だって知ったんだよね。たぶん、持ち主のNPCに返すとそのNPCの好感度が上がるアイテムなんだと思うけど。


「ほんとだ!ありがとう、ようせいさん!」


 トゲトゲの貝を小さな手で大事そうに握りしめるカイ坊や。好感度どうのの前にこんなかわいらしい笑顔を向けられたらそれで十分だわ~。猛スピードで飛んだかいがあったわ~。と、ここでカイ坊やの横のほうから足音が聞こえた。


「コレ、お前たち、なかなか来ないと思ったらまた遊びに夢中に……おお、妖精じゃないか」

「ヴァルじーちゃん!」

「遅くなってごめんなさい!」

「うむ、もう少しで置いていくところだったぞ」


 獣道とは外れたところから現れた50代ぐらいの男性に、子どもたちが突撃していく。ヴァルじーちゃんと呼ばれた男性は耳の形が横に長く、森の霊人よりは短いがよく似た耳をしている。彼は子どもたちの頭を撫でてから私見て、目を細めた。睨まれているというよりは、懐かしまれているような、柔らかさと哀愁を感じる視線だ。

 

「妖精よ、ヒデンにはあまり近づかないほうがよい。人形を怖がる者も多い。最近お前さんらの数が一気に増えたのもあって、余計にな」

「おにんぎょうさん、こわくないのに……」

「妖精さんだって、巣箱のおねえさんだってやさしかった。あの人たちだって……」


 紺青色のポンチョを着ている私はともかく、ジークリンデさんが人形なのも気づいていたんだ。むすっとする子どもたちに、男性は苦笑する。


「ヒデンの者は紺青の城の提案を突っぱねたせいで、いつかリューグから放り出されるのではないかと怯えておるのだ。人形のことを、城の使者がとうとう追い出しに来たのだと思い込んで引きこもっている」


 紺青の城の提案とは、魂の保護をすれば死に戻りできるよ!っていう管理システムの申し出のことだろう。そのことに関しては嫌がる人がいても無理はない。管理システム(マザー)もリューグの発展に手を貸してもらうために提案しただけで、魂の保護を強要するつもりなかったんじゃないかな。

 城と人形と大陸の管理なんて大仕事を一手に引き受けている管理システム(マザー)だ。これ以上仕事を増やさなくていいなら、それに越したことはないはずだ。


 私をリューグに送り出す前、管理システム(マザー)はやりたいことをやれとは言ったけど、ヒデンの住民を追い出して欲しそうな様子はなかったし、気にしなくていいと思う。


「私らが上陸してゆうに100年は経っているというに、追い出すならとっくにそうしているだろうよ。大事なのはこの大陸を侵略しないことだ」


 皮肉気な男性に腕を組んでうんうんと頷く。侵略しないこと。そこが管理システム(マザー)が一番厳守させたかったところだよね。


「ヒデンは長生きな者が集まっておるからか、頑固なのが多い。だがいい加減、人形たちへの誤解も解けつつある。妖精よ、どうしてもヒデンで遊びたいなら、あいつらがお前さんらを受け入れてからにするといい」


 男性にヒデンに遊びに来たと勘違いされてるけど、私は空気を読む妖精。大人しく受け入れる。


「そうか、了承してくれるか。お前さんは随分素直な妖精だな」

「おにんぎょうさんと まちで あそんでいいの?」

「まだ先の話だがな。町の正門が開いたら、友だちの人形を誘ってみるといい」


 喜ぶ子どもたちに、男性がしゃがんで目を合わせる。


「アルン、そしてカイ。妖精と遊んだという話は、まだ秘密だ。できるか?」

「できる!」

「おれ、がまんできるよ」

「よしよし、いい子だ。さあ、そろそろ行かねば。あいつらが首を長くして待っておるぞ」


 男性は私に「こいつらと遊んでくれてありがとう」とお辞儀をして、子どもたちと一緒に去って行った。


 そういえばヒデンのクエストは難易度が高いと、V配信者が世間話みたいな感じで話してたな。 

 ヒデンに行くにはまず、アロアロの商人NPCの好感度を上げる必要がある。商人から信頼を得るとヒデンの住民を紹介され、その住民の協力でやっとヒデンの町に入ることができる。それも人形にバレないように変装して、協力NPCの後ろを付いていく形なため自由には歩き回れない。

 協力NPCを介して依頼されるヒデンのクエストは簡単かつ報酬のいいクエストではあるけど、結構な確率で正体を見破られてしまう。そうなると協力NPCに逃げるよう言われてクエストは失敗する。


 でもあの男性の話と合わせると、失敗したらしたでヒデンの住民の人形に対する誤解を解くのに一役買ってそうだよね。追い出そうとしてる奴がちょっとしたおつかいを手伝ったり、人形バレしてわたわた逃げ出すなんてこと普通ならしないし。


 子どもたちを追いかけるときとは打って変わって獣道をゆっくり戻っていたら、危険物を発見してしまった。



待っ茸(まったけ) Lv1

 基本動かないがときどき足を生やして移動する。移動中に攻撃されると胞子を周囲に飛ばして行動不能にする。スタン薬の材料。



 道の端にニョキっと生えている、ヒトの頭ぐらいある青いエリンギ。松茸じゃねーのかよと突っ込みたくなるこいつは、こんな道の端に生えていたらいけないものですよ。子どもたちが待っ茸(まったけ)の移動中に鉢合わせてうっかりスタンしたらどうする。速やかに駆除です。

 じっとしてるときはただのきのこなので、ナイフで首?をグサッとやって駆除完了。一応モンスター扱いらしくシュワシュワと消えて小さめの青いエリンギを5個も落とした。いつも2個なのに。ラッキー。


 ん?待っ茸(まったけ)の後ろに、なにか……。



◎ハジラウムスメ

 特に効果なし。部屋に飾ると部屋の雰囲気がかわいらしくなる。



 ハート型の小さな花の下で、細い葉が大きくハートマークを作る花が生えていた。確かに頬を抑えて恥じらっているみたい。ただの飾り用の花だけど、かわいいから採取しちゃおう。

 花農家さんから花猫用に貸してもらったポットはまだ余っているので、それにハジラウムスメを植え替えた。今から花農家さんの拠点に行く予定なので花猫と一緒に持って行く。


 ポーションの原料集め中に職業が『人形』から『採取人』になって【鑑定】の文章がちょっと詳しくなったので、採取がますます楽しい。「特に効果ない」だけだと採取する気にならないけど、「部屋の雰囲気がよくなる」ってなると、なら採りますか!ってモチベーションが上がるんですよ。


 職業ボーナスで筋力も3になったし、【視覚強化】っていうスキルも覚えたし、その後のレベル上げでレベルも6に上がったし。順調、順調。

 一回だけ、歩く待っ茸(まったけ)の存在に気づかず、他モンスターに攻撃中に巻き込んで、胞子を吸って10秒ほどスタンしてる間にまた別のモンスターにやられて死に戻りしたけど。あのときはさすがに怒りの叫びが出たね。声出てないけど。

 

 道外れに点在して咲いてるハジラウムスメを何本か摘んでいる最中にふと、オレンジと赤のバイカラーの果実が視界に入った。形は野いちごに似ているけど、これ果実ですか~食べられますか~。どうですか【鑑定】さん。



◎リューグ野いちご

 特に効果なし。甘くて酸味のあるおいしい野いちご。リューグ固有種。

 棘に当たると生気が減るため注意。



 野いちごで合ってた。へえ~、リューグの固有種か。海に沈む前からあった植物なのかな?ずっと地中で芽吹くのを待っていた種があった?いや、管理システム(マザー)なら種を保存するのもできそうだし、それこそヒデンの人がかくし森(この辺)に移り住んだときに植えて貰ったのかもね。


 これももちろん採取。ついでにつまんでご飯にしちゃおう。柄を揃えて綺麗に並べたらサーカスの天幕みたいになりそうなぐらい派手だけどおいしい。野いちごなんて小学生以来食べてなかったな。


 ――カタン。


 後ろから小さな音がして振り向く。チラッと見えたのは逃げるように去って行く青緑色の尻尾のような何か。尻尾が消えた方向は幹に縄が2本巻かれた木だった。あれはジークリンデさんが巣箱を設置した木じゃないか。もしかして巣箱使ってくれた?でも鳥の尾ではなかったし、宙に浮いていた。

 【隠密】で限界まで気配を消してそっと巣箱を覗いて――みようとしたら、パチッと軽い衝撃。


 ……え?ス、スキルが無効化されたんですが!?何、何がいるのこの中!?


 サッと巣箱から離れたけど、襲われる様子はない。そっと丸い穴をそっと覗き込んでみたけど暗くてよく見えない。少なくとも小鳥程度の小動物なのだろう。隅のほうに何かいるのはわかった。


「……」

 

 スキルを発動させてみるけど、どれも剥がれてしまう。相手はじっと息をひそめて相変わらず攻撃もしてこない。

 様子見で野いちごを投げ入れて覗き込むのをやめたら、しばらくしてから咀嚼音が聞こえた。お腹が空いているらしい。2、3個放り投げて立ち去る。ずっと他人の気配があるのも、ストレス溜まるもんね。

 野いちごはすぐそこにあるからね、あとは自分で採るんだよ?

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