妖光影葉と迷路根
結局夕方近くになってしまったので、素材採取に励むことにした。一通り採取し終わったので、やりたいことを一つ消化。
妖しく光る葉に手を伸ばし、撫でるように触れてみる。恐怖で混乱ってどういう感じなのか、気になるじゃない。触った感じは普通の葉だな、と感想を抱いたところで、異変が起きた。
――じわり、と透明な水がインクに侵されていくように、視界が黒くなっていく。
風の音や森の匂いが無くなり、代わりに幾人かの足音が耳に届く。重い足音、軽い足音。金属が擦れる音。子どもの笑い声。
それらの音はやがて一つになり、カツ、カツと一定のリズムを刻む足音だけが徐々に大きくなる。現れたのはベールを被った黒いドレスの貴婦人。己の手すら見えぬほどの闇の中、ぼんやりと浮かび上がる彼女の姿は美しく、そして異質であった。
無表情の貴婦人が腕を持ち上げる。袖のフリルがさらりと落ち、白い腕を晒す。その動きすら優美であるのに、彼女が手にしているのは有刺鉄線のような鞭。あからさまにこちらを害することが目的の武器は、当然の如く、侵入者であろうこちらに向かって叩きつけられた。
鞭から逃げる。時折壁や家具にぶつかる感覚がする。何も見えないがここは室内であるらしい。カツ、カツ、カツ。追いかけてくる足音。その歩調が変わることはなく、鞭ばかりが視界を掠めて――
ここで景色が元に戻った。時間にして2分も経ってない。妖光影葉の前にいたはずなのに妖精の宿の前にいたので、幻覚を見ていたみたい。おそらく傍から見れば急に違う方向に動き出したように見えるんじゃなかろうか。これが混乱と言われる所以なのだろう……。はっきり言う。
キャラデザがいい!!!!!
えぐい鞭振り回してくる美人の貴婦人、いい。歩調がずっと一定で淡々としていて上品さを失わないのも、いい。
貴婦人の他の情報がないかと興奮のままに検索したら、恐怖状態で会えるキャラクターは複数人いるとのこと。しかもリアルのホラー耐性が高いか、低いかでシチュエーションが変わる。
ホラー耐性が高い人は、暗闇の中、鎖ジャラジャラの斧の男、浮かぶ槍の青年、トゲトゲの鞭の貴婦人と対峙することになるらしい。うっかり倒されてしまうと失神して、小さな女の子に顔をぺちぺち叩かれてそのまま現実に戻ってくる。
ホラー耐性が低い人は、薄暗い屋敷を徘徊することになり、神出鬼没な少女に誘導される。少女がふわっと出てきてはあちこち指を差すのだけど、無視して別方向に行くと少女が目の前に出てきて脅かしてくる。それ以外に怖いことはないけど、耐性のない人は雰囲気だけで無理だろう。
これらのキャラクターが、スプーキーハウスメンバーとして紹介されていた。
それとは別にとんでもなく低確率で、街灯に照らされながら消臭スプレーを両手に真顔でダンスを披露してくるスーツのオッサンが出るらしい。
SSRを引いた人は、案外うまいオッサンのダンスを普通に感心して眺めていたら「くっ、まだ除霊されないのか……!」と小声で言われたとか。こっちがそっち側なのかよ。
恐怖状態だとスクショが撮れないらしく、詳しいキャラデザがわからないのが歯がゆい。正直もう1回スプーキーハウスに行きたいけど、幻覚を見てる間にモンスターに襲われでもしたら面倒なことに気づいて断念した。
妖光影葉はどんなアイテムになるのかというと、光る葉を煎じると『恐怖薬』に、影の葉を煎じると『睡眠薬』に、両方の葉を一緒に煎じると『悪夢薬』になるのだそう。
恐怖薬は言わずもがな、妖光影葉で作る睡眠薬はデバフ専用になり、エネミーにしか効かない。このゲームPvPとかフレンドリーファイアとかないからね。プレイヤーの作った毒とか呪いの薬みたいなのはプレイヤーに効かない。
そして悪夢薬は、上記の2つの薬よりも需要が高い。
悪夢薬を飲んで寝るとナイトメアダンジョンという時間制限ありのダンジョンに行くことができる。ギミック解除がメインの、戦闘が苦手な人にも優しいダンジョンではあるけど、連続して悪夢薬を飲むと難易度が爆上がりするので、日を置いて飲むのが効率がいいと雑貨屋さんに教えられた。
時間内に踏破できれば耐性ステータスが増加、踏破できなくても多くはないが経験値が貰える。ナイトメアダンジョンに潜り過ぎて、レベルはそうでもないのに耐性がバカ高いプレイヤーとかいるらしいよ。
耐性とは、単純にデバフ耐性のことだ。耐性が高いとありとあらゆるデバフにかかりにくくなる。
光る葉の恐怖にもかからなくなるので、耐性ステータスもリアルホラー耐性も高い人たちが、どうにかスプーキーハウスに行く方法を模索している掲示板があった。今のところその方法は見つかっていないみたい。
ナイトメアダンジョンでは、初期位置に戻されてやり直しになるだけでデスペナルティはないって聞いて、レベル上げのために悪夢薬買うつもりだったけど、耐性上がってスプーキーハウス行けなくなるのイヤだな~。普通にレベル上げしよう。
今日はもう寝るのにいい時間なのでご飯を食べてログアウト。リンゴ切りやすかったです。お嬢様に足向けて寝られないね。
◆
ぐっすり睡眠からの朝ご飯だの家事だの済ませてログイン。日曜なので朝から遊んじゃう。ゲーム内時間だと真夜中だけどな!
いい加減、迷路根の調査をしたい。【鑑定】の「迷路の終点にはいいものがあるかもしれない」って書いてあるその真相を探りますよ。暗いけど、ランプがあれば一応は見えるはず……うん、大丈夫そう。
迷路の終点がよくわからないので、まずは迷路の部分をゆっくり飛びながら観察。上から見た感じだと特に終点っぽいものはなし。次は適当に根の先端から幹に向かって迷路を攻略してみることにした。リアル脱出ゲームは兄弟で行ったことあるけど、こういう巨大迷路は初めてだ。巨大迷路(妖精サイズ)なので巨大と言っていいのかわからないけど。
とりあえず右手の法則で進んでみたる。当然のごとく行き止まり。そんな簡単ではないか。
ナイフで傷を付けながら進んでみる……あれ、ナイフの傷消えてる。その辺の石を目印に置こうとしたら石が転がってどこかに行ってしまった。そういうのはダメみたい。
一旦浮き上がって道を確認して、迷路に戻……どわーーー!?う、上から枝がーー!?
迷路根の枝に捕まって根の先端に戻されました。捕まえに来たときの勢いはすごかったけど、非常に丁寧に降ろしてくださいました。といっても羽の妖精は足を地面につけられないので、解放されたというのが正しいか。
枝の先で「もうやってはいけませんよ」とでも言いたげにツンツンされて頷く。ごめんなさい、もうズルしません。
見た目以外はただの木だった迷路根が動いたことに、実はバックバクしていた心臓を宥めつつ、今度は真面目に攻略を続ける。さすがに不意打ちで深夜に木が不自然な動きをしたら、多少ホラー耐性があってもびっくりします。
20分ぐらいウロウロして、ようやくアーチ状にくり抜かれている根を発見!終点ってこれのことじゃない!?今までこんな風に穴がある根はなかった!
期待しながらアーチをくぐると、幹の目の前に出た。幹まで辿り着くのが、ゴールで間違いないみたいだ。特別な演出があるわけではなかったけど、幹と根の境目、枝分かれになっているところにポツンと丸まった羊皮紙が落ちている。おそらくこれが「いいもの」なんだろう。
羊皮紙を拾うと、するすると枝が降りてくる。さっきよりはゆっくりと腰に巻き付いて、根の先端まで移動し始めた。遊園地のアトラクションを彷彿させるけど、どちらかというと気分はUFOキャッチャーの景品である。
到着~。戻してくれてありがとう。私を解放した枝が葉を手のように広げてユラユラする。なんだろう、バイバイ?違う?あ、タッチ?いえ~い!広がる葉に手を当てると、枝は満足気に戻って行く。
……迷路根攻略!やったー!
早速羊皮紙に巻かれているリボンを解く。今気づいたけど、この羊皮紙妖精サイズだわ。迷路が小さいから報酬品も小さいのかな。そして肝心の内容がこちら。
*ピクシーダストシュガーのレシピ*
用意するもの
・妖精の宿の蜜
・ピクシーダスト
・公爵夫人の宝石箱
作り方
1.妖精の宿の蜜を輝くまで煮詰める。
2.輝く妖精の宿の蜜にピクシーダストを入れ攪拌する。
3.オーロラ色になったら火から下ろし、固まる前に歌い踊る。
4.量が増えて固まったピクシーダストシュガーブロックを公爵夫人の宝石箱に食べさせて完成。
効能
・飲み物に入れる→魔気を瞬時に全回復する。
※消費期限3日
・お菓子に使う→魔気+100~。
※増加分は24時間後に消失する。
メモ
・妖精の宿の枝の杖を使って攪拌すると成功しやすい。
・歌と踊りは楽しいものにするとたくさん増える。
・お菓子の種類で数値が変動する。
……歌い踊るって何!?増えるって何!?食べさせたらなくなるやろがい!
全力でファンタジーしてるレシピ貰っちゃった。というかこれ、材料探すの大変なやつじゃない?
いいもの……いいものかな~?効能は「いいもの」だけども。
調べたところ、今一番効能が高い回復アイテムは『魔気回復ポーション・桃』の「素早く全回復」だ。
一番安いのは『魔気回復ポーション・黒』の「10回復」。初心者キットで貰ったやつ。回復値が書かれている場合、超過分は最大値を超えて回復するけど、2時間で消える。ゲージが満タンだとポーションを飲んでもそれ以上回復しないので、飲めば飲むほど増えるわけでもない。
増加系アイテムならプレイヤーメイドの魔気+35のピアス。ピアスは10個まで重ね付けできるので、最大350も増える。当たり前だけど1個でも高いので10個つけてる人がいたら、それは相当稼いでる人だ。
以上を踏まえると、ピクシーダストシュガーを飲み物に使った場合の「瞬時に全回復」は「瞬時に」って部分以外はちょっと微妙。消費期限が明記されてるってことはインベントリに入れても劣化するってことなんだと思う。
お菓子のほうは魔気が満タンの状態で食べれば、最大値が少なくとも100増えるってことになる。一見大きいメリットだけど24時間で消えるなら、魔気が増加するアイテムを装備したほうがいい。アイテムは劣化はするが安いやつでも1ヶ月は持つだろう。
でも、あんまり効能が高いものだと一人で扱うにはめんどくさいよね。そう考えると、個人で売るなら程よい効能じゃなかろうか。待てよ、つまり……妖精が気まぐれに作って、気まぐれに売る甘味……というやり方ができるってこと!?なるほど、確かにこれは「いいもの」だ!!
念のため『ピクシーダストシュガー』で検索してみる。ピクシーダストはあるけどシュガーはヒットせず。私みたいに掲示板とか見る専の人がこのレシピを知ってる可能性もあるので、暫定未知のレシピ。
ピクシーダストは採取できるところがいくつか見つかってるみたい。そこに辿り着けるようになるために、まずレベル上げをしないと。
公爵夫人の宝石箱は似たような名前のアイテムがいくつかあった。こういう「○○夫人の」とか貴族っぽい名前が書いてあるものはだいたい遺跡から出土されることが多いらしく、歴史研究所か露店で手に入れられる、と。つまり海に沈む前のリューグ大陸で使われてたものなんだろうね。
……いやそれ絶対高いやつじゃないですかー!出土品とかそんなん、歴史研究所が手放してくれるかな!?露店で出す人が安く売ってくれるかな!?
ええ……もし材料揃えるのに時間かかりそうだったら潔く諦めて、スクショを掲示板にでも貼るか……。
なんにせよ今はどうにもできないので、このレシピはカイ坊やの廻り貝と同じボックスに入れて後回し。
夜探索に出ます。レベル上げに行くぞ!
空は月明りで明るいとはいえ森の中は暗い。露店の後に買った、腰のナイフホルダーにランプをぶら下げる。手で持つより見づらいけど、念のため両手は開けておきたい。インベントリのポーションも十分。いざ出発!
ランプを付けているとはいえ、【隠密】を使えばそれなりに気配を消すことは可能のようだ。早速ゆっくりと地面を這う蛇を見つけた。
◎のろのろスネーク Lv2
己の動きが遅いのを利用し、相手が油断しているところを締め上げて狩りをする。
蛇かあ。どうやって倒そう。動きは遅いみたいだし、ちょっと試してもいいかな?
「(サモン:フィールド、セット:落とし穴、発動せよ)」
のろのろスネークは真下に現れた穴にストンと落ちた。落とし穴もいけるんだ。他のゲームだとダンジョンに落とし穴があるフィールドもあるし、いけないかな~ぐらいの気持ちだったんだけど。しっかり想像すれば応えてくれるとは聞いたけど、思った以上に寛容なAIだった。
こういう場合一体どういう判定になるんだろう……恐る恐る魔法を解除すると蛇のいた場所に皮が落ちていた。これでもちゃんと倒せるんだ!おもしろーい!素材も落ちたし、どんどん行くぞ!
時たま遭遇する強そうなのは【隠密】で誤魔化して、のろのろスネークだのずんぐり小鹿だの、待っ茸だのを10体は倒して、森の外に到達。レベルはもうすぐ3になりそうってところ。レベル上げが大変なゲームだとは知っていたけど思った以上に上がらなかった。【隠密】のスキルレベルは上がったけど。
たぶんここからモンスターの種類が変わったりするはず。と張り切って視線を降ろした先に何かがあった。近づいてみると、人が倒れている。
戦闘職っぽい男性は片手に武器を持ったまま微動だにしない。ええ……水と雪の妖人は乾燥とか熱中のデバフがあったけど、そういうの?妖人はヒトと変わらない見た目にもできるから判断つかん……。
もしかしてVRに休みなさいって警告された?不意打ちで強制ログアウトくらったのかな。警告出てから多少のラグはあるはずだけど、間に合わなかったとか……?
これ、放っておいていい?いいかな?
スプーキーハウスのキャラは拙作「妖精の落書き、小さな恩人」のフェイスリー一家です。
同作品を書いてる最中に、アストリーゴはRPGだと主人公だけどホラゲだと敵にいるタイプだなと思い至り、遊びで設定を考えたヤツを引っ張って来ただけです。なので本編とは何も関係はありません。