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拠点と巣箱と初フレンド

 ――ずっと昔、このリューグという大陸には肥沃な大地が広がり、さまざまな種族によってもたらされた高度な文明を持つ、それはそれは栄えた国々があった。

 しかし、そんな栄光も長くは続かない。海が大陸を徐々に飲み込み始めたのだ。

 年々上昇する海面は容赦なく大地を蝕んでいく。不安や恐怖に飲まれ、逃げ出す者は多かった。やがてリューグは狭い土地に、逃げられなかった者と逃げなかった者が残る侘しい大陸になった。


 だが、そんな状況で諦めなかった者がいた。崩壊する文明を目の当たりにし、沈みゆく地に嘆きながらも、逃げることを選択しなかった者。彼らは、いつかリューグが復活すると確信していた。


 ある職人は、たくさんの人形を作った。

 ある魔法使いは、人形に魂を宿す魔法をかけた。

 ある王族は、唯一大陸に残っていた故郷の城を頑強に作り替えた。

 ある天才は、城に管理システムを組み込んだ。

 

 リューグの生き残りたちは、人形にいつか復活したリューグを切り開いて欲しいと願い、城に収めると管理システムを起動し未来に託したのだった。


 ――幾百年、あるいは幾千年が経ち。彼らの目論見通り、リューグ大陸は再び姿を現し始める。


 海に沈んでいた陸に緑が増え、どこからかやって来た生き物が棲み始めた頃、別の大陸で『禍族』と呼ばれる恐ろしい怪物が人々を襲った。辛うじて逃げられたのはたったの数百人だけだった。人々は長い航海の果てに、とうとうリューグ大陸に辿り着いた。だがしかし、城の管理システムに上陸を阻まれてしまう。

 城の管理システムは彼らの受け入れに、条件を付けた。城に眠る人形たちとリューグの発展に手を尽くすこと。この大陸を自分たちのものだと思い上がらないこと。そうすればあなたたちも保護しましょう――と。

 ここに来るまでに更に人数を減らしていた人々は、一も二もなく管理システムの提示した条件を受け入れた。


 管理システムの言う”保護”とは魂の保護のことだった。管理システムは肉体と魂があれば、例え死ぬことがあっても復活させることができた。死と隣り合わせだった人々は喜び、城の周りに町を造った。


 その一方で、魂の保護を受け入れられない者たちがいた。リューグの発展に手を尽くすのは受け入れた。発展した町を自分たちの国にしないことも受け入れた。しかし、死して復活することは受け入れられなかった。彼らは城から離れたところに居を移し、ヒデンという町でひっそりと暮らすようになった。


 城下町はアロアロと名付けられ、町が街になってきた頃、眠っていた人形たちがついに目覚め始めた。目覚めた人形たちは、新たなリューグを築かんと飛び出していく――。





「……ヒデンの住民はあんなに小さな子でも【隠密】のレベルが高いのですね……。一応私も【感知】を持っているのですが、話しかけられるまで気づきませんでした」


 このゲーム、同じ行動を繰り返して、成功した回数を積んでいくとスキルとして取得できる。【隠密】であれば、何かから隠れてやり過ごせたら成功、といったように。妖精は種族特典で【隠密】を持っているけど、甲冑の人の言い方から察するに、ヒデンの住民は妖精初心者の私より【隠密】に長けているみたい。忍者の隠れ里かな。

 でもそっか、【隠密】があるから子どもがモンスターのいるところを歩けるのか。


「あれだよ。ようせいのやどっていうんだよ」


 なんだそのお誂え向きな名前は。私たちが付いてきてるかチラチラと確認しながら歩いていた小さい子が、甘い匂いのする場所に向かってかけていく。大きい子も特に警戒もせずに後を付いていった。

 子どもたちが立ち止まったのは、甲冑の人が3人で囲っても届かなさそうなぐらい太い幹に、螺旋状にこぶがついた木の前。



◎妖精の宿

 こぶには甘い蜜が詰まっている。

 蜜はモンスターには毒。



「このこぶが かいだんで、あのうえに、おうちがありそうでしょ?」


 確かに上のほうは、枝が避けていて謎の空間ができている。幹の頂上がテーブル状に広がっているので家があってもおかしくなさそう。バオバブにちょっと似ている。


「あとあっちにはね、めいろね があるよ」

「……なるほど、迷路みたいです」


 割とすぐそばにまた変な木があった。これ知ってる、板根ってやつだ。板根が幹の半ばまで覆っていて、木がスカートを穿いているみたい。高さが1メートルぐらいある板状の根が、文字通り小さな迷路みたいになっていておもしろい。


「ここ、へんなのが、たくさんあるところなの」

「おれたちの、ひみつの場所」

「……秘密の場所に私たちを連れてきてよかったのですか?」

「いいよ!ここにようせいがいたら たのしいねって、カイとにいちゃんで おはなししてたんだ!」


 キラキラするちびっ子たち。どうしよう、というふうに甲冑の人が伺ってくる。私は頷いた。変な木に住む妖精、すごくいいと思う。


「……ここを拠点にするんですね?……なら、どこにコンテナを設置しましょうか」

「あっちのほうはやめたほうがいい。ねむくなる木があるから」

「こっちはね、わな が いっぱいあるから、ちかづいちゃダメ」


 パッと顔を綻ばせた子どもたちが張り切ってあっちはダメ、こっちは大丈夫などと教えてくれる。どうやらさっきのルートじゃないと、ここまで辿り着けないようになってるらしい。結局、妖精の宿にコンテナを設置することにした。


 妖精の宿の天辺は、思った以上に広かった。そして葉っぱだらけ。積もっていた葉っぱを搔きだしていると、甲冑の人が魔法で作った岩の足場を使って子どもたちも手伝ってくれた。この木、枝の分を除くと背はそんなに高くないからね。


 葉っぱの下は平らじゃなかったけど、枝の生えているところがちょうどよく淵みたいになっていたので、土を敷き詰めてインベントリから妖精サイズの簡易コンテナを取り出す。おお、まだ小さな庭ができそうなぐらいのスペースがある。

 次は簡易転移キューブ。簡易転移キューブは目覚めの間みたいな立派な台座はなくて、地面に皿みたいなのを置いてその上にキューブを浮かべるだけだ。簡易と付いてるだけあって転移できるのも目覚めの間のみだから、お金が溜まったら買い直さなきゃいけない。正規の転移キューブはCPで交換できないんだ。

 一抱えの大きさのキューブは軽い。触感は石なのにプラスチック容器みたいな軽さだ。ガラスの灰皿ばりに重い台座に乗せると、キューブはふわりと浮き上がった。


 ――拠点登録をしますか?


 はい。


 ――『かくし森・秘匿スポット(アルンとカイの秘密の場所)』が拠点登録されました。


 なんか気になる文面があるな~!?

 まあいいや、とりあえず拍手~!あ、子どもたちと甲冑の人もありがとうございます。




「……では、巣箱を作りましょうか」


 甲冑の人は岩の足場を一部残して撤収すると、残った岩を作業台に、インベントリから板や工具を取り出してサクッと巣箱を作った。ガチガチに戦闘職な格好だけど職人系のスキルも持ってるんだね。


「すごーい!」

「小さい家だ」


 ちびっ子の賛美にくすぐったそうに体を捩った甲冑の人は、枝を取り出すと適当な長さに切り、粘度のある液体の入った瓶の蓋を開けて、作業台の上に置く。板はともかく、なんで枝持ち歩いてるんだろ?いや板もちょっとおかしいけど。


「……この液体を枝につけて、屋根に貼り付けてください」


 我々も巣箱作りに参加させていただけるんですか!


「この えき、ベタベタする~!」

「妖精さん、こっちも貼れる?」


 はしゃぐ子どもたちと一緒に枝を貼り付ける。おお~、これだけでもオシャレ。最後に出入り口の穴のすぐ下に枝を1本貼り付けて【乾燥】で乾かして完成。甲冑の人、いろんなスキル持ってるな~。


 この辺は鳥もあまり来ないということで、来た道を戻りながらよさげな木を探す。人が踏みしめて土がむき出しになってる獣道の近くにちょうどいい木があったので幹に紐で巣箱を固定して設置した。甲冑の人曰く、地面から2メートルぐらいまで枝のない、真っ直ぐな木のほうが蛇とかが近寄りにくくていいんだって。


「そろそろ帰る時間」

「うん。ようせいさん、あそびにいくからね!おねえさんも、またあそうぼうね!」

「えっと、妖精さんも、お姉さんも、遊んでくれてありがとう」

「……はい。気を付けて帰ってくださいね」


 こちらこそ、秘密の場所を教えてくれてありがとう!また遊ぼうね!


 AI積んだ自由に動くNPCなんて昨今じゃ珍しくないけど、VRで体感すると感動もひとしお。没入感がすごい。

 お互いに手を振り合って子どもたちを見送ると、甲冑の人が私に向き合う。甲冑の人も帰るのかな?なんかソワソワしてるけど。


「……今日は付き合ってくださり、ありがとうございます。おかげで有意義な時間が過ごせました」


 付き合ってもらったの、むしろ私~!ぺこりとされたのでぺこりし返す。


「……それで、あ、あの、フレンド登録してもいいですか?」


 もちろん!もちろん!

 強く頷いて、早速甲冑の人とフレンド登録をした。登録方法が、お互いのウインドウのフレンドのタブを開いて相手のタブに触れるっていう方法で、触れた感触が水風船をつついたときみたいでちょっとおもしろかった。甲冑の人改めジークリンデさんが嬉しそうな声を出す。


「……岩の霊人のジークリンデといいます。よろしくお願いします、リンジンさん」


 はい!羽の妖精のリンジンです。よろしくお願いします!

誤字報告ありがとうございます。

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