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拠点探し

 統制局を出ると少しだけ風が強くなっていた。雨は降らなそうだけど、今日中にいい場所見つかるか不安になってきた。

 とりあえず街の外に出たい。拠点は自然いっぱいなところがいい。上昇できるところまで上昇してみよう。


 統制局の隣の塔の屋根まで届かないぐらいで限界だった。20メートルぐらいかな。


 私の遥か頭上を羽毛の獣人(鳥獣人)が飛んでる。羽の妖精は【浮遊】スキルで飛んでいるのに対して、鳥獣人は【飛翔】スキルで飛んでる。筋力ステータスが高いほど【飛翔】で一度に飛べる距離は伸びる仕様で、その距離を越えると疲労デバフがかかって筋力ステータスが徐々にさがるらしいけど、疲労デバフは休めば回復するからさほど不便でもないと思う。

 羽の妖精の【浮遊】はパッシブスキルで疲労デバフはない。デメリットは歩行不可になるだけだと思ったけど、この分では【浮遊】は【飛翔】ほど高度は出せないっぽい。


 幸い、塔以外に高い建物はないみたいで、問題なく見渡せた。ウィンドウを開いて、方位磁石みたいなマークと照らし合わせると、近い場所だと南西に森、東に丘陵地帯がある。今日はとりあえず森に――


 ――びゅおおおおおおおっ


 どわーーーっ!?

 突然の突風が私を襲う!縦回転で飛んでいく私!AIが制御してくれてるから三半規管は問題ないけど、これどうやって止めたらいいの!?


「キャーーーッチ!」

「!」


 明るい声と共にポスンと柔らかい布に受け止められた。


「やっほー妖精さん、大丈夫?」


 助けてくれたのは……お姉さん?お兄さん?外見でも声でも判断できない。赤い髪を一つに三つ編みにして肩に流した中性的な服装のヒトだ。ラクロスのラケットのメッシュの部分を布にしたような道具持っている。これで私をキャッチしてくれたんだろうけど、これ、何に使う道具なんだろう?

 謎道具を肩に担いだ恩人は、頷きながら不思議そうにする私の視線を追って納得がいった顔をした。


「ああ、これ?今日みたいな風が強いときは、飛び慣れてない新人妖精とかがぽいぽい飛ばされていくからね~。いつもはこの布を広げてキャッチしてたんだけど、ほら、アオガタって接触できないようになってんじゃん?狙い外れちゃうとこう、ぽいんと跳ね飛ばされて、あっちゃこっちゃ飛んでいくから、どうにかならんかと思って作ってみたんだ。これでキャッチされたのは君が初めてなんだけど」


 なんと、ピンポイントで羽の妖精向けの道具だった。


「どう?HP減ってたりとか、違和感とかない?」


 ステータスを確認したけど特に変化なし。音声を切ってるので、恩人の周りをクル~っと回って無事と感謝の意を示してみた。伝わるかな?


「あは、いいね。その無言RP!妖精っぽい!」


 いえ、これは風邪治りたてで、喉がカッスカスだから音声切ってるだけです!

 おかげでVR機器もソフトも手元にあるのに今日まで遊べなかったからね、私。最近のVRゲームは最低限の健康を保ってないと接続できないようになってんだ。VRゲームをするようになってから健康になったなんて話もよく聞く。


「【浮遊】のレベルが上がれば、強風でも踏ん張れるようになるらしいよ。ま、慣れだね、慣れ」


 なるほど、親切にありがとうございます。ぺこぺこ。


「いいよいいよ。あ、自分はそこで雑貨屋やってるから、なんか面白い素材あったら持ってきてくれると嬉しい。買い取りもやってるから」


 はい、落ち着いたら素材持って買い物に来ます!

 恩人と別れて南西に向かう。ときどき強くなる風を建物の影に隠れたりしてやり過ごしながら外壁に辿り着く。鳥獣人が普通に上から入ってるし私もいいよね?と外壁を越えようとすると、物見櫓にいた兵士に「いってらっしゃい。気を付けて」と見送られた。ゆるい。でも転移でいきなり中に入れるんだから、どっから出入りしても同じか。どちらかというとアロアロの住民が気にしなきゃいけないのは、モンスターのほうなんだろう。


 今度は風が吹くたびに木や岩に掴まって一時間ぐらいで森に着いた。妖精の俊敏はデフォルトで高いので、体は小さくとも移動は早いほうなのだ。


 ――と誰にともなくドヤっていたのが悪かったのか。


「ヂイイイイイイイイイ」


 助けてー!助けてー!風に飛ばされてぶつかった凶暴な顔の鳥に襲われてる!



◎ブチギレバード Lv9

 怒らせると気が済むまで追い回してくる。



 名前も説明も雑ゥ!緊急時は自動で【鑑定】発動するのありがたいけど、もうちょっと情報欲しいな!?

 自慢の俊敏でジグザグに逃げるが、ブチギレバードはなかなか諦めてくれない。紙装甲なのでかすっただけでも死ぬ!鳥の視界から外れたタイミングで【隠密】を使って逃げたいんだけど、あっちも追跡系のスキルを持っているのか、なかなかチャンスが訪れなくて焦る。えーっと、えーっと、


「(サモン:フィールド、セット:ヘビーレイン!発動せよ!)」


 羽の妖精のもう一つのスキル【環境魔法】を使って土砂降りにしてみたけど……範囲が狭い!!あっさり避けられた。くそーっ!


「……サモン:チェーン、ターゲット:ブチギレバード……こっちに来い」


 突如聞こえた声。半透明の鎖に絡みつかれて別方向にすっ飛んだブチギレバードは、その先で待ち構えていた全身甲冑の人の武器に叩きつけられ、シュワシュワ~っと消滅した。た、助かったー。切り株にへたり込む。


「……ポーション、いりますか?」


 心配されてしまった。甲冑の人に差し出されたポーションを断って、初心者キットでもらった魔気(MP)回復ポーションで回復する。疲れてはいるけど、ステータス的には魔気が減っただけなんだよね。おお、全部飲んだら最大値越えて回復した。


「……これどうぞ」


 ガントレットに握り込まれた、6枚の赤い羽が目の前に。



◎憤怒の羽

 ブチギレバードの羽。燃えるように赤い色は美しい。

 その執念深さは羽の1枚1枚に宿っている。



 いえいえいえ!あなたが倒したものですよ!わざわざ膝を付いて目線を近くしてくれている甲冑の人

に、どうぞどうぞというジェスチャーをする。


「……憤怒の羽は1羽につき1枚から3枚までしか落ちません。これだけあるのは羽の妖精の採取ボーナスのおかげです。それに、私はお金には困ってないので……」


 採取ボーナス入ったってことは、二人で倒したって判定になったっぽい。あの土砂降り、ちゃんと攻撃に認識されたんだ。なら、もらっちゃお~。やったー、金策になるね。

 甲冑の人の手からはみ出てる羽の部分を引っ張ってインベントリに入れた。そういえば、いつのまにか多少の風ならバランスも崩れなくなってる。さっきの逃走劇で【浮遊】のレベルが上がったみたい。


 立ち上がった甲冑の人の周りをくるくる回ってお礼をすると、心なしか嬉しそうな雰囲気になった。それにしても背が高いなあ。180はありそう。声は優し気でかわいい女性の声だ。いいな。私もキャラクリで声を自分の好みにカスタマイズしたのに、カッスカスなんだよ。


「……それで、あなたはどうしてここに?ソロで外を歩くなら修練場で鍛えるか、NPCとパーティを組んだ方が安全ですよ」


 おっしゃる通りです。浮き立っちゃってモンスターに襲われる可能性を考えてなかったよ……。

 理由はこれです~。とインベントリから簡易コンテナと簡易転移キューブを取り出す。


「……ああ、拠点にいい場所を探していたんですか?そうですか……あの、護衛をするので私もあなたの拠点探しに付き合ってもいいですか?もちろん護衛料金などは頂きません」


 なんてありがたい申し出!正直ブチギレバードで心折れて今日は拠点探し諦めようかと思っていたので、コクコク頷く。


「……よかった。今日は散歩の気分だったので、あまりモンスターの強くないここをうろついていたところなのです」


 なるほど~、なんで武器が腰にぶら下げたちょっと大きめの金槌だけなんだろうと思ったけど、森歩きするなら小さめの武器が動きやすいのかもね。

 歩き出した甲冑の人と並走する。ざわざわと揺れる木漏れ日が甲冑に当たってキラキラしてて綺麗。

 こんながっつり戦闘系な格好しててもゲームでのんびりしたいって思う人もいるものなんだね。うちのバトルジャンキー兄には絶対にない感性だ。


「……この辺に巣箱を設置したら小鳥やリスが使ってくれそうですね」


 ピチュピチュ会話する鳥の鳴き声を聞きながら、甲冑の人がほのぼのとしたことを言う。

 この辺のモンスターはノンアクティブが多いのか、確かにそんな長閑な雰囲気だ。巣箱を置いたら実際使ってくれるのかちょっと気になる。テイマーもいるので、モンスターとも仲良くなろうと思えばなれるはずだ。街中にもモンスターと連れ立って歩いてる人もいたし。

 

「すばこってなあに?」


 幼けない声に振り向くと、少し離れた木の影に子どもが2人。8歳ぐらいの男の子と4歳ぐらいの男の子が手を繋いで立っていた。声をかけたのは小さい子のほうだろう。


「……巣箱というのは、このくらいの木箱で、木の幹にくっつけて小鳥のお家にしてもらうんです」

「ことりのおうち!?みたい!」

「……見せてあげたいのは山々なのですが、先にこの妖精さんのお家を探してもいいですか?」


 甲冑の人の紹介に合わせて近寄らずに、子どもたちの目の高さまで高度を下げた。小さい子がキラキラした目でわたしを見つめる。大きい子のほうにも真顔でガン見されてる。妖精に興味がおありなようで。


「ようせいさん、おうちさがしてるの?カイたち、いいばしょ しってるよ!ね、にいちゃん!」

「うん。あっち」


 兄ちゃんと呼ばれた子が進行方向を指差して歩き出したので、その後ろを程よく距離を開けながらついていく。NPCとわかってても、人様の子にいきなり馴れ馴れしくするのはちょっと勇気がいるよね。


「……もう少し奥に行くとヒデンがあるんです。あの子たちはそこの住人だと思います」


 甲冑の人が小声で教えてくれた。へ~、あの子たちがヒデンの子なのか。ヒデンというのはもうひとつの公式の町である。え、今更だけどこんなモンスターが普通にいるとこを、子どもだけで歩かせて大丈夫なのかな!?

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