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迷子の子狐ちゃん

『モンスター図鑑・従魔/召喚獣』を『モンスター図鑑・幻獣』に変更しました。

 ――ゴロゴロゴロ……。


「キャーウ……キャーウ……」


 鳴き声の主は私のお腹に頭を隠すようにしがみついている。プルプル震える体を撫でれば一層しがみついてきた。

 全長は私の半分にも満たない。大きな耳にもふりとした尻尾。狐に似ているが狐にしては体が細長い。特徴としては管狐(くだぎつね)……っぽいけど、頭部に角が生えているから違う気もする。弾かれるかもしれないけど一応【鑑定】。



管狐龍(かんこりゅう)

 主に狭い隙間に潜み、ひそかに生活をしている。

 種族:ドラゴン

 性別:オス

 性格:臆病

 備考:【スキル無効化】、不安状態



 ええ、君、龍なの!20センチもないのに!というか【鑑定】さんの文章がだいぶ違う。テイムとか召喚で契約できる非敵対モンスターってことか。そういえば従魔は見たことあるけど契約されてない子は初めて見たや。


「……痛くないですか?」


 驚いて落としてしまった葉っぱ(傘)をジークリンデさんが拾って差してくれた。巻き付かれているけど、モフモフだからか痛くはないです。


 ――ダアァァァァァァァンッ!!


「コァーーンッ」

「……大丈夫、大丈夫ですよ」

「クク……」


 ジークリンデさんの優しい声と私の体を撫でる手に落ち着いてきたのか、管狐龍が顔を上げて返事をした。顔付きが幼いので幼体かもしれない。


「……管狐龍……の子どもでしょうか。親とはぐれたのかもしれません」


 ――クエスト『迷子の管狐龍の親探し』を受注しますか?


「……迷子でしたね。受けますか?」


 いいタイミングでアナウンスが入った。もちろん、受けますの意を込めてグッとサムズアップ。


 ジークリンデさん曰くこういう非敵対モンスターの迷子探しや親探しクエストはちょくちょく発生しているらしい。簡単なクリア方法は、モンスターチャットっていう魔法薬を買ってモンスターに聞き込みをしながら親を探すか、もしくはアロアロのモンスターファームに赴くか。

 モンスターファームはその名の通り従魔や召喚獣を育成、保護する組織で、従魔に詳しいNPCが常駐しているので管狐龍がいそうなところを教えて貰えるかもしれないとのこと。今日中にクエストクリアできないときは預かってもらうこともできるそうだ。


 もし預けることになったら、暇なほうがクエストクリアしていいと決め、一旦拠点に戻り管狐龍を宥めつつ樹液を回収して、走るジークリンデさんに合わせながら飛んでアロアロに到着。簡易転移キューブで転移できればよかったんだけど、簡易は他人が登録することができないので自力で移動となった。


 雷が遠くまで移動したのを感じて管狐龍も落ち着いたようで、私の隣で宙を泳いぐように飛んでいる。しとしと降り続ける雨でも平気そうだ。俊敏が低い岩の霊人のスピードぐらいなら問題なくついてきた。


「キャーウ……」


 キョロキョロと辺りを見回す管狐龍が小さく鳴いて私にくっついてくる。毛皮の水気で私まで濡れるし、ちょっと飛びづらいけど、人が多くて緊張しているのかもしれない。我慢するか。


 この辺は最初に素材を売ったの雑貨屋さんのお店がある通りだ。雨だろうとプレイヤーは関係なく歩いてるのでそれなりに賑わっている。雑貨屋さんもいるかな~?


「あれ、妖精さん。この間『鈍臭い皮』ありがとね~」


 いた。ちょうど客とやり取りを終えたらしい雑貨屋さんと目が合った。こんにちは~。

 レベル上げのときに倒したのろのろスネークのドロップアイテムを、雑貨屋さんに持って行ったら喜ばれたんだよね。のろのろスネークが落とすのは『鈍臭い皮』っていう透明な皮なんだけど、この皮を制作物に貼り付けると制作物の耐久値が上がるんだって。そして、この皮をある素材に貼り付けようにもうまくいかず手こずっていたのが、きらきら星の疑問で解消したらしい。


 そうだ、雑貨屋さんで思い出した。私、ちょうどいいもの持ってるじゃん!


「……リンジンさん?どうしました?」

「あ、ウチの花瓶」


 じゃーん!露店やったときに花猫を入れた籠みたいな花瓶!雑貨屋さんが安く譲ってくれたやつだ。軽いし縦長で取っ手もあるし、管狐龍はこれに入ってもらったら狭くて落ち着くんじゃなかろうか!


「え~、何このかわいいドラゴン種、初めて見た。子どもにしてもちみっちゃいね」

「……やっぱり子どもだとしても小さいですよね?もしかしたら新しい従魔かも、とは思ったんですが」

「新種かー。従魔界隈が盛り上がりそう」


 管狐龍に花瓶の口を向けると、匂いを嗅いだあとするん、と花瓶の中に入った。籠がクンと下に引っ張られて、マズルの短い狐の顔がひょっこり花瓶の口から出てくる。思ったよりずっと軽い。

 取っ手が長いので斜め掛けにする。バランス取れるか心配だったけど、【浮遊】スキルのおかげで問題なく飛べる。


「なるほど、そのための花瓶?あ、じゃあ……これ、サービスさせて」


 雑貨屋さんがカウンターの裏側から青緑のリボンを取り出した。怯えるかと思った管狐龍はリボンが気になるのか、花瓶に入ったまま取っ手の端に手際よくリボンが結ばれるところを観察している。


「同じ色のが安心するのかね?妖精さんも青緑だし」


 そっちかー!野いちごで餌付けされたから懐いてるのかと思ってたけど、色味が近いから仲間意識持たれてたんだね。私の羽は薄い青緑で、髪は濃い青緑だ。最初見かけたとき巣箱から出てきてたのも、仲間かもって思ったんだろうな。ひとりぼっちで心細かったよね。頭を撫でたら気持ちよさそうに目を細めていた。





 アロアロの隅、高台になっている場所に広がるモンスターファームが見えてきた。

 木の柵で囲まれた草原にポツポツと木が生えていて、そこそこのモンスターがうろいている。水浴びをする子、どろんこで走り回る子、畜舎でのんびりする子、お世話をする人。モンスターファームはテイマーと召喚士向けのスキル習得やクエストがある施設でもあるのでプレイヤーもいる。

 管狐龍が新種の従魔っていうのは間違いないみたいで、あちこちから興味津々な視線が刺さる。ジークリンデさんが忙しそうに走ってきたので、話しかけられることはなかったけど。


「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょう」

「……迷子の子を見つけたんですが、生息場所がわからなくて」

「はい、どの子でしょう…………こ!この子は、も、もしや管狐龍では?ほ、本当にいたんだ……!」


 アーチの入り口をくぐってすぐの建物に入ると、ジークリンデさんがカウンターにいたお兄さんに話しかけた。斜め掛けにしていたのを両手持ちに変えて花瓶の中を見やすいようにすると、管狐龍と目が合ったお兄さんの声が震える。興奮しているのか顔が赤い。それでも怯えさせないように大声を出さない辺り、プロである。


「はっ、し、失礼いたしました。現リューグでは管狐龍の目撃例がなくて……。存在自体は前リューグの出土品から示唆されていたのですが、飼育されていたという記録はなく生態についてはあまりわかっていません。得られた情報では、竹林での目撃例が最もが多く、稀に木のうろや、民家の屋根の隙間のような、地面から離れた狭い場所でひっそりと暮らしているとしか……」


 反応が細かくて一瞬プレイヤーかと思ったけど、言い回しがNPCなんだよな。

 プレイヤー疑惑を持たれたお兄さんが、カウンターの上に並べてある『モンスター図鑑・幻獣』から赤い装丁の1冊を取り出して管狐龍のページを見せてくれる。そこにあった色付きのイラストは、花瓶から身を乗り出して図鑑を眺める管狐龍とそっくりで、少し緑に偏った青緑色だった。


「……クゥーークゥーー……」


 親が恋しくなったようで管狐龍が甲高く、少し切ない鳴き声を上げた。

 声につられてカウンターのお兄さんがそわそわ。周りで様子を窺っていたプレイヤーたちもそわそわ。今にも「どちたの~!?」と言いだしそうである。というか、プレイヤー(と従魔)めっちゃいるな。入って来た時はこんなにいなかったのに。


「そっ、それと、管狐龍は幸運を呼ぶとも不運を呼ぶとも言われていたようです。記録には『悪党がとある邸宅に【火魔法】を放とうとしたが、不発に終わって捕まえることができた』や『暴れるモンスターから隠れようとしたが、【隠密】が使えず大怪我を負った』など、そういった事例と共に『管狐龍を見た』という証言があったそうで」


 スキルが発動しないときには、近くに管狐龍がいるってことね、とわかっている顔をしてみる。後ろのプレイヤーたちはウインドウを開いてこそこそしていた。あれか、掲示板に書き込んでるのか。


「このぐらいしか情報がないのですが……ご自身で探されますか?うちで探すこともできますが」

「……探すのは自分たちでやりたいです。もし今日中に見つからなければ一時的にこの子を預かってもらえますか?」

「預かりですね。当施設は1日中開いておりますので、いつでも頼ってください」

「……ありがとうございます。生息場所がわかったら報告にきますね」

「ありがとうございます!」


 花瓶から顔だけを出す管狐龍を見てでれっと顔を崩すプレイヤーに見送られて、牧場を後にする。

 お兄さんのヒントから察するに竹林にいる可能性が高いってことで、とりあえず近場の竹林に向かうことになった。


 肌に触れる布の感触まで再現されているゲームだけど、雨に濡れる判定は緩くなっているらしい。

 葉っぱの傘で守れるとこなんて頭ぐらいのはずだが、今濡れている判定になっているのは靴だけになっているみたいで、足が冷えてきた。あとは少しだけ動きが阻害されてる感覚があっていつもほど早くは飛べない。


「うわ、ステータス思ったより上がってる!俺ちょっと走ってくる!」

「めっちゃ速いじゃんあいつ。いや速い速い!あははははは」

「水を得た魚すぎる」


 ポンチョを着たプレイヤーがテンション高く走り回っている。妖人の種族特典は特定の状況でステータスが上がることだ。水の妖人が雨でステータスが上がっているのを実感してはしゃいでいるみたいだ。リューグに梅雨があるとしたら、水の妖人たちにとっては祭りだな。


「……竹林はこっちのほうが近道です。ここからはモンスターが少し強くなるので、着替えますね」


 彼らの姿が見えなくなったところで、ジークリンデさんがかくし森で初めて会ったときの甲冑姿になる。ぱっと一瞬で姿が変わって、驚いた管狐龍が花瓶の中にに引っ込んだ。それを見たジークリンデさんがちょっと落ち込んじゃった。


 落ち込んだジークリンデさんに野いちごをあげ、ちょうだいと鳴く管狐龍にも野いちごあげ、遠くで戦闘中のパーティを横目に進んでいると、ジークリンデさんの【感知】に何かが引っかかった。


「……ボワボワボア3匹です。リンジンさんは上に逃げてください」


 忠告間もなく、もさもさの毛で全身を覆われた大きな猪が現れる。離れすぎないように距離を開けて、できるだけ高いところまで飛び上がった。管狐龍は花瓶の中に潜ってじっとしている。こういうとき無暗に声を上げないのは、この子の賢いところだと思う。


 レベル上げしたいなら戦闘に参加すべきだが、できれば今日中に管狐龍を親元に帰してあげたい。私のレベルは低いし戦闘も得意ってほどじゃない。それに、管狐龍の【スキル無効化】が敵味方関係なく発動してしまうと厄介だ。そういうことで、戦闘はジークリンデさんにお任せすることになった。


 ジークリンデさんが金槌を構え、待ちの姿勢を取る。


「……(いわ)よ、起きよ」


 泥濘をものともせず真っ直ぐ突進してくるボワボワボアに向かって、波のごとく隆起した岩が襲い掛かかる。


「ピギイィィィィィィッ」


 波を脚力で突破し、真っ先に逃げ切った1匹がジークリンデさんに迫る。しかし、目の前にいた人物を跳ね上げようとしたときには彼女の姿はもうない。回転を加えられた横薙ぎの一撃で巨体が軽く宙を舞い、落ちてきたところを上から一撃。たったの二撃でボワボワボアが倒され光の粒を残して消えた。


 つ、強ーー!衝撃を吸収するはずのもさもさの毛がなんの役にも立っていない。


 思ってる以上に強いジークリンデさんに唖然としているうちに、岩に纏わりつかれてピギピギ鳴いていた2匹も倒されてしまった。素材をさっさと回収してさらに進む。もうすぐ竹林のある山まであともう少しまで来た。雨足弱まってきたな~。


「……ッ、リンジッ――!」

「ドゥゥゥングググ……キューー……ピィィィィィイイインッ」


 突然、ジークリンデさんが慌ててこっちに手を伸ばした。が、接触判定をくらいポインと弾かれてしまう。その瞬間に、自然界で聞くことはなさそうな機械的な鳴き声を上げて、前方に鋭く尖った槍型の笠を被ったガゼルのようなモンスターが突っ込んで来た――のを、避けました。モンスターが木に刺さりました。ジークリンデさんがすかさず倒しました。


 あっぶなー!【回避】発動する間もなかった。己の俊敏力だけで避けちゃった。鳴き声が無ければ、あの速さを避けるのは無理だった。ふう、と一息吐くと管狐龍が花瓶から顔を出して私の匂いを嗅いでいる。なに、お腹空いたの?野いちごを差し出したけど、プイとされただけだった。空腹ではないみたい。


「……見事な回避でした。……今のモンスターですか?あれは『ビームごっこ』っていうモンスターで、避けるか何かで受け止めるかすれば、突き刺さったところを攻撃するだけで倒せます。あの鳴き声が聞こえたら、何もない方向には逃げないようにしてくださいね」


 はーい。ジークリンデお姉さんに元気に返事(挙手)をして前を向くと、山の方から人が一人走ってくるのが見えた。カッパのフードを被っているので顔はよく見えないが、シルエット的に細身の男性だろうか、彼の肩の後ろにはよく見ると後ろから細長いシルエットの何かがついてきている。


「すみませ~ん、そこの甲冑の方~!もしかして迷子のモンスター保護してませんかー?」


 山から下りてきたらしい人が大きく手を振って話しかけてくると、何故か管狐龍が花瓶から飛び出した。え?知り合い?


「ククゥーーーーー!」

「クククク!」


 管狐龍の鳴き声に応えたのは、図鑑のイラストに似た色合いの一回り大きい管狐龍だった。2匹は絡まり合うように飛んで再会を喜んでいる。親子で間違いなさそうだ。


「見つかってよかったー。お二人も迷子クエスト中で……あ、花猫の!」


 男性はどうやら花猫を売った人らしい。反射的にペコリとお辞儀をして頭を上げると、フードから顔を覗かせるリスと目が合った。他にもカッパの右ポケットにハムスター、左ポケットにハリネズミ。ヒップバッグからチンチラと……、なんか毛玉から耳がニョキっと生えた何かが覗いている。

 みんなカッパ着ててかわいい~……――ああ!この人げっ歯類ハーレムの人か!従魔と赤スパに気を取られて顔を覚えていなかった。


「コァーン」

「コァーン」

「え、え、え、え!なにこれお礼!?お礼のモフモフ!?びしょびしょだけど!わ、わー、ようやくげっ歯類以外から絡んでもらえた……!」


 一人納得していると、げっ歯類ハーレムの人が管狐龍親子に絡まれている。ものすごく嬉しそうだ。


「……いえ、ハリネズミとうさぎはげっ歯類ではありませんよ」

「え!」


 え!

 そうだったんだ!?そんでこの毛玉うさぎだったんだ!?二重でびっくりした。言われてみればハリネズミはあんまりげっ歯類ぽくないかも。ネズミという単語に引っ張られてた。じゃあ、げっ歯類ハーレムじゃなくて小動物ハーレムか。


「そうだったんですか!もうこのままげっ歯類しかテイムできないのかと……っ。これなら猫も……!猫がテイムできる日も夢じゃない……っ!」


 猫テイムできなかったんだ。

 かわいそうだったので花猫あげたら、めちゃくちゃ喜んで1200ニーゼくれた。もう1輪渡して帳尻を合わせておいた。


 管狐龍親子はジークリンデさんにも絡んだ後(甲冑でモフモフが味わえなくてちょっと悔しそうだった)、私にも絡んできて、いや、子管狐龍が思った以上に絡んでくる。君さっきまでそんな積極的じゃなかったじゃん……顔を執拗に狙ってくるので視界が遮られて……あれ?なんか私、随分ジークリンデさんたちから離れてるな?


「……管狐龍の生息場所はわかりますか?モンスターファームでは、生態はわかってなくて竹林にでの目撃例が多いと教えてもらったんですが」

「僕はついさっきあの山歩いてるときに、あの管狐龍()に会ったんで、生息場所まではわからなくて……あれ、妖精さんは!?」

「……あ、あんなところに!」


 いつのまにか親管狐龍に服を噛まれて山に入ってしまっていた。あーーーれーーーー!

リンジンの絵

https://poipiku.com/197435/11619546.html


※まだ出てないキャラの絵 (ラフ)もあります。若干ネタバレ。

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