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樹液採取(掲示板あり)

ーーーリューグ植物語り パート16ーーー


556 農家 (ヒト)

セットで置くと品質を上げる植物があるってマジ?

俺知らなかったんだけど


557 薬師 (森の霊人)

何それ知らん……


558 菜園の守護者 (水の妖人)

俺も知らん


559 農家 (ヒト)

SNSでナゲキッスソス、ハジラウムスメで検索してみ


560 料理人 (嵐の妖人)

ナゲキッスソスなんて花があんのか。草。


561 パン職人 (森の霊人)

へ~、葉に触れると投げキッスすんのか。オジギソウみたいな感じか。おもしれ~


562 錬金術師 (鱗の獣人)

ハジラウムスメに投げキッスすると?ハジラウムスメが赤くなって?気を良くしたナゲキッスソスの花が開くと?

そうはならんやろ


563 仕立屋 (雪の妖人)

なっとるやろがい!


564 薬師 (ヒト)

なにこのキザなナルシスト王子と初心な女の子みたいな図


565 森の守護者 (被毛の獣人)

鏡の前じゃないと自分の姿が見えそうなところを探してまっすぐ育たないってなんだよ!


566 小さき探究者 (羽の妖精)

ナルキッソスよりは他人に興味があるだけマシ……か?

他人ってか花だけど


567 緑の魔法使い (森の霊人)

ファンタジーコンパニオンプランツじゃん


568 農家 (水の妖人)

ないって言われてたのにな。コンパニオンプランツ

なんらかの条件満たして追加されたかな


569 農家 (ヒト)

今までは土壌を良くするとか、品種改良とか作物を狙うモンスターとの戦闘がメインだったもんなあ

植物を病気にする虫は一種類だけだし、そいつも錬金術の農薬使えば問題ないし、育て方によっては自力で虫退治するし・・・


570 染色職人 (羽毛の獣人)

一見普通の野菜が葉っぱで虫を叩き斬る動画大好き


571 錬金術師 (小人の妖精)

この世界のコンパニオンプランツは虫よけとか病気予防じゃなくて、品質向上させるのに必要になるのかな?

組み合わせ探すの大変だろうけど楽しそう


572 パン職人 (森の霊人)

虫を葉っぱで叩き斬ったら病気にならん?


573 果樹農家 (ヒト)

食われなければ病気にはならないから大丈夫


574 農家 (森の霊人)

※ただし食われたら早急に対処しないと虫が繁殖して全滅する


575 菓子職人 (雪の妖人)

ヒエッ・・・


576 万物の採取人 (岩の霊人)

新要素やったぜ。採取がますます捗る


577 小さき探究者 (羽の妖精)

コンパニオンプランツ見つけたら教えてくれ。なんならそれっぽいのがあったらウチに持って来てくれてもいい。

こっちで検証するから


578 緑の採取人 (羽の妖精)

今まで無視してたやつも採っていいってこと!?


579 放浪の採取人 (ヒト)

気になってた植物いくつかあるんだよなぁ!!!!!!


580 採取人 (羽の妖精)

ものどもー!であえ、であえーーー!!!


581 採取人 (被毛の獣人)

ヒャッハーーーーーー!!!!!


582 仕立屋 (雪の妖人)

採取勢がウッキウキ


583 料理人 (被毛の獣人)

うちのクランハウスの庭担当が興奮でウロチョロしすぎてボスにぶん投げられてら


584 さすらいの庭師 (森の霊人)

ちょっと落ち着かないからその辺庭にしてくる


585 緑の魔法使い (森の霊人)

庭師もウッキウキ


586 果樹農家 (ヒト)

≫584

またこの人フィールドに庭を作ろうとしてる・・・


587 薬師 (ヒト)

またフィールドに突如庭が生えることになるのか


588 探索者 (岩の霊人)

待て、もしかしてうちの拠点の近くに突然できたやたら綺麗な空間って庭ゾンビの仕業だったんか?

てっきりそういうモンスターか何かがいるのかと・・・


589 錬金術師 (鱗の獣人)

もうほとんどモンスターみたいなもんだろ


590 農家 (森の霊人)

フィールドにポツンとある人工的な庭っぽい空間とか、ピザカッターの人の休憩所周辺がきれいなのはほとんど庭ゾンビのせいだぞ





 ログインしてまず、天井に拡散する小さな虹の光が見えて口角を上げた。窓は開けていないのにサンキャッチャーのガラスの一粒一粒が光り、薄暗い部屋にプリズムを散りばめている。音がしそうなほどに綺麗。

 初日から私を温めてくれた毛布から抜け出して、清々しい気持ちで窓を開ければ、そよ風に鈴音蘭の爽やかな匂いが混じった。本当の鈴蘭もこんな匂いがするのだろうか?白い小さな花ををつん、とつつけばちりんちりんとかわいらしい音が鳴った。


 ひとつ伸びをして視界の端でジワ……と主張しているウインドウを開く。空気を壊さないでくれてありがとね。この「目立たない通知」っていう設定ありがたいわー。通知音が鳴るのも、視界の端で文字がちらつくのも好きじゃない。でも完全オフだといざっていうときに心配だから最低限わかるぐらいがいい。


 通知の正体はジークリンデさんとユーコミスさんからのチャットだった。


 ジークリンデさんは、私が暇なときに遊びに行ってもいいかっていう連絡。ちょうど向こうもログインしているようなので、とりあえず今日は時間あると返信をしたら、今から行くと速攻で返信が来た。

 ジークリンデさんにはログアウト前に巣箱に利用者がいたって報告と、ついでに樹液の採取方法について知らないか聞いていたのだ。巣箱も見に行きたいし、道具を持って行くので樹液採取に参加させて欲しいとのこと。


 ユーコミスさんからは、きらきら星の疑問で悩みが解決したことのお礼だった。

 一緒に送られてきたスクショには、白、淡いオレンジ、淡い紫だったはずの花を一様に赤くしたハジラウムスメたちと、胸を張るように咲き誇るミルクティー色のナゲキッスソスという花。ちょっと派手な水仙である。大輪の花を咲かせるナゲキッスソスは全体的にくすみカラーなのもあってそういう金細工みたいだ。こいつが中途半端にしか咲かず、手を焼いていたのがハジラウムスメのおかげで満開になったらしい。


 お役に立てて嬉しいです~とユーコミスさんに返事をして、ルーティンになりつつあるご飯からの採取をこなす。拠点の素材はゲーム内時間で3日ぐらいで復活するので、まだまだ採取には困らない。


 ――コーン。


 花農家さんのところでも聞いた低い金属音が聞こえて、出入り口のほうを振り返る。


「……こんにちは、リンジンさん」


 ジークリンデさん来……た?

 思い浮かべた姿と一致せず、首を傾げる。甲冑姿ではあるけどだいぶスッキリしている。胴体を覆うのは甲冑ではなく、チュニック。でも、腰に見覚えのある金槌がぶら下がっているし、声はジークリンデさんのものだ。何よりここは一応秘匿スポットなので、限られた人しか辿り着けないはず。

 ジークリンデさんが私の視線の先に気づいて、チュニックを引っ張った。


「……ああ、これは普段着です。この間のは軽めの戦闘用というか……」


 衣装持ちだ!いいですね~、目的で衣装変えるの。楽しそう。チュニックから手を離したジークリンデさんさんが私の手元を見つめる。


「……露店でヒエビエプルルを売ってた妖精って、もしかしてリンジンさんですか?拠点にしている街の管理人がどこにも売ってないと嘆いていたので、それ、できるだけたくさん買い取りたいのですが……」


 「それ」と手に持ったままだったヒエビエプルルを指差された。どうぞどうぞ!管理人ってあの大人買いしていった嵐の妖人のおじさんかな。ここ繋がるんだ~世界は狭い。ジークリンデさんが管理人さんと連絡取っている間に露店で使った深皿2枚とその辺から取って来た大きな葉にヒエビエプルルを盛っていく。


「……ま、まだあるんですか?」


 ウインドウを確認していたジークリンデさんが、どんどん盛られていくヒエビエプルルに2度見をした。まだあと230個あります。


「……ちょ、ちょっと待ってください。インベントリを空けますので」


 さすがにこんなにはいらないか、と思ったら全部買い取ってくれるらしい。ジークリンデさんがわたわたと物を出す。その量の多いこと多いこと。木材だけで角材に板に枝に……石も種類別に細々とある。それから角や皮などのモンスターの素材。

 ジークリンデさん、あれだ、荷物はカバン1つなのにそのカバンの中にいろんなものを詰め込んでいる人だ。カバンの底から賞味期限切れの未開封のお菓子とか出てくる。


 こういうのってしばらく整理し忘れるとごちゃごちゃになり過ぎてめんどくさくなるよね。私もメールアプリのアイコンバッジが3桁超えるとやる気をなくします。


「……あの、これ一旦ここに置いておいてもいいですか?」


 いいよ。なんなら倉庫でも作りなされ。インベントリに入れたものは「手放す」コマンドを実行しない限りその人の所有物になるので、その辺に置きっぱなしでも他プレイヤーに盗まれはしない。ただ野ざらしだと雨風で劣化が進むし、モンスターに持って行かれることもあるので何かに入れておいた方がいい。

 ジークリンデさんは職人系のスキル持っているみたいだし、岩の霊人は【岩石魔法】があるのでサクッと作れるだろう。


「……そこに倉庫を作ってもいいんですか?ありがとうございます……!」


 チャットで『倉庫に入れる』とだけ送ってよさげな位置で、ゲームマップの矢印よろしくぴょんぴょん飛んだらちゃんと意図を汲んでくれた。切実さを滲ませた声で礼を言うジークリンデさんは、ものの数秒で石造りの倉庫を作ってアイテムをそこにまとめた。


 無事にヒエビエプルルを手に入れたジークリンデさんから、革袋に入ったお金(概念)を受け取って、樹液採取に取り掛かる。


「……思ったよりこぶが柔らかいですね。ナイフで切るだけでもよさそうです」


 螺旋階段のように並んだ妖精の宿のこぶは、樹皮の下に樹液が溜まっているのかつつくとほんの少し沈む。ナイフの刃先で刺しただけですぐにポタポタと樹液が出てきた。穴にチューブを挿し【岩石魔法】で台を作ってそばに用意していたバケツに入るように調整する。ゲームだからか、樹皮でもチューブはうまく固定できたようだ。バケツの中に樹液が溜まっていく様子が見えた。


「……では、味見を」


 サッとスプーンを取り出すジークリンデさん。同じようにカップを掲げる私。顔を見合わせて互いに頷く。こぶから落ちていく樹液をそれぞれスプーンとカップで受け止めて、いただきまーす……わ、ちゃんと甘い。

 ジークリンデさんもスプーンを口に運んだ。そして兜に消えていくスプーンの先。だよね。ジークリンデさんが兜を取らない時点で予想してた。そもそもジークリンデさんの兜、目元の穴もないしバイザーを上げ下げできるような構造にもなってないし、そういう仕様なんだろう。私の羽も服を貫通してるしね。


「……思ったより甘さは控えめですね」


 確かに「妖精」って付いてるとなんとなく甘いイメージになるけど、さっぱりした甘さだ。あ!そうだ、ジークリンデさんこのレシピ見て~。この樹液砂糖になるんだって。チャットでレシピのスクショを送る。


「……ピクシーダストシュガーのレシピ……あ、ピクシーダストのある場所は知ってます……あの、案内するので、今度の連休一緒に行きませんか?」


 行く行く!行きまーす!勢いよく右手を上げて頷けば、ジークリンデさんがホッと安堵の息を吐いた


「……元々今日は『ルート52Hz』っていう街に誘おうと思っていたのです。アロアロに近くて、大きな海洋生物の骨の周りにいろんな種族が集まった観光地なんですよ。ただ、ピクシーダストのある場所のルートからは外れているんですよね……超特急で日帰りか……休憩所に泊まりながらのんびり行くか……」


 大きな街ならポーションの原料を採取してるときに遠目に見たかもしれない。考え込むジークリンデさんに「泊りがけになってもいいので、近くに街があったら行ってみたいです!」とチャットを送る。開拓地全然行ってないので、行ってみたい。


「……それなら『クリフシャトー』で1泊しましょう。これでもあちこち歩き回っているので、旅程については任せてください」


 ピクシーダスト採取と観光の一石二鳥!しかも案内兼護衛付き!やったー!両手を突き上げてぐるぐる回転!動きが面白かったのかジークリンデさんにお淑やかに笑われた。モブ兵士みたいな甲冑姿と上品な仕草のギャップよ。


 喋ってる間にこぶは萎んで蜜が出なくなっていたので、他のいくつかのこぶにも穴をあけて【岩石魔法】でバケツを窯の形に囲う。窯の口が幹のほうを向いているので雨も入らないだろう。今日の空は重い雲で覆われているので一応の処置だ。

 【環境魔法】で妖精の宿の周りだけ晴れにしてもよかったんだけど、これから巣箱に赴くので、万が一に備えて魔気は温存しといたほうがいいだろうってことになった。


 あの青緑の尻尾の子、まだいるかな。前回見かけたときから2、3日経っているのでわからないけど、いないならいないで痕跡はあるかも、なんて期待をしながら歩いてるうちに空がゴロゴロと鳴り始めた。


 巣箱に辿り着く頃には雨も降り始める。雨具はまだ持ってないのでサトイモの葉みたいなのからちょうどいい大きさのものを傘代わりに差した。ジークリンデさんの甲冑は防水と避雷も兼ねているのでそのままで問題ないらしい。他にも防火に防寒に軽量化に……ふ、普段着の甲冑なんだよね……?いや待って、よく考えると普段着の甲冑って何?


「……確かに何かいますね。【感知】が弾かれている感じがします」


 あの子だ!私も【隠密】を使って近づいてみたけど、前回よりずっと手前で無効化されてしまった。野いちご食べて元気になったってことかな。いるってわかったんなら一旦引くか。無暗に近づいても怖がらせるだけだし……とその場を離れようとしたときだった。


 ――ドゴオォォォォォオン!!!


「コァーーンッ」

「!?」


 閃光の後に鳴り響く轟音。揺れる空気、そして地面。たまらずといったように巣箱から何かが飛び出してきて、気が付いたら青緑色のモフモフに巻き付かれていた。な、何事ーーー!?

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