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『――おはよう、新たなる我が子。あなたの目覚めを歓迎します。』


『名もなく、姿もない、真っ新な子。リューグに根付くことがあなたの使命。そのためにあなたは思うまま、好きな名前をつけなさい。好きな姿を得なさい。『自身』が出来たら、その体の使い方を知りなさい。そしてこの紺青の城からリューグへと旅立つのです。』


『準備は出来ましたか?』


『では、あなたを目覚めの間へ送ります。大丈夫、心配は要りません。あなたは何度でもここ(・・)に還ってこれます。さあ、起き上がりなさい――』






 ――転移地点『紺青の城・目覚めの間』を登録しました。


 「起き上がりなさい」と言われつつ始まったオープニングムービーを見終わると、延々と続く白い景色が一転、紺青の天井と床に白い柱が立ち並ぶ半屋外になった。ウィンドウを開くと目の前に『紺青の城・目覚めの間(拠点)』という文字が表示される。最初は自動で拠点登録される仕様のようだ。あ、チュートリアルでもらったポイントが補充されてる。ついでに設定を見返していると「ドサドサッ」と、すぐ近くから重い物が落ちる音。広場にいた人たちが一斉に顔を向けたそこには、革鎧をつけた戦闘職っぽい2人組が床に落ちていた。


「ぐわ~やっちまった!」 

「ここまで来て死に戻りッ」

「やばいやばい姉貴置いてきちまった!早く戻んねーと!」

「ヒィーーーッ」


 倒れていた2人は慣れた様子で私たちのことは気にせず、すぐに立ち上がって走り去っていった。が、がんばれ~。


 あの2人のすぐそこにあった、台座の上でプカプカ浮かぶキューブが転移石か。別の地点の転移石を登録するか、自分で転移石を手に入れて置くかしないとここに死に戻る。そして死に戻るとゲーム内時間で前3時間分の経験値を失い、後3時間は経験値が入らなくなる……とキャラクリの後のチュートリアルで教えてもらった。

 でも、そんなことよりも、死に戻ってこんな注目浴びるほうが嫌だ……。うん、早くキューブを手に入れて拠点を作ろう。


 周りには私と同じ、茶色のスカートかズボンにブーツ、生成りのシャツ、その上に紺青色のポンチョ姿の人たちが結構いた。本サービス開始から半年以上経つけど、これだけの新規がいるんだなあ。複数人で固まってわいわいしてる人もいれば、私のように一人で部屋を見まわしたり、さっさと出て行く人もいる。みんな、姿かたちがバラバラで見てるだけでもおもしろい。


 パルテノン神殿ような目覚めの間の周囲には花や木が植えられていて、そこから微かにフローラルな香りがする。思わず花に近づいてみると、ゆっくりと歩いている一団からお年を召した品のいい声が聞こえた。


「あらあらあら!本当にちゃんと花の匂いがするのねえ」


 わかる~!私もこの手のゲームは初めてなので、全く同じことに感動しているところだった。ひんやりとした空気も、服が肌を擦る感覚まで感じる。お孫さんなのか若い声の既プレイヤーらしき人が食べ物の味もちゃんとするのだと説明していた。うわ~楽しみ!彼らを追いかけるように、木々の隙間から見える街に向かうことにした。




 視覚だけじゃなく五感にまで作用するフルダイブ型のVRゲームが発売されるようになって早8年……え、もう8年も経つんだ。時の流れ早。

 当時17歳だった私は衝撃を受けた。そりゃあもう興味津々だったし両親は私よりゲームをやるくらいだったから、多少高くても買ってくれるだろうと高を括っていた。しかし、そんないかにも現実と区別がつかなくなりそうなゲームは20歳以下プレイ禁止となり、両親も様子見の姿勢で手を出さず、結局受験だの就職だのアイドルを推すだのに忙しくしているうちに興味がなくなってしまったのだった。


 推しアイドルグループが解散、一番好きだったメンバーは引退してしまい、ぼんやりとファンが編集した推しのまとめ動画を見るのが日常になってきた頃、たまたま目に入ったのが『紺青の城と目覚める人形たち』をプレイする、とあるV配信者の切り抜きだった。人によってはホラゲとも捉えられるようなタイトルで印象には残っていたが、解散騒動でそれどころじゃなかったのでどんなゲームなのかよく知らないままだった。


 リアルを追求しがちのVRMMOで珍しい、少しデフォルメがかかったグラフィック。子ども向けフルダイブ型ゲームによくあるガッツリデフォルメでもない、程よいイラストっぽさにまず目を惹かれた。これまた程よくアニメ調のエフェクトが飛び交う戦闘シーンに、開拓途中ながら賑やかな街の風景と、ときどき映り込むスローライフを満喫しているような人の姿。終始楽しそうなV配信者の様子も相まってやってみたい気持ちが膨れ上がり、ついに先日最新のVR機器と『紺青の城と目覚める人形たち』を手に入れ、やっとログインに至ったところである。




 背中の半透明のトンボのような羽が勝手に動くのを感じながら、石畳を道なりに飛ぶ。飛んでいるのだから道なりに沿う必要はないのだが、適当に行くと迷いそうなのでやめておく。たぶん素直に従ったほうが、初心者向けの何かしらが用意されていると思うんだよね。


 私の種族は『羽の妖精』だ。事前情報は入れていたものの、実際キャラクリするとなるとかなり迷ったけど、やっぱりやってみたかった小さい種族を選んだ。といってもあんまり小さすぎるのは大変そうなので、身長は40センチちょっと。妖精の身長は最低で25センチ、最高が65センチだったからだいたい真ん中だ。『小人の妖精』も同じく小さい種族だけど、せっかくなら飛びたいじゃん。


 景観を邪魔しない配置で置かれたベンチで目を閉じている人は、ログアウトしたプレイヤーだろう。整えられた庭園で微動だにせずに眠る人たち。なんだか寂寥感のある景色だけど、だからこそ雰囲気がいい。そして、たまに見かける妖精用の椅子のミニチュア感がすごい。


 木々の向こう側に出ると、早速いろんな店が立ち並んでいた。出口のすぐそこにあった大きな看板には『ようこそ復活の街・アロアロへ!』と日本語で書かれた文字と地図。地図の端にかかれていた『【鑑定】で詳しい情報を表示できます。』という字に従って【鑑定】を使ってみると、店舗情報や、戦闘系スキルが取得できる修練場、初心者キットが受け取れる統制局についてなどが書いてある。【鑑定】はプレイヤー全員に備わってるスキルだ。ありがたい。

 

 しっかり看板を確認して、まずは統制局に向かうことにした。ソロなので初心者キットは絶対欲しいです。

 統制局は高い塔の近くにあって迷うことはなさそうなので、遠慮なくおのぼりさんになる。わ~、あのお店配信者の動画で見た!あの屋台からおいしそうな匂い!あっちの宿は高そう!こっちの宿は安そう!


 開拓ゲーなのもあって、公式の街は二つしかない。なのでまだ発展の余地が残っている始まりの街でも行きかう人の数は多い。歩行人の邪魔にならないように頭上を飛んでいく。よしよし、チュートリアルでしっかり練習したかいがあって蛇行飛行にはなってない。


 それにしても雲の流れが速いなあ。今はそこまで風がないけど、あとから強風になったりするのかな。このゲーム、しっかり天候も作り込まれているらしく、砂漠や雪山みたいな特殊フィールドだけじゃなく天候でデバフが付くこともあるらしい。逆に悪天候でステータスが上がる種族もいるみたいだけど。


 統制局は温かみのあるオレンジ色のレンガの壁に、赤茶色の屋根のカントリーな建物だった。厳つい名前の割に意外とかわいい。古い部分と新しい部分が混在しているのが歴史を感じさせる。

 待って、これドア開けられる?妖精は種族特性で非力なんだけども。試しに赤茶色のドアを押してみる。普通に無理だった。どこから入れば……。


「お?ご新規さん?ようこそアオガタへ~。妖精用のドアはここだよ」


 剪定鋏を持った『森の霊人』の少年が指したとこは一部の壁が凹んでいた。覗き込むと確かに奥のほうに三分の一ぐらいになった小さいドアがある。ニコニコ手を振る少年にペコペコお辞儀をして中に入る。今のプレイヤーだよね。へえ~庭師にもなれるんだ。


 中に入ると、真ん中にあるカウンターの両サイドに部屋があるようで意外と狭かった。初心者装備のグループが2つと、両サイドにある部屋を行き来してる人が何人か。カウンターに座っていた4人のうちの1人の女性と目が合ったのでその人のカウンターに寄る。


「おはようございます、新たなる同胞。初心者キットをお求めですか?」


 コクリと頷くと、受付の女性は初心者キットの概要の書かれたカタログを出してくれた。

 ずらりと並んだアイテム名の横には数字が書かれていて、ログインのときにもらったCP内で交換できるらしい。受付の女性が開いたページには、ちゃんと羊皮紙の一番上にちゃんと妖精用と書かれているので、アイテムの大きさとかは気にしなくてよさそう。


 CPというのはクエストをクリアしたときとか、イベントに参加したときにもらえるポイントで、運営が用意した景品と交換か、ステータスに割り振れるSPや、ゲーム内通貨の『ニーゼ』と交換ができる。


 どれどれ……ナイフ、毛布、一日分の携帯食、ポーション各種1つずつ入ったセットは初心者キットを希望した時点で配布なんだね。あとはステータスが上がるアクセサリー、斧、農具、ランプに寝袋……あ!!


「簡易コンテナと、簡易転移キューブですね。他には……はい、ランプと……余ったポイントをニーゼに交換でよろしいですか?」


 はい。それでお願いします。


 やりとりをしただけでいつの間にかインベントリに入っていたアイテムを確認して統制局を後にした。よーし!拠点探しだ!

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