その7
「闘犬」の話と2匹の猫達との暮らしの話
高校(滑り止めで合格した私立の仏教系の女子校。あたし達が卒業して2年後ぐらいに男女共学になった時、それぞれ違う大学やら専門学校に散らばっていた高校時代の仲間うちで会う機会があって(あたしだけとっくに結婚出産してたんだけどね)、「ちくしょー!共学なんて羨ましいぜ!」などとみんなで激しく悔しがったっけ。)の時、確か春頃で「花祭り」か「降誕会」でお昼前に帰れた日、近所に住んでて同じクラスで仲良くしていた犬好きの友達に誘われ、自宅と同じ町内で行われていた「闘犬」を見に、制服のままふらりと行ったことがある。
普段なら市内線のバスを降りて、友達と喋りながらダラダラ歩いて帰宅するところを、寄り道という形で。
今でこそ「闘犬」が行われていた場所は、24時間365日営業の広い駐車場がある大きなスーパーになっているが、長らくだだっ広い、草ぼうぼうの広場だった。
「闘犬」は毎年定期的に行われていた訳じゃないらしく、色んな場所を転々と巡って数年ないし、数十年に一度我が街にやって来るといった感じ。
テレビや何かでは知っていたけれど、実際の「闘犬」は生まれて初めてだったし、ましてやあたしは犬が苦手というか、怖い人間なので、なんでホイホイついて行ったんだろう?と、未だよくわからない。
「負け犬の遠吠え」「弱い犬ほどよく吠える」などと言われているからか、「闘犬」に出場する犬達は、「人相」いや人じゃないから「犬相」は悪いが吠えることなく。
毛足は短く、何かしらの薬?のせいなのかよだれをダラダラと垂らしながら、ただこちらをじっと睨みつける様に見つめるだけだったので、散歩させているよその犬なんかよりは、案外怖くなかった印象。
大相撲の横綱の様な立派な化粧回しを首からぶら下げている犬は、何となく誇り高いと言うか、プライドが高そうな感じだったっけ。
頑丈そうな鉄格子の大きな檻に入れられていた犬は、首の近くを噛まれたらしく、手当されてたかは忘れてしまったけれど、じっと静かに耐えているのが何だか可哀想だった。
はっきり覚えているのは、どの犬も哀しそうな目をしてたってこと。
…そう、噛まれたと言えば、ルルちゃんなのだよ。
ルルとの生活にも随分慣れて来た頃、一人暮らしをしていた娘が体を壊し、やむなく戻って来た時、飼い猫のSちゃんも当然一緒に連れて来た訳で…
今まで家の中で自由に動き回っていたルルは、Sちゃんが来て部屋に放たれた途端、全身の毛を逆立たせて激しく「シャー!」と精一杯の威嚇を試みるも、ルルの倍ぐらいの大きさのSちゃんに更に威嚇返しをされ、ルルよりも数倍硬い爪で引っ掛れ、齧られ…
「これではルルが殺されてしまう!」
そう思うが早いか、夫と娘が急いでそれぞれの猫を捕まえて保護し、Sちゃんもルルもそれぞれ自分達のキャリーバッグに入れて…なんてことがあった。
これからしばらく一緒に暮らすけれど、今のままでは小さい体のルルがやられてしまう。
では、どうすればいいのか?
3人で話し合い、最初は時間を決めて交互に部屋に出す作戦をとるも、徐々にSちゃんに悟られ、Sちゃんは自分がキャリーバッグに入るのが嫌だと逃げ回り、結局は弱くて小さなルルばかりが狭いキャリーバッグの中で過ごす時間が長くなっちゃったりして。
それではあまりにも可哀想だと困っていると、少し経ってから奇跡の様なタイミングでホームセンターのチラシに、畳半畳分ぐらいの大きさのケージがセールで売り出され、急いで購入し、その中にベッドやトイレ、ご飯などを設置し、キャリーバッグの中よりは幾らかマシな環境を整えることができたっけ。
あたしが出かけている間など、留守番をしていた娘はどちらの猫も部屋に出して自由にさせるなんてこともあった。
そういう時、娘曰く「猫達、全然喧嘩なんかしないよ〜!大丈夫だよ〜!ママが騒ぎ過ぎるから…」
あたしが猫達の争いを怖がり過ぎるから、猫達も触発されて激しくやり合うのだ。と。
そう言われたとて、怖いものは怖いのだ。
大人だけど、親だけど、猫にもだいぶ慣れて来てても、まだ猫達の爪切りとか出来ないし、威嚇する「シャー!」も怖いんだもの。
あたしさえ落ち着いていたならば、猫達の争いも決して起きないのだと、娘は言う。
果たしてそうだったのか?
そういう問題だったんだろうか?
…ん〜…ちょっと違う様な…気がするけど…あのままだったら、ルルは傷だらけで…もしかしたら、命に関わるほどの怪我を負っていたかもしれないと思うと、辛すぎて涙が出る。
でもまあ2年ぐらい、そんな感じで2匹の猫と、猫同士のギクシャクした生活を送ったっけ。
あの頃を思い出すと、ルルには本当に申し訳なかったなとも思うし、Sちゃんにも同じくもうちょっと上手くやってあげられてたらよかったねなんて思う。
何が正解か、そうでないかなんてわかる訳ない話なのだけど。
窓を開ける季節、夜に猫達の喧嘩の声がうっすら聞こえる時、ルルとSちゃんのことを思い出し、ちょっぴり切ない気持ちになる。
最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました。もうちょっと書きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。