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その16(最終回)

最終回です。

ルルは歳をとっても、小さい猫のまんまだった。

子猫で我が家にやって来て、初めの頃はぴょんと上れない場所が多かったけれど、徐々に高いところまでぴょんと上れるようになって、それが年齢を重ねていくうちに徐々に逆戻り。

「前は上れたのにねえ」という場所が増えてきてたっけ。

そうやって歳と共にだんだん色々衰えていくルルだけど、姿形はいつまでも小さな猫のまんま。

可愛いまんま。

2年前、お正月を過ぎた辺りの時期、夫が体を壊しちゃって2ヶ月も仕事を休まなければいけないなんてことがあって…

毎日、雪で閉ざされた家の中で、夫とあたしと一緒に静かに過ごしていたルルだったけれど、どういう訳か1月の後半になると、急に…本当に急に、ご飯を食べなくなってしまった。

「あれ?どうしたんだろう?」

夫と二人で心配するも、ご飯どころか、水も飲まなくなってきて。

そうなると、トイレも全く。

あの時、すぐにでも動物病院に連れて行けたらよかったんだけど…

どうしても…どうしても行けなかった。


徐々に弱っていくルル。

それでも懸命にあたしに甘えて。

あんなにふわふわ柔らかかった黒い毛も、ペタッとしちゃって。

お水もご飯も食べていないし、トイレもしてないルルから、なんとも言えない臭いが漂っていた。

振り絞る力で、いつものようにあたしのベッドに入って来て、いつもと同じくあたしの腕に寄りかかる形で寝て、「ママ、ママ」と甘えて。

「ルル、ルル、可哀想に…」

静かにゆっくりと体を撫でてあげると、ルルは安心した様子で目を閉じた。


次の日の午後、午前中の雪かきで疲れ切ったあたしと夫は、ルルの見守りをしていたけれど、何故か魔法にでもかかったかのようにガクッと激しい眠気に襲われるまま、二人ともソファーで深く眠ってしまった。

夕方、「ルル!ルルは?」と慌てて起きた時には、もう遅かった。

ストーブの前にある自分のベッドの中で、動かなくなっちゃってた。

ソファーで眠りに落ちる直前、必死に目を凝らして見つめていたルルが、天井に向けて両前足をグーッと伸ばした姿が、あたしが最後に見たルルの生きてる姿だったようだ。

もう5時を過ぎて、外が真っ暗になっていて、容赦なく降り積もる雪が無情に感じた。

「どうしよう…ルルが…ルルが動かない…ママだよ!ルルちゃん、ママだよ〜!どしたの?ルル…ヤダなあ、そんな動かない遊び…やめよう、そういうの、ママ達やだよ…ねえ、ルル…ルルちゃん…」

抱きかかえ、何度も話しかけ、小さいスプーンで大好きなちゅるちゅるを口元に運ぶも、ルルはそのまま。

夫と二人、固まったままのルルを抱きしめて、しばらく泣いた。


ルルの死を受け入れるのに、結構時間がかかった。

ようやく気持ちがちょっとだけ落ち着いたところで、同じ町内にあるペット霊園に電話をかけると、次の日、ルルのお葬式をしてくれることになった。

ルルが死んだ晩は、やけに寒くて、ずっと深々と雪が降り続いていたっけ。


その晩、いつもと変わらず「ルルちゃん、ママと一緒にねんねしようねえ」

そう言って、もう動かず固まったルルを、あたしの腕に顔を乗せる形で布団に入って一緒に寝た。

前日までしていたルルの匂いが、どういう訳か全くしない。

あんなにルルのよだれ臭でいっぱいだった、お気に入りの毛のボンボンも、ルルのベッドもトイレも、ご飯や水のトレイも、あたしの布団の中も、家のどこにもルルの匂いがない。

ルルが、自分の生きていた痕跡を消したかのように、我が家からルルの匂いがすっかり消えてしまった。

それがとても辛かった。


次の日は、前日の冬の嵐が嘘のよう。

朝からピカピカのお日様が降り積もった真っ白い雪に反射して眩しかった。

約束の時間に夫と共に車でペット霊園へ。

あたしは助手席でバスタオルに包んだルルを抱っこしたまま。

前日、泣きじゃくりながら、それでもあたしなりに必死に説明して、ルルのお葬式をお願いした電話の相手の住職さん(女性)は、あたし達の到着をわざわざ外に出て待っていてくれた。

改めてルルのことを一生懸命説明するも、涙が後から後から溢れてきちゃって、夫も同じく涙が止まらず、上手に説明できなかったけれど、それでも住職さんは優しく丁寧にあたし達の話を聞いて下さった。

「ルルちゃん、とてもスラッと美人さんだったんですねえ」

住職さんの言葉が、心に沁みた。

人のお葬式とほぼ同じ形で、住職さんは丁寧にお経をあげ、火葬。

火葬を待っている間、澄み渡る青空に真っ白い煙がほぼ真っ直ぐ昇っていくのが見えた。

お骨を拾う時、住職さんが「ルルちゃんは、腎臓…が悪かったんじゃないかなあと思います…」と言っていた。

丁度お腹に近い場所の骨が、何故か真っ黒だったから、そういうことなんだなあと思った。

ルルの骨は小さな骨壷に納まった。

ルルちゃんの頭と同じくらいの大きさだったから、帰りの車内でずっと骨壷が入った紙の箱を、ルルの頭を撫でる様に撫でて撫でて撫でて撫でた。


突然始まったルルのいない生活は、哀しすぎて辛すぎて、なかなか信じられなかった。

もうそこにいないとわかっていても、いつもルルがいた場所を部屋のあちこち見てしまう。

そうしては、夫と二人、「あれ?ルル、どこ行った?」などと、家中を探したりした。

姿は見えないけれど、気配はしていた。

ソファーに腰掛けている時、膝の上にルルが乗っかる感覚があった。

トイレやお風呂に入っている時、ドアの向こうでうっすらにゃあにゃあ鳴いているような気がした。

夜、ベッドに横たわると、まずは掛け布団の上にトンとルルが乗っかった様な重さを感じたし、そのまま歩いて肩の方まで来てる感じもあった。

だから、「ルル、おいで〜!」と普段通り、布団をめくってルルが入りやすいようにもした。

眠っていると、ほっぺたや鼻を舐められたような感じもあった。

でも、ルルはいない。

どこにも、いなくなっちゃった。


数日、いやもうちょっと経ってから、あたしはルルの骨壷を入れる巾着型のカバーを縫った。

そこに「ルル 2023 2.2 (水)」と刺繍した。

夫は彫刻刀で木を掘って、ルルそっくりの像を3体も作った。

どれもルルちゃんがよくやってたポーズで。


雪がだいぶ溶け、夫もようやく仕事に復帰できた頃、実家の母の近所の方が我が家のルルちゃんのことを知っていたこともあって、「庭で猫を捕まえたから、ルルちゃんの代わりに飼わないか?」と。

ルルを失った哀しみに暮れていたあたし達を元気づけようと思って。

優しいし、ありがたいと思った。

けれども、ルルを失った穴は、ルルにしか埋められない。

だから、今すぐ、違う猫ちゃんを我が家に迎え入れるなんて、とてもじゃないけれど、あたし達にはできなかった。

本当に申し訳ないと思ったけれど、あたし達の気持ちはそうだったから。

なので、捕まえたという猫ちゃんは、そこのお宅の猫ちゃんになった。(先住猫が2匹、犬も2匹いるけど)


夫と時々ペット霊園に行く。

きちんとしたお葬式をして下さった納骨堂で、もちろん手を合わせるのもさることながら、ルルちゃん用に持って来たカリカリやちゅるちゅるを、「保護猫」に寄付して下さる様で。

あそこに行くといつも泣いてしまう。


もう2年経ったけれど、まだルルちゃんを失った哀しみは消えない。

消える訳、ないよね。

だって、大事な大事な「娘」を亡くしたんだから。

ルルは猫ちゃんだけど、あたし達夫婦には産んで育てた一人娘と同じく、本当の娘だったから。

最後まで読んで下さって、本当に本当にありがとうございました。今回で終わりです。今までの作品もどうぞ宜しくお願い致します。

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