その11
今の家に引っ越して来ることになった話
かれこれ7〜8年前になるだろうか、義父の認知症が進み、離れて暮らす義母からほぼ毎日、SOSの様な電話が頻繁にかかってくる様になった。
その度にあたしと夫が車で約1時間ほどかけて、「どうした?」「大丈夫?」などと義父母の様子を見に行く生活が始まった。
一人で勝手にフラフラとどこかへ出掛けて行ってしまう義父に振り回され、すっかり疲れ果てた義母は、「最期まで私がお父さんを…」なんて鼻息荒くしていたけれど、やっぱりそれじゃダメだ、共倒れになってしまうと、地元の包括センターに相談し、親身になってくれるケアマネージャーさんの紹介で、義父には病院に入ってもらった。
雨の日も風の日も、また大雪の日でも毎日、義母は義父のお見舞いに行って、甲斐甲斐しく世話をした。
そして、約6年前だったか、義父が亡くなり、義母だけとなった。
地元で一人暮らしをしているのは、義母もそうだけど、あたしの母も。
まあ、うちの母は2014年に父が鬼籍に入ってからだから、一人暮らしも結構長い。
そんな高齢の二人の母達がそれぞれ一人暮らしをしていることと、当時毎日聴いていたラジオから、「今月の推薦曲」としてかかっていた男性演歌歌手が歌う曲の歌詞も、「帰って来いよ〜!帰って来いよ〜!…」とあって、あたしも夫もなんとなく「地元に戻った方がいいのでは?」と思う様になった。
母達に何かあった際、すぐに駆けつけられる様に。
父達の時はそれがあんまり出来なかったから。
だもんで、「じゃあさ、この家を売って、地元に戻ろうよ!」なんて言い出したのは、確かあたしだったかも。
そんなこんなで前の家をというか、更地にした土地を売って(案外高く売れた)、今の家(また中古物件だけど)を購入。
両方の実家にも割と近い場所で、隣近所の家が前よりも離れていて、とてもいい場所だなあと感じる。(隣近所は大きな家ばかりだからなんだねえ。それぞれの敷地が広いから。)
まあ、それで夫とあたしとルルで引っ越すこととなった。
地元に戻るとなると今の職場に通うのが大変となったので、夫は何度目かの転職を余儀なくされた。
まあ、でも、そういう時って何故か案外、上手く物事がとんとん拍子に進んでいくもんなんだね。
夫は約2ヶ月の有給消化でまるまる休みとなったから、まずは手始めに購入した物件を二人で掃除し、手直ししたり、壁紙を貼ったりなどなど。
それと同時に我が家でも着々と引っ越しの準備をしていった。
新しい家に持って行く物がどんどんとダンボールに詰め込まれ、捨てて行くもの、家の解体で一緒に捨ててもらえる大きな家具など、まあ、毎日劇的に家の中が変化していった。
そんなのが不思議だったらしいルル。
ついに明日引っ越しとなった前日、夫と綿密に相談。
以前使っていた大きなケージを新しい家に設置しているから、そこに早朝、ルルに悟られない様上手く捕まえてキャリーバッグに入れて、夫が車でルルのトイレやベッド、ご飯や水などを一緒に持って行って、引っ越し業者が来る前に、ひと足さきにルルには新しい家で待っててもらう作戦。
この作戦はなかなか大変だった。
失敗は許されない。
一度悟られてしまったら、山と積まれてある荷物や何かの陰に逃げ込まれてしまう。
そうなると、正直面倒。
ただでさえ、連日の引っ越し準備で二人ともへとへとなのに、これ以上へとへとになる訳にはいかない。
若い頃は気力も体力も十分だったから、こんな場面でもそんなのへっちゃらだったかもしれないけれど、当時夫もあたしも50手前。
お互いに病院に通院している身。
無茶は御法度。
…で、普段通りに夫とテレビを見ながら、片付けが簡単なパンなど食べている時、ソファーの上かどこかでまったりしているルルを、テレビを見ていますよ〜と、確かノールックで確保し、無事に計画通りに事が進んだ記憶。
新しい家にひと足早く到着したから、誰もいない、見知らぬだだっ広い部屋のケージで、ポツンと取り残されていたルルは、きっと不安でいっぱいだったと思う。
お日様が丁度てっぺんに来たあたりで、ようやくあたし達と引っ越し業者の方々がやって来た時、ルルはあたし達の顔と声で喜んだのも束の間、すぐさま知らない人でいっぱいなのがよほど怖かったのか、ケージの中のルルちゃんハウスの奥に蹲ったまま。
業者の人で猫が大好きだというガタイのいい男性に、「猫ちゃ〜ん!」などと声をかけられても、反応なし。
機嫌も相当悪かったかもしれない。
まだ6月の始め頃だったけれど、夏の様な暑さだったあの日。
業者の方々が引き上げ、あたし達だけになったので、家の中がまだ荷物でいっぱいだったけれど、ケージから出してあげると、ルルはおっかなびっくりそうっと出てきて、すぐさまパトロール開始してたっけ。
ああ、懐かしい。
それから、あたし達夫婦とルルの新しい生活が始まった。
最後まで読んで下さって、本当nありがとうございました。もう少し書きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




