クールダウン
アリロスト歴1887年 2月
昨年のクリスマスを過ぎてから微妙に優しくなった緑藍を、若干警戒しながら俺は朝だけ従僕つう役割変更を有難く受け入れた。
まっ、午後から緑藍はロンドの街を歩き回ってる所為なのだけどね。
いや歩いてはないな。
基本、馬車移動だった。
一応な、蒸気自動車あるんだが事故が多発し、ロンドは俺が覚醒する前年に83年に乗り入れ禁止になっていた。
うん、ロンドは難しいと思うわ。
旧い皇都だからかまだ拡張工事が不十分で兎に角、道路が狭い。
そして一先ずは馬車の公道通行教育から始めた方が良いと思う。
俺が走るから俺の道つう考えの人を減らさないとスピードが出せる乗り物の操縦は無理。
まあ其れより煤煙を何とかしないと冬は視界ゼロつうても言い過ぎじゃない。
きっとさ、こんなにも真っ白で視界が悪いから殺人事件なんて起きるんだよ。
イート教会近くの東通りにある私娼街で2件目の娼婦惨殺事件が先週の金曜日に起きた。
意地でも現場に行かない俺に、勤務先が決まったワート君で、現在は緑藍に付人が居ない。
其処で悪魔エイム卿が手下の悪魔クロードを召喚した。
なんだろうね。
夜を人形に切り抜いた?つうか夜が滲み出した男。
人外に見えるクロードは、悪魔エイム公爵の側近だったらしい。
前髪と横髪は短く切って後ろ髪は切らずに1つに結んでいる。
艶々黒髪、奥二重の瞼に瞳は黒。
白い肌に端整な顔立ちはモスニア系の人だと思う。
黒髪黒目でも前世の平坦な俺の顔立ちとは似ても似つかん、えっ当たり前?
悪魔エイム卿、次は魔人辺りを召喚するんじゃね?
そしてこの所、俺に「人間嫌いクラブ」で圧迫面接を掛けて来た小悪魔・プチエイム卿達が、茶会への招待状を送って来くるのだ。
普通行かないよな。
そう考えて、俺は返事に窮して招待状を黙殺した状況だ。
緑藍に相談したらガッカリな返答をして来やがった。
「んー、今でも力が在る侯爵と伯爵だから行って来なよ。私は絶対に行きたく無いけど。」
何でも、エイム卿が連れ歩いているペットと触れ合いたいっ!だとか。
それって俺の事かな、若しかして。
俺って此れでも緑藍に優しく接している心算なのだが、考えを改めた方が良い時期なのかもな。
いや、マジで。
まあ小悪魔達は平民地区まで降りて来ないので俺さえ無視してたら大丈夫?
悪魔エイム卿には「俺は人間が好きなので。」と人間嫌いクラブへの参加を拒否している。
何だろうか。
良く考えたら俺って最近は悪魔エイム卿に「ノー!」と言える人間に成ってるぞ。
もしや、俺は人間的に成長したのか?
まっ、エイム卿自体がこの所は多忙で112Bに来れてないだけなのだった。
助手の仕事をしない助手ワート君。
まっ、朝9時過ぎ出勤で16時過ぎ帰宅を週4日だから時間的に兼業は無理じゃね?
そして実の所、俺はワート君が医者に向いてないと確信していた。
空気読まない=相手の顔色を見ていない。
そう俺が勝手に等式図を脳内でワート君を見ながら描いていた。
でもって目を背けたくなる位に手先が不器用である。
彼が外科治療をメインにするような病院勤めなら俺は緑藍経由で病院勤務を辞めさせてた。
16時を10分過ぎた頃にワート君が帰宅した。
そしてクロエが作ったランチを軽く食べ終えると、のっそり大栗鼠ワート君は、ジェローム探偵事務所の談話室に入って来た。
「ジェロームは?」
「まだ帰って無いよ。珈琲を飲むかい?」
「有難うジャック頼むよ。」
俺は扉側の壁に沿わせて置いた武骨な俺の机に近付き、棚の奥に置いていた小鍋を取った。
応接セットのテーブルの中央にドンと置かれた白いポットの持ち手を掴み小鍋に冷えた珈琲を注ぐ。
そして陽ノ本から輸入した瑠璃色の火鉢に小鍋を掛けた。
「5月の婚姻式が終わったらワート君とは余り会えなくなるな。あの高級住宅街のフェンズに住むのだろう?」
「ええ木曜クラブのメンバーからの紹介で、丁度地方へ帰られる夫妻に借りる事が出来ました。」
「そうか、ジェロームが寂しがりそうだ。」
「事件が起きたので、今は気にも留められてない。」
「ふふっ、それは仕方ないな、ワート君。」
温まった珈琲を安価な素焼きのカップへと注ぎ、ワート君の前に置いた。
香りは犠牲に成るが底冷えする冬には、喉から腹へと流れて行く熱い珈琲が何よりものご馳走だ。
俺は自分の椅子に座り読み掛けていた新聞を広げた。
ジェロームの趣味で購入してる新聞はアイロン掛け迄トマスする新聞普通紙2紙と、噂話で紙面を埋めるチラ裏な大衆紙5紙が並べられている。
資源の無駄遣いだよな、ホント。
俺はアイロンで皴が伸ばされたロンド新聞に目を落とした。
【プロセン連合王国、ギール王国を併合。】
遠い昔グレタリアンに勝利した後、義兄ランツ3世が、「是で古の盟約が果たせた」と、嬉しそうに語っていた。
オーリア帝国の戦後賠償として、ギール王国をグレタリアン帝国から保護国を解かせた。
その後ギール王国とオーリア帝国は同盟を結び友好関係を育んでいた。
アンジェの姉もギール王国へ嫁いでいた筈だ。
利に成らない事はしない主義の義兄ランツ3世が唯一気に掛けていた王家だった。
そんなギール王家が終わってしまった事に俺は言いようも無い寂しさを感じた。
この時代で目覚めて暫く経って知ったのだが、義兄ランツ3世が苦心して併合した公国や選定諸侯達の領土が、オーリア帝国から独自の国として自立の道を模索していた。
如何やらランダ国も、モスニア帝国からの独立を目指し、「ランダ国民党」と言う組織が「打倒グレタリアン」を合言葉に活発化していると言う。
可笑しいよな。
独立する為に戦うならモスニア帝国だろっ。
原因は英雄レオンハルト。
今でも嘗ての支配地域で英雄レオンハルトは畏怖と敬愛の対象なのだ。
だが、現在ヨーアン諸国は植民地支配戦争の真っただ中。
プリメラ大陸、イラド、南カメリアと元々に持って居たランダ国の権益が、グレタリアンに寄って侵害されていた。
そして陽ノ本の権益を奪われ、今度は珠湾島を狙って居ると知り、「グレタリアン許すまじ」になった。
レオンらしいと言うか、植民地経営はランダ国商船・商会に任せていた。
ランダ国本土防衛はモスニア帝国でするけど植民地は自己努力な、モスニア帝国はランダ国から税金そんなに取って無いしーつう感じだ。
問題が在るとすれば開戦権と終戦権がランダ国に無い事だった。
つう訳で俺が死んで63年後に「ランダ国独立の動き」と言う新聞記事が躍る。
レオンの奴は自分が死んだら、併呑した国々が早晩に独立すると分ってて、色々仕込んでたのではと、俺は邪推する。
まあ読んでいる新聞が。グレタリアンで発行されているモノなので「モスニア帝国とランダ国との軋轢」だとか、「ランダ国民党の悪評」とかの文章で記事が纏められていた。
ハハっ。
新聞では良くある事さ。
でもって、メクゼス経済博士が収監先から脱獄したとの記事。
この時代の博士ってアグレッシブなのな、吃驚だわ。
先月プロセン連合王国でアセンジャー政治学者が死刑に成ったからだろうか。
メクゼスとアセンジャーは共にオーリア帝国で学び論文を著した。
そして共産党宣言を共にした仲だった。
「病院でもこのニュースで持ち切りだった。本当に罪を冒してしまったのですね、メクゼス博士。」
「おや?少しワート君は同情的だね。立場的には反メクゼスかと思ってたよ。」
「僕はそうでも無いですよ。確かに積極的にメクゼスの学説は支持しませんが。だけど発表した論文が怪しからんと逮捕するのは過ちだと考えてる。」
「うん、そうだね。それに一度世に出たモノは著者を封じても知った知識は消えないからね。」
「それにしてもジャック、顔色が悪いですよ。」
「そうか?ああー、昨日一昨日と中庭に出てたからかな。マスクはしていたんだが咳がね。」
「ジャックも冬の間はロンドから離れた方が良いのでは?」
「ははっ、まー、うん、考えて置くよ、有難うワート君。」
俺はワート君との会話を打ち切り又、新聞へと目を落とした。
はあー、俺も行こうと思えば行けるんだよな、誘われているウィルの領地へ。
流石に強くなる一方のこの硫黄臭にウンザリして緑藍とクロエに愚痴を零したら、2人共「俺のようには気に成らない」と不思議そうに答えた。
マジか、俺だけ匂い過敏症?
「これって俺に対してだけの呪いか?」そう緑藍とクロエに管を撒いていたら、「エイム公爵領地にでも連れてってやろうか?」
との緑藍の有難いお言葉。
だが、そう話してくれていたのに「第二の娼婦惨殺事件」が発生したのだ。くそぉっ。
結果は俺、放置である。
うん、緑藍の友情って、そう言うモンだよね。フンっ判ってたさ。
2日待っても緑藍が帰って来ないので、俺はクロエに「曾孫の所へ避難する」そう告げて迎えに来たウィルと共に蒸気機関車に乗りチェスタを目指した。
「ジェロームの世話は私に任せて。ジャックは少し太って帰って来なさいね。」
そう明るい声でクロエは俺を送り出した。
一等車両の個室に入ると曾孫ウィルは俺を下にも置かぬ甲斐甲斐しさでじじい介護をしてくれた。
車中泊の時は密着して来て、かなり暑苦しくて鬱陶しかったが、ウィルの頭を叩くと沈黙した。
そしてバーシル駅のホームに降り立ち、其処からウィルの馬車に乗って北西へ半日。
東には北東の山々から流れる川、遠く北西には海が見えるウェットリバーの地に到着した。
風が強くて身が千切れる寒さだったが、俺はこの世界で初めて大きく空気を吸った。
皆で馬車から降り、俺の身体を心配したウィルが自分の腕で包み込む様にして、曾孫ウィルに屋敷へとエスコートされたのた。
その日は疲れたので用意された部屋で俺は眠ったが、朝目覚めたらウィルが俺を抱え込んで同じベットで眠っていたみたいだ。
つうか、眠ってた。
ウィルお前、俺の肉体は違うが、精神はウィルの曾祖父なんだぞっ!
血が繋がってないので近親相姦、、、には、ならないのか?
そうじゃなくて、俺はそう言う友情は守備範囲外だ。
俺は共寝禁止令を強くウィルに言い渡して、寒さが緩む4月までの予定を話し合った。
うーん、俺の貞操保守の為に、何処かでウィルの嫁を拾わねば。
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アリロスト歴1887年 2月
ジャック失恋事件所謂、後日談。
イート教会隣の孤児院——。
昨年、兄が調べた時は院長はモントー教区の牧師スレン、職員ロジャー、オルド、そして今回兄に捕縛されたメッシ。
1800年以前はイート教会も孤児院を管理していたのだが、1830年を過ぎた頃から孤児院で保護された子供が100%私娼街から捨てられた子供ばかりと成った。
寄付で運営されていた孤児院は、風聞で管理が困難になった。
それを見兼ねた隠遁教師がボランティアで孤児院を運営した。
でもって教師が引退する時に、彼と同じ教区の教会へ牧師派遣を依頼し現在に至る。
同じ新教徒だけどイート教会と隠遁教師は会派が違うのだ。
職員は品行方正だと認められた孤児院卒業者がなった。
丁度あの時期は牧師スレンが自分の所属する教会の所用で5日程留守であった。
スレン牧師は基本は孤児院の会計したら後は教区の教会を回っているのがデフォルトらしい。
メッシの職員寮には11ポンドと3gのアヘンがあった。
保護されている子供は5ー11才が8人だった。
間抜けな王女誘拐犯3人組は兄が尋問の結果、南グロリア人でアヘンを組織から盗み出した。
あの孤児院で院長留守中にアヘン売買を上から指定された職員と行っていた。
グレタリアン側はブリッツ港からランダ国はエントーダ港で密輸売買が行われていると言う。
態々関税を逃れる為にご苦労な事だ。
ロンドがヨーアン諸国の中で一番高値で多くアヘンが売れるそうな。
現在アヘン民間輸出入禁止国はフロラルスだけらしい。
兄がブリッツ港は調査はさせずに放置すると言うので理由を俺は尋ねた。
「関税を払わなかった事は違法だが、その手の誤魔化しは枚挙暇がない。下手に表ざたに為ると不要な騒ぎが起きる。面倒事は減らす方が良い。」
そう俺に告げて兄は静かにクロードの淹れた珈琲を飲む。
俺はムカ吐きながらもセイン・ワートの父親の事件や、ジャック失恋事件で兄からフォローされて以来、こうして良く話し合う様になった事に想いを馳せる。
全くジャックの唐変木め。
大体、兄と俺が忙しく動き回っているのは誰の為だと思っているんだ。
まあ、兄は俺の望みを叶える為だが、俺はメアリー・グリーンの事で下手にジャックに傷付いて欲しく無く、アホな誘拐犯が泥縄式に零す真実を回収している苦労も知らないで、腹立たしい。
アホな犯人3人と職員メッシは兄の部下が魚の餌にしてロンドを綺麗にした。
「そう言えばもう犯人は判ったのかい?ジェローム。」
「ふふ、まあっ、その内にね。あの事件は私的には、もうクローズしている。」
「そうか、昨日ヤードで犯人逮捕の記者発表をしたばかりだからな。余りヤードに水を差しても彼等の士気が削がれるな困る。特に今はメクゼスが脱獄した事に寄って珈琲屋で盛んに議論している庶民達を監視させる為に人手が要る。殺人事件に人手は割けないからね。」
「へー、兄上も一応は帝国の為に動くのですね。」
「私が?正か今の帝国の為になど、下らない。新たな思想にのめり込んだ人間たちが、自分の思い通りに政府を動かせないと判れば、ジェロームは次に如何すると考える?」
「まっ、単純に暴力だね。」
「そう南グロリアやプロセン、西ポーランやリコリア公国で起こした様な爆弾テロをロンドで起こされては堪らないからな。万が一ジェロームに被害など及ぼされては。」
「そう言う場所に近付かないから、それは大丈夫。でも思想を押え付けても無意味だよ。私なら労働者の待遇改善をして現状抱いている不満を和らげる。人間なんてある程度満足していると急進的な考えには染まらないよ。」
「それを理解する議会や皇帝だとジェロームは思うかい?」
「さあ、私は議会というモノは分からない。本来は皇帝が方針を決めれば、それに沿って閣僚が動けばいい。そう言うのは駄目なのか?」
「ジェローム、、、。」
仕方のない子だと言う瞳で兄は、俺を見る見詰めた。
だって仕方ないだろ。
俺はそうやって真龍帝国を治めて来たのだ。
まっ、治めてはいないか、光明兄さんの血を持つ真龍族を守って来た。
それだけ。
俺は大きく伸びをして此の堅苦しい兄の居城をクロードと共に後にした。
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アリロスト歴1887年 3月
「うん。美味しい。」
私はシチューを大方作り上げて後は仕上げにミルクを入れれば完成する所まで作業を終えた。
アルフ自慢の七輪から鍋を降ろしてテーブル台の鍋敷きに置く。
私は此の屋敷で一番落ち着く厨房にある竈の傍に置いた小さなテーブルセットの丸椅子に座った。
この世界で目覚めてから3年。
馴染んだと言うか慣れさせられたと考えるべきかしら。
クロエの頃に、神を罵り捲くっていた私の悪癖が当たり前だけど此の世界で目覚めて再発した。
するでしょう?普通。
色々な事も在ったけど良い息子に恵まれてた。
そしてもう一度人を愛する機会に恵まれて今度は皆に祝福されて正式に教会で婚姻が出来た。
「もう子供は無理かな」と思っていたけど、娘に恵まれ、家庭も仕事も本当に充実していて、私は幸福だった。
息子には最後まで母と名乗れなかったけど、それでも季節ごとには私とあの子は触れ合えて、あの子の夢をお茶を飲み乍ら聞くのが好きだった。
あの人と話し合って建てた家には、私が好きな家具や使い易い道具を揃えて、陽ノ本の湿潤な空気を日々感謝しては私の好きな食べ物を作り、友人たちと食べ語い合った。
そして幼い孫に見守られて「ああー、幸せだった。有難うアルフ、緑藍。」------
そして目覚めたら、顔形が変わって若返ったアルフと緑藍に強制的に再会させられた!
流石にもうパニックも起さなかったけど。
フロラルスと違ってグレタリアンは女性に抑制と節制を重く求めて来る。
そして、サマンサの実家を継ぐ弟の継承に、碌でも無い父の弟や親族が絡んで来て、私は息を吐く暇も無い始末だった。
まあ、緑藍事ジェロームが「俺が主役に成る」と言って、探偵事務所を立ち上げてくれて、助かりました。
貴族って言ってもお金が無いと駄目なのです、真理。
エイム卿から潤沢な資金を戴き有能な弁護士も雇え、何とか無事に弟が爵位を継承出来ました。
まあ、アルフが曾孫に会った話を聞いて、私の抑えていた望郷の念が溢れ出し、緑藍やアルフに大変迷惑を掛けたみたいだけど、アレで何だか私の中に溜まっていた黒い想いみたいなのが、サッパリと流れ出してスッキリしました。
でも何なのでしょうね。
あの緑藍のアルフ大好き、もっと甘えさせて感。
小さな子供がママ大好きって無条件に懐いている、そんな感じなんですよね。
それをアルフがしょうがないなーって、甘えさせて上げている様子なの。
此れね、外見ジェロームも凄い美少年だし、外見ジャックも綺麗な風貌の青年だから、私も又やってるーって見える訳なんだけど、是をセイン・ワートやトマスが遣ってたら、私は秒でドアを閉める自信があります、ハイ。
人間、見るに堪え得るか、堪えないかの、リミッターが存在する。
そう実感するこの頃。
そんな緑藍のステディがセインだと、本人から聞かされた。
「蓼食う虫も好き好き。」
私はそんな言葉を思い浮かべた。
まあそんな緑藍にシックな愛情を注ぐエイム卿。
なんて残念なイケメンんだろう、と日々私は考えている。
その残念さ故に私への給金が高いのだから、ブラコンと言う病は治らないで欲しい。
ふふっ、アルフには気の毒ですけどね。
シェリーがもう少し信仰心が薄い子なら色々とBL談議に花を咲かせたいのだけど、無理ね。
そんなシェリーが憧れているウィリアム・ベラルド伯爵は、如何やら曾祖父さんのアルフにご執心だし、ホントに人の心は儘ならないモノ。
そのアルフはロンドの空気に耐え兼ねて、ベラルド伯爵に攫われる様にウェットリバーにある彼の領地へと向かった。
最初アルフが見る見る痩せて行くのは、エイム卿のジェラシー焼きの所為かと思っていたけど、如何やら違って居たみたいです、アルフ御免なさい。
私や緑藍は、「今日もガスってるなー」とか冗談を言い合ってたのだけど、アルフは外に出る度に息苦しくて辛かったみたい。
私達にも「外に出るならマスクしなよ」と作らせて置いたマスクを手渡してくれたけれど、今は大切にドレッサーの奥へと仕舞わせて頂いてるわ。
「此の硫黄臭良く平気だね。」とアルフに言われても、私も緑藍も良く判らなかった。
当然に清々しい空気とは思わないけど、私とかは前世で住んでいた場所はこんなものだったしと、答えたら綺麗な瞳を大きくして「信じられない」とアルフは首を振った。
パッとした見た目では一番繊細そうな緑藍は案外と肝が据わてって結構無神経なの。
でも内面のデリケートさはアルフが一番よね。
私はグランマですよ、実際。
でもまだ三十路前ですからね。
緑藍にもアルフにもグランマとは呼ばせません。
今の私は、、、そうですね、全力疾走し終えたーってカンジなんですよ、まだ。
クロエ時代に意識が覚醒して、絶対に家族と生き残るって決意して、お金貯める為に商会作って、好きな人とも出会った、なのにソイツが暴動何かで殺されて未婚の母になって、モー遮二無二生きて、そしてアルフに誘われ、ずっと念願だった陽ノ本へ旅立った。
意識が戻った頃からの夢だったのよね、陽ノ本行き。
丁度、陽ノ本が社会体制が大きく変わり揺れている時期だったから、私自身が時代に飲み込まれて仕舞わない様に必死、其処にグレタリアンは大砲を攻撃して来るし、ルドア帝国も気楽に襲撃して来るしね。
ラゼ大佐たちとワーワー騒いでました、私。
まあそして緑藍のお陰であの人と婚姻出来て、やっと私の本当の居場所が出来て錨を降ろせた。
75歳で陽ノ本を去るまで61年間全力疾走だった。
少しはクールダウンしても良いよね。
アルフじゃないけど、私に貫禄ぐらい付こうってモンです。
さて、そろそろミルクを入れて1煮立ちさせますか。
3月に成っても寒いモノ。
今夜は緑藍、セイン、シェリー、そして私たち4人での団欒。
さあ、美味しい夕食を食べる為の準備を皆で共にしよう。
寂しい時にこそ日常を生きるのが私流、さて皆も揃ったし夕食を戴きましょう。