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エイム迷走ス  作者: くろ
79/111

狙撃

  


    アリロスト歴1897年  11月





 プロセン王国が参戦してからジャックは新聞を読まなく成り、そして遂に南セントラルにある男爵邸でジャックは心労で倒れ、あの兄が俺以外の人間へ甲斐甲斐しく世話を焼き、10月に療養の為ウェットリバーへと連れて行った。

 アルフレッドの頃は、これ程に繊細では無かった筈だ、とクロエと俺は話し合った。

 恐らくジャックの肉体の方へ感覚が引き摺られているのだろう、と言う結論を出した。

 俺もクロエも、以前の緑藍やクロエとは異なる感覚や想いで、生活する事に慣れてしまったのだ。


 初めはグレタリアン帝国軍もオーリア帝国軍を助け、有利にルドア帝国軍と戦って居たのだけれど、10月に入りプロセン連合王国軍がルドア帝国軍への援軍に来ると、新型の兵器によって直ぐに、グレタリアン軍とオーリア帝国軍が不利になった。

 大量に死傷者を出す事に特化した武器は、また新たな戦争の形を作り出した。

 「此れは戦争では無い。虐殺だ。」

 80歳の御大、大元帥の鉄血公爵が側にいた佐官へそう呟いたと言う。


 名乗り合いの戦闘は耐えて久しいけど、まあ近代化は当然武器に及んでいる。

 モスニア帝国は今回、ルドア帝国ともグレタリアン帝国とも関わらない中立を宣言している。

 まあ、今の内に侵攻している南グロリアを、サリーニャ王国と何とか収めて、南北統一の足掛かりにして置きたいのだろう。


 ポーラン王国が此処まで他国から狙われるのは穀倉地帯だと言うのもあるけど、今は鉄鉱石や質の良い石炭が大量に埋蔵されているからだったりする。

 工業化を推し進めているグレタリアン帝国もポーラン王国の地は垂涎の的だ。

 例えルドア帝国を追い祓えてもポーラン王国は独立国としての存続は難しいだろう。


 俺はクロードが持って来てくれた熱い珈琲を受け取り、繰っていた新聞を畳み、急遽ポーラン戦に参戦することに成ったパーシーの無事を願った。







  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  アリロスト歴1897年  12月





 少し小腹が空いたので俺はセインと1階の談話室へと向かった。

 メイドのサニーに何か抓めるものを頼み、すっかり冬支度が整った談話室の安楽椅子へ俺とセインは向かい合って座った。

 少し経って、サニーがプレーンビスケットとバターやジャムポット、そして紅茶を蒸らしているティーポットとホットミルクを運んできた。

 クロエが出て来ないのが気に成ってサニーへクロエの所在を確かめると、体調が悪かったので今医師が診察している答えた。


 「体調が悪いならサマンサも僕に行って呉れたら良かったのに。」

 「、、、うん。」


 俺には言えねー。

 クロエがセインを医師とは思っていないなんて。

 一応、セインの正式な職業はエイム公爵家のホームドクターなんだけどね。

 毎朝、セインはジェローム探偵事務所へ出社すると俺の顔を見て、両手を握って脈拍検査して、「おはよう」のハグをして1日が始まる。

 きっちり医師としての仕事をしているセインなのだ。

 バターとアプリコットジャムを乗せたビスケットを、パクパクと旨そうに食うセインにつられて、俺もサクサクと香ばしい生地を齧り、ホットミルクを飲む。

 まぁ、美味い。

 美味いんだけどクロエが居たら、冷えたご飯なんかを適当に炒めて、温かい間食を出してくれるのにな。

 なんて俺はグランマ・クロエの料理を想い出す。


 「サマンサは風邪を引いたのかな。悪い病気で無いと良いけど。」

 「うん、そうだな。でも昨日私が顔を見た時も、そんなに体調悪いとは思えなかったけどなー。」


 ビスケットを食べ終えセインと紅茶を飲んでそんな話をしていると、先ずは2階へ向かって螺旋階段をパタパタと駆け上る音が響き、次いでドタドタと走り降りる音が聞こえて、バタンと談話室の扉が勢い良く開かれ、ルスランが俺とセインを見付けて叫んだ。


 「出来たーーーっ!!」


 いい年をしたオジサンは、(かつら)が少しズレているのを気にも留めず、肩で息をし、勢い込んで俺に飛び掛かって来た。

 俺は反射的に躱して、振り向きザマにルスランの項を手刀で打ちのめした。

 ガタンっ。

 ルスランの身体は俺の座っていた安楽椅子へと俯せで倒れて行った。


 「あっ!やべぇー。クロエじゃ、ねぇや、サマンサに叱られる。」

 「それよりもジェローム。ルスランをキチンと座らせよう。可哀想だし、此の侭ルスランを放置して居ると躰が痛く為るよ。」

 「あっ、そうだな。セインありがとう。」


 まっ、こういう時でっかいセインは役立つよね。

 クロエの彼氏ルスラン、南無。

 気絶させた証拠隠滅とばかり、そそくさとルスランを安楽椅子へとセインが座らせてあげた。

 其処へ少し疲れた顔をしたクロエが開いた扉から顔を出した。


 「ルスランっ!」

 「いやー、サマンサ。ルスランは疲れてスリープ中だよ。」

 「はぁー?あっ!ジェロームが何かやったわね。」

 「いえいえあの、ジェロームは、、、。」

 「あー、御免。行き成り俺に飛び掛かって来たから遂、反射的に。暫くしたら起きるよ。強制的に起こしたいなら、セインの鞄に或る気付け薬を嗅がせると、速攻で目覚めるよ。寝起きの気分は最悪だろうけど。」

 「全くジェロームはもう。良いわよ、五月蠅いから寝かせて於いて。」

 「あっ、そう言えばサマンサの体調は如何(どう)?ルスランが出来たーって言って俺に飛び掛かって来た。」

 「もしかしてサマンサはお目出度(めでた)ですか?」

 「ええー。」

 「もうジェロームもセインも2人共煩いわね。悪いっ?」

 「いやぁーオメデトウ。つか行き成りサマンサはキレるなよ。何を怒ってるんだか。」

 「だってねー、もう39歳ですよ。もう直ぐ肉体的な女は終わるなーと思っていたのに。」

 「ふふっ、サマンサがルスランとちゃんとHしてたんだなーって思うと可笑しくて。」

 「ちょっとジェローム、酷い事を言ってくれるじゃない。」

 「そうですよ、ジェローム。サマンサのような綺麗な女性に対して失礼な。」

 「あー、御免御免。ツイねー、サマンサって身内みたいな感じだから私も照れ臭くてさ。そっかー、じゃあヤッパリ婚姻しないとだな、サマンサ。前は事実婚で良いって言ってたけどさ。」

 「そうですよ、子供の事を考えたら、僕も結婚した方が良いと思いますよ。こうしてサマンサとルスランは、一緒に生活もしているのですから。」

 「何、サマンサはルスランが将来後悔しないか悩んでるの?」

 「まあね、普段はそう見えないけど、一応は立場のある人だし、、、。」

 「ええー、サマンサはルスランを皇太子に戻したいの?」

 「いや、戻したくは無いわ。だって毎日が幸せそうにルスランは笑っているのだもの。」

 「じゃあ、ソレで良いじゃん。ずーーっと昔にも言ったけど、人間なんて何時、死ぬか分かんないんだよ。それなら生きている内に、互いが納得して愛し合えば良いと思うよ。でっ、ルスランは、もう起きてるだろ、不安がってるサマンサにルスランがして上げれる事は、、、?」


 「サマンサ愛しています。わたしと結婚してください。」


 ええー、

 プロポーズかよ。

 俺って抱き締めて遣れって心算(つもり)で言ったのに。

 まあ、クロエも頷いて、セインもキラキラと飴色の大きな瞳を輝かせて幸せそうだから良いのかな。

 兄は何か考えも在ったみたいだけど、俺はクロエが喜ぶ方を応援するよ。

 勿論ね。

 ルスランは此処での姓をブレードにしていたから、サマンサはブレード夫人に成るのか。

 卒シュリンク夫人。

 婚姻する事によってクロエもルスランも本当の意味で平民になったなー。

 私達3人は婚姻に縁遠いってクロエは言ってたけど、純愛好きなクロエは紆余曲折あったオッサンにゲッチュされ、此れからも幸せに暮らして行きました。

 めでたしめでたし、、かな?

 ルスランの(かつら)がズレて、イケおじの癖に今は酷い状態だけどね。




 

 



  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  アリロスト歴1898年  1月





 今年は寒波到来でセントラルにあるミスティー・パークの大きな人工湖が凍った。

 でもって世の物好き達がスケート大会を開くと言う。

 真冬の寒波の中、ロンドなど温暖と思えるポーラン地域では当然戦争も小休止。

 そんな中で暗い空気を吹き飛ばそうとハイテンションなロンド商人たちは考え出したのだ。

 此の事をジャックに手紙で伝えると「自殺志願者が多いな」と一言だけ返って来た。

 ホントにな。

 つか、霧で見えんだろう。

 まあそれでも有料登録参加者が多かったので、本格的にスケート大会の開催が決定した。

 俺は完全に他人事でセインと今年10歳に成るオリビアの話をしていた。

 母が無くても子は育つ。

 って言うか、ストレスで煩く怒鳴っていた母が出て行き、何だか伸び伸びとしてマーサの所の子と仲良く遊んでいるそうだ。

 分んないけどね。

 本当は母が居なくてオリビアは寂しいのかも知れない。

 優しい子みたいだから、セインを気遣って元気に見せているだけかも知れない。

 でもまっ、俺はクリスマスに会う位だけど、セインに似た飴色の瞳を輝かせて、美味しそうにクロエの作ったクリスマスのディナーを頬張り、プレゼントを開ける時のワクワクとした嬉しそうな表情を見ていると、オリビアとセインとの暮らしは大丈夫だと思うよ。


 暖炉で暖められた部屋でセインとまったりして居ると、今は主任警部に成ったレイド警部がコナン警部補と共に現れ、「スケート大会の審査員として参加して欲しい。」等と宣う。

 「ヤダー」と可愛く俺は断ったけど、どうしても後、1人足りないのだと泣き附かれてしまった。

 4人では具合が悪いと言うのだ。

 日頃の情報提供でも頻繁に世話に成ってるコナン警部補にも頼まれて、最終的には了承した。

 なんかさー、セインの素直の瞳でじーっと見られていると邪険な対応が取れなく成ってるんだよな。




 つう―訳で、無茶苦茶寒い中クロードとミスティパークのノースレイクに来てる。

 セインはオリビア達と観客場に居る筈。

 席とか無いので当然立ち見である。

 霧の中でもギリギリ観客たちが居る位置は俺にも見えた。

 顔とかは無理だけども。

 俺は防寒に優れている白っぽいアザラシの毛皮を着て、手袋、ブーツも確りとアザラシのお世話に成っている。

 見栄えとか言ってられないのでルドア製の耳も保護する白いテンの毛皮の帽子を被っている。

 グレタリアンと戦争をしている国の製品を被るのは如何なのか?

 大きなお世話だって言ってやるさ。

 って言うかパト事、パトリックも居るし。

 嬉しそうに黒ヒョウの毛皮とか着て来てるんじゃねーよ。

 それはエル公爵つか、アルフレッドが羽織ってたから恰好良かったんだぞ、パトよ。

 でもって、ロバート・カスタットに陛下の愛人キース・ブラン、げーっグライス警部もかよ。

 ロバート・カスタット以外は毛皮コートのファッションショーみたいだ。

 ロバート・カスタットも着てるよ、ビーバーっぽい毛皮のコートを。

 でもなー、ビジュアル的にオッサンオッサンしているんだよなー。

 つかグライス警部は、何でそんな高そうで派手な毛皮のコート着てるんすかね。

 俺って著名な貴族枠らしく審査員席の一番右側へと着席させられ、貴族庶民議員枠のパト、下院議員枠のロバートカスタット、皇帝関係者枠のキース・ブラン、ヤード枠のグライス警部と言うキワモノ審査員席の風景だったり。

 皇帝関係者って、そのまんまじゃねーか。

 誰よ、此の主催者、いつか不敬罪で捕まるぞ。

 オペラグラスと言う名の双眼鏡を調節して何とか滑っている選手が見える。

 スピードスケートなので審査って言っても気楽だった。

 流石に霧の中で踊らせると言う無謀な真似はしなかったみたいだ。

 

 「相変わらずジェリーは不機嫌そうな顔をしてるな。」

 「ウルセーよ!パト。寒いんだよ。くそー、サマンサの言う通り懐炉を持ってくれば良かった。」

 「俺は暖かいよ。レナードが此れが一番良く似合うと言ってくれたんだ。」

 「へぇー(棒)、で、パトはレナードを口説けたのかよ。」

 「チッチッ、そんな下品な言葉は止めてくれ。天使のようなレナードには崇高な愛の言葉しか似合わない。彼が俺を見詰めて話し掛けて呉れるだけで、俺の鼓動は何億回も脈打つのだよ。」

 「うん、大変だなー、パトは早死にするな。でっ、最近は何を目指しているんだよ。」

 「ジェリーの言っている意味が分らないが?」

 「いやー貧困家庭の子供にも教育の機会を与えたいって感じの法案を出してたじゃん。レナード・ホームには関係ないだろ?だから気に成ってただけ。」

 「いや、レナードが言うんだよ。浮浪児にはレナード・ホームで学べる。でも貧困家庭の子は何処で学べばいいのかと。レナードのそんな憂いを取りその広く深い心根を鎮めて、、、。」

 「はいはい、パト分った、もう良いよ。」


 はあ、レナードにとってパトはチョロイだろーな。

 レナードどうぞ此の侭パトを浄化し続けて遣ってくれ。

 それがパトをゲッチュしたレナードの使命だ。

 俺が内心でレナードに使命を与えていると、如何やらスケート競技は終了したようだ。

 

 さて、審査員のお仕事を頑張るかな。

 って、此れだけ何だから、俺は終了間際に来場して、俺が渡す優勝カップと副賞の賞金目録だけ参加者にあげれば万事オッケーだよね。

 最初から最後まで俺が糞寒いノースレイクの会場に居る必要無いよね?

 マジで何の修行だよと俺はブツブツ内心でブー垂れて、俺からの表彰とプレゼントを待つ優勝者の傍へ行く為に、大雑把に作られた表彰台と無意味な風除けの合板と合金プレートの中を進み5段の階段を上がる。

 3段目に右足を掛けた時に、ゾワリと首筋が総毛立つ殺気が俺に突き刺さった。

 視線を巡らせるが当然判る訳も無く、立ち止まった俺を不思議そうに見る優勝者と目が合ったので、取り敢えず笑顔を見せて誤魔化した。


 「、、、、健闘感動しました。また素晴らしい滑り、、、、っ。」


 優勝者へ俺が言葉を掛けていると俺を目指して北西からの空気が凍った。

 此の殺意はヤバイと思った瞬間、俺は身体を伏せた。

 その途端、合板を重ねた合金プレートに銃弾が撃ちこまれた。


 表彰台周辺を警備していたヤード達が「狙撃だっ!」と叫び、会場は騒然となった。

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