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エイム迷走ス  作者: くろ
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ストップ・モーション

 アリロスト歴1897年  8月



  紳士服がジャケットとトラウザーで、社交が出来る様に成ったのは有り難いが、夏の盛りの8月に糊の利いた襟を立てアスコットタイを結ぶのは、遠慮したいなと贅沢者に成った俺はボヤく。

 はっはっ、いやっあの飾り立てた盛り盛りの頃に比べれば極楽だけどさ。

 シャレオツなカリスマ4人組のお陰でグレタリアンの紳士達はスマートに成った。

 カリスマ4人組とはスチュアート4世、そしてノルセー伯爵とパトリック男爵と近衛のキース・ブラン達である。

 エイム卿に代わってパトリックが、気さくにスチュアート4世へ議会や政策の事を教えているので、俺とエイム卿は手間が省けて大変ラッキーである。

 パトリックも良い仕事をしてるなー。

 そう長閑に考えているのは、政治力学を気にしない俺みたいなボンヤリ人間か、緑藍以外は人に非ずの無関心エイム卿位だったらしく、保守のホリー党や一部フーリー党からも、パトリックを危険視する議員が出て来た。

 いやー、今のパトリックは陛下を食う危険は無いっすよ。

 未だにレナード一筋だから。

 て、言って上げたい。

 はいはい、そう言う意味で危険視してる訳じゃ無いんだよね。

 分ってるよ。

 陛下が自由主義に取り込まれ無いかが心配なんだろ?

 一応、大臣を罷免したり首相や閣僚決めた時の任命権は建前上は陛下にあるもんな。

 気に入らないからと言ってホイホイ罷免されたら政権運営に支障が出るって話だろ?

 大丈夫でしょう。

 だって上院の牙城の枢密院が付いているんだから。

 そう思いながら、俺は賑やかなロンドの社交場を、エイム卿と共に泳いでいる。


 今訪れているのはモーランド公爵のタウンハウス。

 えーと5日前にエイム卿からあのエロいテノールヴォイスでモーランド公爵家のロングロングなお話を聞かせて貰ったのだが、要は昔滅ぼされた王国の臣下だったお家、、、だったよね?

 だけどグレタリアンを治めていた王家内で兄弟喧嘩が起こり、兄が一時追い出されたけどその兄を助けて弟退治に協力して、復権した兄から公爵の地位を賜ったと言うお話。


 「へー、、、(棒)」


 再就職先で出世おめでとう。

 攻め滅ぼされた王家の下りは不要じゃん。

 そう内心で俺は思ったが、エイム卿のお家は、戦っても滅ぼされなかった由緒正しい血筋って事が、如何やら俺に告げたかったエイム卿の真意らしい。

 つう訳で、俺が気にする必要の無い公爵家なんだそうだ。

 俺は、(たま)ぁーにエイム卿の後頭部を、ハリセンで殴りたくなる。

 気にする気にしない以前に、爵位なしのパンピーな俺は初対面の人間には頭を垂れる主義なのっ!

 エイム卿とは違うんですってば。


 でもって息子が亡くなっているので直系の親族はグレタリアンに居ないらしく、現当主が亡くなればモーランド家が潰えると言う。

 そう言うこの世の儚さを、俺はエイム卿に教えられて訪れたモーランド邸。

 なんで此処へ訪れたかと言うと、集まる人間はじじいが多い、いや保守貴族が多いのでその中の、とある侯爵へ枢密院議員に成って欲しいとエイム卿が打診する為である。

 エイム卿に、こんな似合わない事をお願いをしたのは、ぬらりひょん事、あのデニドーア公爵だったりする。

 枢密議員の1人が体調を崩してロンドを去ったのだ。

 

 まあ比較的に立場が近い人も多いので、流石に何時もよりは社交的なエイム卿と並んで、質の良いパーティー会場を歩く。

 珍しく夫婦同伴では無いパーティーなので、女性に配慮しなくて良いのが、俺にも気楽だ。

 何処まで本気か判らないグレタリアン・ジョークにドギマギし乍ら、ホストの居るらしい方を見れば、「アレっ?」あの上品なジジイはウェットリバーの十字路パブに居た人に似てる。

 一瞬、俺にストップ・モーションが掛る。

 真っ白な髪を短く8対2で整え、今は眼鏡を掛けていないがクッキリとした二重の奥には知的な碧の瞳が覗き、深く走った多くの皴すら品の或るちょい悪ジジイの空気が漂っている。

 うん。

 間違いない。


 「全ての事象は関係性において予測出来る」


 つって何時も俺に話している『星のジジイさま』だ。

 俺の視線に気付いて、視界に俺を捉え一瞬だけ驚いた表情をしたが、直ぐに表情を消し、にこやかな笑顔を浮かべて、エイム卿に挨拶をして来た。

 エイム卿も高位貴族の多い此処では空気を読み「私のジャック」と、言う紹介でなく「私の秘書官ジャック」と、今夜は紹介していた。

 エイム卿とモーランド公爵は軽い挨拶を交わした後、エイム卿は俺を連れて目当ての、とある侯爵を見付けて、勢いよく歩いて行った。

 モーランド公爵は、俺になんのリアクションも示さなかったので、俺もそれに合わせて、礼をするだけに留めた。

 うへぇーん。

 引退した只の大学教授って話だったのに。

 いや、ラフにツイードのジャケットを着て、オッサンやジジイ達と狩りの話に興じてるから、てっきり楽隠居ジジイの仲間かと思ってた。

 品の或るイケジジイだと思ってたが正か公爵サマだとは、、、。

 モーランド公爵も俺をハーブ好きの変わったパンピーと思っていたろうから吃驚だろう。

 まあ本来ならモーランド公爵のテリトリーへ俺が行く事なんて無かったのだけどな。

 俺がこんな気不味い想いをするのも、妖怪ぬらりひょんデニドーア公爵の所為である。

 全くもう。






 お節介なグレタリアン軍が、ルドア帝国からどつかれてるポーラン王国を、助けているオーリア帝国軍にヘルプをして、ルドア帝国と戦闘している最中、俺は南セントラルにある男爵邸で、麗しのエイム卿と愛を語り合っていた。

 嘘です。

 そんなの語る暇が在ったらモーランド公爵著『消える星々』でも読む。

 星と時間と距離のお話だったりする。

 眠れない夜にお薦め。


 もう今回は前もってエイム卿は軍務卿へ告げていた。

 プロセン連合王国がルドア帝国に協力を始めたら、一時撤退をして戦略を練り直すようにと。

 でもなー、大元帥がなー。

 ご老体でもう直ぐ80歳に成ると言うのに戦場へ出向いちゃう。

 1839年から戦場に出てモスニア帝国の英雄レオンハルトとも戦って居て、南カメリア、イラド等々有名な戦闘には関り勝っているので、鉄血公爵と今は呼ばれている。

 元は子爵家の2男だったのが戦争で名を上げ、前皇帝から公爵位を賜った。

 実は軍務卿より立場が上で、軍改革の最大の抵抗勢力だったりしている。

 まー戦争で軍人以外の外野がやーやー言ってくるのが鉄血公爵には、我慢ならないみたいだけども。

 

 状況を鑑みて皇帝は今回も参加させないので、鉄血公爵が最高司令官に成っちゃうよね。

 その為、流石に戦闘へ参加出来るような立場でも無いのが救いかな。

 俺とか名誉職を貰ったらとっとと引退して茶でも啜ってるけど、まっ人それぞれかー。

 選挙法改正についても強硬に反対している。

 『昔は英雄だった。』

 つって新聞で、現在は汚職政治家みたいな書き方をされているけど、俺は面倒なジジイだと思う反面、発言がストレートで好感を持って居る。

 それに俺は、知性の無い者を多く政治に関わらせる危険性への警鐘は「全く持って其の通り」と内心で鉄血公爵に頷いているし。


 そしてエイム卿は「プロセンが参戦するとグレタリアン軍人が新兵器で多数死傷する」って報告を終えると、俺に出来上がった新しい緑藍の絵画を見せて、緑藍への愛を語っている。

 美味そうな葡萄を抓む緑藍。

 俺もその瑞々しそうな葡萄を喰いたい。


 でもって此の男爵邸には開かずの間が存在する。

 いや、俺が開けずの間だ。

 その部屋には魂が抜けた緑藍が2体も居る。

 希代の蝋人形師に造らせたエイム卿のリフレッシュ・ルームだ。

 一度、エイム卿に連れて来られて俺は室内に居た2体の緑藍を見て悲鳴を上げて遁走した。

 それ以降は『開けずの間』として、俺は封印措置をしている。

 なんでもグレタリアンの幼い少女たちは、蝋人形で人形遊びをしているらしい。

 想像するだけで、怖いっす。

 お嬢さまの遊び、、、やっぱりサイコホラーの絵面しか思い浮かばない。

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