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エイム迷走ス  作者: くろ
72/111

友の力


  アリロスト歴1896年  10月



『ヨーアン諸国会議にて』


~~~~~プロセン連合王国とオーリア帝国立ち合いの元、ルドア帝国はトルゴン帝国から撤退し、占領していたタビア公国、ラキア公国もトルゴン帝国へと戻された後、独立を果たした。

 その後、グレタリアンを中心にダムア河流域の通行権や、アルタ海の非武装中立地帯をトルゴン帝国へと求め、協力した見返りとしてその権利を獲得した。

 また、今回この戦争に協力したサリーニャ王国の発議した、南北グロリア国の統一も了承された。


(=締結国=、、、グレタリアン帝国、モスニア帝国、プロセン連合王国、オーリア帝国、トルゴン帝国、サリーニャ王国、ルドア帝国)~~~~~









     ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  アリロスト歴1897年 1月




 ウィルが応援していたロバート・カスタットが無事に当選し、手伝いやら後援やらで多忙だったが、やっと落ち着いたらしく、久し振りにウェットリバーにある俺の離れに訪れた。

 まあ、カスタット氏が1人で活動と言うのも無理が在るので、議員としての活躍を見せていた、あのパトリックとの顔合わせ等も済ませたそうだ。

 緑藍の話を聞いたり、俺が実際に会って話して見たパトリックの感想は、「地雷」だ。

 今は片思いのレナードに夢中で、新たな事件を呼ぶ可能性が低い。

 緑藍も俺も、ずっとレナードにパトリックが片思いで居て呉れる事を願っている。

 まっ、パトリックはフレンドリーな性格なので、話し安くは或る、内容はどうあれ。

 元はパトリックと同じフーリー党の議員なので、カスタット氏の考えに近い人を、誘う事も可能かも知れない。

 何をするにせよ、数は力だ。

 55歳になるオッサンらしいが、バイタリティーに溢れ、パワフルにロンドで動いている、とウィルが楽しそうに話した。


 以前より伸びた金色の髪を、器用にサイドと後ろに流して整え、知的に光る深緑の瞳を俺に向けて、綺麗な笑顔でカスタット氏の近況を伝えた。

 40歳を過ぎたと言うのにウィルの相変わらずの美男(イケメン)ぶりに俺は溜息を零した。


 「今回はクルミラ半島の戦争で、フーリー党は市民の支持を失い、ホリー党が巻き返しましたね。」

 「まー戦争自体は勝ったと言え無いからな。其処でカスタット氏が勝てたのだから、ウィルの頑張りが効いたのだろう。」

 「ううん、違うよジャック。新聞が伝えた戦争の顛末の酷さで、フーリー党で無ければ今回は当選したと思うよ。今回ロバートが立候補を変えた選挙区は、自由主義の考えが強い場所だから、受け入れられたのさ。元がフーリー党の支持基盤だったから、ロバートも馴染み易かった。」

 「まっ、兎も角もウィルもお疲れ。」

 「ふふ、有難うジャック。」


 ウィルはブランデーをストレートで俺は警戒しながら極薄の水割りに口を付けた。

 ホリー党が270議席でフーリー党が230議席。

 保守のホリー党が巻き返し、安定した政権に成るだろう。

 カスタット氏が望む選挙法改正を成し得るには難しい。


 「ホリー党のデバーレィ党首は選挙法改正について如何?ジャックは何か聞いてる?」

 「うーん、数年前まで改正に前向きだと聞いてたけど、今は何も言わないね。ウィルは、有権者の拡大かな?」

 「うん。せめて中産階級迄は広げるべきだよ。税金も支払っているのに何の権利も与えないのは可笑しいだろ?後は秘密選挙だね。」

 「それはそうだね。地元の有力者を目の前にして、違う候補者の名前は言えないよな。邪魔も入るだろうし。」

 「妨害されるなんて当り前だよ、ジャック。」



 それから俺とウィルは保守派の新党首デバーレィについて酒を飲みながら語り合った。

 現在40代のデバーレィは若い頃から政治家を目指し立候補した。

 無所属で2回落選し3回目はホリー党に入り立候補し議員に成った。

 前回の穀物関税自由化法案で、反対の立場でホリー党は大敗し、分裂してしまったが、今回ホリー党と言うかフーリー党以外が、勝ち妥協出来た議員はホリー党へと戻った。

 大蔵大臣を務め、愛国主義的な発言や、強気な態度で著名な求心力のあるデバーレィ議員が、党首に成った形だ。

 あまりスチュアート4世は、デバーレィを好んでいないようだが、当然エイム卿はそのフォローをする筈も無く、数的に安定しているのに大丈夫か?と、一抹の不安を覚える政権だったりする。

 祖父がグロリアからの移民で、本人も山師的なデバーレィに陛下が懐疑的なのだ。

 上流社会出身で無い所為かもな。

 でも山師的と言うなら陛下の周囲に居るパトリックやノルセー伯爵、キース・ブランの方が、、、。




 そう言う訳で少し癖の或る保守系ホリー党のデバーレィ党首。

 俺は会った事が無いので補佐官ヒューイの話や新聞での記事しか知らない。

 まあ、クルミラ半島戦争の初期からの対応や外交の拙さを批判して、フーリー党の評判を下げた人、ってイメージが強いっすね。

 ウィルがエイム卿と一緒に居ると色々と情報が入るでしょ?って良い笑顔で聴いて来る。

 まっ、入っては来るけど、フリーパス案件は他言無用っすから、可愛い曾孫ウィルにも教えて遣れない。

 それに基本的にエイム卿はロンドの、しかもブレード地区の平和と安定にしか興味が無く、大戦略みたいな世界地図があるのに、結局は緑藍が動く半径10kmだけに命を燃やしている。 

 いえ、各閣僚からの情報収集のフリーパスな仕事は遣ってるけどな。

 でもって午後からはエイム卿は緑藍ウォッチに出掛け、俺が代わりに補佐官ヒューイやエイム卿の配下達と、情報振り分けを代打でしているつう感じ。

 陛下への報告なんて部下が纏めた物を読むだけのお仕事。


 なんか俺が想った秘書官のイメージと違う。


 俺が秘書官に成ったお陰で、エイム卿の機嫌が良くなり、仕事の量が減ったと、エイム卿の配下達には感謝されている。

 それってエイム卿がまったり緑藍を長時間干渉出来て喜んでいるだけだよな。

 俺はデバーレィ党首の事を考えていたら、この所のホワイトな職場を想い出して来た。




「そう言えば昨年休戦協定を結んだプロセン連合王国とデサーク王国がまたキナ臭いらしいですね。」

「つうか、ウィルは何で、そんな情報を知ってるんだよ。」

「まあ僕も、ジャックの同僚だからね。僕は主にプロセン方面だけどね。」

「はあー、俺の知らない間にウィルまで。待ったくエイム卿は何を考えてるんだか。」

「まっ、今は準備段階だから、その内、ジャックもエイム公爵から話しが在ると思いますよ。」

「俺は聞きたくない。」


 曾孫ウィルは楽しそうに笑って自分のグラスへブランデーを静かに注いだ。

 暖炉の薪がガサと動き、炎が揺らいで大きくなった。

 その揺らいだ炎にエイム卿と緑藍の良く似た瞳が映り、良く似た兄弟に俺は翻弄されている。

 『フザけやがってっ!』

 そう俺は思うのにエイム兄弟へは、サッパリ腹が立たない。

 俺って精神的ドMなのかな。

 100歩譲って緑藍はま、まあ、マジで長い付き合いだし、神か?悪魔か?からの呪い仲間でも、あるから理解は出来るが、悪魔エイム卿は俺を12年間圧迫面接で虐げて来た奴なんだぞ。

 俺は少し混乱した頭で、麗しいエイム卿を思い浮かべ、そして曾孫ウィルが差し出してくれた、細巻の葉巻を受け取る。

 

 俺は溜息と共に煙を吐き出し、疲れ過ぎた頭を休める為に、ウィルへお休みの挨拶をして、重い躰を引き摺り寝室へと向かった。




 

 

 



   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  アリロスト歴1897年 1月




 俺は硝子窓の外に広がる視界を遮る不透明な白く濁った濃い霧を眺めていた。

 ジャックが冬のロンドを離れるのも此の濃霧では仕方ないな。

 俺の後ろではセインが先日の小説の続きを綴る為、ペンを紙に走らせる音がした。

 来るのは明日あたりか。

 俺は内心でそう呟いて、窓の外に見える淀んだ深く濃い霧を見詰めた。

 そんな静かな時間を終わらせるようにスルリとクロードが動き、ジェローム探偵事務所の黒い扉を華麗に開き、青い顔をしたパーシーが急ぎ足で俺の近くまで歩いて来た。

 冬の風を遮るようなブラウンの長いオーバーコートを着込み、気忙し気に話し始めた。


 「ジェローム助けてくれ。」

 「如何したんだい?パーシー。こんな昼間から休暇にはまだ早いだろう。」

 「フザけている心の余裕は無いんだ。僕は全てを失うかも知れない。シェリーも子供達も。」

 「まあ、落ち着け、暖炉の前に其処にある椅子へ座り、一口気付けにブランデーでも飲め。」


 俺は興奮しているパーシーを落ち着ける為に、赤々と焚かれた暖炉の前に置いた安楽椅子へと案内し、クロードへブランデーを持って来させた。

 椅子に座ったパーシを確認し、俺は隅に置いてある椅子を動かし、パーシーの右側に置いた椅子へと座った。

 そしてクロードが持って来たブランデーをパーシーに渡し、彼の呼吸が整うのを待った。


 今彼は、准将として主に軍本部に勤務し准将で次官補代理を務めている。

 俺には軍人の階級は分らないけど、パーシーは出世しているとセインが教えて呉れた。

 子供も2人目が生れたと言うし、正に順風満帆だったと言うのに一体全体どうしたのだろう。

 ダブルの量のブランデーを一口飲み、パーシーは話し始めた。


 

 昨日、上官に呼ばれ書類の入った封筒を渡された。

 上官に呼ばれて内容を確認するとそれはアシェッタ王国軍とグレタリアン帝国軍とで交わされた共同作戦についての内容だった。

 書類の内容は機密情報なのでこれ以上の俺にも話せないとパーシーは謝罪した。

 そして上官から、アシェッタ語の出来るパーシーに、此の書類をアシェット語に翻訳し、3日後に原文と翻訳したモノを、持参するように命じられた。

 くれぐれも他人に見られない様にし、書類は本部から持ち出し禁止だと伝えられた。

 97枚あるその計画書は、文章量が多かったので、早速自分に与えられた部屋で、作業を始めた。

 そして18時を過ぎ、金庫に仕舞い鍵を掛けて、その日は帰宅した。

 何時もの様に今日も朝8時半過ぎ、軍本部へ行き、朝9時過ぎに部屋へと戻り、昨日の翻訳の続きをしようと金庫へ向かい鍵を開けた。


 しかし、其処には在る筈の原本が無く成っていた。


 あれが流出したら我が国にも足った王国にも大きな損失を与えることに成る。

 事の重大さにパーシーは恐れ慄いた。

 依頼して来た上官に報告しようにも、今日はトラットランドで行われる、打ち合わせで留守である。

 ウロウロと悩みながらパーシーは念の為に部屋の中を捜した。

 机、書棚、キャビネット等を捜し、果ては屑籠迄も覗いて見た。

 城羽陽機密の紛失と言う重大な過失へどの様な罰が与えられるのか。

 そんな事を考え愛するシェリーの顔を思い浮かべている内に、俺の存在をパーシーは思い出した。

 美しく大切な友の顔を思い浮かべた時、パーシーは濃い霧が晴れるような感覚に包まれた。

 あの時も。

 あしてイラドでも。

 自分の友の力の凄さを改めて思い出した。

 

 それに気付き慌てて、パーシーはジェローム探偵事務所の黒い扉の前へと訪れたのだ。


 まあ、パーシーにそう堂々と褒められると俺も照れる。



 「まあ、パーシーが頼ってくれた友の力が期待外れじゃ無いと私も嬉しいよ。」


 そう言って俺はパーシーへ彼が探しているだろう原本を差し出した。

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