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エイム迷走ス  作者: くろ
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ホワイトな職場



  アリロスト歴1896年  6月




 グランドツアー後、エイム卿は穀物関税自由化を口にしなくなった。

 関税を自由にしても飢えている人へは穀物が流れて行かないとプロセンや旧ランダ王国、バンエル王国、ハンリー王国を巡って実感したようだ。

 プロセン連合王国に反抗的なランダの人々へは制裁措置的な経済政策がとられ、それがエイム卿達が遣ろうとしていた自由経済政策と似ていたからだ。

 貧しい人はより一層困窮していく、つう、為すが儘な自由経済。

 プロセン連合王国も別にランダ王国の領土が欲しかった訳では無いし。

 各地に持って居た植民地の権益と海軍力が欲しかっただけっすもんね。

 俺ってグレタリアン帝国は、庶民に制裁を与えるのがスタンダードなのかと思っていた。

 ドSなエイム卿は、敢えて庶民に制裁を加えたいとは思わないタイプだった、と知れて俺は少しホッとした。



 つう訳で以前よりエイム卿と社交の場に出なくて良くなり俺的には楽に成った。

 そして緑藍の婚約回避する為の捨て身の攻撃はエイム卿にダイレクトヒットし、『当家の婚姻話に関与すれば私は国を出る』と、エイム家と同等の公爵家と枢密院へ脅しを掛け黙らせた。

 エイム卿は喧嘩を売ると面倒なので、皇帝家を含め公爵3家を放置していた己を叱咤したそうな。

 その3家以外の公爵家は力的に問題無いので、俺へ気にする必要はない、とエイム公爵は告げた。

 気にするも何も、俺は関わらいよ。

 でもって、何もない俺が、何で公爵家を気にするんだ?

 緑藍が傷付き、エイム卿のハートへダイレクトにクリーンヒット。

 『もう何も怖くない』状態に成った。


 こうしてエイム卿は魔王への階段を登り始めた。



 んー。

 悪魔と魔王ってどっちが強いんかな?

 まー、エイム卿が魔王に進化しようが、しまいが、俺の役割は変わりそうに無いので、何事もなく通常業務で平穏。

 緑藍はエイム卿の変化を気にしていたが、「愛する緑藍の為」が全てなので、至って通常なんだよね。


 でもって激務過ぎて婚姻が出来なかった補佐官ヒューイは、5年待たせていた婚約者と一昨年の秋に婚姻し、俺が3月に成ってロンドにある南セントラルの男爵邸に顔を出したら、エイム卿の配下達が次々と婚姻して行った。

 5年も待ってくれるフィアンセが居たんだ、ふーん。

 グレタリアンは戦時中なのに、1894年補佐官ヒューイを始めとして、1895年は婚姻ラッシュで、非常におめでたい職場の男爵邸だった。

 俺が居るとエイム卿へ報告し易いそうで婚姻報告が暫く続いた。

 エイム卿は腹ン中が黒いんだから、せめてホワイトな職場環境を目指して欲しい。

 社長は魔王だが、当社は明るくホワイトな職場だ、常時配下を募集中。





 さて、クルミラ半島での戦闘は1年少しで総勢約4万近くが参戦し、グレタリアン兵約8000人近くが亡くなった。

 ヨーアン大陸でこれ程の被害が出たのは、ルドア帝国の武器も近代化していたのが大きい。

 イラド帝国で有利に戦えていたグレタリアン帝国でのショックは大きいモノだった。

 ルドア軍側の要塞が陥落した直後にトルゴン軍側の要塞も陥落し、ルドア軍側に降伏した。

 また中立だったオーリア帝国が国境まで軍を動かしルドア帝国を牽制した事で、負けを感じたルドア帝国はクルミラ半島から撤退した。

 グレタリアン側は戦闘を継続したかったが、厭戦気分に支配された議会が停戦を決め、損害は大きかったが勝者がはっきりしない戦争に成った。

 モスニアの損耗率が其処まで高くなかったらしいので俺は指揮官の差かなと考えた。


 此の一月でバタバタとグレタリアン軍が、戦闘を終結させたのも、選挙があるからなーっと、大人の事情を想う。

 少し曇った6月の空の下、ゆっくりと庭を歩き、俺は風に揺れて艶やかに咲き誇る、夏の色々な花々を見ながら、風に乗った優しい香りを嗅ぐ。


 そして、ふと、喪服の人々が街を行き交う姿を幻視して、俺は憂鬱になった。







     ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  アリロスト歴1896年  8月


 

 1階の談話室へセインと一緒に入ると、クロエとルスランが仲良く向かい合って、冷やした麦茶を飲んでいた。

 何というかルスランが、クロエを押して押し捲くり、滔々クロエが折れて、付き合うようになった。

 クロエもイケメンが好きだから、あそこまで必死に口説かれると惚れるしか無いよな。

 つう訳で今は寝泊まりをルスランの部屋でしている。

 もしかしてイチャラブなのかも知れないけども、俺の目には親子が戯れている様にしか映らない。

 ジャックと2人で「クロエの何処を女として好きになったかルスランに聴く会」を結成した。

 クロエが怖くて俺もジャックも未だに達成出来て無いけど。

 だってルスランに問うたら100%クロエの耳に入れるじゃん。

 

 「美食を極めると珍味へ到達するのかな?」


 そう言う失礼な事を言ってたジャックを想い出して、内心で笑いを堪える。

 内心ですら笑いを堪える此の俺の健気さよ。



 「絶対ジェロームは碌な事を考えてないでしょ?」

 「いやちょっとジャックを想い出しただけだよ。サマンサ達は此れから何をするの?」

 「私はマーサの様子を見に行って、その後はルスランと一緒に劇場へ行くわ。だから夕食はロビンとサニーに任せたの。1人で寂しかったらジェロームはセインとでも食べなさいよ。」

 「あのねー、私はこう見えて29歳なんだ。寂しがるわけ無いだろ?まあ、気を付けて。」

 「ええ、有難う。そうそう知ってる?ロバート・カスタット氏が当選して議員に成ったわ。」

 「あー、新聞に書いてあった。何?サマンサは応援して居たの?」

 「まあね。幾ら何でも今の選挙制度は酷いから。ジャックも面白いって言っていたわ。」

 「ふふっ、ジャックは面白がってるだけだろ。カスタット氏は選挙区を変えたみたいだな。あんまり地方の事情は分からないけど、まあ何が出来るか議員に成ってみないと判らないよな。議員は無報酬だし、ゲッ、、、先輩議員としてパトの事を尊敬してるって書いてる。マジかー。」


 「ほらっ、ジェロームが怪我した依頼や、それ迄レナード・ホームでした慈善活動とかも特集されてたでしょう?素のパトリック男爵を知らないと凄い人だと思っちゃうのじゃない?」

 「パトの脳内はレナードを落としたい、それだけなのに。」

 「でもソレで此処まで動けるのも凄いと思うわ。ジェロームには無理でしょ。ふふっ、それにパトリック男爵はスチュアート4世の相談役迄されてるのよ。今では昔の噂は忘れられてるわ。」

 「ああー、シャレ友ってジャックが言ってた。」

 「え?何よソレ。」

 「お洒落友達だってさ。パト、ノルセー伯爵、グレタリアンの伊達男キース・ブランつう今を時めくカリスマ達だよ。タイの結び方やチーフの扱い方を研究しているらしい。」

 「、、、えと、さて不敬な事を言う前にマーサの所でも行ってくるわ。ルスランは如何する?」

 「勿論サマンサと一緒に行くよ。」



 鬘を止めて茶色く髪を染めたルスランは、銀縁の伊達眼鏡を掛けて、前を姿勢よく歩く、クロエの後ろを慌てて付いて行った。

 俺とセインは少し温くなった麦茶を口に含んだ。


「相変わらず、ジェロームとサマンサの会話は、テンポ良いよね。僕が感想を言う前に、次の話題に移っているから、、。」

「そう?付き合いが長いから互いに気安いからね。」

「サマンサがルスランと付き合い出して、ジェロームは寂しくない?余り話せなく成ったみたいだし。」

「俺が?つうか私が?有り得ないよ。それにセインも居るし、イザと成ったらジャックもいる。でもって何だかんだと忙しい。寂しがってる暇はないよ、セイン。」

「うん、僕はずっとジェロームの傍に居るよ。」

「それは心強いな。でも近頃は連載の方も忙しいのだろ?グレッグ貸本屋の出版社から探偵事務所に、何やらメッセージが届けられてるし。睡眠不足なら何時でも寝椅子で寝て良いからね。」

「ふふっ、有難うジェローム。忙しいと言う訳では無いんだ。実はヒロインを出してくれって、言われてね。今回で4作品目に成るから、そろそろ女性も欲しいらしいんだけど、思い付く女性ってシェリーしか居なくって。」

「シェリーか、今のシェリーならヒロインとしてイケるんじゃない?昔はガキって感じだったけど。」

「でも僕は昔の元気いっぱいのイメージしか書けなくて、グレッグ出版社からはもう少し淑女らしい女性を書いて欲しいと言われて、それで悩んで睡眠不足なんだよ。」

「うーん、私もそれは、手伝えないよ。見るからに淑女ってタイプ、私は苦手だから。当分は探偵と助手で良いと思うよ。恋愛が読みたい人はセインの本を手に取らないだろうし。」

「ふふっ、それもそうだね。」



 そう笑ってセインは目尻の横皴を増やした。

 まっ、俺はセインが書いている小説は読んでないけどね。

 ジャックと違ってセインが詳細な遺体の様子を表現しているからではない。

 もう終わった事件は俺の脳内でリセットされているから強いて読んで追体験をしようと思わないだけ。

 未解決の事件がまだあるからね。

 ジュリアの矢文事件の御者。

 そしてグリーンオブグリーンの宝冠事件の知人サイモンとヘクター大佐、そしてラビットクラブのノリス、後は目立たない男。




 そして昨年開かれた裁判では、トルゴン帝国の皇弟から預かっていたグリーンオブグリーンの宝冠をフォスター・ホールフォック邸から盗んだ罪でリチャードが起訴された。

 グライス警部が根性で捻じ込んだスージー殺害も審議された。

 スージー殺害についてリチャードは一貫して否認した。

 殺害については証拠不十分と言う事で起訴されず、窃盗については悪質だと言う事で、15年間の炭鉱労働込みの懲役だった。


 そして、怪盗バート。

 俺のセインにちょっかいを出したムカつく奴。


 少し黙り込み、自分自身の考えにのめり込んでた俺に、セインが厨房で冷たい麦茶を貰って来て呉れた。

 セインは大きな飴色の瞳を細めて俺に微笑んだ。

 俺はセインから受け取ったガラスコップに口を付けて、熱く成っていた頭と身体を、香ばしく冷たい麦茶を流し込み冷やして行った。

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