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エイム迷走ス  作者: くろ
67/111

抜き打ちテスト


  アリロスト歴1894年  2月



  昼尚暗い霧の中、其処へ浮かび上がるドラキュラ城。

 そう威風堂々としたエイム公爵家のタウンハウスである。


 ビビってるクーパー少佐をスルーして兄の待つ客間へと俺はセインと共に歩いて行く。

 見慣れたホール・ポーターが重厚な木製の扉を開き、俺とセインそして女王様『キツネザル』を右腕で抱えたクーパーが相変わらず整った美しさを持つ兄に招き入れられた。

 大きな暖炉には赤々と炎が燃え揺らいでいた。


 兄の案内した席には既にレイド警部とコナン警部補が緊張した面持ちで並び座っていた。

 当然の様に兄は主人が座る席へ行きゆっくりと腰を下ろした。

 そしてゲストの女王様とクーパー。

 俺は問答無用で兄と一番近い席に座り、俺のすぐ後ろにセインが控える。


 俺は、皆にクーパーを紹介した後に、先ず今回起きた事件の模様を現場に居たクーパーから語って貰った。




【クーパー少佐の報告】


 アンリの背を見守る内に不安感を覚えたクーパー少佐は、勝手に身体が動きアンリの乗る馬車を追いかけて行った。

 低い樹々の垣根を抜け、芝生の上を歩いて居ると一つの部屋の明かりが漏れて来た。

 そしてアンリらしき女性が窓を開き凍える冷気を浴び、軈てカーテンを閉め室内へと消えた。

 クーパーは、せめてアンリが眠りに付くまで側に居ようと直立不動の侭、窓の外で七年ぶりに再会が出来たアンリを想った。

 

 やがて、アンリとリートン伯爵は諍いを始め、滔々激昂し感情的になったアンリは自分が告げた真実を問い詰め始めリートン伯爵もその事に動揺してアンリに掴み掛った。

 アンリを助けたい。

 そう思った時にスルスルと窓の桟が開き、クーパーは其の侭足を室内へと進めた。

 アンリに掴み掛っていたリートン伯爵は、唐突に開いた窓に驚き入って来たクーパーを見て、地獄から復讐に来たと思い込み、恐怖で身体中の全てが凍り付いた。

 そしてそのリートン伯爵の怖ろしい顔を間近で見たアンリは恐怖で意識を失った。

 倒れて行くアンリを助ける為に右腕を伸ばした時、クーパーはリートン伯爵を押してしまった。

 既に死んでいたリートン伯爵は、其の姿勢の侭で床へ倒れ落ちた。

 強く床にリートン伯爵が全身を打ち付ける音を聞いたので、クーパーは自分が殺したのか?と一瞬自問した。

 影が動いた気がして視線を向けると開いた窓からキツネザルが庭へと出て行こうとした。

 アンリを助けたいと焦って居たクーパーに変り窓を開いたキツネザル。

 クーパーは声を出さずにキツネザルに「有難う」と告げた。


 クーパーはアンリをソファーに落ち着け、窓を開けた侭キツネザルを右腕に抱えて、暗く濃い霧の中へと去った。


【完】






 そう言って話し終え疲れ切ったクーパー少佐へ、俺は新しい紅茶を給仕に入れさせた。

 兄以外は、クーパー少佐の話を聞きながらも右腕の中に居るキツネザルから視線を外さなかった。

 兄は、安定のウットリとした瞳で俺を見詰めていたのさ。


 「さて、この話をコナン警部補がアンリ夫人に説明すれば、彼女も喋れる様に為ると思うよ。私の推測では窓の鍵を掛けたのはアンリ夫人だろうしね。実際にアンリ夫人以外それが可能な人間は、誰も居ないだろ?」

 「喋れる様に?アンリは!」

 「あー、心配しなくても大丈夫だよ。アンリ夫人は自分の意思で話さないだけさ。きっとクーパー少佐がリートン伯爵を殺したと思って、庇う為に口を噤んだのだと思う。後、人間て倒れる時は無意識で受け身を取ってしまうから、倒れた後も胸を押えた状態だったと言う事は、既にリートン伯爵は死亡していたと言う結果しか私には導き出せない。」



 そう話して俺は此の依頼の完了をコナン警部補へ告げた。

 俺が話を終えたのを引き継ぐ様に、兄がクーパー少佐へプリメラ大陸にあるレンジ州大使館で、起きた襲撃事件の状況を説明させた。

 クーパー少佐の話を聞いたレイド警部やコナン警部補は一様に息を飲んで、その後リートン伯爵へ怒りを新たにして憤慨し始めた。

 兄はそんな2人を放置して補佐官ヒューイに盗賊団に居た者の顔や特徴を聞き出させ、クーパー少佐が売られようとしていた町の特定をさせていた。

 アレ?

 もしや兄はクーパー少佐を雇う心算なのかも。

 序にキツネザルを捕獲した場所も聞いていた。

 

 女王様『キツネザル』、君の仲間達がグレタリアン人から狩り捲くられるかもよ。

 俺は新たなハンティングワールドの登場の予感がした。





 コナン警部補から後日改めてアーロン少佐とお礼(依頼料支払い)にジェローム探偵事務所へ再訪の約束をして来た。

 まっ、清算の方はクロエに一任してるし。

 俺は内心で、ヤード内部から手助けして貰えるならコナン警部補が良いなと、あのセフセフレポートを読んでそう考えていたのだ。

 アハハハっ。

 俺もやっぱり兄と同じ思考回路だった。

 兄はクーパー少佐を、俺はコナン警部補を、自分の内ポケットへと入れるのだ。

 『コレだからエイム兄弟は。』

 そう言って呆れかえるジャックの顔が俺の脳裏を過った。

 だって仕方ないだろ、ホント人手不足なんだからさ。

 俺は内心でジャックにそう嘯いた。

 兄から晩餐の誘いを受けたけど、この所の兄の様子が、やや不穏なので素直に断り、俺はセインとエイム公爵家の4輪馬車に乗り込み、下宿112Bへと向かった。




  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 後日談的な閑話みたいなモノ。


 夫殺しの疑惑を持たれていたアンリ夫人は自主的に屋敷で軟禁生活を過ごしていたけれど医師たちの検死の結果、心臓発作に因る病死と成り疑惑が晴れた。

 コナン警部補には、グライス警部へクーパー少佐とアンリ夫人との事は、意図的に抜いて報告して貰った。

 いやーグライス警部って新聞記者と親密だろ?

 落ち着くまではクーパー少佐とアンリ夫人は静かにさせてあげてーじゃん。

 7年ぶりに会えたんだぜ。

 俺なんて7年もセインと会えないなんて成ったら鬱に成る、マジっ。

 こう見えて純粋に愛し合う者の味方だもん、俺って。

 ああー、クロエ的な純愛は俺は無理。

 つうて言うとクロエの黒いオーラが見えて来るから言わないけどな。


 まっ、静かにって言っても今や時の人に成ってるクーパー少佐には難しいけどね。

 軍務と外務とで報告と審査が行われて、書類上でも無事生き返り、軍籍回復後に改めて退役した。

 クーパー少佐の報告に寄り、今も被害を受けていたレンジ州でのゲリラ的攻撃の拠点を潰せる目途が立ったり、新たな奇種キツネザル発見でグレタリアンの商機も盛り上がったり、したそうだ。

 退役してるけど、今はクーパー大佐になった。

 まっこれで貰える恩給額も上がるし、兄からの棒給もあれば生活苦で喘ぐことも無くなる。

 シビアな任務の要求で苦痛に喘ぐやも知れんけどね。


 まーっ、明かにされたリートン伯爵の罪は死した後でも非難轟々収まらず。

 赴任する大使の選抜法の見直しの要求まで話が出て来た。

 其処ら辺は兄の管轄なので俺はまったりとプリメラ大陸で生息している動物図鑑を読む。




 


 

   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  アリロスト歴1894年  4月




 『ジャック至急相談アリ。エイム』


 そんな電報に急かされて、俺は例年より1ヶ月も早くロンドの南セントラルにある男爵邸に来ていた。

 今回は内密のお話と言う事で俺はシガールームに通されている。

 やだなー。

 なんだかんだで俺って補佐官ヒューイが居てくれるのは、心強かったなのだなと再認識した。

 此れから俺は補佐官ヒューイを大切にするぞっ!とコッソリと決めた。


 光に透ける淡い金糸の短い髪を後ろに撫で付け、麗しく整った顔にはエロい金の口髭。

 俺の目の前に座るエイム卿は、相も変わらず生きている彫像の様に完璧で麗しい。

 エイム卿に口説かれたら落ちない貴婦人等は居ないだろうに。

 世の中はいつも理不尽だ。



 「早速だが来て貰ったのは2つの婚姻についてジャックに相談したかったのだ。」

 「えー、と、俺ってエイム卿が御存じの様に、独身+彼女なし、なんで婚姻関係の話は無理?と思ったり、、、。」

 「何時もの様にジャックは私の話を聞いているだけで良い。」

 「は、はぁ。」

 「まあ此れは割と如何でも良いのだが、皇帝の婚約の話だ。来年は18歳に成られる故、決めて於かねばと枢密院から話しがあったのだ。ジャックはどの国がグレタリアンの脅威に成るとみる?」

 「どの国って言われても。俺からすれば同じ性質を持つ北カメリアっすかね。」

 「ふむ、しかし北カメリアの人間では誰も納得すまい。貴族でも嫡男には血も家格も無いカメリアの人間を入れないだろう。」

 「まっそうっすね。でも俺に相談って事は候補は上がってんすよね。」

 「ああ、1つはプロセン、2つ目はエーデン、3つ目がモスニア、そしてバンエル王国等がある。選帝侯達が独立して公国から王国になった国が多くてな。」

 「んー、、、あれ?モスニア帝国以外は、ヨーアンで戦争を仕出かそうとしてる国ばっかり。」

 「良く気付いたなジャック。」

 「はぁー、皇帝の婚約をなんだと、、、。」

 「良きように転べば婚姻だ。介入するには口実が必要だろ?」

 「エイム卿に質問、今の枢密院議長って何方ですか?」

 「デニドーア公爵だ。癖の或る人物だが敵が少ない。ホリー党の党首へ2度ほど選任されたが辞退された。この婚約が決まれば議長職を辞したいと話されていた。」

 「ホーリー党のロッド首相と険悪だと書いてあった記事は読みました。でも俺には余り活動の記憶が無い、、、ですね。」

 「其処ら辺が変わっている所だ。24歳で政治家に成り現在60歳、それで敵が少ない。まあ私の会話をたヌラリと躱すのだから政治家には向いて居るのだろう。」

 「それは、恐ろしい。皇帝陛下との関係も当然上手く行ってるんすよね。デニドーア公爵の推薦された方で良いと思いますよ。それにしても何故モスニアを候補に?」

 「ああ、それは私の推薦だ。」

 「はっ?」

 「まだ知られてはいないが、トルゴン帝国が運河とオシリスの利権を求めて、オシリス王国へ侵攻する準備を始めたそうだ。まだ準備段階だがな。今まではルドアの拡大問題が在ったから、トルゴン帝国と連合を組んでいたが、運河とオシリスまで広がると始末が悪い。丁度モスニア帝国がオシリスの保護国に成っているしな。」

 「まーその昔モスニアの姫を迎えた事もあるから無理とは言いませんが、国民感情的に無理だと思いますよ。延々とグレタリアンとモスニアって海上の覇権を巡って争ってるし。それにヨーアン諸国が黙って無いと思う。」

 「ふむ。仕方ない、、、兄に問題があるがバンエルを推して於こう。」

 「えっ?、、、エイム卿は俺を試しましたねっ!実は初めから決めてたでしょっ!」

 「まー、合格点だ。それにしてもジャックは何故プロセンを選ばなかった。一番無難そうだろ。」

 「だってさー、エイム卿だし1番初めのには、トラップが在りそうだったから。つうのも在るけど、プロセンは結構な短期間でギール王国とランダ共和国って、2ヶ国も占領しちゃったし、それに俺はヨーアン大陸があんまり荒れて欲しく無いんっすよね。グレタリアンとプロセンが共同歩調とか合わせたらチョット手が付けられないって思うし、、、。」

 「ふふ、プロセンと一時的に組む事は今までと同じであるだろうが、長期は有り得んよ。特に今の王の様に夢見がちなゲルン主義とはね。私は、ジェロームを戦場に出さねば成らなくなる可能性は、此れからも悉く排除して行く心算だ。戦争の数が増えれば貴族であるジェロームは、義務として軍務に就かなければ為らなくなる。しかし、戦場を欲してる馬鹿が多過ぎて嫌になる。」

「ええー、やっとイラドからルドアを追い返したのに。」


 

 此れからイラドの中央を獲る気満々らしい。

 やっぱり戦って無いと死ぬ病なのかも。

 いやグレタリアンだけじゃ無くてね、他のヨーアン諸国も。

 モスニア帝国が戦う事に成れば自動的にフロラルスも戦うんだよ。

 皆さん、戦争の外交カードをスパスパ簡単に切り過ぎじゃあ無いかな?


 しかし、それはそれとして俺はエイム卿になんのテストを受けさせられたのか?

 抜き打ちテストとかマジ勘弁してよ。

 聞いてるだけで良いつったのに、結局は俺にエイム卿が問いかけて来るし、俺しか居ないから視線の逃げ場が無い。

 でもってプロセンの戦争大好きマッチョな国王を夢見がちとか言ってる。

 フリード2世を尊敬してるって言って上げなよ、せめて。

 まっフリード2世はゲルン帝国を作るとかは一言も言って無いからな、子孫よ。

 ゲルン語圏を作りたいとオーリア帝国と頑張っていただけで。

 でも俺ってエイム卿の何に合格したんだろ、どうぞ悪いモノでありませんように。



 「そしてもう1つはジェロームの婚約だ、、、(始末するか?)」


 ボソリとエイム卿の聴こえては為らない呟きが聴こえた気がした。

 ははっ、うん、気のせいだ。



 「ハンリー王国の第3王女なのだが、、ジャックは、どう思う?」

 「どう?と言われてもエイム卿が当主なのですから。それも枢密院から?」

 「陛下からのお声がけだ。枢密院の言葉がなければ陛下が私にその様な事を言う訳がない。」

 「まーぁ、そうでしょうね。何と言っても陛下は未だ17歳ですモン。でも、んー、断れそうに無いっすね。ジェロームも其処ら辺の覚悟は出来てたみたいだし、唯ジェロームに付き合ってる相手もいるしなー、(栗鼠だけどな)。それは大丈夫ですか?」

 「バレなければ良い。だが、、、。」

 「問題でも?」

 「私の力不足をジェロームは失望しないだろうか。何時も守ってやると言っているのに。」

 「、、、俺は、しないと思いますよ。」



  緑藍はエイム卿に失望とかする訳ない。

 期待して無いって訳ではなく。

 意識的か無意識化は分らないけどエイム卿を頼りにしてると思う。

 エイム卿が得意そうなことは自然に「これは兄に頼む」って話してるからね。

 でもって態々ウェットリバーにいる俺へ、電報を打って来たエイム卿の真の相談つうか、悩みはコッチだった。


 はぁーー、何となく今夜は下宿112Bへは帰れなさそうだ。

 エイム卿はお酒を持って来させて飲みながら、幼少時代のジェロームがどれ程愛らしい天使だったかを、エロいテノールヴォイスで囁くように語り始めた。

 「俺とは慣れて話せるようになった」と、打ち明けて貰えて俺は喜んでたけど、エイム卿は気兼ねなく緑藍の事を語り合える相手となら、誰とでも会話が成立するんじゃなかろうか?


 俺は補佐官ヒューイに頼んで、エイム卿へ抜き打ちテストをしてみる事を、ふと思いついた。

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