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エイム迷走ス  作者: くろ
61/111

浄化


   アリロスト歴1893年 ㋈




  囁き案件が終わり天気が良いと言う事で東屋で恒例のお茶会。

 ははっ、幾度もエイム卿から東屋に誘われるのでもう恒例と言う事にした。

 室内で見ても庭園で見ても、麗しいモノは麗しいモノで、エイム卿もいいオッサンの筈なのに、整った顔は俺がエイム卿をオッサンと呼ぶことを自動回避している。

 何か悔しい。

 やっぱり淡い金色の整えた口髭がエイム卿のエロい若さを引き出してるのか。

 俺も緑藍も口髭も顎鬚も生えて来ないので、軽い嫉妬かも。

 まあそんな事より曾孫ウィルが如何して居るか聞いておかねば。


 「あのー、俺の友達ウィルにエイム卿は何をさせてるんですか?タウンハウスにも全く現れて無いと使用人が話して居ました。」

 「ああーウィリアム・ベラルドか。今は試験的にオーリア帝国へハンナと共に行かせている。」

 「もっ、もしかして、ウィルもスパイに?」

 「珍しく、ジャックも知りたいか。ジェロームも興味を持って居た。人気があるのだな、ウィリアム・ベラルドは。」


 ええー。

 其処でイラっとするなよ、エイム卿。

 緑藍だって俺の精神的な曾孫ウィルだから興味あるだけなんだ。


「スパイと言う程の物でもない。今はオーリア帝国でルドア帝国の情報を探っているだけだ。」

「オーリアでルドアの情報?」

「ああ、未確認だがルドア帝国がポーランへ武力介入しそうなのだ。もし侵攻を開始すればオーリア帝国が動くだろ?オーリアの鉱山がポーランに在るからな。」

「ソレをグレタリアンに知らせると、、、ん?」

「如何したジャック。」

「いえソレだけを知らせるなら態々ウイルを派遣しなくても良いのでは?」

「まあそうだな。当然それだけでは無い。但しそれ以上を知りたければ私の、、、。」

「結構です。仮にもエイム卿ともあろう人が、ベラルド伯爵の当主を危険な目に、遇わせる筈も在りませんしね。」

「(チッ)、ジャックも詳しく知りたく成ったら何時でも聞きなさい。」


 ふーっ、何かエイム卿に落とし穴を仕掛けられてた気がするんだよなー。

 『聞いたなら此処にサインしなさい』

 てな地雷が仕掛けられ補佐官ヒューイ2号にされそうだ。

 因みに補佐官ヒューイは、その手で今の激務の職に就くことに成った。

 好奇心一瞬、後悔一生。

 有難い先達補佐官ヒューイからの箴言だ。

 かと言って補佐官ヒューイはエイム卿を嫌っている訳では無いし、尊敬もしている。

 いや別に本人がそう言った訳でも無いが、言動や空気がそんな気がしているのだ。


 「そう言えばジェロームは未だグリーンオブグリーンの真相を追い掛けているのか。」

 「ええ、エドガーワインド議員が亡くなったのを悔しがっていました。俺とかは彼が亡くなって救われる人が多いだろうと喜んでますけど。」

 「どの道、議員のエドガーには手出し出来ないと考えて、放置するように私が言ったのが拙かったのかも知れない。ジェロームは有能だが一つの物事を突き詰めている時は、周囲が疎かに成る。ジャックはジェロームの近辺に注意を払って於いてくれ。」

 

 「俺はその言葉はエイム卿が直接ジェロームに話して上げた方が良いと思います。つうか、せめてジェロームだけにはエイム卿の言葉を直接もっと聞かせて上げて欲しいっす。いえ当然、周囲に気は配っておきますよ。俺ではあんまり頼りには成らないですけど。」

 「確かにジャックでは頼りに成らないが、偶に鋭い時もある。だからシェロームを助けて遣ってくれ。、、、それに声にするのは難しい、やっとジャックには少し話せるようになったのだ。」

 「ええ、助けるのは当たり前です。ジェロームは俺にとって大切な友人ですから。」



 まっ、俺もずっと捜査にのめり込んでる緑藍を心配していた。

 故エドガー・ワインド議員の影を追っているようなのだが、『死人に振り回されるな』と少し痩せた緑藍に忠告はして置いた。

 エイム卿に頼んでワート君の家に護衛の女性と青年を入れていた。

 クロエ経由で仕事が無くて困っているからと気のいいワート君に頼み込む形で。

 ノルセー伯爵の護衛には調査部の人間を放り込んでるだけなのにな。

 一応スパイ容疑が掛けられていると言うか緑藍がエイム卿に報告するときに掛けた。

 まあエイム卿はノリノリだったけどな。

 もしかしてライバル視なのか。


 俺には「攫われる前に言え」だった。

 いや恐らくだが俺は普通の悪人には攫われ無いと思う。

 エイム卿みたいな悪人だったら、、、、諦めるしかないよね。

 良かった、エイム卿が悪人で無くて。

 善人とは言って居ない。


 ふと視線を感じて顔を上げると整った麗しい顔でエイム卿は俺を見ていた。

 緑藍に似た澄んだ瞳が儚く揺らいだ。

 いかん。

 エイム卿が俺を見て微笑んでいるような錯覚を起こしてしまった。

 俺は焦って、冷えたハーブティーを飲み干し、風が渡る楡の木々に視線を移した。









  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 

   アリロスト歴1893年 10月



 何となく微妙に距離が縮まっている兄とジャックを見て、ニマニマと俺は1人ほくそ笑んでいた。

 2人から『グリーンオブグリーンの宝冠に拘り過ぎている。もっとゆったりとした気持ちで過ごし、食事はキチンと摂って、確り睡眠も取りなさい。』そう注意されて俺はウンザリしたけど。

 君らは2人共、俺の母親か?

 まー、兄は実質的な保護者だけどさ。


 つっても兄もそんなに俺が心配ならマメにジャックを下宿112Bへ帰して欲しい。

 コマメで面倒見のいいジャックが居れば俺の日常生活はグッと快適で健康的に成る。

 自然とな。

 そう言いたかったが、まー兄も俺みたいにジャックに甘えたいのだろうと思い黙っていた。

 なんでか俺も兄も対人関係が不器用だからなー。

 よく考えたら緑藍の時も本気で甘えられたのは光明兄さんだけだったと思い出した。

 今の俺は、暖か可愛いセインが側に居るし、頼りになるグランマ・クロエも一緒に暮らせてるし、ジャックは偶に会っても居心地良いし面白いし、うん、案外と楽しく暮らせてる。

 エイム公爵家当主としてだけで生きていた兄が、ジャックの影響で少しだけ緩んできているのを見るのは俺も嬉しい。

 まっ、色々複雑な思いも在るけど、兄に取って唯一の血の繋がりを持つ俺に縋って居たのかなと、想えるようにも成って来た。

 兄がもう少しジャックに重心を移して呉れたら、俺への溺愛も軽くなるんじゃないかな?って、期待はしてるんだけどね。

 ジャック頑張れ。



 そう言えばクロエが何だかんだと文句を言いながらルスランの相手をしている。

 ルスランもクロエに怒られているのに何が嬉しいのだか、ニコニコと笑っている。

 ルスラン36歳でクロエが35歳。

 なんだけれども母ちゃんと息子が戯れている様だ。

 そう俺には見える。

 セインが「お似合いですよね。」って、キラキラした飴色の瞳で俺に微笑むけど、んー、如何なんだろうな。

 クロエは容姿的には見られる、つうか綺麗だと思うけど、恋人にするには精神的な貫禄が有り過ぎると思うのは、きっと俺とジャックだけ何だろうなー。

 クロエ本人は気付いて無いけど意外にもモテてる。

 近所に住む兄の部下とかトマスとか。

 ご近所の差し入れが多いのを「近頃は景気が良いのかしら」と好況分析しか出来ないクロエなのだ。

 なのに趣味が恋愛鑑賞と恋愛小説を読む事。

 クロエの場合、趣味と実態が乖離している寂しい話なのだ。

 セインの言うような2人に成れればいいな、俺的に面白いし。



 兄が帰ったので俺はジャックに、ルスランとクロエの最近の雰囲気を報告していた。

 ジャックは軽く笑って「有り得ねーっ!」と呟いた。

 そんな話をし、俺とジャックが笑い合って珈琲で喉を潤していると、サラリと動いたクロードがジェローム探偵事務所の黒い扉を華麗に開き、薄紫の小さな帽子にレースのヴェールを着けた女性をエスコートして、ゴブラン織りの応接椅子を引いた。

 俺は立ち上がってその女性に挨拶をし、話を促した。


 「私はシセニア・グロンと申します。実は相談したいのは姪のケイト・コーディーの事なのです。」

 「ケイト・コーディー令嬢と言えば昨年正式に社交デビューして美しいと噂の方ですね。」

 「ええそうです。本来ならケイト本人が来ないと行けないのでしょうけど、ショックが大きくて。ケイトは姉の娘に成ります。父親は2年前に亡くなり、姉は現在肺を患って郊外の親戚の家で療養させて貰って居るのです。そんなケイトにルクルート大佐と婚約が決まりました。」


 昨年18歳で正式に社交デビューした美少女と評判の伯爵令嬢ケイト・コーディー。

 豊かでは無いがその美しさはそれを補うのに余りあると言う噂だった。

 父親を亡くし苦労していたケイトが結婚して幸せに為ろうとした矢先に魔の手が伸びて来た。

 ケイトが受け取った手紙には、『パトリック・ウォーゼンの腕に手を置いたケイトの写真とラブレターを入手した。請求した金額5000ポンドを26日までに支払わないと、写真とラブレターをルクルート大佐に送る』と、言うモノだった。

 差出人にはパトリック・ウォーゼンと書かれていたと叔母のシセニアは話した。



 「恐らく差出人はパト、いえ、パトリック氏では在りません。その手紙を後で見せて頂けますか?」

 「はい、ロンドのタウンハウスで私が預かっていますので。ケイトも1人が怖いと言うので我が家に居ます。」

 「では、早速参りましょうか。私ならパトリック氏の文字を知っているので見れば分かります。ジャック、クロードと一緒にパトの所へ行って今の話をして事情を聞いて来て。セイン行こうか。」

 「はい。」


 俺は内心で、パトに悪態をついていた。

 なんでそんな写真を撮っているんだよ。

 いざと言う時はパトに5000ポンドを支払わそう。

 そう心に決めてクロードが華麗にジェローム探偵事務所の黒い扉を開き、依頼人シセニア・グロンと俺とセインは戸口から表へと向かって行った。


 



 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 


 下宿112Bへ戻ると緑藍達は未だ探偵事務所に帰って無かったので、俺は自分の部屋へ戻り、細巻の葉巻を切って火を点けた。

 パトリック氏は確かにシンプルでシックなスタイルに変わっていたが、昔よりも凄く色男なのに喋るとマジで残念さが増してしまう不思議な人に成っていた。

 俺がパトリック氏を訪問した事情を話すと、「なんで?俺が恐喝するはずないよ。」と、怒涛の抗議が続いた。

 3年前に銀板写真を撮ることに嵌っていた頃のモノかも知れないとの事。

 パトリック氏に案内されて「お宝部屋」と称している一室へ案内された。

 台紙にペタペタ無造作に置いてある雑なアルバムと言うか、綴じてる冊子を見ると、ヌード写真からハグしてる写真まで有ったのだ。


 「アレ3年前の10月の冊子だけが無い。」


 色々と捜したが見つからず、辞めた使用人の誰かが盗んだのかも知れないとパトリック氏は言った。

 シーズン中パーティーが続く時は、短期やパートタイムで雑役夫や見習いメイドを、雇ったり借りたりするらしい。

 俺は取り敢えず辞めて名前の分かる人と辞めた時期を屋敷の執事に教えて貰った。


 「パトリック氏はケイト・コーディーって令嬢の名を覚えていますか?」

 「覚えてると思う?」


 そして服も脱がさず抱き合っても居ない女性なら恐らく体形が幼かったのだろう、とパトリック氏は笑って俺に話した。

 ちょい、パトリック。

 それって曾孫テレーゼ・グレームの体形が幼かったとも云いたい訳か?

 そう言いたい気持ちを俺はグッと堪えた。

 いや、幼くて良かったじゃん。

 こんな軽い奴に曾孫テレーゼ・グレームが食われずに済んだのだ。

 そう思うと俺の心は凪いだ。


 恐喝している写真が盗まれた物か如何かは分らないが、恐喝犯はパトリック氏が3年前に銀板写真を撮ってる事を知っている人間と言う事に成る。

 写真が此の部屋に在る事も3年前から勤めている使用人なら大抵が知っているらしい。

 良くぞ、今まで他の写真は無事だったものだ。

 俺はパトリック氏に居間で暖炉の火を入れて貰い、問答無用で銀板写真を次々に炎の中に投げ込んで行った。


 「な、な、何をするんだジャック。」

 「この写真が、全て外へ流出したらパトリック氏は、如何するんですか。今まで無事だったのは、運が良かっただけです。こんな不幸の元凶は炎で浄化するのが一番良いんです。大体、管理も出来ない癖にこんな写真を撮るなーっ!!!」


 俺はパトリックに説教しながら全ての写真を暖炉の炎で浄化した。

 そして、貰ったラブレターを頭文字順で整理している木で出来たコンテナも見せて貰った。

 ケイト・コーディーの差出人名がある手紙が1通あったので読ませて貰った。

 無断で読んでごめんね、ケイト・コーディー。

 何とも胸がキュンとなる可愛らしい憧れを秘めた手紙だった。

 なんつう初々しさ。

 俺は別にこの程度の内容なら婚約者に読まれても全然オッケーだと思う。

 初恋つうか初憧れつうか。

 パトリック氏はケイト・コーディーのラブレターは要らないと言うので預って来た。



 緑藍も言っていたが何でパトリック氏がモテるんだ?

 顔なのか。

 顔だけで良いのか、余の淑女達よ。

 違った。

 パトリック氏は貴族で議員で舞台作家だった。

 

 俺は葉巻の煙を軽く吸って、深い溜息と共に薄い煙を吐き出した。

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