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エイム迷走ス  作者: くろ
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水瓶座の乙女



 アリロスト歴1893年  2月





 「スノーデン氏が意識を取り戻したら知らせて欲しい」と頼んでいたムーランドのルパート警部からジェローム探偵事務所に連絡が来た。

 その知らせを聞いて俺はスノーデン氏に今まで起きた事を書き綴り、イーサン・ハークレイが狙って居た物を探りたいので何でも良いから心当たりが無いかを手紙にして尋ねた。



 暫くしてスノーデン氏から俺に返事が届いた。

 変わった事と言えば事件が起きる1年前からイーサン・ハークレイは屋敷内の掃除を良くするようになった事とスノーデン氏を殴った水瓶座の乙女の銅像が消えた事が書かれていた。

 そして其の水瓶座の乙女の銅像と同封された古い紙切れについて記されていた。


 どちらもスノーデン当主の証として渡されるたモノで、屋敷を建て替えてから3代目の当主が20代で亡くなった為に、口伝で伝えていた文言が残っていない。

 父親が生きていた頃に「何処かにお宝が隠されているかも知れない」と笑って話していたらしい。


 俺は小さな台紙と共に送られて来た古い紙切れを開いた。



 【春風の頃涙枯れし日、陰から飛びし5羽の鳥、南東を目指し石畳、8日歩き額突け、すれば新たな道が見える。】


 所々、判読が難しい箇所も在ったけど、大抵はこんな言葉だろう。

 そう当りを付け、水瓶座の乙女の銅像についてを考えてみた。

 あの屋敷が建てられたのは調べて見ると1759年だった。

 133年前。

 海賊黄金期が終わり掛けていた時代。

 海賊出身者の殆どがグレタリア人だったと言う話だ。


 

 俺はセインにスノーデン屋敷の敷地内で水が関係ある場所の銀板写真撮影を頼み、週に2度此処で俺を描いている若い画家ラッセル・アクセルードへもスケッチを依頼した。

 ふふっ、クロエに又、文句を言われるかな。

 依頼料が入らないのに支払いだけ増えているって。

 こうして俺はセインとラッセルがムーンランドへ向かうのを見送った。

 何か形跡でも良いから見付けられると俺は嬉しい。

 でもイーサン・ハークレイが、1年前から屋敷内を熱心に掃除を始めた、とスノーデン氏の手紙に書いていたから難しいかもね。



 スノーデン家を調べると1680年に家を興し、その後ムーンランドに領地を得ていた。

 その後、錫が産出されたからそれ程資産に苦労はしなかったのかも知れない。

 現在もムーランドから採れる白黄色や黄色の石や粘土は民家に使うレンガなどの材料として多くロンドへ運ばれている。

 お宝が無くても全く困らない領地だなー。



 そして俺はジャックへ早くロンドへ戻れと『ラビットクラブ』へジャックを連れて行こうと決めてから2通目の手紙を書いた。

 ノルセー伯爵に会って話を聞くだけだしジャックの嫌いな血や遺体も出て来ない、筈。

 行く前に事情も説明するから、きっとジャックなら了承して呉れると俺は思っている。

 大丈夫だよね?


 パトにも知人レナードの説明は聞きに行かないけど、寄付はすると話して置いたし、ジャックが了承して呉れれば俺がパトに連絡すれば、ヘクター大佐へ繋がる道が出来るかも知れない。

 問題は、一緒に「ノルセー伯爵に会う」と言えばジャックが、滅茶苦茶嫌な表情をするってことが、判ってしま事だな。

 一先ずジャックの機嫌を取る為に俺は細巻の葉巻とフロラルス産のコニャックを用意した。










   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




  アリロスト歴1893年  3月




  季節が緩んで来たので、俺はアルドラ元皇太子のルスランと馬に乗り芽吹いて若葉を着けている猟区の雑木林に行きヤマウズラやウサギ狩りを愉しんでいる。

 人の血は苦手だが狩りが好きと言う相変わらず俺は矛盾している。

 でもなー、 獲物を探してくれる人や、荷物を持って補佐してくれる人や、ピッカーつうて猟犬から獲物を回収してくれる人が居てくれて、俺って何もしてないじゃんってな感じ。

 コレを狩りと呼んでいいものか。

 ルスランは俺が疑問を持ってるのが、疑問てお方だったりする。

 

 「ルスランはルドア帝国で嫁の実家で農園経営をしていたんだよね?どんなことをしていた?」

 「そうだね、近くに住む人達と夏に為ると庭園で茶会をしたり、狩りに行ったり、乗馬をしたりしたね。冬場はスキーやスケートかな?案外忙しかったんだよジャック。」

 「だよなー、ルスランは元皇太子だものなー。幾らルスランの義父になったからと言っても仕事とか頼めないか、畏れ多くて。」

 「ん?あれは仕事だよ。皇太子時代の公務と変わらなかった。人数や来ている人間は全く違ったが。」

 「はは、、そうか。じゃあ今はノンビリ出来てるんだね。」

 「ああ、だがジャックが来る迄は暇過ぎて、身体が鈍っていたよ。今は丁度いい。」

 「でもさ、ルスランはルドア帝国の事は気に成らない?」

 「気に成らないと言えば、嘘になるな。でも従弟のミハイルに任せたんだから、わたし(ヴァー)は見守るしか出来ないだろ?何せわたし(ヴァー)自身が、皇帝に成りたく無いって話していたミハイルに、無理矢理その座を押し付けて来たのだから。」

 「そうか。でもグレタリアンだと此れから大変かもよ。」

 「ああ、イラド戦やトルゴン帝国との事か。んーそうだな、グレタリアンが勝っている時なら良いが戦況が悪く為るとわたし(ヴァー)の存在を、利用される事をジャックは心配しているのか。」

 「そうそう。まあ今は、グレタリアンが有利な状況でイラドに進んでるけど、闘いなんてどうなるか分からないだろ?ルスランに取っては、本来グレタリアンて敵国みたいなモンだろ?」

 「其処はグレタリアンに逃げると言う時に、覚悟した。いざと言う時は、皇族の血が利用されるかも知れないとね。でもわたし(ヴァー)があの侭ルドア帝国に居ても、結局は言われた通りに動かないと、殺されるだけ(なん)だよ。皇帝と言う名前を使いたい奴らが、中央に居座ってるから。そして上手く行かなくなると、皇帝の責任にして後ろに隠れるのだよ。」


 「面倒だな。」

 「ああ全くだ。それに新聞で読む情報しか分からないが、ミハイルは良く遣っていると思う。わたし(ヴァー)ではミハイルのように、バランスを取りながら皇帝を努めて行く自信はないよ。強権的でないとあの広大な地と人種は治めて行けない。」

 「確かにルドア帝国は広大だな。あのビッチ女帝が広げるだけ広げたから。」

 「おいジャック、偉大なカテリーナ皇帝を貶めるなよ。」

 「あーあ、すまんすまん。遂な。おっ!ルスラン、ウサギを3羽仕留めたみたいだ。」

 「ジャックと約束した規定量を狩ったか。少な過ぎないか?」

 「いいの、そんなに狩らなくても。俺ってスポーツ的な狩りは苦手なんだよ。」

 「うーん、そう言えばジャックは血や死体は駄目じゃ無かったか?そんな話をわたし(ヴァー)が怖い女の話をジャックして怯えさせた時に言ってたような。」

 「うん。苦手。但し人間の。」

 「ん?自分と同じだから嫌だとか?」

 「そうなのかもね。ウェットリバーでは自分て狩った獲物は自分で処理するよ。」

 「わたし(ヴァー)はそっちの方が信じられない。それにそれは彼等の仕事だろう。」

 「いやいや、王侯貴族達はそうかも知れないけど、庶民は自分で食べる物は自分で食べれる様にするものだよ。他人を雇う金も無いしな。」

 「どうもジャックは平民と思えないんだ。うん?良く考えたら今のわたし(ヴァー)も何者でも無いな。」

 「では、ルスランと俺は同じ身分と言う事だね。」

 「ははっ、そうなるな。」


 俺とルスランは狩場を出て又馬に跨り、ゆっくりとエイム公爵邸を目指した。

 木々を渡る早春の風に背中を押されて。








  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  アリロスト歴1893年  3月




 1泊2日で早々にジェローム探偵事務へ戻って来たセインと画家ラッセル。

 セインが枯れた池の写真を3枚、画家ラッセルは池の中央にある花崗岩で造った欠けた彫像と、下草から形が違う石を置いていた場所のスケッチと池全体と庭のスケッチ。

 それと井戸の絵もあった。

 水が関係してそうなのは此の2か所だとラッセルが話した。


 「それにこの中央に或るのは水瓶座の乙女の彫像だと思います。本来は乙女の左側の肩に鳥が乗っているいるのです。」

 「おおー、有難うラッセル。ふむふむ。依頼料が入ってたらラッセルに全額プレゼントだな。」

 「ふふ、それは残念。」

 「まあ、その代り私からラッセルに金一封を出すよ。」

 「おー、有難う御座います。」

 「いえいえ。取敢えずクロードが淹れてくれた珈琲でも飲みなよ。セインもお疲れ。」

 「あんまり僕は役に立てなかったね。ジェローム、御免ね。」

 「何を言ってるんだか。セインが行くから安心して任せられるんだよ。」

 「ええ、僕だけではスノーデン氏と上手く話せませんでした。ルパート警部にもセインさんから上手く取り次いでもらえましたし。」

 「そう。」

 「それでジェローム、あの言葉の謎は解けたのかい?」

 「うん。意外に単純だった。最初の早春は3月。影は3月の太陽で出来た影だね。壊れてて判らないけど恐らく池の水が止まる時間があったんだと思う。その時刻の太陽から出来た影。そして鳥の影が出た方角へ5歩、色の変わった石から南東へ8歩、其処で地面に顔を近付ければ、お宝の入り口だ。セインの写真を見る限りイーサン・ハークレイがお宝を発見した痕跡はなさそうだね。」


 「そうなんだ。それは良かった。あっ、でもイーサン・ハークレイは亡くなっているかも知れないんだね。良かったと言うのは不味いね。」

 「良いんだよセイン。スノーデン氏は殺され掛けたんだから、それ位言っても。」

 「うーん、そうなのかな。でもロザリー夫人はどうなるんだろう。」

 「スノーデン氏も罰の軽減を嘆願するそうだから軽くなると思うよ。」

 「だと良いね。ああ、そう言えばスノーデン氏が、今は息子さんと一緒に暮らして居たよ。何だか嬉しそうだった。」

 「そっか、そう言えば、ジャックからスノーデン氏は不屈の精神の持ち主だと感心されていたなー。九死に一生を得たのだから幸せでいて欲しいと私も思うよ。」

 「うん。」

 「ええ。」




 ラッセルがサラサラと描いた水瓶座の乙女の絵は清らかな少女の姿だった。

 古代ロマンの絵画で観ればもっと美しい乙女ですよとラッセルは照れながら話すけれど、俺から見れば十分に清廉で美しい水瓶座の乙女だった。


 珈琲を飲み乍らセインとラッセルの会話をバックグランドミュージックにして俺はスノーデン氏への手紙での報告内容を考えていた。

 枯れていた池には可成り下草も生えていたので、手入れのつもりで池の底を丹念に調べて下さいと。

 一応、分っている事は書くつもりだけど、壊れていて太陽を見る時刻も判らないしな。

 

 少しいい加減なスノーデン氏への報告を想い、開き直ってセインたちが居るテーブルを見れば、そんな俺に水瓶座の乙女が微笑んだように見えた。

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