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エイム迷走ス  作者: くろ
55/111

ギャンブラー



 アリロスト歴1893年   1月





 年が明けて直ぐにコットラン州デェーン市で蒸気機関車事故が発生した。

 タイ橋が崩れ落ち、橋を走行していた機関車6車両および乗客80人がテヤ湾に落ち、死亡した。




 て言う報告を、今日も麗しい容貌で持って来たエイム卿。

 可笑しいな?

 何故にミランズにあるエイム公爵家別邸に居る俺へエイム卿が自ら報告しに来てるのだ?

 鉄道事故何て国の一大事じゃあるまいか?

 いやっ良いんだよ。

 此処はエイム卿の別邸だから好きな時に来て、好きなように居ても全く不都合はない。

 でも各大臣は内務のエイム卿からの情報を待ってると思うんだよなー。

 俺的には良いんすけどね。


 鋭い眼光を緩めることなく、麗しいご尊顔のエイム卿が俺を見ながら、スクランブルエッグをフォークで器用に口へと運んでいる。

 列車事故の話をしつつ、16時にエイム卿と食べる遅い朝食。

 俺の胃は重たい。


 エイム卿が屋敷に入って来るなり、「食事がまだだ」と、執事ホーマーに軽い食事を用意させた。

 軽い食事とは、ローストチキンと一緒に焼いた根菜類、スープ、ベーコンとスクランブルエッグ、柔らか小麦パン、マッシュポテト、リンゴのコンポート。

 ちっとも軽くないじゃん。


 俺はいつも通りに朝食も食べ終わり、庭園にある温室で「アルドラ元皇太子のルスランも元気になったみたいだし、そろそろウェットリバーへ行こうかな?」って考えていた。

 そして今日のお茶の時間にルスランへ辞する事を話そうとした矢先のエイム卿突撃。

 朝食室と呼んでいる部屋の食卓のテーブル並ぶ山盛り高たんぱくな料理を見て、俺は先ず胃が重くなり、スープとミルクを交互に啜って、鉄道橋崩落と乗客80人全滅の話を聞いて、胃が凭れて来た。

 話しながらもエイム卿は美しい所作で出された料理を次々に口へと消し去って行く。


 「ジャックは食べないのか?」

 「ええまあー、余り動いていないので食欲が無くて。」

 「そうか、なら晩餐前に久しぶりに私が護身術の稽古をつけて遣ろう。」

 「いえいえいえ飛んでもない。エイム卿はテヤ橋崩落事故の情報収集も在るでしょうし、、、」

 「うん?別に私が関わっているモノでは無いしな。鉄道と機関車は鉄道会社の物だ。議会が結論を出し、各大臣が判断する迄は、私の仕事はない。だからジャックは安心しなさい。」

 「えー、ええ、、、。」


 まあねー、今のグレタリアンは全て私鉄なんだよなー。

 貴族や地主達が鉄道会社を作って株式化して資金を集めてる。

 でもって、利益獲得競争に熱中して、湿田や川とか湾とか鉄道敷設が困難な場所へも、延長してたりする。

 根っこがやっぱりヒャッハー野郎たちだからな。

 空白地があると突撃せずには居られないギャンブラー達なのである。

 とは言え、俺にとって良く利用している蒸気機関車事故は他人事では無いので、正確な事故調査と再発防止策なんかの部署を議会では設置して欲しい。


 俺は軽い食事を終えたエイム卿の機嫌を伺いつつ、『緑藍の為に』、蒸気機関車の安全に運行する為の委員会設置を提案してみる。

 

 「うん、暫くは移動を馬車でするようにジェロームには伝えて置こう。」

 「でもですね、ジェロームにも依頼が在るし馬車だけの移動は難しいのでは?」

 「基本はロンドでしか依頼を引き受けないと言っていた。それに地方の案件は、ジェロームの代りにジャックが向かうだろ?」

 「それは絶対に!、俺には無理!!!」


 俺は、此れ以上ヤバい事をエイム卿に押し付けられないように、慌てて椅子から立ち上がりナプキンを持った侭、ダッシュで食卓の間から逃げ出した。





 そして俺は現在ストライキ中である。

 悪魔エイム卿に呼ばれても馳せ参じない。

 アルドラ元皇太子のルスランと一緒にグレタリアンの変なトコ談議に興じたり、午後にはミランズ馬場で優雅に乗馬をしている。

 むーん、俺ってなんつう有閑貴族だろ?

 そんな後ろめたい気持ちを抱えってパッカラパッカラとルスランと馬で追い駆けっこ。

 でもって視線を感じれば、、、、。

 チラりと小屋の方からエイム卿の影。

 そうんな事が3回続いた頃「なあジャック、アソコに居るのってエイム公爵じゃないか?」そうルスランが馬を寄せて来て俺に話し掛けた。

 ちっ、見つかってんじゃねーよエイム卿。


 「ですねー。」

 「何かジャックに用があるんじゃないか?此処は寒いから、ジャックは早くエイム卿の処へ行ってあげなよ。わたし(ヴァー)はもう少し走らせたら屋敷に入るから。」

 「うっ、はい。」


 有難いルスランの気遣いで、俺は嫌々エイム卿の影がある小屋の方向へ手綱を引く。

 緑藍の探偵業手伝いを撤回して貰うまでは俺は恐怖に打ち勝ちストライキを断行するっ!

 ホント血とか遺体とかマジで勘弁して欲しい。

 それが平気なら俺は最初から緑藍の助手を遣ってるつうの。

 一瞬、エイム卿に()られるか?

 てな考えが脳裏を過ったが、、、大丈夫、俺には緑藍が居る。

 俺に何か在ったら緑藍がエイム卿にキレて()れる筈。

 うん?

 俺の為にキレて()れるよな?緑藍。

 それを知っているハズの弟ラブなエイム卿が俺の半殺しは在っても全殺しはしない筈、、、。

 シリアルキラーでもあるまいし、ムカ付いたから()るなんて人じゃないと、俺はエイム卿の事を信じている、信じてるからね、頼むよ。


 黒の外套を羽織って心地の良さそうな黒いハンティング帽子を目深に被った姿のエイム卿は、どこぞのマフィアのボスみたいだった。

 黒いマフィアなエイム卿の近くまで俺は近寄っていった。

 少し俯き加減で黒い帽子やコートから覗く淡い金糸の髪が、冬の弱い日差しでも、キラキラと光っていた。


 「あのー、何か御用ですか?」

 「、、うむ。」

 「、、、。」


 えーと、なんで俯いてるのだ?エイム卿。

 珍しく俺と全く視線が合わない。

 補佐官ヒューイも居ないから別に囁き案件でもなさそうだ。


 「ジャックは馬が好きなのか?」

 「えっ?はい、好きですね。見るのも乗るのも。」

 「乗馬は楽しそうだな。」

 「ええ、とっても。、、、、、!?」

 「うむ。」

 「エイム卿も乗りませんか?と言うか此処はエイム卿の馬場なのだし、どうです?」

 「、、、ふむ。良いかも知れないな。」

 「ええ。乗馬でなら俺でもエイム卿に勝てるかも知れませんよ?」

 「ふふ、何を賭ける。」

 「何もって言うと、勝手に何か賭けられそうなので、互いに取って置きのお酒を駆けましょう。」

 「よし、それで勝負を受けたぞジャック。」

 「はい、エイム卿。」



 エイム卿は急に元気よく馬丁を呼び、自分の馬を持ってこさせ、小屋に外套やコートを置いて俺と一緒にトラックへ出て行く。

 イヤー、エイム卿って馬まで黒いんですね。

 良い毛並みと筋肉で体高も高いっす。


 俺とエイム卿は馬に乗ってルスランと合流してトラックを3周勝負をすることにした。


 ------------


 まあ、馬場は、馬が走るには短い距離だからね。

 ちょっと俺もムキになって馬の機嫌を損ねたけどさ。

 、、、圧倒的な最下位だった、俺がね。

 ルスランも日頃は俺と軽く流しているだけだったけどマジで馬の騎乗が巧い。

 絶対に騎手に成れると思う。

 はいはい、圧倒的王者はエイム卿だよ。

 エイム卿とルスランには、後でウェットリバーから俺お薦めのバーボンを送る事にした。




 「それでジャックは何を怒っていたんだ?」

 「、、、、。」








 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




  アリロスト歴1893年   2月





  色々とジャックへ報告したい事もあって手紙を書くのだけれど、相変わらず筆不精のジャックからは何も俺に返信が無い。

 セインが「ジャックも忙しいんだよ」と俺を慰めてくれる。

 だけど俺は知っている。

 冬場のジャックは森へもハーブ園にの出れ無くて暇を持て余していることを。

 良いんだけどさ、別に。


 そんな折に兄からの伝言が届いた。


 「ロンドから出るな。」


 俺とセインは顔を見合わせて頷いた。

 鉄道橋の崩落事故が在ったから、危険回避の為に蒸気機関車で行くような、地方へ出向く依頼は断れって事ね。

 全く過保護が過ぎる。

 俺って若く見えるけどコレでも今年26歳に成るから。

 いつまで経っても「ボーイ」って呼ばれるのは俺も少し傷付くけど。

 クロエは「良いじゃない、美少年なんだからっ!」と、やや怒って俺を励ました?

 そうだね、女に年齢の話はタブーだった。

 つい、クロエが女だって事を俺は忘れてしまう、良い意味でだよ、勿論。

 こう人間的な魅力って意味で、アー、ゲフンゲフン。


 

 そんな事を想って居るとクロードが華麗にジェローム探偵事務賞の黒い扉を開き、何だかイメージが変わったパトを招き入れた。


 焦げ茶色の外套を脱いでクロードに預ければ、黒いシンプルなフロックコートに黒いトラウザーを穿き小さな黒いシルクハットを脱いで俺の左前に置いてあった椅子へ腰を掛けた。

 まあ、若干ベストの刺繍とシャツは派手だけど、俺が許せるスタイルになっていた。


 「おおー、パトが色男になってるじゃん。どうしたの?新たな恋でもした?」

 「ちっちっち、俺は何時でも色男だよジェリー。」

 「はあー、その大袈裟なアクションが無かったらパトはもっと恰好良いのになー。あっ、依頼ならロンド市内にして呉れ。兄からのお達しだ。」

 「何故ジェリーは直ぐに依頼の話をするんだい?」

 「ええー、今まで探偵事務所に訪ねて来た時は全て依頼だったし。喫緊ならジャックを捜して呉れだろ?当然、断ったけどさ。」

 「あれ?そうだったかな?ちょっと待ってよー、想い出すから、、、。」

 「別に良いよパトが思い出さなくて。クロード、珈琲を俺とセインの分を頼む。」

 「あっ俺の分も頼むね。」


 俺は小さく舌打ちをして、煙草ケースの中にある一本を取り出し唇に銜えた。

 まあ元々パトは華やかで見栄えのいい顔立ちだった。

 それがシックなスタイルに成ったことで元の容姿の良さが際立っていた。

 中身が残念で外見も残念だったパトは、良い具合に残念な一体感がありマッチしていた。

 以前のパトとは絶対に歩きたくないけど、此の俺の微妙な残念感は如何すれば、、、。



 「ホントだ、ジェリー。此処に訪問しても依頼か精算ばっかりだった。」

 「まっ、ウチは探偵事務所だから正しい使い方だよ。」

 「だろ?って言って於いてなんだけど、近頃ジェリーは慈善活動に興味出て来たらしいじゃん?」

 「うーうん、まあね。」

 「それで、今度知人宅へ招くから寄付をして欲しいんだよ。」

 「態々パトの知人宅へ行かなくても良いだろ。私は救護院へ其の侭寄付をするよ。」

 「それが今度、東地区に居る浮浪児を集めて、寝泊まり出来る孤児院を作るつもりなんだよ。それの説明もあるんだよ。」


 現在、グレタリアンにある孤児院は国教会の修道院に付設されている。

 親族が亡くなり養育出来る人が居ないけれど、生まれ育ちがハッキリしている、その教区の子供たちを修道士や修道女が養育している。

 そんな訳で捨て子の生存率は酷いモノだし、まあ犯罪者になるしか生き残る道が無いとも言える。

 まっ、兄や父親、祖父たちはそんな子供を育てて手駒にしてるんだけどな。

 如何なのかね。

 寄付だけで運営するのには限界が在るし、修道院付設の孤児院でさえ予算が厳しくて13歳に成ったら男子は色々な職場へ見習に出され、女の子も下女へと出されると聞いたけど。

 緑藍の頃の俺みたいに毒を盛られたり殺しに来る奴がいたりしても生き残れる奴も居るし、望まれた家庭に生まれても生き残れない奴も居る。

 俺みたいな考え方をしている人間が慈善活動とか悪い冗談みたいな話だ。

 あー、でも此れってセインが好きそうな話だな。

 あんまりこの手の話は碌な事が無いんだ。

 特にパトが持って来ている時点で。


 「で、強いて慈善に興味が無い筈のパトが如何して知人が行う説明会へ私を誘う気になった?」

 「いやあ俺も、その偶には人助けを、、、。」

 「ふーん。そう、そう言う事ならお断りするよ。」

 「あっ、いや、ちょう待ってジェリー。言うよ、言います。その知人のレナード・レインシーが素敵な人でさ。何とかもう少し仲良く為りたいんだよね。それでジェリーが参加するって言うと俺の友達もジェリー目当てに説明会に集まると思うんだよ。なっ?」

 「なっ?じゃねーよ。パトの色恋何か知るかよ。どーせパトの友達ってあの変態2人だろ?益々行く気が失せたわ。それに殆どパトはレナードとか言う奴の慈善活動に興味無いだろ。」

 「あれ?バレた。」

 「見え見えなんだよ。レナードって奴にも見透かされているんじゃないか?」

 「いやいや無いと思う。レナードって天使の様に無垢だから。」

 「全く、少しは落ち着けよ。折角パトが着ている服が落ち着いて見直したつうのに。」

 「そう?いいだろ。ノルセー伯爵のお薦めなんだよ。年下だけど俺の師匠って感じなんだ。中々に何処でも引っ張りだこでノルセー伯爵に会うのは難しいんだぜ。」

 「ふーん、そのお忙しいノルセー伯爵だったらジャックを見付けても会え無いじゃん。パトが必死にノルセー伯爵の為にジャックを捜してたけど。」

 「其処はホラあるじゃん。ジャックを連れて行ったら『ラビット・クラブ』の2階へ入れるんだよ。」

 「ん?『ラビットクラブ』の2階ってあの集合住宅って3階建てじゃ無かった?」

 「そうそう、でも2階に特別室が在って其処に入るにはノルセー伯爵の許可が居るんだ。日頃は勝負出来ない相手とでもゲームが出来るんだよ。」

 「ふーん。どんな?」

 「秘密だぜジェリー。王族とかさ。実はこの前って言っても結構経つけど、トルゴン帝国の皇弟も来ていたんだぜ。行きたかったけど俺はまだ入れないんだよ。」

 「へー、トルゴン帝国の皇弟ねー。」



 俺は釣り針に獲物が掛った手応えを感じた。

 トルゴン帝国の皇弟とヘクター大佐のプレイしている姿を見た人間を見付けられずにいたのだ。

 ずっと掴めなかったヘクター大佐の影をやっと見つけたと思い、俺の鼓動が撥ねた。

 さて、今年はジャックに早めに来て貰おう。

 此のロンドに風が吹き出す3月を想い、俺は味わいが深くなった煙草の煙を深く吸い込んだ。

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