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エイム迷走ス  作者: くろ
54/111

プラチナ・ブロンド



  アリロスト歴1892年    11月





 「ジャックは私の物だ!」

 「そんな事は有り得ない。それにジャックは誰もモノでもない。」


 エイム卿とウィルが冬枯れのミスティ・パークで、そんな痴話喧嘩みたいなモノが行われていた事など、露ほども知らない俺は冷え込む空気を物ともせずに、ルスランとミランズ馬場を馬に乗って駆けていた。

 当然『レコ』では無い。







  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




  アリロスト歴1892年    12月




 アルドラ元皇太子のルスランから、俺は妙に気に入られてしまい、自領のミランズにある別邸に戻って来たエイム卿から「アルドラ元皇太子のお守り」を命じられた。

 お守が必要な年でも無いだろう。

 ルスランは36歳に成るオッサンだぞ、と俺は内心でボヤいてた。

 その頃は11月も中頃を過ぎていたので俺はウィルが心配しているだろうと思い、ウェットリバーに居るジョンへと手紙を書いた。


 「エイム卿から残業命令。暫くはウェットリバーへは行けない。ジャックより」


 うん。

 簡潔で率直な手紙だと俺は自画自賛。

 ウェットリバー程は空気が澄んでいないが、ロンドに比べると自然は多く風が吹いているので、気管が弱い軟弱な俺でもミランズなら無事に冬が過ごせそうだ。

 でもって元皇太子が滞在している館で使用人を誰も就けて居ないのか?と思いきや、事情があり執事以外を総入れ替えしたとエイム卿が言い、その後は順次ルスラン付きの使用人も揃ってきた。

 俺はその事情とやらは聞きません。

 そこはエイム公爵家のお家事情だと思い込んだよ、勿論。




 婚姻する迄は、恋多き放蕩3昧な奴って噂だったルスランだが、意外に普通な元皇太子で俺は驚いた。

 いやーアルフレッド時代に強烈な放蕩じじいを知ってただけに。

 それにプロセンのフリード2世や義兄ランツ3世とか、エーデンのサディ陛下とか、真面目な変態も居たしな―。


 グレタリアン帝国の話し言葉が苦手みたいなので、俺とグレタリアン語のお勉強などを、ルスランは真面目に学んでいる。

 クリスマスが近付いた頃には、ルドア帝国訛りが殆ど無く成っていた。

 まあフロラルス語程は、ルドア語は舌の動きが大きくないので慣れて来ると、グレタリアン語の活舌習得も早かった。


 今のルスランの野望はミランズの街を歩きたいつう事なのだが、、、うーん、難しい。

 プラチナ・ブロンドで淡いアクアブルーの瞳はパッと見てルドア帝国の人間だと、分ってしまうのは仕方ない。

 アクアブルーの瞳は、まあ眼鏡でも掛ければ気に成らないが、髪の色がなー。

 昔、フロラルス宮廷で男女共々に鬘に小麦粉塗したりしてたのは、ルドア帝国のその銀にも見えるプラチナブロンドに魅せられて「尊い!」てな感じで惚れ込み、皆一斉にその色を追求し始めた。

 フロラルス王国で銀を(かつら)に塗してもプラチナブロンドに見えなくて、白い小麦粉で色を付けたら「それだ!」と為り、かくしてヨーアン諸国の公式行事の(かつら)色は尊い白になったとさ。

 何時の間にか本家本元のルドア帝国の公式なパーティーでも白く染めた(かつら)を被るようになった。

 何とも悲しいお話である。

 それも此れも自分が美しいと自認していた太陽王エル3世の所為で 尊いプラチナブロンドは白い小麦粉色したカツラに化けてしまいました。

 めでたしめでたし。







 まあそれは兎も角、(かつら)と眼鏡が在ればルスランがミランズ街の散策位は出来るだろう。

 そう俺がルスランに話した。


 「そうかっ!有難うジャック。(かつら)は何色が良いか?」

 「うーん、俺の好みは黒か褐色なんだけど、全体の色素が薄いルスランには浮きそうだね。」

 「エイム公爵のような淡い金色は如何(どう)だろうか?」

 「んー、それだと元のルスランのイメージとあまり変わんないね。どの道エイム卿の許可を得ないと駄目だから(ついで)(かつら)職人も手配して貰おう。エイム卿からのクリスマスプレゼントと言う事で。」

 「うん、ジャックに任せる。しかしグレタリアンの人間は、本当にクリスマスプレゼントが好きだな。この屋敷でも、執事(バトラー)が使用人達にエイム公爵からのクリスマスプレゼントだと言って、皆に贈り物を渡していた。ルドア帝国では考えられない事だ。」

 「あーあ、ルドア帝国では家族で長めに祈るだけだったか。」

 「ああ、祈るだけではないぞ。司祭の前で成人を迎えた少年少女は、クリスマスに聖なる泉で泳ぐ儀式がある。」

 「何と言う拷問。地図でしか知らないが、ルドアの聖なる泉って滅茶苦茶寒い場所にあるじゃん。何が悲しくて12月のクリスマス当日に、極寒で寒中水泳しないと行けないんだ。俺ならその日が命日に成る自信があるよ。」

 「意外に何とかなる。クリスマスは、静かに地上へ神の子カリントが遣わされたのを感謝して祈る日だろ?まあグレタリアンには、グレタリアンの国教会があるからその流派なのかな?」

 「ふふ、新教は関係ないよ。商人たちのアイデア勝ちと言うか、中産階級の人達に商品を購入させる方法を考えて、数多いる物書きたちにクリスマスに合う物語を書かせて、クリスマスには家族や仲の良い人達と贈り物を交換し合うのが当たり前の事だと、思い込ませる事に成功したんだよね。ジェロームに聞いたらそれ程、昔ではないらしいよ。」


 「そうだったのかい。てっきり昔からある慣習なのかと思っていたよ。」

 「まあね、そう誤認識してる人もいるしね。でも普通は人に贈り物をする時も、される時も、何かしらの理由が必要だろ?仲の良い人からでも意味もなく贈り物を貰うって抵抗があると思う。でもクリスマスの日だからと言うと許される。贈り物をする方もクリスマスの日だ、と思うと贈り物を買う敷居が低くなる。双方が心地良く幸せに為って、商品を売る側も幸せに為れる。」

 「んー?なんかジャックに説得されそうだけど、結局は商人が幸せって事だろ?」

 「クリスマスプレゼントをし合う人も幸せだと思わないと此処まで一挙に浸透しないよ。まっ、聖職者の人達の中には、此の風潮に反対してる人もいるけどね。でも俺的には年若き少年たちの為に此の風潮は続いて欲しいと思うよ。」

 「うーんっ、おおっ!」

 「そそ、まっ政略結婚する家同士には関係ないけど、中産階級の少年達が好きな子に告白する時、クリスマスプレゼントと一緒なら言い易いだろ?フラレた時の絶望度は高くなるけど。」

 「ははっ!何も少年達だけじゃないさ。わたし(ヴァー)も此れから恋に陥るかも知れないのだから。」




 それから俺とルスランは、互いの理想の女性嬢を力説し合った。

 ちなみにアルドラ元皇太子、ルスランは何と言っても女性はバックスタイルが全てと譲らなかった。

 俺は、首筋つうか(うなじ)っすね。

 、、、、マニアック過ぎるとルスランは突っ込むが、バックスタイルつうのも充分マニアだと俺は思うがなー。

 バックスタイルが最高な女性は顔も最高なんだそうだ。

 今まで外した事は無いとルスランは鼻高々だった。

 マ、マジっすか。それって。









  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





  アリロスト歴1892年    12月




  すっかり此の屋敷、下宿112Bはクロエやトマス他の下働き達と冬籠りの準備を済ませていた。

 俺も手伝ってクリスマス前にセインの引っ越し準備を終わらせた。

 歩いて約5分少し先にあるセインの屋敷は屋敷自体が小さな敷地を囲んだ塀に成っていた。

 真鍮の扉を開いて玄関に入って(しかくい)縦長な長方形の造りで、全館ホールの次に客間が在り2階を含め全部で12の部屋が在り、そして厨房が在った。

 何処となく下宿112Bを狭く小さくしたような屋敷だった。

 小さいながらも中庭があり、此処なら人通りや馬車を気にする事なく、安心してオリビアが遊べるだろうとセインと俺は中庭に出てそう話し合った。



 あの日ハンナ・マローズをドラキュラ城のようなエイム公爵家のタウンハウスへ連れて行き、俺は兄とアルドラ元皇太子に付いて話し合った。

 そして依頼人だったハンナ・マローズ嬢の事は兄に一任した。

 何か兄は彼女へ遣らせたい事も在るみたいだったし。

 今後もしハンナ嬢みたいな「アルドラ元皇太子を捜して」つう奴が来ても、問答無用で俺が断って良いそうだ。

 ルドア帝国が絡む重大な話をしている筈なのに、兄はトロリとした甘い視線を俺に向けて微笑む。

 安定の兄の溺愛ぶりにウンザリしながら、俺はもう少しジャックを兄に絡ませられないか思案した。

 うっ、ううーん。

 俺が甘く囁いてジャックに暗示を掛ける、、、とか?


 「ほら怖くない、怖くない。兄はちっとも怖くないよぉー。」


 駄目だな。

 この手の暗示がジャックに効く訳が無い。

 俺のエロ気にも全く無反応だし。

 しかしなんでジャックがあの兄を其処まで怖がっているのか俺にはサッパリ分んない。

 意外に似合いのペアだと俺は勝手に思ってるのだけども。

 ジャック観察日記へ追記事項として書いて於こう。


 「※要観察ージャックのエロの枯れ度。」



 さて、病気の兄と枯れているジャックは置いて於いて、翌日帰宅して俺はセインへハンナとアルドラ元皇太子についての大まかな説明をした。

 セインは驚いて大きく目を見開き、飴色の瞳をキラキラと瞬かせた。

 うん、可愛い。

 こんなに素直で可愛いセインへ俺は勿論、兄がアルドラ元皇太子の嫁を〆た事は言わない。

 つうか、俺も別に兄に確認して居ないし。

 兄も何も言わないし。

 互いに謂わぬが花って事は、儘ある。


 探偵事務所で、セインにアルドラ元皇太子がルドア帝国を逃げ出し、グレタリアンに入国し誘拐されてから、エイム公爵領地で隠される迄の話を終える、とセインの帰宅時刻と成った。

 引っ越したばかりで不安だろうセインの娘オリビアを放置して置く訳にもいかないので、俺はセインと一緒にクロードが華麗に開いてくれた、ジェローム探偵事務所の黒い扉から出ていった。





 この時、俺はジャックが兄に頼まれ、エイム公爵家のミランズにある別邸で、アルドラ元皇太子とヨロシクやってるなんて知らなかったのだけどね。






 一階の玄関ホールでセインを見送った後、俺は談話室で、クロエが淹れてくれたアッサムティーの香りを楽しんでいた。

 クロエが向かいの椅子に座りチラリを俺を見て話し掛けて来た。



「別にジェロームが、今はっ!、依頼料が入らない事で動き回っても良いのよ。グリーンオブグリーンの宝冠を取り戻した時迄の依頼料が結構あるから余裕なんですけどね。」

「ああー、此の一年依頼受けてる割りに無報酬が多いとサマンサは言いたいのだね。」

「まっ、早く言えば。セインに聞いたら依頼は達成が出来ていたって言うし。」

「でもねーサマンサ、競走馬シャインシルバー盗難事件、レイクゲート強盗殺人事件は、どっちも地方判事の所へ投げたしね。依頼の結果は依頼人へ教えてないんだ。つう訳で報酬は貰えない。でもって次は、拉致られた阿保のジャックへのフォローだし、ヴィクター・スノーデン氏の件はレイド警部に投げた分のアフターフォローだろ?金とか請求出来ないじゃん。あっ、でもレイド警部からは窃盗団逮捕の協力依頼料を貰えただろ?レイド警部への請求額としては可成り高額だったよね?」


「それ以外にもゴソゴソとジェロームは動いてるでしょ?」

「あははは、まあ其れは、まだサマンサには秘密と言う事で。」

「全くもう、ジェロームは解決する迄は秘密主義なんだから。」

「色々と私にも事情があるとサマンサも判ってるだろ?」

「はいはい、エイム公爵案件ね。でもジャックが心配していたわ。ジェロームは確りして強いけど自分と一緒で夢中に為ると興味がある事にしか目を向けないからくれぐれも注意してて遣ってくれって。」


「ええー、ジャックに心配されてるの?俺ってば、、、。」

「そうよ。私だって緑藍の事が心配だもの。」

「もうクロエもジャックも。2人共もう少し俺の事を信用してよー。」

「信用してるわよ、当然。でも私もジャックも緑藍の心配くらいはしてもいいでしょ?」

「うん、有難うクロエ、嬉しいよ。まあクロエからの心配は有難くいただいて於くよ。ジャックはもう少し強く成ったら考えて置くかな。」

「夏場はエイム公爵にジャックは鍛えられて居たから大丈夫じゃない?」

「ふふ、全く駄目だったらしいよ。」

「まあ、教える先生がエイム公爵だったらジャックは怯えて動けなくなりそう。」

「へぇー、良く判ったね。うん、ジャックは動けなかったみたいだよ。兄が楽しそうに話してた。」

「可哀想に。あっ、もう緑藍のカップは空ね。お茶のお替りを持ってくるわね。」

「ああ、頼むよ。良かったら珈琲を頼みたいけど。」

「ふふ、良いわよ。」


 そう言って立ち上がって、トレーに俺の空になったカップを乗せて、扉を開けてクロエは厨房へと向かっていった。

 時折、俺とクロエが2人に成った時に昔の様に互いに『クロエ』、『緑藍』と無意識に呼んで其の侭、会話を続けてしまう。

 其れに慣れると案外、ヤバいので互いに気を付けようと話し合うのだけど、つい、居心地が良くて其の侭続けてしまう。

 なんだかんだ在っても俺に寄り添ってくれるジャックとクロエの事を考えると、ついつい嬉しくなって頬が緩んでくる。

 ジャックとは大抵がくだらないじゃれ合いをして、言い合いみたいになって笑い合ってると、クロエが来て混ぜっ返す。

 セインとシェリーが「本当に3人は仲良しだね」って羨ましがってたけどね。

 『仲良し』

 つうのとも、なんか違うんだよなーと、俺は思うし、きっとジャックもクロエも思ってる。



 そんなことを想って居るとクロエが珈琲を運んで来てくれた。

 俺とクロエは瞳を合わせて、また『ジェローム』と『サマンサ』と呼び合い、次に行く慈善パーティーの予定と服装を話し始めた。

 貴族の未亡人として生きるのを卒業する為に、一度は慈善活動を休止していたクロエだが、慈善活動に参加すると商会の良い広告に為ると知って活動を再開した。

 俺はセインとの約束の為に、クロエやセインに引っ付いて、慣れない慈善活動を始めた。

 俺もクロエも打算アリ捲くりな即席慈善家だ。

 ジャックが見たら似合わねー、とか言いそうだ。


 まっ、内心では「ケっ」とか「チッ」って思って居るのだけど、取り敢えずはセインが満足そうに笑っているので、俺はソレをみて癒されている。

 なんかもうセインが居れば良いや。


 それに今年からは家が近くなったのでセインと一緒にクリスマスを過ごせそうだ。

 セインの娘のオリビアも当たり前けど一緒。

 今年のクリスマスプレゼントは、セインとオリビアとクロエの3人分を用意しよう。

 セインを妻アリッサから返して貰って、初めて共に過ごせる記念すべきクリスマス。

 今年は絶対にクリスマスを4人で過ごす為に依頼は入れないぞと、俺は決意した。

 

 俺は冬場は好奇心より癒しを取るんだよ。

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