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エイム迷走ス  作者: くろ
51/111

不屈


 アリロスト歴1892年  8月



  「私があの碌で無しのハークレをムーン岬から突き落としました。」


 アレ?

 俺がロザリー小母さんに想って居たのとは違う告白をして来ちゃった。

 俺はスノーデン氏が誰それに会いたいと言う話をロザリー小母さんから聞きたかったの。

 でもってその人からハークレが狙っていた物を推測しようと考えていたんだ。

 アレレ?

 俺の読みは外れてた?

 絶対にハークレは、何か秘密のお宝を狙ってると思ったのに。

 

 ええー、止めてよ。

 レイド警部が聞いて居たら、ロザリー小母さんの話を無かった事に出来ないじゃん。

 良いんだってば。

 あー言う性格の悪いイーサン・ハークレみたいな奴が消えたって誰も困らないつうのに。



【ロザリー夫人の告白】



 イーサン・ハークレがロンドから戻ってスノーデン氏の書斎へ行った後、コソコソと馬車も使わずに岬の方へ歩いて行く姿をロザリー夫人は見掛け、コッソリ跡を衝いて行った。

 小道を抜け近道でムーン岬へと出るとイーサン・ハークレが崖の上から下を覗き込んだ後、スノーデン氏が大切にしていたクラバットを海へ落とそうとしていたので、思わずロザリー夫人が駆け寄り其れを取り戻そうと手を伸ばした時、驚いていたイーサン・ハークレを押して、海へと突き落とした。


 ロザリー夫人が自分のやってしまった事への恐怖に怯えていると、翌日にレイド警部が屋敷へとスノーデン氏の行方を捜しに訪ねて来た。

 其処でロザリー夫人は、スノーデン氏に頼まれていた事を想い出したのだ。


 ヴィクタースノーデン氏が行方不明に成る2日前、ロザリー夫人はテラスで内密で頼み事をされた。

 

 25年前に交際していて別れた恋人が自分の息子を出産していた事を知った。

 其処で恋人の名前と住所をイーサン・ハークレへ伝えて息子の行方を捜すように命じていた。

 もう直ぐ見つかりそうだと幾度となくハークレにスノーデン氏は言われるが、一向に息子と会える気配が無い。


 不審に思ったスノーデン氏はロザリー夫人にハークレには秘密で息子の行方を捜して欲しいと依頼し、ロザリー夫人もそれを了承し、その日の内にムーンランドの街で、秘密で警察の人へ調査を依頼した。

 結果は意外なほど早く判り、その息子は現在、プリメラ大陸へ義勇兵として参戦して居ると言う報告が在り、ロザリー夫人はその警部に感謝し約束より多めの謝礼を支払った。


 現在のグレタリアンでは警察に個人的な調査を依頼しその礼金を支払うのが一般的なのだ。

 公的にもアクセス出来るし、下手な私立探偵よりも調査能力はある。

 筈なんだけどなー。

 まあ、個人的な金銭が絡まないとやる気が起きないのかも知れない。

 当然、逆もある。

 俺達みたいな探偵が調査した事をヤードに依頼料として売ったりね。


 そしてコレをスノーデン氏に報告した翌日、スノーデン氏の消息が消えた。

 ロザリー夫人は、先ず預っていた手紙をスノーデン氏が利用している法律事務所に送り、プリメラに居ると言う息子へ手紙を書いて送った。

 そしてハークレにスノーデン氏が、何処に居るかを問い詰めたが、のらりくらり躱されて答えが、得られない。

 3日目になりロザリー夫人がムーンランド警察へ行くと告げると、ハークレからジェローム探偵に捜査依頼をしてくるから待つ様に言われた。


 ハークレがスノーデン氏を害しても何も得るモノも無いのに安定した職を自ら手放す筈は無い。

 スノーデン氏の息子の事は自分の勘違いもあり行き違いも有ったが、前日に真摯に謝ったら許されたとロザリー夫人は、ハークレに謂われた。


 何一つ証拠が無い中で、ムーン岬でハークレが手にしていたのがスノーデン氏が亡き母からの贈り物だと大切にしていたクラバットだった。

 それをスノーデン氏が他人に手渡す筈が無いとそう確信した時、ロザリー夫人の身体が動いた。




 まっ、確かにハークレがロザリー小母さんに話した事は一理あるんだよなー。

 財産関係の問題なら、それこそレイド警部では無く、今この捜査に来ているムーンランドのルパート警部達の管轄だしね。

 あくまでレイド警部は助っ人で、俺はその助っ人?

 最近多くなったアフターフォローの一環?

 誰のって言えば、俺が依頼を投げたレイド警部へのね。

 こー云う面倒な地区管轄の問題があるから、俺ってば基本はロンドでしか依頼を受けたくないのさ。

 各行政区で全く捜査や裁判が変わって来るし。

 慣習法がメインなので、そもそも法律が違うしなー。



 ロザリー小母さんの自白を聞いてしまったので仕方が無いと言う事で、レイド警部は事情を話しにルパート警部の元へ行った時に、、、、なんと!ムーン岬にある洞窟で、巡査達が瀕死のヴィクター・スノーデン氏を発見したと言う報が屋敷に響いた。







※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  アリロスト歴1892年  10月




 俺はセインとムーンランドで、ロザリー小母さんの勝手に自白事件を終え、ロンドへ戻って来ると、被害者のジャックが証言する為にヤードへ付き添い、裁判の手続き(なに)かを観覧して、気が付けば10月に成っていた。


 折角のシェリーとパーシーとの婚姻式なのに、スキャンダラスなパーシーの所為で身内のみでの結婚式だったりする。

 まあ、付添人の兄夫婦と親戚のクロエがシェリー側の親族として教会へ行っている。

 俺とセインとジャックは式が終わった後の朝食会へ参加する為に、ハレリアにあるシェリーとパーシーの新居へ2人より一足早く屋敷へと入った。


 まあパーシーにジャックを紹介する儀式みたいなモノだね。

 ジャックはパーシーの家族に会いたく無いって渋っていたけど、今日紹介され無いと親族として自由にシェリーに逢えなく成るぞと、俺が脅したら嫌々ながら就いて来た。

 嘘です。

 今日パーシーに紹介されても、シェリーの親族には成れないし、友人なら2人きりに為らなければ、自由に会う事が可能だよ、当然だよね。

 相変わらずどっか緩いジャックなのだ。



 兄に護身術を習い始めてジャックは(やつ)れ始め、偶に手首や腕、足首に鬱血(うっけつ)した痕を付けて下宿112Bに戻って来ている。

 反対に、月に一度の夕食会で兄に会うと妙に生き生きと饒舌に成ってたり。

 如何やら兄は楽しんでいるようだ。

 ご愁傷様ジャック、骨は俺が拾って遣る。

 兄が俺以外に趣味が出来るとは。

 やるな、ジャック。


 俺がジャックの護身術の素養を兄に聞くと首を横に振って「まるで無い」と断言。

 素養が無いジャックに何を教えてるのか聞くと「拘束された時の脱出方法」だとか。

 いや、ジャックは兄に拘束されちゃあ駄目だろ。

 その前に兄を上手く躱さないとさー。


 「ジェローム、それをジャックに教えたら駄目だよ。ジャックが自分で気付かないと。」


 なんだか兄がノリノリで楽しそうなので内心で俺は静かにジャックへと祈りを捧げた。

 ジャックよ、安らかに。





 そんな事を考えているとパーシーとシェリーが彼等の新居へ戻って来た。

 友人達が先に談話室で、茶を飲み駄弁っているのは、如何かと思うけど、まあシェリーの付添人に俺の兄夫婦も居る事だし良いかな?

 着替えを済ませたシェリーがお澄ましディ・ドレスでパーシーと腕を組んで一緒に登場。

 女性って化けると聞くけど、マジだった。

 好奇心一杯のガキみたいだったシェリーが綺麗な大人の女性に成っていた。


 「ふふっ、シェリーが綺麗過ぎてジェロームもジャックも吃驚して言葉も無いみたいよ。」

 「う、うん、本当に。おめでとうシェリー。」

 「うん、綺麗だ。結婚おめでとう。幸せにね。シェリー」

 「うん、ジェロームの次に綺麗だよシェリー、おめでとう。」

 「わー、恥ずかしい。有難う御座います。ジェロームさん、ジャックさん、セインさん。この髪とメイクはサマンサさんにやって貰ったんですよ。パーシーにも評判が良くて。」


 俺のセインは相変わらずブレない。

 クロエもスゲーな、此れで食ってける、ああ商売にしてたわ。

 パーシーもデレデレで溶けて行きそうだ。

 兄は嫁を放置して俺とジャックの間に入り堂々と椅子に座った。

 パーシーのご両親とパーシーの兄も吃驚して俺の兄の行動を凝視している。

 あはははっ。

 あー、気にしないで下さい、皆さん。此れが我が道を行くエイム公爵なので。

 なんてことも言えないのでクロエが「兄弟仲が良くて」そうフォローをしてくれた。

 「最近はジェロームのお友達のジャックとも親密で、ね、貴方?」と、義姉エリザベートがフォローでは無いフォローをして、ジャックの呼吸を止めている。


 パーシーとシェリーが互いに目を合わせて声を出さずに笑い合ってる。

 良いんだよ?

 声に出して笑っても。

 こんな冷めているような兄夫婦でも一応2人子供が居るからね。

 長女が3歳で長男が昨年7月に生れた。

 此れで役目が終わったと兄は思っているようだけど、賢き義姉エリザベートが息子1人だけ等と、そんな不安定な状況に満足する訳が無い。

 まあ今の内は兄もジャックと戯れていれば良いと俺も思うよ。


 パーシーの家族も、高位貴族の兄夫婦と過ごす朝食会は緊張するみたいなので、2時間程ぎこちなく談笑して俺達はパーシーとシェリーの新居を辞して、下宿112Bへと戻った。










  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





  如何してもお礼に来たいと言うので今日は南セントラルの男爵邸へ行くのを休み、ジェローム探偵事務所でサナシス・モロッソを待っていた。

 いやーエイム卿に会いに俺が毎日行かなくても良いだけどな、実際。

 用事があれば公爵家のゆったり箱馬車で俺を迎えに下宿まで来るだろうし。

 しかし夏の過激な護身術の特訓はマジで死んだ。

 いや、数度あの世の入り口まで行った。

 エイム卿っていったい何者なんだ?

 別に身体鍛えてる風も無いのに、何処からでも俺を捕まえて拘束して来やがる。

 ロープは痛いと俺が泣きそうになって懇願すると、革を持って来て、痕が残るので勘弁して下さいと赤紫色の肌を見せると、リネンで作った布テープで拘束して来る。

 薄いモスリンの部屋着なんてボロボロに破れるし。

 此れを見越してエイム卿は山の様に部屋着を俺に買い与えたのかも知れない。

 そして俺はそんなに(さら)われ無いと思う。

 うん。

 そして幾ら俺でもこんなに拘束され()くらない筈、普通の悪党には。

 あのさ、悪魔エイム卿の眼光がチラリと揺らぐと俺って条件反射みたいに動けなくなるんだわ。

 『コールド』

 とか、

 『フリーズ』って、悪魔エイム卿は呪文を唱えてるんじゃないかって思う。

 それを緑藍に謂うと大笑いされて「気合で動けよ」つって言われる始末。

 だから俺は気合で何とかなるって思う奴にはこう言っている。


 「気合で何とかなると思うのはジェロームの夢見がちな幻想だ。」

 「えー、馬の妖精って言ってるジャックに夢見がちとか言われた。」



 そんな馬鹿々々しい事を俺が想い出して緑藍を見れば、スノーデン家について書いてある文書をパラパラと眺めていた。


 「ん?まだ引っ掛かってるの?ハークレがスノーデン家で起こした事件。」

 「そう。ジャックが気になるって言った時に私も気にすれば良かったよ。ヴィクター氏はまだ意識を取り戻してないしね。」

 「しかし、不屈の精神の持ち主だよな。ヴィクター・スノーデン氏は。銅像で殴られて意識を失った状態で岬から投げ捨てられても、意識を取り戻して這って波で侵食された洞窟へ行き其処で5日間だろ?運も味方したかも知れないけど、生きようとする意志が無いと無理だろ。スゲーなーと思ってさ。」


 「うん。細くて体が軽かったってのも大きいね。落ちる時に所々ぶつかった跡が在ったらしい。サマンサより少し重い程度だろうな。でも息子の所在が分かるまでは、風邪が治った後でも、余り眠れないし食べれないしで、体調を崩しがちだったらしい。息子の所在を知らされて瞳に力が戻ったとロザリー夫人は話してた。きっと意識を取り戻しますと言ってたよ。」


「そうか。でもロザリー夫人は拘置所なんだよな?」

「まあね。でも裁判が始まるまでは逃亡の恐れが無いから、一時的に出れるらしいよ。同僚や街の人が嘆願書を地方判事に送ったらしい。結構ロザリー夫人は慕われていたみたいだ。」

「だってジェロームが同情的に話をする相手だ。良い人に決まってるだろ。でも裁判かー。」

「まー、スノーデン氏が意識を取り戻してからだろうね。」

「スノーデン氏が意識を取り戻したらジェロームはムーンランドに行くのだろ?」

「勿論。」


 俺と緑藍はクロードが淹れた香ばしい珈琲を口にして、サナシスモロッソの到着を待った。

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