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エイム迷走ス  作者: くろ
48/111

友愛結社フリーメロール


 アリロスト歴1892年  6月




 実に10ヶ月以上会わなかったウィルと久しぶりに再会し、俺は圧死する程の強さでじっとりと抱き締められていた。

 ヘルプ・ミー。

 酸欠状態で意識を失う寸前に、ウィルが俺の状態に気付き、人工呼吸をしようとするも、俺は咄嗟に屈んで回避をした。

 『ちっ!』

 ウィルが舌打ちしたような気がするが、あの可愛い曾孫ウィルがそんな事をする筈は無し。

 きっと朦朧としている俺の気の所為だ。

 そう結論を出し、俺は離れにある居間のソファーにヘナヘナと腰を下ろした。


 「ジャック、久し振りだね、元気だったかい?」

 「今、ウィルに俺は殺され掛けたけどな。」

 「僕がジャックを殺す筈が無いだろ?ずっと会いたかったから力の加減が出来なかった。御免ね。」

 「まあ、死ななかったから良いよ。ずっと選挙関係で忙しかったんだろ?ウィルの身体が心配だよ、大丈夫か?」

 「ふふ、有難う。まあ忙しかったのは、選挙の所為だけじゃないけどね。パルスのエトワル宮に行ったり、ロンドのバレン宮へ行ったり案外大変だったよ。」

 「うわっ、俺は勘弁だな、肩が凝りそうだ。薬草に詳しいウィルに香草の茶を勧めるのも何だがカモミール・ティーでも入れてやるよ。丁度隣の寝室で飲もうと思って、ティーポット事持て来ているんだ。少し待ってろ。」


 ウィルも36歳の結構いい歳だから、疲労も溜まるだろうと思い、俺は急いで居間の扉を開いて寝室へと向かった。

 つか、俺も29歳だけどな。

 くそ、25歳の緑藍がマジ羨ましい。

 クロエは、、、、34歳、、、うん。お互いに頑張ろうゼ。


 2畳分の畳を敷いている場所近くに在る卓袱台(ちゃぶだい)に置かれたティーポットセットを取ろうとすると、ウィルが俺の後ろをついて来ていた。


「ジャック、此処で飲んでも良い?」

「良いけどウィルは椅子の方が楽だろう。」

「ふふ、だいぶ慣れたよ。」


 そう言って何時も俺が座る場所の隣へとウィルは腰を下ろした。

 艶のある金色の髪は少し伸びて緩やかな癖が毛先に出ていた。

 そして深みのある緑の瞳を細めて微笑む。

 うん、相変わらず整った顔立ちや雰囲気がルネに似て、可愛らしい曾孫ウィルだ。

 俺は素焼きのカップにティーポットからカモミール・ティーを注ぐ。

 少し蒸らし過ぎてカモミールが濃く出過ぎたようだ。

 でも、まっ林檎のような香りは濃くても邪魔に成らないな。


 「実はテレーゼ嬢とジョセフ・ロイの2人を婚姻させてきたのですよ。エル8世に許可を貰って、そして我が皇帝陛下にも報告して来ました。ふふ、秘密ですよ。テレーゼ嬢は平民になりますからね。」

 「ぶーっ。」


 俺はウィルの報告を聞いて思わずカモミールティ―を噴き出した。

 何やってんのさー、俺の両曾孫達よ。

 ウィルの話を聞くとテレーゼはしたくも無い婚姻をさせられそうで、オマケに母親と折り合いが悪いし、初めて出来た友人たちの住むグレタリアンで暮らしたかったとの事。

 其処でウィルが力を貸して、無事にジョセフとゴール・イン。

 あー、だから妖精ジョセフもずっと俺のハーブ園へ来れなかったのか。

 初めはテレーゼの為に頼んだ離婚するのが前提の契約婚予定だったが、気管の弱っている妖精ジョセフを、世話焼きテレーゼが甲斐甲斐しく看護する内に2人にラブ発生。

 つう訳でマジモンの夫婦に成って妖精ジョセフと曾孫テレーゼは只今ラブイチャ中。

 テレーゼは旧教徒から新教徒へ改宗した。

 でもってロイ家ではエル家の血筋が嫁に来て大歓迎のお祭り状態だそうだ。


 まー、問題起きてないなら良いよ。

 食べて行けるのかと心配したらテレーゼの父親とエル家から相応の持参金をテレーゼに送られた。

 若い18歳同士で色々と2人で頑張っていて妖精ジョセフは、9月からチェスタ・プライベート・カレッジへ入学し念願の大学生になる。

 てな訳で、寮生活になる妖精ジョセフが学校が休みの日、テレーゼの元へ帰って来やすい様にテレーゼもチェスタで暮らすそうだ。


 馬の妖精『レコ』が曾孫テレーゼに取られてしまった気分で俺はチョイ複雑。

 ウィルはエル公爵の曾孫同士の(よしみ)でテレーゼには幸せに為って貰いたいと宣う。

 うん。

 それもそうだ。

 俺のちっぽけな妄想的独占欲で、若い妖精ジョセフと曾孫テレーゼたちの幸せを願えなんて、とんでもない話だと俺は直ぐに反省した。

 つう事で、俺は曾孫ウィルと祝いの酒を飲む。

 俺はバーボンの水割り、ウィルはブランデーの杯を重ねる内に、選挙の話になった。



 「立候補者ロバート・カスタット弁護士は、少し融通が利かない所もあるけど、気持ちの良い人だった。選挙法改正の骨子も確りしていたし。だから僕も知人に紹介して、皆とスポンサーになったんだよ。」

 「おおー、ウィルがロバート・カスタット氏のスポンサーに成っていたのか。」

 「ふふ、実はあのノーロック公爵もロバート・カスタット氏のスポンサーなんだよ。」

 「えっ?ノーロック公爵って13選挙区も持って居る貴族院議員だよな。選挙法改正とかすれば彼自身の権力も弱体化するだろうに。何だってまた、そんな。」

 「ノーロック公爵はフリーメロールのメンバーでね。僕もフリーメロールに属しているから偶にクラブで話したりしているけど、理念ある自由主義者だよ。選挙法改正にも賛成しているし『人民と言う君主の為に乾杯する。』と言ってクラブのメンバーを沸かせているからね。」

 

 「へぇー、知らなかったよウィル。てっきり懐中選挙で意の侭にする議員を増やしたいだけのエラい人だと俺は思っていたよ。権力欲だけじゃ無かったのか。」

 「ふふ、それは間違って無いよ。自分の意見を施策に反映させる為だ。選挙法を改正しようとしたら先ずは下院の議員数が必要だろ?カメリアへの干渉政策にも反対してる。」

 「意外だったな。グレタリアンでそんな貴族院議員が居たなんて、知らなかったよ。しかし俺はウィルが有名なフリーメロールのメンバーってのも驚いた。余り大きなクラブとかで集まって社交をするイメージが、ウィルには無かったからなー。」


 「そう?此れでも僕は貴族の端くれなのでね、クラブで社交もするよ。それにフリーメロールは啓蒙思想が元なんだ。僕達は思想や哲学を語り合う友愛結社に集っているだけさ。そして「自由」「平等」「友愛」「寛容」「人道」の5つの基本理念のもとに様々な活動を行っているんだよ。」


 「凄いな。其処ら辺をもっと知らしめれば人々の共感を得られそうなのに。」

 「其れは僕達の望む所では無いんだよジャック。あくまでも本人が根差す自由意思での行いに重きを置いているからね。それに保守のホリー党の世襲議員だけではなく、力のあるノーロック公爵を敵視するフーリー党議員も多いから、下手な擁護は返って面倒な誹謗中傷を生み兼ねない。ノーロック公爵も貴族でもあり政治家だからね、賛成票へ引き入れる為にそう言う噂も確りと利用しているんだ。」


 「うはっ、俺の苦手分野だ。しかしエイム卿とノーロック公爵は合わなそうだな。そう言えばノーロック公爵って何歳なんだ?」

 「先月45歳に成ったよ。」

 「うーん、やっぱり俺は今まで会っていないな。」

 「そうだろうね。基本的にノーロック公爵はメンバーも自分の城へ呼ぶからね。殆どロンドへも行かないし。」



 それから俺はウィルからノーロック公爵の城塞都市のような居城ランデル城の雄大さを聞いたり、フリーメロールで、この所の注目株の思想家の話題を聞きながら、何時の間にかウィルが作ってくれている水割りを次々と飲み干して行き、心地良い眠りに落ちた。



 翌日、二日酔い気味の頭で全裸で目覚め、俺は思わず癖で貞操確認をする。

 いや、何となくウィルだしなー、つい。

 俺をベットへ運び、何時もの様に全裸に剥いてから、ウィルは本邸に帰ったようだ。

 そして、俺は下着を穿いている時に、何気なく太腿の内側を見ると、赤紫のキスマークが(しる)されていた。



 「ウィルーーーーっ、てめぇーっ!こんなヤバい友人関係があるもんかっ!」


 俺は2度と曾孫ウィルと酒は飲ま無いと固い決意をした。

 全く油断も隙も無い。

 折角、昨夜はウィルがフリーメロールに入っている意義とかを聞いて「流石は我が曾孫」と、俺は感動していたのに。

 おい、理性に則った行動かよ、コレが。


 ウィル、俺の感動を返せ。







 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





  アリロスト歴1892年   8月





  選挙が終わって俺はロンドの下宿112Bへと戻って来た。

 残念ながらと言うか当然だが、ロバート・カスタット氏は落選していた。

 そして庶民院の下院は保守ホリー党が120席で議席を減らし、フーリー党が過半数380席を得た。

 まっ、上院は選挙が無いのだけどな。

 此れは穀物関税自由化を望む有権者が多かった所為なのだろう。

 どの道その法案は、広い農地を持つ上院では否決されるけどなー。

 

 そんな事を考えながら螺旋階段を登りジェローム探偵事務所を目指すと抜群のタイミングでクロードがジェローム探偵事務所の黒い扉を開いてくれた。

 晴れ晴れとした表情をした大きな栗鼠が、いや、ワート君が俺を見て笑顔で挨拶をしてくれた。

 緑藍は安楽椅子に深く座り込み、長い脚を組んで煙草を吹かして、気怠げに此方を見て口を開いた。


 「今年は(えら)く戻って来るのが遅かったな。」

 「ああ、妖精ジョセフとテレーゼが結婚したから、チェスタへの引っ越しをジョンと一緒に手伝って居たんだ。2人はテレーゼの事を知ってるから話したけど一先ずは内緒だとウィルが話してた。」

 「へっ?、あの子が結婚したの?グレタリアンで?」

 「そう、ウィルがテレーゼの話に同情して世話を焼きウェットリバーで式を挙げたって言ってた。」

 「ふーん、アイツが同情ねー。」

 「まあテレーゼとウィルは浅からぬ関係だしな。つかジェロームはウィルを誤解してるぞ。ちょっと接触過剰なだけで優しい子だからな、ウィルは。」

 「はいはい、ジャックに取っては、可愛い可愛いウィルだもんな。そか、テレーゼ嬢は、馬の妖精と婚姻したのか。取敢えずおめでとう、、、?」

 「おい、ジェローム。馬の妖精じゃない、馬の『レコ』の妖精ジョセフだ。全然違うから、間違えないように。」

 「済まんジャック。私には全く違いが判らんけど。まあジョセフと婚姻したでオッケー?」

 「うん、そう。」

 「そかそか、コッチも目出度い話だ。シェリーとパーシーは6月に婚約した。お互いに早く子供が欲しいらしくて10月に婚姻式がある。騒がれたく無かったらしいけど無理だったよ、元々パーシーが例の花嫁スキャンダルの所為で有名人だったからな。此の下宿に迷惑を掛けたくないとシェリーは一足早くハレリアにある新居へ引っ越し済だ。」

 「ハレリアって俺が通ってる男爵邸の近くじゃ無いか。花でも送ってあげようかな。」

 「ふふ、せめて婚姻式が終わってからにしなよジャック。紹介が終わってからじゃ無いと男の名前でシェリーに花なんて贈ったらパーシーが焼き餅を妬くだろ。」

 「あっ、あー、あの事件のパーシーだもんな。有難うジェローム、注意してくれて。俺は飛んでも無い失態を演じる処だったよ。婚姻前カップルに水を差すとか、、、。」

 「ふっ、如何いたしまして。」


 緑藍は軽く笑って俺に細巻きの葉巻を手渡した。

 俺は緑藍から葉巻を受け取り、ジャケットの内ポケットに仕舞って、クロードが淹れてくれていた珈琲を口にした。

 週末に此の下宿112Bで元気なシェリーの笑顔を見れなくなるのは寂しいが、それよりも真面目そうな男と家庭を育むことに成ったシェリーの幸せを俺は願った。

 緑藍が、新居と此処の下宿112Bは近いから、落ち着いたらマーサやワーク君の娘オリビア、そしてクロエや緑藍や俺の顔を見に、時々来訪すると言っていたと俺に話した。

 少し寂しそうに緑藍は俺に話し、溜息の様に煙草の煙を吐き出した。

 そして、、、室内に切ない沈黙が落ちた。

 

 「でも何時も元気なシェリーが居なくなると僕は寂しいですよ。ホント。」

 「ああ、そうだねセイン。」

 「だよな、ワート君。」


 空気を読まないワート君の発言に救われたように、俺も緑藍もその言葉に応えた。

 可愛がっていた妹を嫁に出すと言うのは、色々と複雑な思いがするもんだと、俺は苦い珈琲のお替りをクロードへと頼んだ。








   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





 『全くジャックは、、、、。』

 俺は暢気そうに2杯目の珈琲に口を付けるジャックを見ながら煙草の煙を吐き出した。

 

 ウィルはテレーゼに同情なんてしないだろう。

 どんな事情があるにしろ。

 ジャックが『レコ』の妖精と言って、ジョセフを可愛がっているのを知り、ジャックとジョセフが互いに情が湧かない内に、ウィルは早めにジョセフを遠ざけたのだろうと、俺は推測している。

 ほぼ確信と言っていい。

 この俺にすら挑戦的な嫉妬の視線を送って来る奴だぜ?ウィルって。

 全く迷惑な話だ。


 兄と似た性癖を持つウィルはジャックを囲い込みたいのだろう。

 まっ、兄と違うのはウィルは空気が読めるつうトコかな。

 でもってジャックを上手く転がしている。

 ジャックも曾孫目線でウィルを見て敢えて転がって遣ってるのかも知れんけどね。

 しかし、俺もジャックが妖精『レコ』と話し始めた時は、「やべえーな、大丈夫か」と心配だったので、ウィルが妖精の元と(おぼ)しきジョセフを遠ざけたのには賛成だったりもする。


 此処グレタリアンは、空想の世界へ旅立つ変人も多いのだ。

 交霊術やら精霊通信やら、、、。

 案外と頭のいい奴がある日、未知との遭遇で其方の世界とコンタクトを取り始める。

 俺はウットリ妖精の森の話をするジャックに幾度、延髄蹴りを見舞って遣ろうと考えた事か。

 セインが居なかったらヤバかったんだぞ、ジャック。

 少しはセインの存在に感謝しろ。


 まー、美形好みのジャックだから、そのジョセフも美しい容姿だったんだろうな。

 ウィルが妬くほどには。




 そういやアレからパトが二度程此処へジャックの居所を訪ねて来た。

 友人のノルセー伯爵がジャックを探して欲しいと頼んで来たそうだ。

 やっぱりジャックは変人ホイホイなのかも知れん。


 「分らん。」


 そう答えてパトを追い返した俺の友情にジャックは感謝しろよ。






 俺はそんなことを想いながらセインと談笑しているジャックを見ていると、クロードが華麗にジェローム探偵事務所の黒い扉を開き、高級な黒いお仕着せを着た男を招き入れた。

 金縁の眼鏡を掛けた40過ぎに見えるその男は、俺の姿を視界に捉えると途端に相好を崩し前へと歩み出て、慇懃な挨拶をした。


 白髪の混じった赤茶色の髪を6・4で左右に撫で付け、黒の制服を纏った男が挨拶の後、口を開いた。


 「是非、私のお仕えしている主人ヴィクター・スノーデン氏を捜して欲しいのです。」

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