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エイム迷走ス  作者: くろ
42/111

極楽とんぼ


  アリロスト歴1891年  6月




  早朝出掛けて行った緑藍が、午後3時過ぎに疲れた顔でジェローム探偵事務所に戻って来た。

 アームチェアーにドカリと座るなり、緑藍は最近は待っている紙巻き煙草を吸い始めた。

 

 「ジャック聞いてくれよ。俺ってさー最悪なんだ。」

 「うーん?ジェロームはこの所、頑張ってると思うけどね。俺は。つうか俺になってるよジェローム。」

 「はぁー、別にいいよ。ジェーンに全く興味が無かったから、彼女の基本的なデーターさえ確認して無かった。ジェーンの父親はカインド銀行に関わってたんだ。」

 「カインド銀行てグリーンオブグリーンが盗難に遭った頭取の所だよな。」

 「そ、そうなると事件が変わって来る。リチャードが盗みと恐喝を偶然カインド銀行に関係ある2人になんて考え辛い。まあ、もう少しリチャードとカインド銀行を調べて見るよ。」

 「ああ、単純な金銭欲だけじゃ無さそうだな。」

 「うん、まっ、その前に一息吐くよ。ジャックは相変わらず葉巻かい?」

 「香りが良いからね。それに俺はゆっくりシガールームで煙を吸いたい派なんだ。ジェロームは結構煙草を吸うよな。煙草も種類が在るし、葉巻も置いてる。」

 「ふふ、考え事をしてると結構、吸うんだよ。ジャックが決めた分煙を守れずに御免。」

 「いいよ。俺の所長の肩書なんて紙よりも軽いから。そういやワート君は休みか。」

 「うん、まー結構長時間俺が拘束してるから、土日位はアリッサや子供に返さないとね。」

 「それもそうか。」



 俺は昨夜起きた緑藍の活劇を聞き、クロードが淹れてくれた珈琲を飲む。

 緑藍にはトーストした薄いスライスパンにジャムとバターが添えられたプレート皿をクロードが銀のトレイで運びミルクと一緒に出した。

 遅い朝食兼昼食を食欲が無いとボヤキつつ、平らげて行く緑藍を俺は微笑ましく思い眺めていた。









   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 月曜日の今日は、緑藍がトルゴン帝国の皇弟にカインド銀行から借金した事情を聞く為、フォスター氏に連れられワート君と一緒に滞在先へ訪問する予定。

 俺は大人しく下宿112Bの小さな中庭いじり。

 皇族に俺は会いたく無いし、会える身分でもないからな。

 庶民万歳だぜ。

 緑藍だが、昨日一昨日とリチャードやカインド銀行を調べる為に動いていた。

 休日だったシェリーも「何か手伝う」と緑藍に話したが「だが断る」と呆気なく拒否された。

 凹むシェリーに今回はマフィアが絡むから危険だと緑藍は説明し、シェリーを気遣った。

 まっ、それに今はマーサの子育ての手伝いや、タイプライターをマーサと練習するのに、本来はシェリーも多忙のようだからね。

 緑藍はシェリーがグランマ2号になって行くと嘆いてたりもしてる。

 それはそれでアリか、と俺は思ってるんだけどな。

 だってシェリーには、純愛マニアなクロエが側についているんだ、緑藍が心配しなくても、その内に良い人を見付けて来てくれると俺は考えてるよ。

 


 つらつらとそんな事を想い、朝の掃除を終わらせて、俺は探偵事務所に入って行くと、ラフなディウエアーに着替えた緑藍が、舌打ちしながら新聞を読んでいた。

 俺はテーブルに広げられた新聞に緑藍が、細く長い指で1つの記事へ指を置いた箇所を読んだ。


 『女性の敵リチャードを逮捕。中産階級の子女が被害に遭う。恐喝されたその写真とは~~~。』


 名前は伏されているがどの様な写真かを詳細に説明し、その写真で脅された父親が就いている企業ジャンル名も書かれていた。

 社名こそ書かれていないが、ハンシャー地方にある羊毛を使った織物会社の令嬢などと、表現されていた。

 他の被害者も同じノリで書かれている。

 説明して居たのは、如何やらグライス警部。


 「俺にしては珍しくさー、態々(わざわざ)忠告したんだよ。未婚の若い女性だから配慮して被害者に聴取しろって。下手すれば自殺者が出るぞっとレイド警部を脅して於いたのに。」

 「まー、あのグライス警部だし。ヤードも一枚岩じゃ無いんだろ。だがジェーン嬢は大丈夫かな。」

 「それは大丈夫。レイド警部の前でジェーンを写した銀板写真と銀板は破壊したから。ジェーンの父親スコーン氏も被害は無かったから訴えないと言ってたからヤードから記者へ漏れる事はないさ。」

 「そっか、良かった。曾孫テレーゼの友人だから余り酷い目には遭って欲しくないよ。」

 「まあ俺も、それがあったからジェーンの写真回収をクロード達にさせたんだ。新聞記者とヤードの連中は仲が良いからさ。若い娘には余り他人に見られたくない姿だしな。」


 「うん、あっそうだ。リチャードは南グロリアのマフィアって書いてるけど、リチャードが港近くやエンドのアヘン窟で売ってたのかね?其処ら辺の記事が無い、、、な。」

 「港近くの移民街に卸していたみたいだ。如何やらリチャードはアヘンを卸す場所や量を差配していたみたいだ。何ヶ所か店を特定出来たから調査はするようだ。関税払わずにアヘンを輸入してたから脱税調査に成るだろうけど。」

 「はあー、そうだった、此処じゃあ違法じゃ無いんだよなー。アヘン。」

 「まっ、でも今回のリチャードの恐喝事件でアヘンの規制は議会で話し合われるさ。今までは医師達が議員達に陳情していただけだったけど、グロリアのマフィアが絡むとなると問題だからね。」

 「医療用のモルヒネはもう作られてるんだから、アヘン自体が不要だよ。ジェロームも今は使ってないみたいだし。」

 「ふふ、そうも行かないのさジャック。グレタリアンの薬品会社が大手を振って遣ってる商売だからなー。新聞にもアヘンについては余り記載が無いだろ?」

 「うん。取り合ずは輸入規制だけでも掛けられるといいな。」

 「そうなるんじゃないかな。つか其処ら辺が妥協点だろうね。関係者議員とそうでない議員との。」


 そんな事を話しているとワート君は黒い扉を開けてジェローム探偵事務所へと入って来た。

 クロードが助手のワート君の扉を開いてあげないのは仕様だ。

 ワート君を待っていた緑藍は煙草の火を消し、勢い良くアームチェアーから立ち上がった。

 そしてトップハットを被り、ステッキを手にして、緑藍はイソイソとクロードが開いた黒い扉から、ワート君と共に出て行き、フォスター邸へと向かった。








   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




  俺はセインと一緒にフォスター氏について行き、ロンドで一番高ビーな高級ホテル、グランドキャッスルの迎賓室へと入って行った。

 高級感あふれる豪奢な部屋にセインが緊張し始めた。

 ゆったりと座って待つトルゴン帝国の皇弟に挨拶をして、勧められた椅子へと俺達は座り、高貴な生まれの彼から俺達は話を聞いた。




 賭け事が好きなトルゴン帝国の皇弟。

 その日も紹介された「ラビット・クラブ」に行きトランプを使った勝負をしていた。

 始めた頃は皇弟が勝っていた。

 其処にヘクター大佐が一勝負混ぜてくれと皇弟のテーブルに来たので了承した。

 皇弟は仲の良い者とヘクター大佐に「ラビット・クラブ」で大負けをした。

 初めのルールで勝負はその日の内に精算すると言う取り決めが為され、皇弟が熱くなった状態で高レートへと切り替わり最終的に7万ポンドの負けになった。

 プレイしていたヘクター大佐に12日待って貰えれば本国から資金が送られて来る事を話すと、それならばと、業績が伸びていたカインド銀行の頭取に融資を頼めばいいと皇弟へ答えた。

 皇弟が持つグリーンオブグリーンを担保にすれば、必ず融資をしてくれると言い、その位の日数なら待てるといった。

 ヘクター大佐はイラドへ行く任務があった為に精算の日を区切ったのだ。


 そう語り終えると、トルゴン帝国の皇弟は従者に金利分を足した金貨を運ばせ、フォスター氏へ融資額全てが有るかどうかを、確認するように告げた。

 フォスター氏と銀行員は2人でギリー金貨を確認し終えると、無事に取り返したグリーンオブグリーンが嵌った宝冠を皇弟へと恭しく返した。


 トルゴン帝国の皇弟は助かった事への礼をフォスター氏に伝え、トルゴン帝国に来た時には自分を訪ねる様にと告げてホテルの迎賓室の豪奢な扉から従者と護衛と共に足早に去って行った。


 皇弟と一緒にプレイしたのはトルゴン人の友人とグレタリアンの知人サイモンとヘクター大佐。

 カインド銀行に融資を勧めたのはヘクター大佐。

 カインド銀行やフォスター氏とトラブルを起こした人間の中にヘクター大佐つう人物は居なかった。

 如何考えてもイカサマじゃん。

 ちっ、

 また調べる人間が増えたぜ。

 トルゴン帝国の皇弟からは、翠玉の宝冠を担保にした事は内密にして欲しいと言われるし。

 まあ下手に「ジェローム探偵お手柄」つって騒がれるより秘密にしてくれる方が俺も良いけどね。

 何せ今は、フロラルスから密航して来たジャックの曾孫テレーゼが居るし、俺の周辺に記者が取材に来てうろつかれる方が断然、困るからな。


 軽く口を開けて、豪華なホテルの空気に飲まれているセインの左腕に、俺は右腕を絡ませ力を込めて引っ張り、セントラルの表通りを目指して歩いた。



 『1ギリ金貨ー=2ポンド 1ソフラン金貨=1ポンド』










   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





 全くウチのジェローム(もとい)緑藍は、、、。


「ウィルの依頼を解決したのセインじゃん?だから諸経費を引いたウィルの依頼料は、セインに全て振り込んでよ。お願いサマンサ。」


 まあ、緑藍のお願いはエイム公爵との契約で、私は極力叶えないとイケませんから、遣れと言われれば遣りますよ。

 当然ね。

 500ポンドのウィルから振り込まれた金額を想い出し、私を含めた人件費と馬車代、光熱諸経費を引いて、セインに振り込むのは切り上げて約412ポンドね。

 セインにも報告して於かないときっと驚くわ。

 ジャックから聞いていた日本円換算にすると約1千万円近くなるんだもの。

 平均を出す事は難しいけど、近所の人達の週平均収入は約53シリング、ポンドに直すと2ポンド13シリングで、まあまあ収入が良い方だと言う話。

 セインの住む高級住宅街の人達程の収入は無いけど、使用人はギリギリ1人雇える位の家庭が多い。


 それを考えると緑藍が稼ぎ出す依頼料金って凄いんですけどね。

 中身があーでも。

 ジャックは私の事をプチブルとか小金持ちって誤解しているけど、其処まで左団扇ではありません。

 稼いでも出ていくんですよ。

 先ず税金対策に税務士を雇っているし、年棒高いのよ。

 だってグレタリアンの税金て一つ一つに事細かく掛かってるから私の理解では無理。

 そして揉め事が起きた時の為の顧問弁護士。

 この人ってエイム公爵の紹介なんだけど、最初は希望の報酬額を聞いて断ろうとしたぐらい。

 エイム公爵から平均的な弁護士ではトラブルに成ったら負けて借金を背負うと説得されて渋々。

 でもって、寡婦の方で働きたい女性に化粧石鹸や化粧水、白粉等を週給4~12シリングで23人程、雇用している。

 えー、従業員が何故寡婦なのか、それは人助けの為、と言う事にしてくれると私は嬉しいかな。

 勿論、利益は出してます、はい。

 なんか資産を増やしとかないとウチの極楽とんぼ達がどーなるか判らないから。

 極楽とんぼ達?

 あはは、緑藍とジャックに決まってます。

 フワフワして地に足ついてないと言うか、着ける気ないと言うか、、、。


 私とか本当に忙しくて大変だったのにも気付かない位だもの。

 でも、まっ、エイム公爵が何時もギリギリでアシストしてくれるのが有難い。

 画家1人増えるから大変だろうと、メイド見習いのサニーと雑役夫としてポーターのロビンを、雇ってくれたので、大助かりです。

 案外1階の雑用を手伝ってくれるトマスからエイム公爵へ報告してくれたのかな?


 よし、と。

 一先ず収支を記載出来た。

 仕方が無いので緑藍の願い通りに、セインの口座に振り込む為に銀行へ行きますか。


 私は机の上を片付けて、椅子から立ち上がった。

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