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エイム迷走ス  作者: くろ
38/111

運試し


   アリロスト歴1891年   6月






  自称「アリス」のテレーゼ嬢は彼が浮気していると友人ジェーンに暴露した。

 恋愛ラブラブ桃色マックス状態のジェーンは、不快感を露わにしてアリスとは暫く会わないと告げて、アリスの前から立ち去った。

 父親は民間銀行に勤めソコソコ成功している家だったので、しがないガラス職人だと言う彼リチャードとの結婚を父親は許す筈が無い。

 そんな切なく誰にも言えない悩みをアリスにだけと、ジェーンは信頼し相談して居たのだ。

 「女性と買い物をしていただけのかも知れない恋人リチャードへ一方的な疑心を向けようとした」とジェーンはアリスに心底失望したと言い放った。

 落ち込んだアリスはロンドで出来たもう1人の友人クレアの家へと行き、ジェーンと喧嘩してしまった事を名を伏せて相談していた。


 そしてクレアの家で宿泊している間に、ウィリアム・ベラルド伯爵達がパトリックの屋敷へアリスを迎えに来ている事など、当然知る由もない。




 自称アリスのテレーゼも事実確認もせずに、恋人の浮気話をしたことに反省して、今日の午後4時、ジェーンの屋敷へ謝りに行った。

 屋敷を訪ねると何時も応対してくれる侍女が、アリス様に会いに行くと言って、午後1時に出掛けたとアリスへ怪訝な顔で答えた。

 アリスはジェーンが自分に会いに行くと偽って恋人リチャードに会いに行ったのだと感じた。

 侍女には此れから会うと誤魔化し、辻馬車に乗り気分転換に貸本屋に入り、織女用のリーディングルームに入り、オペラやコンサートのパンフレットを読み、何の気なしにテーブルに置いてあった新聞を手に取り目を通していると彼女の目が止まった。


 「女性の身元不明遺体マーム川で上がる、心当たりの方ヤードに連絡を」


 そう書いた記事の横には女性のラフに描いた絵が載っていた。

 その絵の特徴はリチャードと共に居た女性だった。

 ヤードへ届けようと思っても、身元は見掛けただけで誰かも分からない。

 それに何かジェーンにも危険が迫っている気がアリスにはした。


 そう感じたアリスは辻馬車を拾い、ミルフェア地区の裏へと向かい、あの小さな古い屋敷へと、入って行った。

 人の気配がしない屋敷内に入り、部屋を2つ通って3つ目の扉を開けるとガス灯に照らし出されて、寝椅子に力無く転がっているジェーンの姿があった。

 慌ててアリスはジェーンに駆け寄った。

 焦点の合わない菫色の瞳に、ドレスを乱され、しどけない姿にされているジェーンが居た。

 反射的にアリスはジェーンの捲くれ上がったドレスの裾や緩められた胸元を直し整えた。

 呼吸が在るけど様子が可笑しいジェーンを助けなければと暗くなっている部屋から出る為にガス灯を持ち、玄関ホールへ向かい何時もの癖でガス灯を消して、飾り棚に置き外へ転び出た。



 そして、セインにぶつかった。





 テレーゼ嬢の長い話が終わり、俺は彼女に一息入れる様に告げて、クロードが用意していたカモミールティ―を勧めた。


 「でもアリス、ミルティア地区なら直ぐに辻馬車でヤードへ行けるんじゃない?」

 「、、、はい、今から思うとそうなんですけど、ジェーンのあのしどけない恰好を見てしまったので騒ぎにせずに何とか納めないと駄目だと言う事ばかりが頭の中でグルグル回って、そしてただジェーンの屋敷に向かって歩いていました。其処でぶつかったワート先生が優しくて紳士だったので縋ってしまい、御免なさい。」

 「ふふ、まあでもセインに縋ったアリスの判断は正しいよ。」


 俺はそう言ってクロードに、ウィリアム・ベラルド伯爵とジェーンの屋敷へと連絡するように、と頼んだ。



 「さて自称アリス嬢、フロラルスから君の迎えが来ているよ。」

 「えっ、そんなバレて。あっ、で、でも帰国するなら、せめてジェーンが意識を取り戻してから私は帰りたいのです。」

 「まあ、それは私を説得するのではなく、恐らく迎えに来るだろうベラルド伯爵達をアリス嬢が説得してくれ。私への依頼はテレーゼ・グレーム嬢の捜索と保護だからね。ベラルド伯爵が迎えが来る迄は大人しく待っていてくれ。」

 「、、、は、はい。」



 俺はセインにジェーンの看護を任せ、トマスに伝言を頼み終え戻って来たクロードへテレーゼ嬢の保護と監視を頼み、シガールームへと歩き出した。

 シガールームに辿り着いた俺は、ゆったりとした安楽椅子に身体を沈め、ジャックの好きな細い葉巻を切り、火を点けた。

 騒がしかった一日を振り返って俺は薄い煙を吐き出した。


 つうかマジでウィルよ、俺に妬いても仕方ないぞ。

 ジャックがウィルに靡かないのは、精神がお前の曾祖父さんだからだ。

 ギラギラと獰猛な視線を俺に向けて来た今日見たウィルの顔を思い出す。


 「マジで曾孫ウィルは可愛い。」


 若い癖に好々爺なジャック。

 あのウィルの何処が可愛いのか知りたいモノだ。

 可愛いつうのはセインみたいな人畜無害な奴の事を言うのだ。

 狂暴な肉食獣ウィルを可愛いと言えるのはジャック位だ。



 俺は明日から忙しくなる予感に伸びをして、一先ず疲れた頭を休める為に寝室へと向かった。








  ウィルと2人で夕食後、まったり寛いでいると執事からジェローム探偵事務所からの伝言。

 俺のもう1人の曾孫「テレーゼ・グレーム保護、回収はよ!」てな感じ。

 余りの緑藍の早業にウィルも吃驚していた、俺も当然、驚いた。

 午前中に探偵事務所でウィルの仰天依頼を受けた緑藍が何と夜には依頼達成している。


 「いやー流石はジェローム探偵ですね。」


 そう緑藍を褒めてウィルは清々しい表情で俺に微笑む。

 ウィルに頷きながら俺達は下宿112Bへと馬車で向かった。


 黒いジェローム探偵事務所の扉が中から開き、俺とウィルはクロードに誘われて、小さな少女が居る場所へと辿り着いた。


 「あれ?クロード、ジェロームは?」

 「はい、今日は疲れたようなのでお休みになられました。ベラルド伯爵、此方が今回の依頼料になります。それと探されていたのは、彼女で間違いは在りませんか?」

 「ええ間違い無く、彼女がテレーザ・グレーム嬢だ。支払いは明日にでも振り込ませよう。そして初めまして、テレーズ嬢。フロラルスから貴女の保護を依頼された私がウィリアム・ベラルドです。」

 「は、初めまして、ベラルド伯爵。此の度は私の為にご迷惑をお掛けしました。申し訳ありません。で、でも迷惑序にもう1つお願いが或るのです、」

 「ん?私が出来る事でしたら。」

 「は、はい、あの私の友人であるジェーンがアヘンで中毒を起こして仕舞って、未だに意識が戻っていないのです。ジェーンの治療をして下さっているワート先生が明日か明後日には目覚めると話して下さいました。ですからジェーンが目覚める迄はロンドに滞在して居たいのです。宜しいでしょうか?」


 「うーん、そうですね。僕の指示に従うと言うのならば許可をしましょう。テレーゼ嬢は書類上、グレタリアンに入国して居ないことに成っていますからね。」

 「は、はい。」

 「おいおいテレーズ、アヘン中毒の友人て、、、。」

 「あの違います。恋人のリチャードに使われたんです。慣れて無いから身体の負担が大きかったのだろうとワート先生も仰ってました。えーと、、貴方は?」

 「ふふ、彼は僕の友達のジャック・スミス氏だよ。とても良い人だから怖がらなくても大丈夫。」

 「あっ、あー、済まん。アヘン中毒って言葉が耳慣れなくて、焦ってしまった。俺はジャック、平民だからジャックと呼び捨てで頼むよ。なんかウィルにスミス氏って言われると変な感じだな。」

 「あははっそうだね。言った僕も違和感があった。そう言えばそのジェーンとワート医師は?」

 「はい、セイン氏は現在、ジェーン嬢を看護する為に、彼女のご両親と共に屋敷へと向かっている所です。」

 「有難うクロード。ではジェーン嬢が気付いたら僕のタウンハウス迄知らせてくれ。」

 「畏まりました、ベラルド伯爵。」

 「さて、夜ももう遅い。テレーゼ嬢、そろそろ行きましょうか。それとジャックも僕と一緒に帰ろうか?どうせならジャックもタウンハウスで一泊してみるかい?」

 「流石に遠慮するよウィル。折角久し振りに下宿へ戻れたんだ、ゆっくり自分の部屋で眠るよ。」

 「そう、寂しいけど仕方ないね。じゃあ、ジャックお休み。」

 「うん、お休みウィル。テレーゼ嬢もさっきは御免ね。気を付けて帰るんだよ、お休み。」

 「いえ、此方こそ。おやすみなさい。」



 クロードが開けた探偵事務所の黒い扉から、ウィルがテレーゼを滑らかにエスコートして、出て行く後ろ姿を俺は静かに見送った。

 どちらも俺の曾孫同士か。

 ウィル約188㎝、テレーゼ約157㎝、親子みたいな身長差だな。

 俺は此れから未来に歩いて行く、ウィルとテレーゼの背中を見て、何とも言えない感慨に耽った。


 「幸多かれ」


 そう俺が2人を想って願う事くらいは許されるよな。


 年頃の娘であるテレーゼに接する事の難しさをも俺は考えた。

 はあー。

 曾孫と思うと色々な感情が溢れ出して、中々シェリーに話すように気楽に話せない。

 つい、俺はテレーゼに王家の血を引く者の心構えとかを、説教しそうになる自分を抑えるのが、大変だった。

 まっ、曾孫同士だと言うウィルとテレーゼの関係を判っているから、ウィルなら其処ら辺のフォローはしてくれそうだ。

 でもってテレーゼに、くれぐれも見掛けが良くて愛想のいい奴は信用するなと言って貰おう。

 気が付けば、クロードも隣にある家に戻り、考えに耽っていた俺は、1人探偵事務所の中に居た。

 そして静かに椅子から立ち上がり、大きく伸びをして、俺は黒い探偵事務所の重い扉を開き、通路に向かって足を一歩前に踏み出した。


 





 昨夜は精神がいっぱいいっぱいだった俺は珍しく遅起きだった。

 何時もは夜明けとともに動き出せるのに、棚に置いた時計をチラリと見れば、朝8時前。

 手早く着替えてクロエの麦茶を貰おうと、俺が部屋の扉を開き、一階の玄関ホールに降りて見たら、エイム卿の従僕が直立不動で待っていた。


 アウチっ。

 君達、早過ぎないか?

 俺はドナドナされて、南セントラルの男爵邸に居る悪魔エイム卿へと差し出された。

 生贄の羊として。


 今朝は何だかオシャンティーなエイム卿。

 シルクのペールグレー地に銀糸で蔦が絡まり捲くっているデザインが描き出され、銀の揚羽蝶が2匹舞ってるウエストコートを着込んだりしている。

 何時もは悪魔らしく黒ばっかりなのに。


 淡い金糸の髪を後ろに流して整え、細く高い鼻筋に淡い金の口髭がエロく手入れされている。

 こんなに美形なんだから、チョロっとナンパでもしに行けば良いのに。

 色々な女性と出逢えば緑藍より美人と出逢えるかもよ。

 例えば俺の嫁、パルテの戦乙女みたいな。

 えーと、念の為、俺はモノ・フェチじゃ無いから、此れは絶対。

 あー言うパーフェクトフェイスな女性が、何処かで実在しているかも、、、知れない。

 うん、きっと実在する筈。

 そんな能天気な事を俺が考えていると、ゾクリとする冷たい眼差しでエイム卿は囁いた。


  「ミンティア地区にアヘンは不要だ。」



 はいっ、不要っすね、と俺は補佐官にスルーパス。

 つか、いい加減にグレタリアンは、アヘンを規制すれば?医療用だけ除いて。

 碌な事に使われてなさそうじゃん。


 「スターリバールのリバール港、セクターズのセクター港、ジャックは?」



 ええーー、選べつう事だよな?

 ウェットリバーに近いのはリバール港だけど何か近いとチェスタの時みたいに巻き込まれるかも。

 あうっ、エイム卿が苛ついて来て、金糸の細い髭がプルプル震え出した。

 ままよ。


 「えーとセクター港?」

 「うん。そうか、、、、。」


 何か、エイム卿が長考に入りました。

 ところで俺は、何で港を選ばされたんだ?

 えっと先程までの報告だとルドアのイラド侵攻状況で、うん、こっちの港は関係ないな。

 それと、ミンティア地区にアヘンが不要からの、---------港。

 若しかして密輸アヘンの調査する場所を選ばされたり、は、しないよな。


 「セクターズのセクター港を調査。」


 俺はエイム卿の囁きに条件反射で補佐官へパスをした。

 マジっすか。

 「何方(どちら)にしようか神様の言うとおり~」の運試しじゃ無いんだからさ。

 リバール港とセクター港との2つなら両方調べろよ。

 俺に選ばせて何も出なかったら如何すんだよ!

 すんすん、責任の重さに俺は、胃が痛くて泣けてくる。


 整った麗しい容姿で、補佐官が読む報告書に聞き入るエイム卿、そしてエイム卿の囁きを待つ俺。


 やっぱり俺は思うんだけどさ。

 コレって俺をイジメてるだけだよな。

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