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エイム迷走ス  作者: くろ
32/111

飛び火

  アリロスト歴1890年  10月



  何時の間にか秘密基地の様に成っている3つの部屋を俺はソッと閉じで胸の中で封印した。



 世の中は如何やら淑女達が婚姻先をお求め溢れている様なのだが、生憎俺にはお呼びが掛からない。

 何故こんな話をするのか。

 うん。

 それは悪魔エイム卿が囁いているからだ。

 余り煩くない労働力として本格的に女性をタイピストとして雇用することに成った。

 今回の議会で。

 女性なら労働環境に文句を言わないだろうと言う事らしい。

 何でそうも都合良く楽天的に物事を考えられるのか、俺には不思議で仕方ない。

 クロエを見てみろ。

 逆らえない風格があるから。

 あの我が道を行くジェロームだってクロエには「イエス」つって素直なのに。


 コンパニオンに求人して来る淑女がターゲットらしい。

 中産階級の若くて美人な「大人しい」従業員急募だってよ。

 もう下心スケスケのオッサン臭がする。

 下院議員の皆はエイム卿を見習って空気で男の従業員を従わせて貰いたいもんだ。

 エイム卿曰く、女を使う意義を見出せない。

 いやぁー元々、エイム卿は人を使わないでしょ、命じるだけだし。

 つか部下たちは雇ってるかも知れんよ?

 そんな俺の内心の突っ込みを無視してエイム卿が俺に囁く。


 「如何やら労働者達は「治安六法」を掻い潜り、パブリックハウスに集まっている。」


 俺のエイム卿からのスルーパスに補佐官がそそくさと部屋を出て行った。

 その後、シガールームに誘われ俺好みの細い葉巻をエイム卿からゴチになる。

 

 「近頃ジェロームが又、パトリックと言う輩と会うようになった。」


 淡い金の眉根を寄せて呟きエイム卿はエロい溜息を吐いた。

 俺は会った事は無いが「女には最低な奴」と緑藍に謂わしめる強者、パトリック。

 

 「パトリックに連れられミルフェアへ行きジェロームがノルセー伯爵に心を奪われ無いか心配だ。」


 もうさ、エイム卿ってば補佐官や部下が居ない所じゃこうして俺と普通に話せるんだぜ。

 照れ屋さんか、エイム卿って若しかして?

 はは、無いな。

 緑藍独りでミルフェアへ行くことはあるかも知れないが、パトリックに連れられては無いと思う。

 ファッションセンスが変わらない限り共に何処かに出掛ける事は無いと緑藍が話してた。

 それに、意外にも緑藍はでっかい栗鼠のセインを大切にしてるから、今は他に行かない気がする。

 つっても如何いう訳か緑藍とセインはエイム卿からしたらスルー案件ぽい。

 やっぱりセインが貴族じゃない所為かな?

 まっ、其処ら辺は触れない方が良さそうなので俺も放置。

 緑藍は昔の乱れ放題のジェロームじゃ無いから安心しろ。

 んな事もエイム卿には話せないしなー。


 そうやって悩んでいるとエイム卿から俺に最重要指令が来た。


 「ジェロームの傍に居てジャックがジェロームを守れ(ノルセー伯爵から)。」






 俺なんか行かなくてもクロードやトマス、夜と土日は居ないがセインも居るしとも思うが、この豪華な男爵邸に居るより、緑藍やクロエのいる下宿112Bへ戻る方が断然マシなので喜んで帰って来た。

 一月ぶりに俺は黒いジェローム探偵事務所の入り口を潜る。

 扉は素晴らしいタイミングでクロードが開けてくれた。


 「ただいまジェローム。そしてセイン。」

 「おー、お帰りジャック。無事に釈放、おめでとう。」

 「お帰りジャック。久しぶりな気がするよ。」

 「ははっ、確かに有難う。まあジェロームをノルセー伯爵から守れって任務付きだけどな。」

 「全く、心配し過ぎだ。兄にはそんなに私が飢えて見えるのかな。そう言えば、兄は私に肖像画家を付けたいらしい。ジャックから勧めだと話していたけど本当?」

 「うん、すまん。フロラルスからの穀物援助の件で空気が悪かったからつい、、。」

 「あーあー、アレかー。まっ、良いけどね。そう言えばパトが事件に巻き込まれてたんだよ。奇妙な事件だと思ってリットンのホテルに一泊して翌日私が調査したんだ。」



 寝椅子に朱とオレンジ色したインド綿で出来た大きなクッションを背にし寝転がり、パールグレイのシルクガウンを羽織った両手を胸元で組み緑藍は話し始めた。




 パト以外の関係者に話を聞く為に辻馬車の御者をパトの従僕フランクに呼んで来て貰った。

 緑藍は御者にサブロム氏と「どんな話をしたのか」を尋ねた。


 「その色男の旦那パトを駅に迎えに行った3日前にサブロム氏に尋ねられたんだ。3日後丸1日貸し切りにしてくれるかと。大切な客なので間違えない様にと色男の旦那の似顔を見せられ3日後に駅に迎えに来て地図に或る屋敷迄連れて来てくれたら残りの2ポンドも払おうと、その時に前金を1ポンド渡して貰ったんだ。」

 「では残り2ポンドは?」

 「屋敷に送り届けた時に支払ってくれた。」

 「屋敷にパトを送り届けた時に、他に人間を見なかった?」

 「いいや、自分が見たのは其処のパトリックと言う人とサブロム氏だけだ。彼をホテルに送るように頼まれていたから厩舎で待っていた時も誰も見なかった。夜20時に屋敷前に色男を迎えに行きサブロム氏に言われた通りにホテルに送り自分の仕事を終わらせた。此れで全部だ。」


 そして屋敷に入った時はパトリックとサブロム氏が2人だったが、屋敷を出て来た時はパトリック1人だけだったとも付け加えた。

 緑藍は礼を御者に告げた後、屋敷迄連れて行って欲しいと頼み、事件現場へ向かった。

 当然パトリックの同行を緑藍は断り、ワート君と一緒に2輪馬車へと乗り込んだ。


 ロンダ村へ行く道から離れ林を抜ける細い道の先には灰色の石壁が黒ずみ燃えるところは全て燃えた無残に燃え残った屋敷らしきものが在った。

 空気に解け切らない油脂とアルコールの臭いと炭化した木材や土、室内に在っただろう革の臭いが残っていた。

 林の小道から正面の玄関から客間、談話室、晩餐室、ホールが焼け落ちL型の奥にあった寝室や居間、書斎は炎が舐めた跡が有ったが延焼は免れていた。

 意図的に燃えやすいモノを集め談話室に火を放ったのだろう。


 緑藍がモートン警部に話し掛け遺体が起これているらしき談話室に進み、布が被せられている其れの検死をワート君に任せ、ワザとらしく残っている床と壁の弾痕を調べた。

 ワート君に検視結果を聞いた緑藍はモートン警部に尋ねた。


 「モートン警部、リットン警察での検死は?」

 「一応、ロンダ村の医者に見せたが此処まで炭に成った人間を調べるのは無理だそうだ。」

 「そうですか、でもセイン・ワート医師の見立てでは恐らく人間では無いだろうとの事です。幾ら焼けていても歯や骨は残ります。少し炭化したモノを崩して見たそうですが人の骨では無いそうですよ。そうだね?セイン。」

 「ええ、念の為に骨を大学で鑑定して貰えば、ハッキリします。」


 唖然としているモートン警部を残し、緑藍とセインは残っている部屋や、使用人屋敷を調べた。

 小さく区切られた8つの部屋で区切られた使用人屋敷の中を緑藍は杖を床で突き鳴らしながら用心深く歩き一番奥にある使用人部屋の床を幾度となく叩き、懐からナイフを出し床の木の継ぎ目に添わせた。


 緑藍はワート君にモートン警部と幾人かの巡査を連れて来させた。

 そして緑藍は指示した場所をハンマーで壊させた。

 壊れた場所から皆が覗くと、其処は地下室に成っていて老人と女が奥で縮こまり震えていた。



 「初めまして、サブロム氏。少しお話を聞かせてください。私はジェロームと申します。」


 緑藍は暗がりで振える老人達に優雅に挨拶をし、美しい微笑を浮かべた。

 ワート君はその時の情景を思い浮かべて、そう俺に話を付け足した。



 モートン警部が事情を聞く時に緑藍とワート君も同席させて貰った。

 

 元々サブロム氏の配管工事の会社が立ち行かなくなり借金から逃げる為に偽装自殺を企てていた。

 此の屋敷がロンドの不動産屋で売りに出ているのを知り、計画した。

 リットンの此の屋敷は15年前に工事に入ったことが在り、屋敷の事を良く知っていたからだ。

 サブロム氏が着々と準備を進めていた頃、彼の心酔していたオペラ歌手リリー・マグリットの死を知り、悲しみのあまり準備の手が止まる。


 そして次々と出て来たリリーマグリットとパトリックの醜聞。

 自ら心酔していたリリー・マグリットをパトリックに奪われ歯噛みしていた時に、事も在ろうかリリーのライバルであったオデットを助けたと言う記事を読み、サブロム氏の怒りは限界を突破した。

 そこでパトリックに自分を殺させようと思い付き、新たに準備を始めた。



 残っていた従業員3人に協力をさせ、羊や兎で作ったサブロム氏擬きを丁寧に焼き、屋敷に火を放った後、従業員の男二人に金を払って旅立たせ女性従業員と警察が居なくなるまで地下暮らしをしていた。

 緑藍が暴力的な「お邪魔します」をする迄。




 「何だろう、愛なのかなコレも。恋人だった男に怒りって、ファン怖いわ。俺なら限りない灰色のセリーヌに怒りを向けそうだけど。」

 「嫉妬と言うより八つ当たりだよね。急遽パトを犯人に仕立てる事にしたから雑になるし、当初の目的通り偽装自殺だけならサブロム氏の計画は成功したと思うよ。」

 「ふふ、現場にジェロームも出て来る事も無いしな。」


 「まあな。それにしても老いらくの恋は激しいよね。ジャックも早めに恋した方が良いかもよ。そうだ、恋と言えばサブロム氏と一緒に居た女性は失意のサブロム氏を今後も支えたいそうだよ。」

 「えーと横柄なメイドだったとパトリックが証言していた30代くらいの女性か。」

 「そうそうサブロム氏が62歳だったから。うーん、人が人を慕う想いって不思議だよね。」

 「だな。でもサブロム氏は仕事も失敗して此の件で犯罪者にも成ったのだろう?支えるつうても難しそうだ。そういやパトリックの親戚と言う話は?」

 「勿論嘘だよ。パトを調べていて祖父の弟が行方不明だと言うを知り、為り澄ますことにしたそうだ。案外死刑はないが重い罪に為ると思う。協力者であった彼女にも何らかの罰は下るだろうが重いモノには成らないだろう。自由になってからサブロム氏を支えるのかもね。」



 「何だか商売にも失敗したサブロム氏が、失恋したもした八つ当たりの飛び火で、パトリック氏は火傷をする。実際にジェロームが事件を解決し無かったら殺人犯かもと言う噂でパトリック氏もそれなりに社交界で被害を被っていた気がする。一応は議員だし。」


 「あー、そっかパトは議員だったわ。忘れてた。」

 「確か打ち壊し運動を弾圧するのに反対して立候補してた気がするよ。貴族なのに下院て珍しいから覚えてた。まっ、それぐらいしか知らないけどな。再来年は半数入れ替え選挙だな。」

 「私には関係ないな。土地を持たないジャックも。そう言えばジャックの実家はどうなってる?」

 「さー、徴募に応じてイラド行ってから会ってない、10年位か。でも強いて会う理由も会いたくも無いからな。向こうは新たな家庭で仲睦まじく遣ってるだろうし俺も水を差したくない。」

 「まっ、ジャックが気に成ってないなら良いや。」


  そう言うとジェロームは汲んでた手を解き、両腕を上に挙げ大きく伸びをした。

 俺達はクロードが出していてくれてた珈琲に口を付けた。

 このグレタリアンでのジャックの家族は他人よりもまだ遠く、俺が意識する事のない人々だ。

 ジャック自身の意識にも父親への想いは幼い頃から消えていた。

 それに合わすように俺の意識も彼等から遠く離れた。


 まあ親は無くても子は育つ。

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