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エイム迷走ス  作者: くろ
31/111

飴色の瞳

 アリロスト歴1890年  9月





  怪盗バートの手掛かりも止めて色々と探索して見たがどれも不発。

 若しかしてまたブルジョワ階級にでも潜り込んでいるのではと考えた俺はセインと兄に頼みパーティーの招待状を廻して貰いバートの顔を知っているセインと共に資産階級の社交を堪能してみた。

 セインだけでなくセインの妻迄違和感なく騙せていると言う事はその階級が馴染めている事に成る。

 結局は俺とセインそしてワート家の顔と名を売るだけの夜会の日々だった。


  プロセン連合王国やオーリア帝国そしてトルゴン帝国からの資産家もグレタリアンの金融会社に招かれ水晶宮を見た序にパーティー兼商談に参加している様だった。

 俺はジャックの様なヘマはせず、他国の人に話し掛けられても通訳が来るまでは放置して置いた。

 兄に付けられた病弱設定と専属医セインは面倒な相手を躱すのに非常に役立った、

 敢えて言おう、グッジョブだ、兄よ。




 久しぶりに下宿112Bに戻るとジャックは兄に拉致られた後だった。

 まあクロエに出迎えられたら帰って来た気がするから良いけどね。

 序みたいになるけどクロードとトマスも。

 クロードから依頼が3人、後はパトが来た事を知らされる。

 こらこらセイン、パトの名を聞いて黙り込まない。


 クロードによるとパト本人ではなく従僕からで、現在殺人事件の重要参考人としてロンドから北へ一駅のリットンで足止めされているので迎えに来て欲しいとの事。


 「やだよー、どうせ女関係だろ?」


 そう俺が話していると、トマスが従僕を連れて探偵事務所へと入って来た。

 若く均整の取れた肉体に、短いブリーチから、足にフィットしたストッキングで膝を見せる、脚線美自慢の若く麗しい背の高い男。

 うん、見事にパト好みだな。


 「ジェローム探偵、パトリック様の不名誉な疑念をどうぞ晴らしてください。お願いします。」

 「今更パトに不名誉な噂と言われても、あいつの存在自体が不名誉だし。どうせ女だろ?」

 「そんな余りの言葉です。それに女ではありません。」

 「男の方かー。」

 「違います。今回は恋愛とは待ったく関係在りません。父方の遠縁と知らされ会いに行ったのです。現在はパトリック様にお身内が無く、遠縁だと言われて歓び会いに行かれたのです。それが、、、。」

 「あー、そこ涙ぐまない。」


 涙ぐむ従僕にセインはチーフを差し出し左手で背中を優しく撫でてやっている。

 そういや俺ってパトリックって名前しか知らん。

 あっ、でもミューズ・クラブ・メンバーつう事は一応は貴族なのか。

 クロードにビールを出して貰って従僕に一息吐かせて落ち着かせる。


 探偵綴事務所の水はジャックが頑張って(兄に)作らせた簡易濾過機を通して沸騰させた物なので他とは違い安全なのだけど、水を出すと嫌な顔をされるので在り来たりにビールかワインを出している。

 俺が飲みたかったら珈琲を出すけどな。


 「話だけは、まあ聞くよ。君の名前は?」

 「はい、フランク・カレストと申します。どうぞフランクと。あれは話は8月に遡り~~~~~。」



  水晶宮の賑わいも益々高まり、新たな刺激を受け創作活動に勤しんでいた8月の中頃、パトリックに1通の手紙が届いた。

 その手紙には自分は祖父の又従弟でウォーゼン家に連なる者だが30年ぶりに帰国したら親族がパト以外に居なくなっていた、という嘆きの文章が綴られ、良ければ父の墓へ参りたいと書いていた。


 『仕事で知り合った友人の家に泊っているので会いに来て欲しい。

 この孤独な老人の願いを叶えて下さるなら返信を。』


 そしてパドはその手紙に返信を書き、2日前にリットンにある友人の邸宅へ遠縁を尋ねて訪問した。

 遠縁サプロム氏はパトが訪ねると歓待し、夕食が終わるとパトの人となりを褒めて、子供のいない自分の遺産を譲ろうと話し出した。

 当然、別に金に困ってないパトは断ったが、形だけで良いと言うので、サブロム氏が用意してあった遺産相続の書類にサインした。

 そしてその後、サブロム氏が用事があると言うのでパトは帰ろうとしたが、流石にもう列車は終電を迎えていたので、彼が用意していたリットンのホテルに泊まることにした。


 翌日午前9時過ぎにダッシー大佐とモートン警部がパトを尋ねて来た。

 サブロム邸が火事になりサブロム氏が焼死したと言う。

 そして焼け残った部屋の金庫から事件当日に書いたパトへの遺産相続の書類が見つかった。

 横柄な態度でダッシー大佐はパトにサブロム邸に泊らずホテルで宿泊した説明を求めた。

 パトは昨夜のことをダッシー大佐とモートン警部に説明したが納得はしていない様だった。

 疑念を持たれている事に苛立ったパトは弁護士を呼ぶことを2人に告げ、部屋から退室させた。

 そしてパトは従僕のフランクを呼び、法律事務所と俺の元へ行かせた。


 俺は聞きたくも無いパトの昔話を従僕フランクから聞かされた。

 パトが13歳の時に祖父ウォーゼン男爵が亡くなり、祖父の4男である父の息子パトにウォーゼン男爵家が任される事に成った。

 両親も早く亡くなり祖父の庇護を農園で受けていたが豊かでも無かった。

 しかし祖父が亡くなり遺産を引き継いだパトの生活は豊かになり、そしてロンドにあるウォーゼン男爵のタウンハウスで暮らすようになったそうだ。


 ロンドで少年パトは色々と花を開かせ咲かせたのか。

 田舎の農園で静かに暮らして居ればロンドもパトも平和だったろうに。

 そう俺は世の不合理を嘆いた。


 それから従僕フランクのパトリック苦労譚が抒情的に語られている。

 が、間違ってもパトがそんな繊細な精神を持って居るモノかと俺は鼻白んでいた。

 、、、セインは自分の椅子から身を乗り出して真摯に従僕フランクの話を聞いていた。



 「~~~はい、誤解されている方も多いのですが、パトリック様は女性に亡き母の面影を求めて居られるのです。どうぞジェローム様、孤独な我が主をお救い下さい。」

 「ジェローム、行ってあげよう。パトリックも不安だろう。」


 セインは大きな丸い飴色の瞳をキラキラさせ俺を期待に満ちた目で見詰めて来た。

 おーい、セイン。

 セインは俺の事でパトに焼き捲くって、奴を嫌って居たじゃん。

 もうパトにセインは同情している。

 何チョロく従僕フランクのパトリック苦労譚で懐柔されてんだよ。

 はぁー。

 100%俺を信頼しているセインのその真っ直ぐな飴色の瞳に俺は抗い難いのだ。

 

 俺は不承不承クロードに外出の準備を命じ、パトが待っているであろうリットンへと向かう準備をセインの為に嫌々ながら始めた。




 馬鹿は高い所が好き。

 ジャックが話していた言葉通りにホテルの5階最上階にパトは泊っていた。

 最近導入されている昇降機に乗るのを俺は断り、気儘に階段をセインと共に登って行く。



 「ジェリー待ってたよ。」

 「全然パトは、憔悴してねーじゃん、フランクっ!」

 「いや俺ってば落ち込んでいたよ。でもジェリーの顔を見たら元気になった。」


 そう言って新しく設備が整った広い室内にパトは俺達を招き入れ、大きく豪奢な椅子に座る様に進め楽し気にリットンへ来てからのハプニングを語り始めた。

 ほら見ろ。

 基本的に貴族は王家に対する反逆を行わない限りは地方判事の管轄外なんだよ。

 それに絡む不名誉な噂で家が立ち行かなく成ることも在るけどね。

 フロラルス国産のワインと葉巻を準備させて、イラドの民族衣装を夜着に見立てて身に纏い、セインはだらしなく大きな椅子に背中を凭れさせ、長い裾を捲くり脚を組んだ。


 「俺がリットンに来ることになったサブロムの手紙はロンドにあるから今度ジェリーに読ませて上げるよ。まあ俺は両親と祖父が亡くなり天涯孤独と思っていたから初めて会う親族であるサブロム氏に会えることを楽しみにして彼が言う友人の屋敷へ向かったのだ。」


 親族だけで話したいと言うサブロム氏の希望通りにリットン駅に迎えが来ると従僕のフランクと別れ、御者に案内され2輪馬車へとパトは乗り込んだ。

 約8㎞程馬車で進むと右手には家々が点在する村へと続く道があり、左手にはなだらかな傾斜に成って木々が生え細い路が続いていた。

 その余り整備されていない細い道を揺られながら進むと古ぼけた灰色の切妻と屋根が見えて来た。

 箱型では無い2輪の解放感溢れる馬車に、パトは楡やイチイの木々が色付いて行く風景を楽しんだ。


 出迎えに出て来たサブロム氏は白髪の混じった豊かな顎鬚を蓄え、薄く禿げ上がった頭に黒のシルクハットを被りツイードのジャケットに濃いグレーのトラウザー姿で人の好い70歳位の老人に見えた。

 屋敷の中には目付きの余り良くない若い20代くらいの小間使いと、痩せて貧相な40代くらいの執事、横柄な感じがする30過ぎに見える豊満なメイドが居た。

 日頃パドは使用人に気を止めないのだが、何処か不慣れな彼等の動きが目についた。


 簡素な食事が終わるとサブロム氏は使用人を下がらせ談話室へパトを誘い、グレタリアンを出てからのプリメラ大陸で過ごした苦労話を聞き、その内に遺産の話になった。

 パドは余り質の良くない使用人しか雇っていないサブロム氏の生活は豊かでないのだろうと推測し、遺産相続の話を断ったが、余りにも熱心に誘うので、根負けしてサインしたと言う。


 「それで何でパトが疑われているんだよ。」

 「サブロム氏の焼死体が在った場所には争った形跡と壁に銃弾が在ったから俺が屋敷に有った猟銃で撃ったのでは無いかと思っているみたいだよ。遺産狙いで。」

 「ふーん、疑われる程の金額が或るのか?」

 「いや、弁護士に来てもらって書類確認して貰うと不備が見つかり、そもそも相続は無理らしい。」

 「残念だったな、パト。」

 「ジェリーまでダッシー大佐と同じ様な事を言うなよ。本当に俺はウォーゼン家の人間てどんな人だろうと楽しみにして会いに来ただけなのに。」

 「ああーパト、悪い悪い。」


 「ただまあジェリーが来る前にモートン警部が来て不思議な報告をして行った。俺の説明の真偽を確かめる為に屋敷には行っても誰も居なかった。そこで離れにある使用人屋敷に行っても誰も居なかったらしい。でもって俺が行ったあの屋敷は売りに出されていた空き家だったそうだ。」

 「えっ?」

 「俺を送迎した御者は普段はリットン駅周辺で仕事をしていて、昨日1日雇われていたらしい。」

 「ふむ、では御者には使用人の存在は知られているのか。」

 「それがサブロム氏しか見た事が無いと言っているんだ。使用人の存在は俺の嘘か妄想話だろうと言う事になっている。」

 「ふむ、パト何か奇妙で大掛かりだな。」

 「俺の話を信じてくれるのかい?ジェローム。」

 「まあね。今までのパトの話の中でパトが口説きたくなるような人間が1人も居ないからな。恋している相手にはパトは何でもアリだけど、それ以外の事にはパトは嘘を吐かないからな。」

 「あ、うん、そうなのだが、何故か微妙に頷きたくない。」

 「あはは、まあ明日、私も調べて見るよ。しかし良い部屋を取ってくれたんだなサブロム氏。」

 「いやいやサブロム氏が予約入れてくれていたのは2階だったけど、俺って高い場所が好きなんだよね。なのでホテルに掛け合って此の部屋が空いて居たので、此方に移ったんだ。」

 「そっか、パトはやっぱり高い所が好きかー。」

 「うん?そーだけど?」

 「さて、私もホテルに泊まる為にチェックインしないとな。セイン?行くよ。」



 パトの話を真面目にメモを取っていたセインに俺は呼び掛け、一緒に1階のフロント迄ゆっくりと階段を降りて行った。

 このパトに対する悪意を感じる奇妙な事件はこうして静かに幕を開けた。

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