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エイム迷走ス  作者: くろ
30/111

グレッグ貸本屋

 


アリロスト歴1890年  9月




  意外に楽に過ぎた夏を懐かしんで見たりして俺は9月の街を歩く。

 万博のお祭り騒ぎのお陰で、エイム卿もなんと緑藍も、公式行事や他国の人々交えたパーティーに勤しみ、俺の周囲はいたって平穏だった。

 俺が気忙しい想いをしている80%はエイム家兄弟の所為だと言う真実に行きついた。

 畜生めっ!

 まー何となく分かっていたけど。


 そしてクロエから深淵なる問いがなされた。


 「グレタリアン男性って愛する(男性)が居ても他の(女性)と結婚するモノなの?」


 うん、するね。

 子供が必要だからね。

 その時のクロエの視線の冷たかった事。

 いやチョット待て、俺は関係なくね?


「なんかエイム公爵にもセインにも納得出来ないのよねー。」

「そう言うけどサマンサも別に愛してたから故シュリンク氏と婚姻した訳じゃ無いだろう?」

「、、、あー、そうでした。忘れてたわジャック、御免。あはははっ。」


 それからクロエとまったり恋愛談議に成り、「彼女が欲しいなら誰か紹介するけど?」となんか百戦錬磨の仲人みたいなノリになったので俺は思わず逃げ出して来た。

 なんでもピュアピュアな恋愛か一途な恋愛を見て見たいとクロエは言うが、他人に見せる為に恋愛する暇人はフロラルス国民くれーだよっ!








  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 ブツブツと呟きながら俺は石畳を歩き、行き交う人や走り去る馬車から身を躱した。

 俺は世話に成ったことの無い床屋を通り過ぎ目的地のグレッグ貸本屋へと入って行った。

 床屋に入らないのは単に俺が気の許せない相手に髪や肌を触れられたく無いから。

 それを知った緑藍が適当に切ってくれているのだが此れが案外良い感じに髪が収まってくれている。

 緑藍は昔は俺が手入れしていたが近頃はクロードも馴れて来たと言って居た。

 そう考えるとゴドールや弟子達には気を許していたんだなと今更に思う。

 あー、そうだ。

 ゴドールの縁戚がモスニア帝国を追放されてグレタリアンに来ている話を想い出した。

 カジノを作ってグレタリアン紳士を熱狂させているらしい。

 ノルセー伯爵だったかな?

 何だろう、男が男に惚れる的な?

 でも男同士の友情が暑苦しいグレタリアンだろ?

 其処で男たちがカリスマ男に熱狂って想像したくない絵面しか思い浮かばないんだが。

 くわばら、くわばら。


 変なのはウチのウィルだけで充分間に合ってる。

 妻が懐妊した途端週一で俺の所へ来るマメさだ。

 まあ、ゴドールって緑藍から聞いて懐かしくはなったけどな。

 

 此処は昔ながらの貸本屋つうかライブラリー?

 左奥へ行くと淑女用のリーディングルームがあり男女が別々に別れる。

 広いテーブルには新聞やパンフレットが並べられ、幾人かの紳士が椅子に座り新聞を読んでいた。

 現在のロンドでは80年に出来たローディーズと言う出版社兼貸本屋が、次々と小規模な貸本屋兼出版社を平らげている、所謂、寡占化の途上。

 貸本屋が広告を兼ねてるから市場を抑えるって大きな利権が出来るよなー。

 まあセントラルにある本店は小さなグレタリアン博物館みたいで、前世の国立図書館かも。

 風紀を乱さない格調ある本のみ貸本屋として購入している、と言っている。

 高級書や長編をメインに貸し出していて、一気に貸本会員数を増やした。

 もう1つ全土に増えて言って居るのがライティーズと言う安価な短編本メインの貸本、出版社。

 此方は83年に出来、駅の構内にあり会員に成って居れば気軽に列車の待ち時間で読めたりする。


 でもって不況になって会員数が激減していた小規模貸本屋が軒並み閉鎖している状況。

 俺なんてこの状況に前世の某大手レンタル屋な名を呟いたモノだ。

 ○○○かよっ。


 そんな中、清潔な店内を維持して頑張ってるブレード通りのグレッグ貸本屋には頑張って欲しい。

 シェリーの「青火花の企み」を出版してくれたのも此処だ。

 いやまあ、悪魔エイム卿の鶴の一声だったんだろうけども。

 1700年頃に創業したと言うグレッグ貸本屋。

 俺は年会費を支払うしか出来ないけど、「負けるな」、そう内心で呟いて、書士に頼んでいた本を出して貰った。


 まっねっ、ローディーズが受け入れられても仕方のない土壌に成っていたんだよね。

 貸本屋が本を出版しているから読者の気を惹くゴシップを主体とした小説っぽいモノを乱発乱造させていて、作品の質は低下する一方だったらしい。

 それに読者も嫌気が差して読書離れが起き始めた。

 と、グレッグの店主が言っていた。


 そこで、ローディーズが中菱階級向けに良質で優良な本のみを買い取ると宣言した。

 一気に読者の支持が集まりローディーズが他の貸本屋を吸収つな感じ。

 まー、でも俺の感想だがエイム卿は此処ブレード通りにある商売は潰さない気がする。

 謎の拘り。

 いや、謎でも何でもないが、緑藍のお気に入りは死守しそう。


 うん、俺の為にも頑張って欲しい。

 俺、グレッグ貸本屋が好きだから。









  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 

 俺は店内の明るさから、陽の明かりに目を慣れさせる為に、道の左をゆっくり歩いていると。見慣れた紋章を刻んだ黒い馬車が近付いて来て横に止まった。

 全力疾走で逃げ出したい想いを俺は抑え込んだ。

 見た事のあるエイム卿の従僕が俺を馬車に案内した。


 エイム卿は近頃流行の前丈が短い黒のコートを羽織り、長く美しい脚を強調するベージュのトラウザーに黒のシューズを履き、整えられた淡い金の髭もエロ美しく、悠然と座席に座り俺に言う。


 「早く乗れ。」



 馬車の横を脚と臀部を強調した従僕がマラソンランナーのような走りで馬車に並走する。

 俺の左脚が完全に回復したとしても俺の職業選択肢に従僕は無いな。

 懸命に駆ける彼を見つつ、毎回俺はそう同じ事を想うのだった。


 「なぜ南セントラルの屋敷にジャックは戻らない。」

 「えーとエイム卿は、今回のシーズン中は奥方と宮殿通いだとジェロームに聞いていたので。」

 「私が幾度、屋敷に行ったと思っている。」

 「はぁー、えっと、スミマセン?」


 面倒な時は謝るのが信条の俺。

 あの万博乱痴気騒ぎのシーズン中珍しく社交モードのエイム兄弟だった。

 緑藍もセインを連れて宮殿直ぐ傍の別邸に行ってるし、エイム卿が行くなら其処だろ?常考。

 俺は長期留守にしていた自分の部屋の掃除を楽しみ勤しんでいた。

 クロエに頼まれて極小中庭の手入れもしてた。

 そしてクロエやシェリーとまったりとお茶会。

 ハイ。

 南セントラルの広い屋敷に居るより112Bの下宿に居る方が俺は落ち着つくのだ。

 どれだけ生きても俺の根っこは庶民の侭。

 大体エイム卿が俺の所へ来る時は碌な案件じゃない。

 緑藍の事か、、、緑藍の事。

 そしてエイム卿が携わる政務案件の囁き。

 まあどうしても急用が有れば拉致りに来るだろう、今回の様に。

 俺はそう考え、久方ぶりの穏やかな夏を過ごした。まる。


 俺達はこの屋敷の会議室もとい談話室へと入って行った。

 112Bで作っていた簡易浄水器がすっかりお気に召したエイム卿は、此の屋敷でも設置し、涼し気なガラスの水差しにはタップリの水と葡萄のフレッシュジュースを用意させた。

 まあ、水代わりにビールよりは良いな。

 人心地ついて、悪魔エイム卿が苛立たし気に不快の原因を俺に話した。


 「我らエル4世陛下は仰っていた。国民、領民を飢えさせるのは王として、貴族として最も恥ずべきことであると。グレタリアン領であるトラットランドのジャガイモが疫病に寄り不作と聞いた。この報を聞いた我が国王は心を痛められトラットランドへ穀物を提供すると仰せだ。その言受け取られたし。」


 そうフロラルスの外務卿は「ルドア帝国対策会議」の開会直ぐに件の発言をした。

 あくまでフロラルスの宗主国はモスニア帝国なので本来は発言権が無いのだが、他国の了承を得、「てめーら恥ずかしい奴、可哀想だから食いモンを恵んでやる。ぷぷぷっ」と、かました。


 まあ、ヨーアン諸国は同じカリント教旧教徒であるトラッドランドの悲惨な状況を聞いて居たので、拍手をしてフロラルス外務卿のその意見を賛辞した。

 恥を掻かされたグレタリアンは断りたかったが、モスニア帝国を始め参加5カ国が一致して受け入れる様グレタリアンへ申し入れた為に、フロラルスからの穀物を受け入れることに成った。



 「我が国が施しを受け、弱小フロラルスに膝を屈するとは。」


 「ぐぬぬぬっ。」

 と、言いそうな表情の悪魔エイム卿。

 敵に塩ならぬ穀物を送るとは流石ではないか。

 天晴、我がフロラルス王国。

 まあ色々な腹の内が在って、今回は他国とも共同戦線を張ったのだろう。


 しかし飢えて行くしかないトラットランドの農奴達に忸怩たる思いを封じ込め、風聞を聞くしか出来なかった俺だったが、此の話を聞いて久し振りに胸が軽くなった。

 不機嫌なエイム卿には申し訳ないが。

 整った顔を歪めて悔しそうだ。

 俺には怒るツボは分からないけどな。


 そして此の報を聞き、誇り高きグレタリアン議会は紛糾したが、戦いを挑もうにも5つの国と戦争をする訳も行かず、結局はトラッドランドの運営に失敗した地主たちが恥ずべき者、と言う事に成りフロラルスの穀物提供が議会で承認された。


 9月なのに、冬将軍を背後に降臨させた悪魔エイム卿からの囁きを、俺は凍えながら受取り、平常心の補佐官へパスした。

 「フロラルスの意図を探れ。」

 うわー、俺ってフロラルスを裏切っているよ。

 すまぬ、じじい、エル一族。

 何故かエイム卿の囁きに逆らえない俺は心の嘆きを胸の奥へと沈め込んだ。



 酸っぱい搾りたての葡萄ジュースを口に含み、エイム卿の気分を変える為に俺は話し掛けた。


 「貴族の事は分りませんが、もっとジェロームの肖像画を画家達に描かせないのですか?」

 「うん!」

 「フロラルスでは貴族達が画家を屋敷に住まわせ様々なシーンを絵画に残していたそうですよ。」

 「あっ!おっ!いっ!うっうう、うむっ!」


 淡い金の口髭をエロく震わせ、悪魔エイム卿が可笑しな声で鳴き、何か悟りを得た表情に成った。

 エー。

 マジで気付いてなかったのか?エイム卿。

 俺も吃驚だわ。


 フロラルス王国では俺が巨匠ゴドールを筆頭に画家チーム雇い入れ日常生活を描かせている、そんな謂れの無い噂が立ち、各貴族たちもソレを真似して屋敷に住まわせ、色々なシーンを描かせるのが流行り、軈てそれはブルジョワジーにも広がり定着して行った。

 まあ、それで食える芸術家が増えるなら良いかと俺は放置した。

 そもそも俺は雇って無いからな。

 自分を結納金付きで売り込みに来た変態だから、弟子達も含めて。

 そう言えば一番弟子の名も俺と同じジャックだったなー。


 ふと、嫌な事に気付いて俺は愕然とした。

 若しかしてフロラルス人の他人に見せたがる気質は俺が育てたのか?

 いやいやないない。


 俺は無いっ!    と、信じたい。



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