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エイム迷走ス  作者: くろ
28/111

旧友

  アリロスト歴1890年   4月




 開け放たれた窓から4月の風が春の陽気を光と共に探偵事務所の室内へ運び入れている。

 そんな陽気に不似合いな青年が1人、ゆったりとしたゴブラン織りの生地に覆われたソファーに背を丸めて座っていた。

 俺より少し高い背で、細身の体に纏ったシャツのタイも忘れて、上質な綿のシャツの釦が外れ、開襟した首の喉仏は忙しなく上下していた。

 茶色の短く刈り込んだ髪に青白く憔悴した表情で俺の目の前に座っている。


 パーシー・ダウラム、子爵の2男。

 俺が入っていた寄宿学校での同級生だ。

 俺と目が合うと頬を赤めて俯いた。

 確か俺が先輩と空き教室でエロイ事ていたのを偶然見掛けて、涙を流していた変な奴だった。

 それ以来パーシーとは視線が合わなくなった。

 まあ、元からジェロームは殆どパーシーと話した事もなかったな。

 俺が目覚める前のジェロームは真面目で地味な奴には興味が無かったもんな。

 ジェロームは派手で怪しい奴が好きだった、パドしかり、悪趣味だよ全く。


 



 「私の事は憶えていないと思うが、同じ寄宿生だったパーシー・ダウラムだ。今はイラド植民地大使の補佐官をしている。あー、久し振りだ。そして相変わらずジェロームは綺麗だ。」

 「ふふ、有難う。それで随分と焦ってるみたいだけど別に旧交を温めに来た訳では無いのだろう?」

 「あっ、ああ済まない。実は探偵をしていると知って是非ジェロームに捜査を頼みたいんだ。」

 「パーシーの依頼内容を知らないと何とも言えない。」

 「そうだな、若しかしたら噂くらいは耳に入っているかも知れないが、実は妻が消えてね。」

 「あー、結婚式の後に行方不明になったと言う話か。」

 「セインは知ってるのか?」

 「サマンサさんが話していたんだ。ああ、失礼しました。僕はジェロームの助手をしているセイン・ワートと申します。」

 「どうも。ええ、そうなのだ。結婚式が終わり、身内だけでカスタールートにある花嫁の父トレメン・グラン氏の屋敷で食事会をしました。その食事会の途中で居なくなったのです。此れが妻ポーラの肖像画です。」

  

 「ふーん、意志が強そうな綺麗な女性だね。自分で居なくなった可能性は?」

 「ええ警察に捜索願を出した時もそう言われたのですが、花嫁の父グラン氏は有り得ないと。この婚姻を愉しみにしていたと話されるので。」

 「ふむ、では捜索依頼も出したのに、今日に成って態々、私の所に来た理由は?」

 「それが彼女のウエディングドレスやベール、ブーケ、指輪、靴などが結婚式を挙げた教会の傍の川から上がり、、、騒ぎを起こした女性に攫われて危険な目に遇っているのではと警察にも言われまして。私の母もグラン夫妻もパニックに成ってしまいました。」

 「それで私に依頼したい事は妻の捜索?」

 「はい。彼女と離婚をして於きたい。こう言う騒動は2度と御免だ。」

 「ふふ、了解したよ。じゃあ取り敢えず結婚式当日の話を聞かせて貰うよ。」

 「ああ、あの日は、、、、、。」



 結婚式当日、新郎パーシーとダウラム夫婦に兄と妹そして新婦ポーラとグラン夫妻に兄と姉妹の11人が教会に集まり、教会控室で婚姻衣装に着替えて新婦の待つ祭壇へと向かった。

 新婦の控室にはポーラが南カメリアで親しくしていた専属メイドが就いた。

 次男と言う事や妻になるポーラが平民で26歳と4歳年上でもあった為に身内だけの式となった。

 式が終わり祭壇から控え室へ戻る途中、一般参列者の列でポーラがブーケを落とし、参列者の男性がブーケを拾いポーラに手渡した。

 その時ポーラの体調が悪そうに見えた。

 その後、教会の控室で着替え、身内揃って馬車でグラン夫妻の屋敷へ行き食事会を開いた。

 食事を始め10分を過ぎた頃、「気分が優れない」と告げて中座する為に席を立ち、ポーラの専属メイドと共に屋敷にある彼女の部屋へとポーラは戻って行った。

 それから食事も終わる時間になり、「席に戻るのが遅過ぎる」と心配で様子を見に彼女の部屋へグラン夫妻とパーシーが行くと、新婦ポーラの姿が消えていた。


 皆で屋敷中を捜したがポーラを見付けられず、ヤードへパーシーたちは捜索願をだした。



「先程、話していた騒ぎを起こした女性とは?」

「幾度か夜会へ行く時にエスコートをした女性です。少し親密ですが、彼女とは婚姻の約束をした訳ではありません。実は内輪だけの婚姻にしたのは私の婚姻を知ってから急に情熱的になった彼女を避ける為でもあったのです。まさか結婚式の前日に押し掛けて来るとは、思いませんでした。まさか彼女が?」

「それは無いな。まっ断言は出来ないけどね。でも自分の屋敷だし無理矢理なら抵抗した跡とか残るけど、そう言った形跡は無かったのだろ?」

「ああ、無かった。」

「一般参列は断らなかったんだ。」

「教会だからね、来るものを拒めないよ。」

「まっそれもそうか、でもパーシー少し時間が掛かるけど?」

「それは仕方ないだろうな。まあ私は久しぶりにジェロームに会えて嬉しかったよ。」

「ふふ有難う。じゃあ何か分かったら連絡する。」

「宜しく頼むよ、ジェローム。」


 そう言って1つ溜息を吐いてパーシーは鍔に巻きが入った黒いシルクハットを被り、帰って行った。

 あの生真面目だったパーシーも婚姻を考えない異性と付き合えるようになるとは。

 此れが大人に為ると言う事かと俺は1人で納得した。


 パーシーが色々と語ってくれた話の中で知ったがグラン氏は可成りの資産家らしい。

 ポーラにも6桁近い財産を持たせて嫁に出すと言う。

 数年前、南カメリアで金鉱を掘り当て一気にブルジョワジーに成った。

 それから投資にも成功してグレタリアンへ戻り土地を購入した。

 此れから上流階級へとグラン氏の野望は広がる予定だったけど難しいと思う。

 んー、例え此の婚姻が成功していたとしても、其処はホラ、やっぱり血の問題があるんだよ。


 何世代か血を上手く混ぜ合わせ続ければ上流階級として見て貰えるかも知れない。

 他の国では判らないけどグレタリアンでは貴族は無くならない気がする。

 取り敢えず皇帝が決めた事だから、爵位を買った人達を貴族とは呼ぶけど、新興貴族と呼んで線を引いているからね。


 そう言えばポーラはいい歳迄南カメリアで野山駆け巡り自由に生きていたらしいから、グレタリアン帝国で貴婦人は難しいかもとパーシーが話していた。

 下世話な話だけどダウラム家は投資が失敗して大金が欲しい、てな事で纏まった婚姻。

 ポーラの自主逃亡なら可成りの金額の損害賠償をダウラム家からグラン家に請求される筈だ。

 貴族の投資って金額の桁が違うからなー。

 海底トンネル作ったり、鉄道会社の株を7分の1引き受けたり、まー色々と頭の悪い投資をして家が、あぼーんとかしてしまう。

 流石フロンティア精神の塊と思う、感動はしないけどね。


 さて、どっから探してみようかと考えているとトマスがレイド警部を案内して来た。

 早速レイド警部にソファーを勧めて俺は話を聞いた。


 「珍しいねレイド警部が船員風のピーコートを着てるなんて。」

 「もう散々だよ。花嫁衣装一式が浮かんでいた河を攫ったがポーラ夫人の遺体は何処にも無かった。

まあ手掛かりは見つけたがな。ポケットの内側にカードケースあり其処でメモを見付けたんだ。」

 「それは凄い。レイド警部、良かったらそれを見せてくれ。」

 「ああ、コレで結婚式前日に屋敷に押し掛けた女マリーがポーラ夫人を誘き出したのだろう。」

 


【準備が出来たら現れる、直ぐ来てくれ。 M】



 裏を見ると1泊の宿泊料金9シリング、シェリー酒8ペニー、昼食代4シリング5ペニーと書かれたハイダーホテルの領収書だった。

 おお、成程。

 ポーラはブーケを態と落としてMに拾って貰い此のメモをその時貰ったのか。

 確かポーラには専属メイドがいたから旅立つ準備をさせていたのだろう。

 まだこのホテルにいてくれると有難いな。


 「素晴らしい手掛かりをレイド警部、有難う。」

 「いや今回もヤードで事件を解決出来そうだ。」

 「それは如何かな?レイド警部。ではどっちが先に事件を解決出来るか競争しようか。」

 「面白い、受けて立とう。では私はマリーの行方を追うよ。」

 「では私はMを捜そう。」

 「うん?」

 「あはは、じゃあグッド・ラック。」


 そう俺が告げてクロードを見ると頷き、レイド警部を扉の外へと案内してくれた。

 俺は2時間位外出する事をセインに告げてクロードと共に目的の場所へと向かう事にした。

 セインは結末を聞きたがったが俺も時間が惜しいので戻ったら話すと、告げて強引に外へ出た。






 レイド警部が持って来たメモにヒントが有ったのだなと僕は思いながら、珍しく早歩きで淡い金糸の髪を揺らして、探偵事務所から出て行ったジェロームのか細い黒い背中を見送くる。


 ジェロームの事を想いながら僕は今まで書き起こした事件ノートを繰る。

 途中まで事件を解いて「あー、コレはもういいや。」そう言って探索を止めたり、此れは公に出来ないなと言ってジェローム探偵事務所内だけで解明して見せ僕に説明をしてくれた。


 初めは暇を持て余したジェロームの新たな遊びだろうと僕は探偵の助手の話を軽くいなしていた。

 しかし一度目の勤務先がバート事件の影響で閉鎖。

 兄が継いだワート家も少なくない被害を出し、妻の実家が行って居た金融業も騒動からの影響を受けロンドに持って居た不動産を可成り手放した。

 バートの妻は何も関与していない事を追跡調査していたジェロームが証明してみせた。

 そのバートの妻は騒がしいロンドから離れナユカの別荘に今は住む。

 あのバートが今でも続く不況の一端を作り出したとは僕には信じ難い事だった。


 気弱で優しいあのバートが何故?と今でも思ってしまう。 

 アヘンを吸引し過ぎて正体を無くしたジェロームを連れ帰るのをバートに手伝って貰って居た。


 「、、、何時かはきっとジェローム君にもセインの想いが伝わります。必ず立ち直ってアヘンを止めてくれるでしょう。セインの誠実な想いが届かない筈は無い。」


 そう言って僕を励まし続けてくれていたバートを憎み切れないのだ。

 それをジェロームに僕が話すと「お人好しめ、それが騙されているって言うんだ。」そう怒って可成り長い期間ジェロームを不機嫌にさせてしまった。

 そして僕にバートの話禁止令をジェロームが出した。


 次の病院での仕事が決まるまで、僕は事務所で美しいジェロームの間直に居れる事を感謝し、彼の仕事を不器用ながらおずおずと手伝って居た。

 しかし共に居て僕は、改めてジェロームの優秀さに圧倒され続けた。

 大学時代にその美しい容姿と優秀な頭脳に僕は惹きつけられたのに、認識が甘かったのだ。

 アヘンから覚めクリアに成ったジェロームは僕の理解を遥かに超えていた。

 僕は友として一番近くでジェロームを支えたい。

 どうすれば。

 その焦燥感を癒すように僕へ新たな仕事先が見付かったのだ。

 経験を積み立派な医師となり、友としても医師としてもジェロームの傍に立つのだ。

 そう思っていた矢先に経営者トレバー氏が殺害された。

 ジェロームの為にと気負って居ただけに僕の挫折感は半端な物では無かった。


 思わずジェロームを見ると、その美しい瞳は僕を心配そうに見ていた。

 ああー。

 そうだ、僕は彼に心配をさせたいのでは無いのだ。

 僕はジェロームを支えたいのだ。


 守りたいジェロームから給金を支払われる事に僕は男として忸怩たる思いを抱いた。

 其処で断って居ればジェロームは僕を助手にと、2度と誘わなかっただろう。

 あの時ふとアヘンで正体を無くしていたジェロームを想い出したのだ。

 アヘンの毒が抜けクリアに成ったジェロームは強くなった様に僕は思っていた。

 でもその優秀過ぎる頭脳がいつか又ジェロームの心を傷つけるかも知れない。

 少年だったジェロームが何故アヘンに溺れたのかその理由も僕は知らない。

 それに気付いた僕は悩むのを止めジェロームの傍にいる道を選んだ。

 対等であり続けたいと願った僕の自尊心は、美しく有能なジェロームに求められている事実に比べれば、とても小さなモノだと思えたからだ。


 「暫くは、此処でジェロームを手伝ってもいいかい?」


 88年12月に僕は正式にジェロームの助手に成った。

 僕が記した事件ノートを繰りながら懐かしい日の情景を想い出していた。

 するとジェロームとクロードが共に帰って来て、何時もの椅子へと向かって歩いた。

 時計を見るとジェロームの予告通りに、約2時間で探偵事務所に戻った来た。


「お帰り、ジェローム。約束通りの時間だね。」

「ふふ本当だ。別に時間を計って動いて無いのに。ただいまセイン。」

「それで消えた花嫁は見つかったのかい?」

「ああー、ギリギリ間に合った。ホテルから出て行こうとしていた所だったので助かったよ。パーシーからポーラの肖像画を見せて於いて貰って良かった。」


 ジェロームそう話していると、トマスからパーシーの来訪を告げられた。

 ジェロームは笑顔でパーシーを出迎え応接セットの椅子へ案内して座らせた。


 「さて話を聞くべき人間も揃ったから暫くは俺の説明を聞いてくれ。」

 「ジェローム、ポーラは?」

 「先ずは話しを、だ。パーシー。」

 「あっ、済まない。続けてくれジェローム。」

 「勿論。先ずパーシーとポーラは婚姻が出来ていない。そのことを話させて欲しい。」


 そんな驚くべき事をジェロームは聞き取り易い声で僕たちへ話を始めた。


 グレタリアンで成功しなかったポーラの父は家族を連れ南カメリアに渡り採掘の旅を始めた。

 そうして山脈の近くに売りに出されていた土地を買い、採掘を始めた。

 他にも土地を買い住んでいる家族も居た。

 貧しかったが楽しい少女時代を過ごしていたポーラは父と仲良くしていた男の子供とも仲良く為り共に過ごすようになった。

 年頃になり互いを意識し始め恋人同士に成った。

 そして家族に報告するとグラン夫妻も歓び、ポーラと相手の男性マークは婚約した。

 此の侭結婚と思って居た矢先にグランの鉱山で金が採掘された。

 採掘は続けられたがマーク達の炭鉱は何も採掘されなかった。

 富を得たグラン氏は貧しいマークとの婚姻をポーラに反対するようになった。

 ポーラは美しい娘だったので、資産家に成った今なら名のある者との婚姻も可能だ、とグラン氏は考えた。

 別れ話に頷かないポーラーに焦れたグラン氏は強引に婚約破棄をした。

 そしてグラン一家でグレタリアンに戻る準備を始めた。


 ポーラはグレタリアンに戻る前にマークの元へ行き、2人で逃げようと話をした。

 だが此の侭逃げてもポーラに貧しい生活しかさせられない事を告げ、グラン氏に負けない資産かに成り必ず迎えに行くので待って欲しいと言った。

 そしてその間に他の男と婚姻させられない様に、神父へ事情を話し2人は教会で婚姻式を挙げたのだ。

 こうしてポーラは、ポーラ・グランから名がポーラ・スターに変わった。


 そのことを隠し父グラン氏の元へポーラは戻った。

 しかし4年前マークが採掘していた鉱山で落盤事故が起き夫マーク・スターの死が伝えられた。

 ポーラは悲嘆にくれ泣き暮らして居たが1年前父が新たな婚姻を勧めて来た。

 夫マークが生きていれば何年でも待ち続ける心算だったが、死んだ相手を待つのも疲れていた。

 顔合わせの後、話は整って居たのだろう手際よく結婚式の準備が進んだ。

 大資産家の娘ポーラーの動向は「淑女から貴婦人への転身」と新聞や雑誌で話題となった。

 異性として愛するのは夫マークしか有り得ないが、若く穏やかなパーシーへポーラは敬愛の気持ちで尽くして行こうと決めた。


 そんな彼女の決意を砕いたのは婚姻式当日。

 婚姻式の日、一般参列者の列に夫マーク・スターの生きている姿を見付けたのだ。

 激しい動揺をするポーラにカメリアで良くしていたハンドサインでマークの意図を知り、参列者の傍を通る時に態とブーケを落として、夫マークに拾わせた。

 そしてポーラは其のメモを呼んだ後、カメリアから付いて来てくれた専属メイドに事情を話し旅立ちの荷造りを手伝って貰った。

 食事会の最中に通り向かいに夫マークを見付け、気分の悪い振りをして席を立ち、ポーラは部屋に戻ると専属メイドに手助けされ、外に出て夫マークが迎えに来た馬車に乗りホテルへと向かった。




 「さて、如何だろう?パーシーは未だ会いたい?」

 「いや会う必要は無いだろう。ただ私とジェロームの説明でグラン氏が納得するかだね。」

 「教会場所と名、そして立ち会った神父の名前が判っているから大丈夫だろ。ポーラとマークの手紙も預かってきている。」

 「有難う。私としてはもっと早くにポーラが打ち明けてくれれば、これ程の騒ぎにしなかったのだけど。しかしマークがもっと早くに来ていてくれたら。」

 「まあ何とか事故から助かったマークは心機一転、北に行こうとナユカ国を目指して採掘していたそうだ。其処で運良く炭鉱を見付けて手続きしていたとか。そして君と妻の婚姻を雑誌で知り慌ててグレタリアンへ来たらしい。でも判ったのは婚姻式の日付と教会だけ。時間的に難しいよ。」


 「時間的?」

 「あははセインは。パーシーが夫としての当然の権利、初夜権を行使したらマークも嫌だろう。」

 「ああー成程。じゃあ花嫁衣裳一式を捨てたのは?」

 「捜索願が出されて外に出辛くなったから死んだ事にしたかったのだろうね。まさかヤードが徹底して川攫いをするとは思わなかったのだろう。遺体が無いとそうそうにバレてしまった。」

 「兎に角、間に合って良かったよ。こんな結婚で本物の夫に私は恨まれたく無いからな。まあ色々腹立たしい事も在るが私もマリーとの事が在ったし。やはり住む階層が違うと婚姻は難しいな。」

 「でもパーシーは私と同じ22歳だよね。今回の件で恐らく慰謝料取れると思うから婚姻を焦らないでも良いと思うけど?」

 「あはは、いや焦って無いよ。今回は両親が乗り気だっただけだ。」

 「そうだろうね。相談しに来てるのにパーシーの探したいと言う意思を余り感じなかった。」

 「あーあれ、バレてたのかジェロームに。」

 「当然だろ。さて今回の依頼請求書はパーシーに送って良いんだよな?」

 「ああ、グラン家に!と言いたい所だがそっちの請求書が届いたら慰謝料に上乗せするよ。でもジェロームは私と違って働かなくても余裕で生活出来るだろ?」

 「まーね。請求するのは探偵事務所の女ボス。会計を任せてるけど私も彼女には逆らえない。」

 「女性が?」

 「はい。でも能力が高い女性は多いから、その内ヤル気の無い男は追い出されるかもよ。」

 「へぇー、ジェロームは女性が苦手なのかと思っていたよ。」

 「はっはっ、有り得ない。人間の半分は女なのだからそれを苦手と思ってたら生きて行けないさ。まあパーシ、今回は運が悪かっただけ。その内にパーシーに会うヒトが現れる筈。」

 「、、、。いつかジェロームより美人が現れる?」

 「たぶんね。あっ、そうだ、大グレタリアン博物館の古代アシェッタ展へ行ってみなよ。絶対に私よりも美人に出逢えるから。そう言えば此れからヤードへと説明に行くかい?」

 「いや、流石に今日は疲れ過ぎた。明日でも頼むよジェローム。」

 「いいよ。但しヤードだけな。親やグレン氏の説明は自分でしてくれ。」

 「ふふ、了解した。それにしてもジェロームは寄宿生の頃より優しくなったな、吃驚した。」

 「ふふ、それを言ったらパーシーも世慣れたな。初々しかったのに。」

 「大人になったのさ。社交界に居るとね。」

 「そうか。今夜なら酒を飲むなら付き合えるぞ?」

 「ジェロームからの誘いは嬉しいけど、流石に今夜は1人で飲みたい気分なんだ。」

 「そっかー、じゃあまたな、パーシー。」

 「ああ、有難う、またな、ジェローム。」




 立ち上がって挨拶を交わしパーシーとジェロームは握手し、明日の来訪時刻を確認し合った。

 それを僕はメモに取り、顔を上げると瞳が少し潤んだパーシーと目が在った。

 少し気まずそうな顔をしてパーシーはジェローム探偵事務所の黒い扉を出て行った。

 クロードが1階へ新しい珈琲を取りに行った後2人になったので、僕はジェロームに尋ねた。


 「ジェローム、口ではあー言ってたけど、実はパーシー氏はこの婚姻に乗り気だったのじゃないのかな。さっき目が潤んで、、、。」

 「其処は黙っ於こう、セイン。貴族であるパーシーとしての矜持だからね。」



 そう言ってジェロームは何時も座るゆったりとした安楽椅子に腰を落として煙草に火を点けた。 

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