エーデルフラワー
アリロスト歴1890年 3月
「ジャック手紙だよ。エイム卿から。」
「マジ、又かよ。」
「嫌なら俺が処分しておくぜ。」
「いや、ありがとうジョン。一応エイム卿の手紙は部外秘っぽいから俺が処理するわ。」
肩を竦めるジョンにそう断って手紙を受け取る。
緑藍つうかジェロームと言いエイム卿と言い、若しかしてエイム公爵家の人間て筆マメなのか。
そんな事を想いながら見慣れたエイム家の封蝋を切る。
第一行目から「早くロンドへ戻れ」、だ、か、ら、嫌だと言ってるだろうが。
ホント、エイム卿って自分が勝手に他所様の手紙を開封して、中身を確認する仕事をしている癖に、自分の手紙を誰かに盗み見られるとか心配しないのか。
碑先王国から来ている(緑藍が嫌がるがグレタリアンではそう呼ばれている)真龍人が主に運営している阿片窟で、南グロリア人が増えてきていると記されていた。
確か共産国として独立した南グロリアの筈。
労働者と阿片て相性が最悪な気がする。
元々が白土(火山灰)が多く眠っているのを、モスニア帝国の地質学者が発見して、古代コンクリートの材料として各国に輸出し、国としてなら莫大な利益を上げる筈だったのに、御多分に漏れず資産家や地権者のみが利益を取り労働者へ分配をしなかった。
まあ元々がモスニア革命の申し子。
つかレオンハルトが帰り道だからと、一時モスニア帝国に組み込んだ、だけの国だった。
レオンハルトが皇帝として戴冠すると身分を無くした筈なのに許せないと、暗殺や爆弾テロを起こし捲くる急進的な平等主義が増え、面倒になり自分達で代表を決めて運営しろと放逐した国だった。
革命の申し子は資産家の労働者酷使に耐え兼ねて、労働者達がまた革命を起こした。
そこで平等な労働者の国に成るハズだった、が、何故か裏稼業が牛耳る国に成ってしまった。
その中でレオンハルトが君臨した時代を求めてレオン希求団みたいな愛国組織が誕生した。
前世日本でいう所の革新(裏稼業)左派 対 右派・保守(レオン愛国党)と言う2者の暴力組織で戦って居ると言う構図。
各国5年間くらい白土の輸入止めれば、武器弾薬が購入出来なく為って良いと、俺は思うのだが各国が買いたい売りたいの自国第一主義なので、弾丸政治が止まらない。
金じゃ無くて銃の弾丸だからな。
逃げれる人間は他国へ逃げ、他国から逃げてる犯罪者系が南グロリアに住むと言う。
ちょっとした犯罪組織生産国に成っている。
全くレオンハルトが遣りっぱなしで捨てるから此の始末だよ。
でも悪いのは俺か?
そう思うと胃が痛い夜もある。
オーシェ領地方で取れる白土はフロラルス王国の為に使い、取り過ぎ注意をルネに厳命した。
売るのはモスニアとオーリアにのみ。
そうなると新たに南グロリアで白土が採れるとなると、他のヨーアン諸国が雪崩れ込むよな。
言い訳するとすれば、俺が死んだらどうせ皆が好きに開発しちゃうだろ?
なんて思ってた。
オーシェ一族とエル王家のフロラルス愛を舐めてたよ。
やっぱりある程度地位のある人間が思い付きで何か言い残したりするとヤバいね。
そんな俺の罪悪感を刺激するのが南グロリアなんだ。
もうさ、「へぇー」しか、言えない。
そんなフロラルスはなんか変と言うか可笑しな国に成っている。
大学や研究機関は作りたいだけ作って、意味わからん、何やっているの?ってな頭の悪そうなテーマパーク都市に成ってる。
各国から頭のいい奴来てるはずなのに、なんでこうなるのか?
緑藍とか開発した物一覧を見て「頭が可笑しい」って腹筋崩壊させてた。
その内に次元の壁を突破出来るかも知れん。
遣りたい事が判るのも或るんだよ。
でも其れは、石油が発掘されないと作れないんだよなーつうのも多くて溜息吐くしかない。
でもってバリバリ自由貿易で資産拡大したい人は他国へと出て行っている。
主にグレタリアンや両カメリア国。
俺のブルジョワジー嫌いもフロラルスの法律の中で生きていてる。
資産家なんか出て行っても構わん。
必要な商人は居なくなっても次が生み出されるぜっ!つう理念がレオンハルトやジョルジュの研鑽の結果、法の細部まで息づいていて俺は感動して泣いたよ。
国民の生活状態は--------。
蟻的なキリギリス?
違うか、キリギリス的な蟻?
まあ6部くらいの力で働いて後は遊ぶべみたいな生活を送る人が多いみたいだ。
社会保障は相変わらずジャガイモなのは如何にか成らないのかとも思うけどな。
そこそこ不正も多くて異性関係は奔放で、自分達を周囲に見せるのが生き甲斐と言う変な国。
良く国が廻ってるよなーと緑藍が言うが俺もそう思う。
緑藍が俺にはフロラルスへの移住はちょっと無理かもと笑った。
いやー、俺も無理だと感じた。
自分大好きで他人には無関心、そして自由過ぎる。
いやー一応宗主国モスニア帝国方はグレタリアンやプロセンよりは自由だけど真面そうだった。
レオン、そっちに合わせてくれて良かったんだぜ。
為替通りの計算をするとフロラルスは一応全てにおいて他国に比べて最高値なんだよね。
フロラルス国内の食料品から日用品まで。
初めて値段見た時はおいっ大丈夫か?と思ったけど大丈夫だった。
でも比率計算すると食料品なんかは安い。
だからフロラルスで収入が無い人間は生活するのが難しいと思う。
「如何した?難しい問題か?ジャック。」
「いやジョン。ちょっと考え事をしてた。」
「そうか。あっ、そうだ。ジャックがハーブ園で作業をしてた頃、挨拶しに来た人間が居たんだ。」
「うん?俺に挨拶?」
「ああまあジャックに挨拶と言うよりも領主館への挨拶だがな。」
「なんだ、そうなのか。」
「そうそう、何でもフロラルス系の住民が貸別荘へ来るんだ。」
「珍しいね。ウェットリバーにフロラルス系の住民なんて。」
「だろ?父親が外務系に勤めているらしい。その息子はロンドで喘息が治らずウェットリバーに療養も兼ねて越して来たと言ってた。細いガキでな。」
「あー、俺もロンドでの生活は苦しかったからな。ウェットリバーなら確かに空気も良いから少しは楽になるだろう。つかジョン、大抵はジョンよりは細いんだ。」
「まあ引っ越しが落ち着いたら又挨拶に来ると言ってたぞ。」
「いやー、俺に挨拶されてもな。ウィルにでも話して置いた方が良いだろ。」
「ウィリアム様への挨拶ならロンドで済ませてる。一応は此処の領主だし、あそこの別荘地は領主館も近いからウィリアム様もどんな人間が来るか気に成っていたからな。」
「取り敢えず了解。」
火鉢に掛けていたケトルの湯を急須に注いで熱々麦茶を湯呑みに注ぐ。
どれもフロラルス製。
ジョン用の黒い大きな湯吞みにもトポトポ麦茶を注いで行儀悪くテーブルを滑らせジョンへと渡す。
茶請けはナッツを刻み込んで入れたビスケット。
俺はオーフォールの森へ香草がどの程度育ったかを見に行くとジョンへと話した。
ハーブティーや香り袋、香草オイル等はウェットリバーでは、皆が自家製だろうと俺は考えていたのだが、狩りや十字路パブでオジンやジジイ達へ渡すと喜ばれた。
てな訳で俺は十字路パブや雑貨屋ドロシーの店で販売することに成った。
喜ばれるのが嬉しくて、俺は香草茶やオイルを俺は気安く無料配布していた。
するとパブのマスターやジョンは物には対価が必要だと力説されたのだ。
それを作る為の時間と手間賃は支払わせて貰った方が次を依頼し易いと言うのだ。
つう事で「ジャックの香草屋」開店である。
いや店は開かないけどな。
なので幾ら悪魔エイム卿がロンド帰れコールをして来ても、開店準備に忙しい俺には無理。
うん。
残念だったな、エイム卿。
ウィルにしてもジョンにしても俺が作っているハーブ園には色々と物申したい事が在りそうだった。
「キチンと設計させますよ?」
ははっ、何を言っているんだ?全くウィルは。
それじゃあ俺が楽しめないじゃ無いか。
良いんだよ、ウィルは自己の美意識に合った薔薇園でも散策してなさい。
その内、どのハーブが俺との相性が良いかが判ったら此の雑な寄せ植え状態を改善するから。
まあ現在は野薔薇を増殖させているからチョット酷い状態に見えるだろうけどな。
初夏に成ればその白い花に癒されるかも知れん。
いや藪化してジョンがキレて抜刀の危機もあるかも、棘が鋭いからな。
何でも本国へ持ち帰るのが趣味なグレタリアン人は陽ノ本の植物や動物も持ち帰ってきている。
でもって俺の陽ノ本好きを知っているウィルが、新たに輸入された陽ノ本産植物情報を掴むと購入してウェットリバーに住む俺の元へ届けてくれるのだ。
嬉しいが、案外陽ノ本産はシャイで根性無いから外国で育てるのは大変なんだぜ。
まっ、今回の野薔薇は土地と相性が合って根付いて来たので一安心。
俺は農業への知識を殆ど持たないのでフロラルスの時と同じように農夫していた人に手伝ってもらっれいる。
ジョンとかは身分の低い彼等を屋敷内に入れて使うのは反対だった。
でもさ、庭師の人達はこの広い領主館の庭園管理も在るし、離れ裏にある俺が作った約10mx10mくらいなチッコイ畑をプロの職人に触られたく無いんだよ。
でも香草を枯らしたくないし元気に育てたい。
其処で俺の得意技、妥協案である。
植物には詳しいけど畑をデザインしない人。
つう訳でウィルに頼み農夫を2人派遣して貰った。
今日は天気も良いし後で「レコ」とオーフォールの森まで駆け見よう。
俺はそんなことを考えながら密集し過ぎているハーブの芽を間引いていた。
するとジョンが俺に来客を告げたの土埃を払い手を井戸で洗った後、麦わら帽子を被った儘、表の庭に回り来客を待たせてあると言う東屋を目指した。
白い真鍮のガーデン用の椅子に座っていた少年?は立ち上がって挨拶をした。
珍しい銀に見えるグレイの瞳にふわふわタンポポの綿毛のような薄茶の髪に黒の山高帽。
知的な表情には好感が持てた。
なんだろうか?、うん、色や髪質は違うけど目元がレコに似ているんだ。
うん、ジョンでは無いが確かに細いな。
顔色も悪い。
「初めまして、ジョゼフ・ロイと申します。」
「ああ、初めまして俺はジャック・スミスつうもんだ。見ての通り、唯の平民だから気楽に接してくれると俺も嬉しい。珈琲を飲もうか?少し寒いだろう。」
「有難う御座います。ベラルド伯爵からとても大切な友人だとご紹介を受けておりました。」
「ウィルの奴め。呼ぶのはジョセフ?ロイ?どちらがいい?」
「はい、名のジョセフで。あのその帽子は?」
「ああー此れは麦藁を編んで作ったんだよ。薬草畑で作業していると陽射しが弱くても日焼けしちまうからな。そう言えばジョセフは何歳だ?」
「はい17歳に成ります。ロンドで受験する予定だったのですが体調を崩して勉学所では無くなり、父には申し訳ない事をしました。」
「でもまあ勉強は何処でだって出来る。今はその父親の為に早く体調を戻さないとな。」
「はい、有難うございます、ジャックさん。」
なんだかジョセフに「ジャックさん」と呼ばれると背中がムズムズ擽ったく為るので「ジャック」と呼び捨てで読んで貰う事にした。
何でも曾祖父は庶子だった事も在りグレタリアン帝国へと移住したそうだ。
その時に裕福だった曾祖父の父は、旅立つ息子へ幾ばくかの資産を与え「ロイ」の家名を与えたそうだ。
「此れからの時代は貴族だから優位になるとは限らない。次代を良く読め。」
そう助言も与えたそうだ。
おー、あの時代に凄い人が居たんだな。
何となくレコとがが言いそうだ。
曾祖父には愛人が幾人も居たので、愛人の子供たちは皆が母方の家で育ち、皆が育つと其々が他国へと旅立ったそうだ。
そしてその時にフロラルス王国と一番に仲の悪かったグレタリアン帝国で、一旗揚げてやろうと曾祖父がレッツパリーで無くチャレンジしたらしい。
なんつうアグレッシブな曾祖父だ。
俺が思うに曾祖父の父親はヒャッハー!貴族に違いない。
ロンド北西にあるケルウッド地方の南東のビルドロックに領地があるそうだ。
沼と岩ばかりでとジョセフは苦笑いをした。
兄が3人妹が1人と言う、両親も頑張っているなー。
父親は外交官で大使たちに付き添いモスニア帝国やフロラルスに良く行くらしい。
「モスニア帝国の街並みは荘厳で美しく理解で出来るがフロラルス王国の街並みは理解出来ない。」
そう帰国する度に溜息を吐いているそうだ。
うん、俺も思うわ。
真っ白い豪華な蟻塚?がパルスを覆って立ち並んでいる。
いやエトワル宮殿や1区、2区、そして5区までと王家や教会所有の建物は昔の侭。
あの建設マニアチームの遺伝子たちが人知を超えた建造物を目指している。
パルス市民たちよ、未来的な?四角い高層ビルじゃあ駄目だったのか?
先進的な芸術の都らしい。
俺は乾いた笑いを受けべて、楽しかったジョセフと会話を打ち切った。
ジョセフの顔色が悪いし、此処は外だから風が冷たいからね。
ジョンを呼んで喉に良いハーブや身体を温めるハーブ茶を持ってこさせ、ジョセフに手渡した。
また暖かい日にでも、気が向いたら遊びに来るようにと伝えてジョンにジョセフを送らせた。
ジョセフと別れた後、俺は「レコ」に会いたくなって馬舎へと向かった。
艶々とした栗毛に張った筋肉、俺を見付けて耳をピクピク動かし、少し挙動不審な動きをする「レコ」は、いつも通り元気だった。
何となく「レコ」がジョセフに変身したのかと俺は感じたのだ。
メルヘンっすね。
グレタリアン帝国はカリント教国なのに多いんだよね。
妖精の話。
オーフォールの森も妖精が住む森だとパブのジジイ達に聞いて行ってみた。
いやー4月に行ったら、珍しく陽射しが入る場所が所々に在り、ピンクや青や紫の小花がそういう場所に咲き誇っていて、そして良く育った背の高いエーデルフラワーがクリーム色の小花を鈴生りに付けて微かに葡萄の香りがするんだよね。
当然、森なので暗く木々が密集している場所もあるんだが、泉もあった。
木々の青や下草の様々な種類の緑に、うん、此処なら妖精女王とか妖精王が出ても不思議じゃない。
そう実感した。
まあ、未だに妖精には出会えてないけどさ。
時折、イラクサに攻撃されるのは御愛嬌だ。
ウィルにオーフォールの森の香草を採って良いかと尋ね、「良いよー」許可を貰ってからは「レコ」と一緒に行くお気に入りの散歩コース。
当然、俺の知らない植物ばかりなので、採取してからウィルに聞いたり、ジジイ達にも聞いたり、ベラルド伯爵家の書庫で調べたりと、オーフォールの森に生えている植物の事を学んだ。
そんでもって「エーデルフラワー」凄い、そう連呼していると、ウィルが苦笑して俺の手を引き領主館の庭園に連れて行き、大きな古い木を指差した。
うおおー、凄い量のエーデルフラワーが咲いていた。
代々大切に育てているんですってよ、奥さんっ!
あはは、俺が如何に興味ない事に無関心だったかウィルに判ってしまった出来事だった。
そんなことを想い出して「レコ」に今日あったジョセフの事を話した。
話をしている長い時間それを「レコ」は大人しく聞いてくれていた。
「レコ」顔を頭に近付けて来たので又、鼻頭でツンツンしてくれるのか、そう思った。
ぶちっぶちっ、ムシャムシャ。
俺は悲鳴を上げて頭部を抑えて座り込んだ。
腹が減ってたんだね。
すまん「レコ」
指の腹で触った俺の頭部は、どうも地肌に触れているっぽい。
その後、慌てて遣って来たジョンが、俺の右側頭部を見て指を指し、大きな体を曲げて、大笑いを始めた。
こらジョン。
人を指でさして笑うんじゃねーよ。




