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アリロスト歴1889年 10月
事前連絡してヤードへブルーダイヤモンドを持参。
すると新聞記者達の前でレイド警部やその上司が見守る中、宝石商ピーターにブルーダイヤモンドを返却するというセレモニーを俺は演じさせられた。
その後、新聞や雑誌の取材が相次いだので兄経由でそれらを遮断して貰った。
使える兄に僅かばかり感謝して於こう。
空騒ぎしているような俺の記事はどっかの阿呆議員達の作為も感じる。
議員達は選挙法改正とか何かの熱が再燃して貰ったら困るもんなー。
探偵が盗まれた宝石を取り返えした。
分り易くて泥棒以外に損する人が居ないし、目出度いと誰とでも騒げる話題。
俺は自分が仕掛けるのは好きだけど、こんなにも分り易い使われ方をするのは正直ムカつく。
使用料を俺に寄こせよ、てめーら。
俺を利用した奴等はその内に確りと仕返しをさせて貰おう。
そう言えばジャックが兄に拉致られた。
偶に下宿に戻って来て俺にブチブチ愚痴って兄の元へと帰って行く。
クロエと俺は、ジャックが兄の「愛人」に成ったと笑いながら話し合っている。
怖がっている癖に通うって、すっかり兄からの調教が終わっているジャックだ。
さて周りからはそう見えないだろうが、ジャックは俺と兄から可愛がられている。
本当は嫌だけど兄と根っこの部分が似ている俺。
だから分かる。
俺達は兄は俺にしか興味が無いし、俺が目覚める以前のジェロームは兄にしか興味が無かった。
他は面倒な些事でしかない。
で、ジェロームが消えて俺が目覚めてから、俺は基本的にジャックとクロエにしか気を許せない。
まあ肉体はフリーダムだけどな。
別にこれは俺が目覚めた所為だけじゃ無く、ジェロームも遣りたい放題な性少年だったし。
硝子細工の性少年ジェロームは、ホント碌でも無い奴とばっかり関係を持ってたんで、微調整するのがマジで面倒だった。
その微調整の濃厚な話は何処か別の物語でしよう。
俺が真面に成った理由をジャックへの想いだと勘違いした兄。
あははっ、俺は敢えて勘違いをさせて、兄がジャックに向ける殺気を有意義に楽しんでいた。
ムシャクシャしてやった。
だってさー、やっとあの世へ逝けたと思ったら此の世界で生きてるし。
まあセインと触れ合っている内に俺も落ち着いて来た。
セインて俺の癒しでもあるんだよ。
ジャックやクロエにはセインの良さを俺が説明しても通じなかったけどな。
そして不思議と兄もセインはスルーしてる。
俺とセイン2人がイン・ザ・ヘブン状態なのを兄は監視してるのにな。
ある意味失礼な話だ。
そして時間が経つと俺とジャックはそういう関係で無いと兄に知られ、でも俺が懐いているのでジャックを観察していた兄が気付いた。
兄の実用化に耐える。
俺以外と接触せずに生きて行きたいが、祖父の代から続く内務の仕事も在るし公爵家の事も在る。
兄の側に置いても気後れせず他者と接触出来る人間を発見。
そいつは兄の最愛ジェロームに不埒な真似をせず兄の望む結果を出す。
欲しいモノは手に入れるのがグレタリアン貴族の流儀。
襲う事は無いと思うが念の為に、「ジャックは俺の友人だから、ジャックが拒否した事はするな!させるな!」と兄に命じて置いた。
自由人な兄も俺の命令は絶対に聞くのでコレでジャックの貞操は守られる筈だ。
と言いつつもジャックにはレプリカ(妻)粉砕と言う酷い事をした。
気がするので、お詫びにクリスマス・プレゼントをするつもりだ。
敢えて獰猛紳士ウィルに対抗して俺も馬を送ろうか、とも思ったけど、友人の名を冠したその馬を甚く気に入っている様子なので、代りにジャックに嫁をプレゼントしようと思い至った。
つう訳で2ロット程、パルテの戦乙女のレプリカを作って貰っている。
費用はピーター宝石店が持つと言う。
1ロットで12体。
2ロットにしたのは、今回俺とセインが盛大に粉砕したパルテの戦乙女レプリカの元の持ち主への返却用に11体必要な為だったりする。
そして大グレタリアン博物館にもレプリカの問合せが多かったらしいので。
今の所はジャックに内緒でレプリカが出来たら博物館の案内人から売ってもらう予定。
これでも俺はジャックには気を使って居るのさ、偶にね。
でもって大グレタリアン博物館で館長と宝石店主ピーターと打ち合わせをした。
パルテの戦乙女のレプリカの問合せの多さに気を良くした館長達は100ポンドで販売予定。
流石、利益が出る時の判断は早いよね。
それに今はブルーダイヤモンド盗難事件の噂でレプリカ人気も高まっているらしい。
そうそう石膏技師の身元もしっかりヤードに調べて貰った。
1人の石膏技師がアシェッタの古代遺跡に旅行している間に誰かが働いていたそうだ。
はあー、なんつーマメな奴なのだ。
泥棒など止めれば職人として成功しただろうに。
やっぱり一攫千金フロンティドリームを追い求めるのはグレタリアンの血なのかな。
「ジェローム様、大グレタリアン博物館よりお届け物で御座います。送り主はバート・P.T.様になっております。」
「ああ、トマス有難う。そのテーブルに置いてくれ。」
「はい、畏まりました。」
なんだって怪盗バートが?
「バートめ、ファントム・シーフとかフザケた名乗りをしやがって。」
急く気持ちを抑えて俺は寝椅子から立ち上がり籐のテーブルに近付いた。
トマスがガラスの天板に置いた大き目の木箱を俺はナイフで探るように開けた。
仕掛けも何も無く、俺が木蓋をスンナリ開くと、木箱の中に出来の悪いパルテの戦乙女風に見えない事も無い石膏像が、入っていた。
そしてシンプルな白いメッセージカードも。
「ブルーダイヤモンドの発見おめでとう。君にもう1つプレゼントだ。胸像を見よ。」
バートに言われた通り動くのは癪だが、俺は臍を嚙み、テーブルの上に木箱から出した石膏像を置いて眺めた。
すると戦乙女の両の耳朶には黒真珠が嵌め込まれていた。
その2つの黒真珠は7年前に大グレタリアン博物館から盗まれた物だ。
古代オシリス王朝の墳墓から出た宝飾品だった筈。
腹立たしい、コレって俺を郵便配達人するつもりかよ。
まあ真面目に働けば職人としてと成せると俺は思っていた話だけど訂正しよう。
バート、てめぇーに、石膏技師は無理だわ。
パルテの戦乙女とは言えない不格好な石膏像を見て俺は声を出さずに笑った。
流石に此の石膏像ではジャックも妻と呼ばないだろう。
俺は其の「バート作」の胸像を探偵事務所にあるサイドボードへと飾った。
後で「バート作」というプレートも造らせ石膏像と一緒に飾って於いて遣る。
この酷い出来の石膏像が俺に飾られているなんて知ったらバートは如何思うのかな。
顔も風体も知らぬバートが恥ずかしさでのた打ち回る姿を想像して俺は思わず噴き出した。
セインに「如何した」と聞かれたので考えてた事を話した。
「バート本人は幾ら何でも作らない気がするよ、ジェローム。」
だからさ、セイン。
そう言う事は思っても口にしないでくれると俺は嬉しいかな。
俺は馬車を準備させ、黒真珠を持って大グレタリアン博物館へとセインと共に出向いた。
グレタリアン帝国で元から高かった小麦がまたも値上がりした。
理由は言わずと知れた涼し過ぎた夏の所為で小麦が不作だった。
そしてそれに呼応するようにライ麦や大麦の値段も上がった。
一番の問題はグレタリアンの食糧庫として植民地化された西にある島トラットランドのジャガイモが疫病により約3分の1が枯死した事だろう。
しかし相変わらず能天気な議会では何一つ問題に成っていない。
いやまあ議員遣ってる人達は高関税が掛った穀物とかも、平気で購入出来ちゃうから気にしないのかもだが、此れが続くと飢える人たちがロンドで大量に出て来るぞ。
俺は溜息吐きつつ現状を説明している補佐官ヒューイの話を聞いている。
俺が越して来た屋敷は議会堂や政務宮が近く俺の屋敷と言うより、エイム卿の控室?的な役割を付け足されていた。
大きな書庫の隣にある此の部屋には世界大戦でも始めそうな「大戦略」な世界地図が壁に飾られ、広い机や、ゆったりとした黒と褐色のリクライニングチェアが8脚並べられ、談話つうより「会議オッケーっすよ」みたいな一室に成っていた。
でもってまあその椅子にエイム卿とヒューイと俺が座っている。
その背後には悪魔エイム卿の手下どもが居る訳なんだが。
そしてヒューイが穀物不足の報告押した後にエイム卿が囁く。
「不穏な行動をしている者の手紙を入手後に内容を書き写し提出するように。」
それを俺は補佐官ヒューイに伝達するのだ。
おいおい。
それってヤバイ事だよな?
そんな事をするより南カメリアやイラド、プリメラ大陸の植民地から安価な穀物を輸入しようぜ。
俺はそう考えて遂、呆れた視線をエイム卿へ送っていた。
「そんな目を向けるなジャック。これは首相からの依頼だ。スターリバールみたいになると困るとの事だ。」
「いや俺は別に。」
「今国会も穀物法は通過しなさそうだ。下院は通りそうなのだがな。」
「間に合えば良いですね。でも俺は思うけど食糧不足で起きる騒動は、改正運動とは違うので突発的なモノですよ。あんまり飢えた民衆を舐めない方が良いと俺は思います。」
「うむ、、、、。」
そう頷いてエイム卿は自分の考えに埋没して行った。
それから暫くして徐に俺を見ながらエイム卿は口を開いた。
「ルドア帝国のミハイル皇帝が急進的組織(祖国の息子たち)に、所属している軍人達を捕縛した。」
「元皇子誘拐事件に関与していたから?」
「いや其方の話はルドア帝国では知られていない。ルドア帝国内の教会や貴族が、組織の拡大を恐れ強行な態度で臨む様に、ミハイル皇帝へ進言したのだろう。プロセン王国と共同歩調を取り共産思想の取り締まりを強化するそうだ。」
「アレ?グレタリアン帝国もプロセン王国と一緒に共産思想の取り締まり強化してますよね。若しかしてグレタリアンはルドア帝国とも仲良く?」
「出来るわけ無いだろう。イラドでもトルゴン帝国でもルドア帝国とは戦争中だ、」
「ですよねー。でもそんな状態なのに、エイム卿は良くアルドラ元皇子を救出して、保護する気に成りましたね。」
「ルドア帝国の皇位継承者が自ら手の中へと入って来るのだ。放置する貴族がいるとでも?」
「ははは、聞くんじゃ無かった。」
「それとランダ国はモスニア帝国から独立した途端にプロセン王国は進軍する。」
「えー、マジですか。」
「ああグレタリアンは干渉しない代わりにプロセン王国から北カメリアにあるランダ国の植民地を貰う事に成っている。ランダ国に住む市民は先進的過ぎて支配には不向きだ。」
「ランダ国はモスニア教育を受けてますから、じゃなくて俺に話さないで下さい。」
「何故だ?知っていた方が私との仕事が遣り易いだろう?」
「仕事って言われても。俺って学が無いし平民だし政務の手伝いなんて無理っす。」
「怪しいと思ってジャックを丁寧に調べて見たが残念な事だが本当に平民だった。それにフロラルス語やアシェット語を流暢に話せる人間をグレタリアンでは学が無いとは言わない。」
「でも実際に学校には行って無いですからね。俺ってジェロームのお世話係に雇われた、序で、エイム卿の下僕もしているって、理解してるんですが違うんですかね?」
「はあー、ジャックは何を言っている。前回私の秘書官に成れと言った時に断っただろう。政府系の仕事は荷が重過ぎると私に話していたじゃないか。」
「ええ、断ったのは憶えていますよ。」
「だからコレは私の友人としての仕事なのだ。」
「へぇっ!?友人??誰と?」
「見て判るだろう。私とジャックだ。」
「、、、、、。」
「ジャック、如何した?」
「いえちょっと脳内が混乱して、エイム卿と俺がフレンド?」
「そうだ、その友人としての仕事を全うするには私と情報を共有して置くべきだ。そう思うだろ?」
ええと、色々言いたい事が或る。
俺へ向けてくる殺気や有無を言わせぬ圧力。
まあーそれは仕方ないと割り切れる。
高位貴族から見れば俺の身分なんてゴミ畜生位にしか思えないのだろうと開き直っていた。
だが此処へきて行き成りの友人宣言。
知らない間にフレンド登録されていた。
ゴミ畜生から唐突に人間関係の上位である友人にランクアップだよ。
喜べ、ねーよ。
ファンファーレがブーピー音に聞こえる位に俺のテンションは駄々下がり。
つか、友人の仕事って何だ?
全く何の疑問も持たずにそう言っちゃえるのが、我が道を生きる悪魔エイム卿だよなー。
それから11月に成りジョンが迎えに来るまで、俺はエイム卿の愛人、もとい友人としての仕事を南セントラルの屋敷で熟していた。
午後に為ると嬉々として緑藍を覗き見に出掛けて行くエイム卿を見送り俺は思う。
俺が平穏に生きる為には緑藍に生贄の羊に成って貰うしかない。
「緑藍に幸あれ」




