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エイム迷走ス  作者: くろ
21/111

レプリカ


  アリロスト歴1889年  8月




  現在地殻変動期みたいだ十年以上前に噴火した火山がまた大きな噴火を起こしたそうだ。

 きっと来年は気候変動で穀物の収穫が減少するだろう。

 

 でもさ、不思議な事に上院でも下院でも其のことには興味無いんだよな。

 うん、自分達は飢えないもんなー。

 何だろう。

 俺ってパルスの民をを飢えさせない為に彼是と必死だった記憶があるから此の長閑さは戸惑うよね。

 まっ、所変われば人も変わるつう奴かな。




  そして5月のスターリバール広場の虐殺のちに議会が「治安六法」を制定。

 

  煽動集会禁止法により州長官または治安判事の許可がなく、かつ50人以上が参加する政治集会が禁じらた。 

 日頃は、問題が起きても動きが遅い議会と思えない素早い対応に俺が驚いた。

 でもって此れ等に全く興味の無い緑藍から「淋しいからカムバック」てな手紙と詳細な偽アシェット外務官事件の報告書も届いた。

 大抵がいい加減な緑藍の癖にこう言う報告書は律儀なんだよなー。

 でもって、エイム卿から俺に情報漏らした犯人判るか聞きたかったらしい。

 うんなモン、分るか―っ!

 エスパーでもあるまいに。

 悪魔エイム卿は自分が人外だからって他人も同じだと思わないでくれ。


 俺は無用の長物な緑藍の報告書を厨房で焼却処分した。










  アリロスト歴1889年  9月





 久々に俺はブレード通りにある下宿112Bへと戻って来た。

 玄関ホールに出迎えてくれた涼し気な水色のドレスを纏った貴婦人、、、クロエだった。


 「お帰りージャック。」

 「ただいまーサマンサ、ていうか何事?若しかして婚活中?」

 「はぁーそんなことある訳が無いでしょう。此れも広告の一環よ。」

 「あー、商会か。あっそうそうハイお土産のハーブ。」

 「有難うジャック。ジャックの所のラベンダーって香りが良いのよね。」

 「それはどうも。」


 俺は乾燥ハーブをクロエに渡し、2階に上がって黒檀の扉を開けジェローム探偵事務所へと入った。

 三つ折りのラワン材と派手な綿で作られた衝立の影から寝転んでいる緑藍が見えた。


 「ただ今、ジェローム、ワート君。あれ?クロードが居ない、珍しい。」

 「お帰りージャック。クロードは兄のお遣いさ。」

 「お帰りなさい、ジャック。左足の調子はどうだい?」

 「うん、有難うワート君。乗馬を始めてから良いみたいだよ。動かさないと駄目だねやっぱり。」


 胸元を開けさせてノソノソと緑藍が寝椅子から起き上がり俺の前まで来る。

 俺は溜息を1つ吐いて緑藍の細い右手首を掴み奥にある部屋へと連れて行き黒い綿の夜着を脱がせていく。

 「風呂に行くか?」

 「うん、頼む。」


 5年前まで俺への殺気で溢れる浴室だったが有難いことに今日はエイム卿の監視が外れている。

 傍から見れば艶めかしい緑藍の白い肌をシルクのタオルで磨き上げていく。

 俺の身体に細い腕を絡ませてくるのも何時もの緑藍仕様。


 「やっぱージャックが居ないと俺は駄目みたいだ。」

 「糞お坊ちゃま、俺って言ってるけど良いのか?つかジェロームは少し自分で動けよ。」

 「ふふ、ジャック相手だしな。それに俺はジャックにして貰いたいのさ。」

 「はあー。ジェロームの世話を焼く、いい奴いねーかなー。」

 「セインだと俺が世話することに成るしなー。3人でとか?」

 「勘弁しろよ、それにしてもワート君も一児のパパじゃん。そろそろジェロームとのアンビリバボーな友情も卒業させても良くね?」

 「セインには無理だと思うよ?ジャック位だよ俺がこんなに密着しても枯れ果てて無反応なのは。」

 「枯れ果ててねーし。つか普通は無反応なモンなの。」


 うん。

 俺はまだ枯れては居ない、、、筈だ。

 自らの迷いを消す為に俺は緑藍に頭から水をブッ掛ける。

 フロラルス製の大判なループ織のタオルで緑藍の身体を包み込み水気を取る。

 数多の緑藍から繰り出されるチョッカイを俺は華麗にスルーし、上質な綿素材のシャツを着せた。


 あのー緑藍よ。

 折角に恰好良く緑藍に似合うシルクのストッキングを穿かせて、ベージュのブリーチを着せたのに股間をモッコリと隆起させてるんじゃねーよ。


 「あははジャックの手って気持ち良いよね。」

 「煩せーよ。ワート君とデートでも行って来い。」


 淡い金糸の髪が光に透けて輝く、こんなにも美少年なのに色々と残念だよ、緑藍お坊ちゃま。





 俺は自分の部屋に戻ろうとすると緑藍も共に付いて来た。

 こういう時は俺に甘えた時か、他の誰かに聞かれたくない話をする時なのだ。

 俺は湯を沸かして乾燥させたブルーマロウをティーポットへ入れ香りが満ちる迄蒸れるのを待った。


 「何か話か?ジェローム。」

 「ああ、助け出されたアルドラ元皇子が如何しているか気に成らない?」

 「まあね。一応すこーしだけ関わったからな。」

 「ふふ少しねー。アルドラ元皇子夫妻は今エイム家領地の別邸で寛いでいるよ。」

 「ルドア帝国の軍は?また攫いに来るとか。」

 「大丈夫。それに気楽にエイム家領地へは入らせないよ。」

 「まあ、それもそうか。」

 「それに情報漏洩させてた人間には監視を付けてるしね。」

 「凄い、ジェローム判ったのか?」

 「うん、会えば簡単だった。皇子の妻だよ。」

 「えっ?」

 「確かに顔は可愛かったけど瞳に1枚膜があるって言うのかな。本音を語ってない感じ?自分と婚姻した事によって皇太子じゃなくなっただろ?でも今回軍部から皇帝に成ってくれと農園に居た皇子へ説得しに来たらしいんだ。まあだからアルドラ元皇子がヤバイと思って逃亡したみたいだけどね。妻の方は皇帝の妻つまり皇妃に未練ありそうな表情と口ぶりだったよ。」


 「うわーアルドラ元皇子に話したのか?」

 「まさか、アルドラ元皇子本人は妻にラブラブ中だし失望させる真似は余りしたく無いよ。」


 まっ、兄が妻をいよいよ邪魔な存在だったと判断したら、残念だけど病死する定めだしね。


 「うん、そうだよな。でも又従弟も皇帝に成りたくないのだろ?」

 「残念、教会や貴族に説得され、ミハイル皇帝になるよ。あっ、それとルドラ帝国軍人の死体がクライン川沿いで、もう一つ上がったよ。コッチは間違い無く自殺。そしてウェットリバーでの2つ遺体も自殺に近いモノだ。恐らくアルドラ元皇子捕獲に失敗し、其れが露見して祖国や組織へ迷惑を掛けない為に死を選んだのだろう。」


 「通称(祖国の息子たち)。こうさー、何で一気に物事を進めようとするのかねー。」

 「うーん、ジャックと違って、若いから?」

 「うるせージェローム。本当にコレだから急進派つう奴は。」

 「まあ物事を何か1つ進めたいなら急進的で無いと無理だと思うわ。ジャックには無理そうだな。」

 「はいはい、何もヤル気のない俺には無理だよ。」

 「さて折角着替えさせてくれたからミスティ・パークにでも行こう。一緒に行くだろう?」

 「ああ供をさせて貰おう。ワート君も誘うか。」

 「そうだね、拗ねたら可哀想だしセインも誘うよ。」


 俺とジェロームは青いマロウを飲み干して、事務所に居たセインを誘って外に出た。

 秋の風が吹き木々が少しだけ色付いているブレード通りを3人で歩いて行った。


 案の定、緑藍は辻馬車を拾い、狭い馬車内でワート君の膝に座り、俺の腕にも引っ付いて「両手に花だ」とかフザケタ事を言って居る。

 こんなにデッカイ栗鼠が花に見えるとは緑藍も可哀想に。

 幾ら涼しい9月のロンドとは言え、狭い馬車内で、大きな高体温栗鼠とぎゅうぎゅう詰めでくっ付いていると、流石に俺も暑苦しい。

 それはワート君も同じだろう。


 騒めく喧騒の中を抜けるとセントラル地区に入り技術の粋を集めて建造されたミルド大聖堂がある。

 いやー何時見ても教会って豪勢な作りだよな。

 とか思ってたら緑藍とワート君が俺の隣で何やら始めてるし。

 頬を上気させて、ワート君は哲学する栗鼠みたいな表情に成っていた。

 

 俺はワート君の見てはならないモノを見せられている気分に成り、馬車の外の風景に視線を移した。



 「そろそろ俺は降りても良いかな?」

 「はっ、済みませんジャック。僕が我慢出来ずにジャックが隣に居るのに申し訳ない。」

 「良いよワート君、どうせジェロームに絡まれたんだろう。」

 「ふふ、酷いなジャック。それじゃあ何時も私が悪いみたいじゃ無いか。」

 「悪いんだよ、エロイ事のほぼ100%はジェロームの所為だと知ってるし。」


 ワート君が面倒臭くも、アレコレとジェロームを庇い出したので、俺は杖で馬車の天井を叩き御者に降りる事を知らせた。


 石造りのビルが立ち並び、そして議事堂が見えて来た。

 其の侭レンガ敷の通りを3人で歩いているとレイド警部が巡査達と一緒に気忙し気に歩いていた。

 当たり前だが俺はヤードなんぞと関りに成りたく無くて西に向かって歩を進めようとした。


 「レイド警部ーっ!何か事件ですか?」

 「ああジェローム、チョット奇妙な事がな。」

 「それは面白そうですね、レイド警部、一緒に行っても?」

 「其れは助かるよ。」



 俺は1人で帰ろうとした。

 如何いう訳かワート君もジェロームに歩調を合わせ、右腕にはジェロームが絡み付き、左腕には頭一つデカいワート君が右腕を組んでくる。

 ヤダー、血生臭いモノに加わるの。


 楡の木立ちを抜けて美しい秋の庭園を歩き付いた先には、古代コンクリートを使い、巨大な石柱を対称的に配した壮大な建物が、、、はい大グレタリアン博物館でした。

 人呼んでグレタリアン盗賊史。

 だってさー、此処に或るのって他国の王家を荒らして簒奪したり、墓を暴いて盗掘したもんすよ。

 俺の神経じゃ絶対に真似が出来ない。


 コツコツと響く大理石の通路を因縁やら怨念が篭ってそうな美術品に見守られて進む。

 1人だったら俺は泣いてるかもしんない。

 案内人に、グルグルと歩かされて俺の三半規管が溶けだした頃に、「此方の方は一時保管庫」つう説明をされた。

 一時保管庫に来るの、こんな手間が要るんすか?

 案内人に、そう聞きたかったが藪からステック状態に成りそうなので賢明な俺は止めた。



 「此れなんです。」


 そう言って案内人は倉庫の奥から重そうな木箱を運んできた。

 木箱の中を見ると、頭部の原型が解らなくなる程に、叩き割られた物が其処には在った。

 まあ石膏なんだけどね。


 「元は此れです。同じ型番のレプリカです。出勤したらあの木製ラックの飾っていた物が壊されていたんです。他の物を壊されずにホッとはしたのですが。」


 何このバルキリー美少女。

 顔立ちも完璧で首筋も最高だ。

 胸像だから乳房は見えないが、胸元から膨らむあの谷間を見れば素晴らしい美乳に間違いない。

 パルテの戦乙女ってこんなにも完璧な美少女だったのか!

 くつ、石像とは、盲点だったぜ。

 帰りに全身像を見せて貰おう。

 グッジョブっ!大グレタリアン博物館、良くぞ俺の為に持ち帰ってくれたっ!


 「ジャックお前、レプリカ見てやらしい事を考えてるだろう。」

 「な、何を言ってるのかねジェローム探偵、俺はただ美術的観点でーー。」

 「ええー、エロイ目してたぜ。」

 「違うのだよ、ホラ此のレプリカの眉、鼻、口此れを線で結ぶとほら完璧な黄金律。それは顎と。」


 俺はクドクドと必死に緑藍に、パルテの戦乙女の美術的な素晴らしさを語る間に、案内人から必要な話を聞いていた。

 一言言って於く、俺はモノフェチではない。

 ただの美少女好きだ。

 あれ?これも何か恥ずかしいぞ?




 本日のお題。

 パルテの戦乙女レプリカ殺人犯を追え。


 アシェッタ古代遺跡からいろいろ発掘、その戦利品の1つがパルテの戦乙女。

 古代遺跡の神殿の一部を其の侭第グレタリアン博物館に移築。

 その完成を記念して色々レプリカを作ってみた。

 戦乙女のレプリカは12体。

 レプリカと言っても石膏技師が型から外した後に微調整や磨きをするのでお高い。

 採算度外視で、一体20ポンド。

 1つは博物館に記念として於いて置く予定だったが、今回の展示会に協力してくれた方々へレプリカの行先は全て決まっている。

 つう訳で、此の麗しいパルテの戦乙女レプリカも嫁いで行く。

 俺を残して。


 「あ、あのー又戦乙女のレプリカを作りますよね?」

 「いやー流石に利益が無いとね。このレベルで作るなら最低100ポンドですね。でも皆さんにアシェッタ古代神殿をもっと知って欲しいので、もっと安価なレプリカを作って楽しんで頂こうかと、企画しております。その節は是非。」

 「、、、、はい。」



 100ポンド、買えない事は無い。

 作って欲しいが緑藍が要る前では頼みたく無い。

 仕方ない。

 後日頼みに来よう。

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