ジェローム探偵事務所
アリロスト歴1884年 7月
馬車から引き摺り降ろされると通りや家周辺にみっしりと人が詰め掛けていた。
えー、殺害現場とか「KEEP OUT」とか書いた黄色いテープで野次馬を追い出してるモンじゃねーの?
俺ってドラマの見過ぎかな?
石造りの古い家へと俺はジェロームに押し込まれて、開け放たれた木製の扉から入る。
流石に死体は、ーーーーー在ったよー。
如何すんの?
巡査っぽい人達がウロウロワラワラ歩き回ってるけど、足跡とか遺留物とか無茶苦茶じゃね?
なんか俺の好きだったドラマで、遺留捜査の人が言ってた。
はい、あれはフィクションですね。
まあ、人が一杯いるので俺が視線を外せば、死体は見えなく成った。
何か緑藍がベンチ巡査に話を聞いたり床を調べたり、何か探偵ぽい事をしている。
本物の探偵とかを見た事が無いので、警察と探偵の動きの違いはさっぱりだ。
えーと、うん。分らん。
こんな人混みは初めて(前世日本を除く)もう俺は人酔いしそうだよ。
今後1年は部屋から俺は出なくて良いや。
クソ、折角マスクを作って貰ったのに持って来るのを忘れたから喉が痛い。
絶対に石炭の煤煙だけじゃ無くて他にも有毒な物質が空気中で拡散されてるよね。
ちょいとヤバ気な匂いがして来た。
碌でも無い物を燃やしたり、硫酸系を気楽に川に放流してるっしょコレ。
1人の死体何かより、此の見えない沈黙のアサシン集団を、何とかした方が俺は生産的だと思う。
俺は気分が悪く為り、眩暈に襲われた。
そして目の前が揺れ、左足への重心配分を間違え、俺は倒れそうに成った。
倒れると身構えていると、すーっと俺の身体が誰かに抱き止められた。
その爽やかな香りは昂った俺の神経を僅かに沈めた。
「有難うございます。倒れる所でした。」
「いえ、間に合って良かったです。」
「モーリー巡査、遅かったな。此方は調べる物は大体調べたぞ。如何した?ジャックを抱えて。」
「気分が優れない様なので此の侭、此処に居させると倒れられてしまいますよ。」
「えー、マジ?済まんジャック、私の我儘に付き合わせて。済まないが馬車迄送ってくれるか?」
「いや、ジェローム大丈夫だよ。人混みを少し掻き分けて貰えば、歩ける。」
「私に摑まっていた方が速くて安全です。制服も着ていますしね。」
そう言うとモーリ巡査は僕の左腕を肩に掛けさせ俺の腰を引き寄せて丸でダンスを踊るように鮮やかに人混みを抜けて、俺を馬車の昇降口へとエスコートして行った。
まあ男と踊るのは王太子時代に専任教師にダンスを躾けられた時ぐらいだが。
「本当に助かりました。有難う御座います。」
「いえ、貴方が私に上手く身体の動きを合わせてくれたので歩き安かったですよ。」
「後日ヤードの方へ何かお礼を届けさせます。モーリー巡査ですよね?」
「ええ、余り気に病みませんように。貴方がご婦人なら刺繍したハンカチを強請ったでしょうね。」
「どうぞジャックと。俺は平民なので、気を使った言葉を使用しなくても良いですよ。」
「そうですか?とてもそうは見えませんが。あっ、コレを差し上げます。このチーフに気持ちを落ち着かせる香りを焚き染めているの、で良ければお使い下さい。」
「有難う御座います。これ先程薫った時、気が落ち着いたのです。有難く使わせて頂きます。」
「私の事はモーリーと、ジャック。」
「はい、モーリー。」
「ジャック、またね。」
「?ええ、何時か、また?」
俺を優しく馬車に乗せ御者に俺の行く先を聞いて伝えてくれた。
188㎝近い背丈は目を引くが有触れた茶系の髪と瞳に人の良さそうなモーリー巡査。
動きや仕草は貴族だろうな。
んー、でも貴族が巡査とかするのか?
まあグレタリアンの警察機構は良く判らんし。
パルスに在るポリスも、俺がざっくりとした前世の警察イメージを伝えて、サロマ侯爵と創り出したポリスだし、あの時代には少々浮いた組織だったかもな。
良くやってくれたな、サロマ侯爵は。
後進指導や部下の育成、殆ど頼りっぱなしだった。
俺って、コイツって決めたら大体が全部任せてたな。
うん、俺はやっぱり何もしてないや。
俺はチーフに沁みた爽やかな香りを嗅いで、懐かしくも凛々しい軍人然としたサロマ侯爵との月日を想い返していた。
今もサロマ侯爵の薫陶が行き届いたポリスで在ってくれたら嬉しくて、俺は泣くかも知れん。
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「御免、ジャックまだ気分悪い?」
「いや、大分落ち着いたよ。お帰りジェローム。」
「ふふ、ただいまジャック。ディナーが出来たよ。無理ならスープを持ってこようか?」
「ううん起きて行こう。その前にジェロームが俺の上から降りてくれると有難い。」
「うん。」
仰向けに成っている俺に抱き付き密着して来る緑藍を、仕方ないなと思って抱き締めてやる。
緑藍としてトゥリー城で会った時とは違い、少し歪に、だけどずっと繊細に変わっていたコノ世界で再会した緑藍。
明るく殺し捲くったとフザケて俺に語ったが、それは無意識に緑藍の何かを削っていたと思う。
ある意味にあの時代で、死に救いを求めていたのかも知れない。
ホント、クソったれな神か悪魔の所為でっ!
同じ前世を生きていたから判ってしまう。
俺も虐殺されると理解して居ながら、敢えてそれを放置しておいた。
その虐殺を知った時に、俺は胃の腑が灼けて行く不快感を強引に抑え込んでいたのだ。
俺には吐く権利も涙を流す資格も無いと、息だけを飲み込んでいた。
緑藍は俺とは違い、精神を守る為に無意識化で感情を切り離した。
何時か思い切り泣ける日が来れば、壊れそうな緑藍を救えるのだろうか。
この世界で意識を取り戻し、3人で話し合い、取り敢えずは此の世界に合せて、また生きて行こうと誓った。
俺は痩せた緑藍を包む様に抱き締めて、レコが俺に良くしてくれた様に狭い背中を静かに叩く。
「何でジャックは優しいかな。怒っても良いのに。」
「まあジェロームお坊ちゃまに逆らったのは俺だからね。何卒エイム卿にはご内密に。」
「ふふ、いいよ。」
いそう言って緑藍は冷たい唇を俺の左頬へと貼り付けた。
全く、俺に欲も情も無いのに、此のガキは何を遣ってるのかね。
まあ、持たれてもエイム卿から一番に被害を受けるのは俺なので逃亡準備はしておきたい所だ。
俺はそろそろクロエが「食堂に来るのが遅い」と呼びに来る頃合いだと思い、緑藍に分かるように背中を3度ハッキリと叩いた。
チッと舌打ちしながら俺から離れて、緑藍は衣服を調えた。
うん、そう言う所が貴族って感じだよな。
普段は何処の娼婦だよって思う位、蓮っ葉な喋りしてるのに。
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一階の晩餐室つうても4脚+紫檀で作られた四角いテーブルに緑藍、俺、クロエ、シェリーの順で座り、用意されているディナーに口を付ける。
まあ、コレはクロエ式つうか全部、盛り付けた状態で食べる前世式。
きちんとディナー用の衣裳に着替えたシェリーは、この方式のディナーに吃驚してる。
俺達3人は、是が普通ですが何か?
雑談を交えて当たり前に俺達3人は食す。
「事件は解決出来そう?ジェローム。」
「ああシュリンク夫人、明日には終わる。」
「すげーな、で、あの血文字は?」
「血文字は、まあ犯人の遊び心?やべっ、鼻血出たっ!仕方ない血の跡を繋げて書いとくかってね。そんな所だよ。死因は毒殺だしね。」
「それは、じゃあ復讐者つうのも意味なし?」
「まーね、でも復讐者てのは本音だな。」
「なんでフロラルス語だったのか?」
「何語でも良かった。ボタボタと落ちた鼻血に見えなくなる文字ならね。うーん、1つ判らないのは今回の復讐は衝動的なモノ筈なのに準備が良い所だな。仲間とか居そうにないし。」
「おーなんかジェロームが探偵みたいだ。」
「みたいじゃなく私は探偵だっ!」
「如何思います?シュリンク夫人。」
「そうね、でもジェロームは謝礼とか貰って無いでしょう?そう言うのは職業とは呼べないわね。趣味で探偵してる学生?」
「おー、高校生では無く大学生探偵ジェローム。頼むから子供には成らんでくれよ。」
「私は謎には興味が全くないけど、あの幼馴染の同級生同士が結ばれるか?如何か?、だけ知りたい。」
「幾ら何でもアレで別れたらヤバイ騒動になる。」
「おい、ジャック、シュリンク夫人!シェリーは分らなくてキョトンとしてるぞ。」
「ーー!!あっー、済まない。」
「ごめんね、シェリー。昔聞いた物語の話なのよ。やっぱり子供の頃から仲が良い人と、結ばれて欲しいなーと、私は思っていたの。シェリーは居ないの?そう言う相手。」
「幼馴染は居ないですけど、ロンドでのシーズン中にパーティーで出会った方が、とても素敵で。結ばれたいとか、そう言う大それた事は思って無いですけど、もう一度お会いしたいなーと。」
「まあ、何という方?」
「はい、ウィリアム・ベラルド伯爵なのですわ。」
「えー、あの艶文家の。ライバルが多いわねー、シェリー。」
「ですから、そう言うことは。」
女性同士の恋バナは、まだまだ続きそうだった。
俺と緑藍は席を喫煙室に移し、椅子に座って互いの葉巻に火を点けた。
そして俺は先程の復讐者についての続きをジェロームに促した。
犯人は帰りに俺を送った馬車の御者であろう事。
一応、後を付けさせたが撒かれた事を緑藍は話した。
先ずあの馬車は俺たちが到着する前から居て、緑藍は疑問に思い、辻馬車が良く通る道や客を拾う場所を近くに居た巡査達に聞いた。
皆、此処の通りは人通りが余り無いしセントラルから離れるので辻馬車が居ない事等を話した。
その中の1人の警官が彼に辻馬車の営業許可を2年前に出した事を話した。
其処で彼の名前と住所を聞いた後、新聞社に寄り取得物問い合わせの記事を書いて貰い、そして此処5年以内でロンド近隣で起きた人死にの記事を探した。
すると3年前に彼の娘が自死に近い事故死で亡くなっていた。
娘には婚約者が居たがその彼も2年前に自死していた。
そして今回の被害者はノック・H・レッカーと言いロンドでは評判の悪い聖職者だった。
半追放扱いで南カメリアにある教区で活動していたが、1年に一度シーズン中に寄付を治める名目でグレタリアンに戻っては、訴えられない細工をして、悪さをして行くらしい。
主に見目麗しい女性には目が無く、ロンド近隣の女性は被害に遭っているのではと言う噂。
被害女性も家族も隠してしまうので犯罪に成らないそうだ。
恐らく3年前に聖職者が娘に至らぬことをしたのだろうと推測。
しかし婚約者が居た娘はそれに耐えられず、彼女が住んでた地域で自生している青火花草を、磨り潰し水で溶き抽出した物を、服用後に川へ落ちた。
青火花の抽出液はノミやシラミ駆除剤として生産されたが、人への毒性も強く軈て帝国政府から使用を規制されている毒物だ。
カリント教での自死は許されない罪とされているので、娘は神経を麻痺させた状況で川に落ちた。
緑藍はあくまで推論だが、と俺に断り、話を続けた。
妻も早くに亡くし娘も亡くし憔悴した父親は、従兄に農園を譲る手続きを終えてロンドへ向かった。
そして2年前に何かの形で婚約者が娘の自死した理由を知った。
その理由を御者をしていた婚約者の父親に伝え、婚約者は自死。
事情を知った御者は復讐を決意した。
故郷に戻り、娘が服した同じ毒薬を作りロンドへ戻って、ノック・H・レッカーの居場所を探すと南カメリアだった。
現在は係争中の為、国が許可した者しか南カメリアへ入国が許されない。
父親は苦痛に耐え、日々御者の仕事をロンドで営んでいた。
そして今年もシーズンがやって来た。
何時も通りにロンドに現れたノック・H・レッカーを御者は偶然見かけたのだろう。
復讐の協力者がノック・H・レッカーに御者の辻馬車を斡旋し、そして件の空き家に案内した。
俺は気付かなかったが、空き家には不似合いな新しいテーブルセットが置かれていた。
小さなテーブル、そして向い合わせで2脚の椅子が据えられていた。
1つの椅子の背にはノック・H・レッカーを拘束してたと見られる跡が多く刻まれていた。
そして2つのグラスが小さなテーブルの上に、椅子と同じく向かい合って置かれていた。
片方のグラスからは青火花草の香りが僅かにした。
ジェロームは平織の綿チーフを開いて切れたチェーンを通した古ぼけた銀の指輪を見せた。
犯人であるオラン・ホールが大切にしていた物だと俺に話し、「明日には此処へ取りに来る」と緑藍は、平然と告げた。
俺は葉巻を燻らせて、静かに緑藍に尋ねた。
「本当に探偵としてコレからジェロームは生きていく心算か?」
「ああ謎を解いて行く過程は楽しい。そして前とは違い、謎を解いてしまえば終わりがある。真龍国で政をしていた頃は、終わりの無い問題を延々と解き続けていたから、此の終わる感覚が楽しい。」
「少しは俺も理解するが、------だが俺は、この世界でジェロームが、必要に駆られた訳でも無いのに、人の死へと自らが関わって行くのを、俺は止めさせたいよ。」
「ジャックは心配性だな。そう考えてるならジャックが大丈夫だと思える迄、私の傍に居れば良いじゃん?それに此の物語の主役は私みたいだし、主役の私が逃げて行くのは癪に障る。」
「まあジェロームが決意しているなら、俺は頑張れとしか言えない。唯一つ、俺は探偵の助手には成れないからな!昼間のような事はもう懲り懲りだ。」
「はあー、探偵の助手はまた考えるよ。」
そう言って深く肺に落としていた煙を、緑藍は小さな談話室へと吐き出した。
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翌日に取得物広告を見て現れたのは小柄な街娘で、母の形見らしい。
緑藍は兄、エイム卿から借りている部下に娘を追わせた。
しかし、撒かれたとの報告が来た。
えー、プロの追跡人を撒くとかロンドの街娘は侮れん、つう事に俺はした。
でもって午後に如何にも貴族だぞって男が遣って来て、「犯人を逮捕した」と意気揚々と、レイド警部やジェロームに告げた。
如何やらレイド警部のライバル?グライス警部つうそうな。
ポーラハットのデッカイ熊(レイド警部)VSトップハットの白い獺(グライス警部)。
俺的な服装の趣味ではレイド警部を押したいが、熊は熊だしな。
逮捕したのは軍人のハグレ佐官。
妹に言い寄っているノック・H・レッカーに怒り、軽く叩いて催していた夜会から追い出した。
揉めていた事を多くの人が証言、妹の名誉の為にノック・H・レッカーを殺害した。
てな事を、鼻高々に俺たちに披露するグライス警部。
俺は長閑だなーと、思い乍ら高い声質のグライス警部の話を流し聞きしていた。
其処にモーリー巡査が駆け込んで来てノック・H・レッカーの秘書タンカの刺殺体と、隣室で死んでいたオラン・ホール発見を報告した。
騒然とする玄関ホールを俺は後にして、自室に置いてあったモーリー巡査へのお礼の品を持つ。
そしてホールに降りて行き、俺はモーリー巡査にお礼の品を渡した。
一瞬、驚いた顔をしたが、直ぐに破顔して丁重にお礼の品を受け取り、モーリー巡査は慌ててグライス警部の後ろを付いて行った。
うええー可哀想に。
モーリー巡査の上司はグライス警部なのか。
早く出世して、モーリー巡査が獺から卒業出来る事を俺は願った。
今から思えば俺は何故、モーリー巡査にアスコット・タイなど贈ったのか、と思う。
単に緑藍に「助けて貰った礼品を贈りたい」と相談したら、「使わんから遣る」つて、貰っただけの横流し品だ。
緑藍が兄からプレゼントされただけあって素晴らしい青み掛った黒の紋織絹。
俺のエトワル宮時代には2mもあるレースや織物で首や肩を飾っていたクラヴァットも、今や前世のネクタイに大分近付いて来ていた。
良きかな良きかな。
ただ惜しむらくは、俺が必死にフロラルスで流行らせたパロン式スラックスは、此処グレタリアンの地には届かず、相変わらず貴族男性は半ズボンに高いヒールが付いた靴を履いている事だ。
まっ、俺はグレタリアンでは平民だから良いんだけどね。
使わないなら贈ろう、勿体ないし、と感謝を込めて横流し品をモーリー巡査へ贈ったのだ。
いやあーこの時代の俺って前世にも増して節約生活を続けて居る。
身の回りの物は低姿勢で緑藍やクロエ貰い、支払われた給金は俺の私室に或る机に仕舞い込み、本は緑藍から借りたりと気分は苦学生である。
銀行を使わない理由?
いざと言う時に全く役に立たないからだよ。
コンナことなら、宝石や金貨をパルスかヴリーにコッソリ隠して置けば良かったと、俺はセコイ後悔を心の底からしていた。
今世、もし富を所有することが在れば、絶対に何処か地中深くへ資産を隠そうと固く誓った。
さて犯人も自死し、事件も無事解決して「めでたしめでたし」なのだ、俺はね。
悩める緑藍は、思春期の難しいお年頃として放置した。
シェリーは一応手続きを終えて、最終的な判断を下されるまで「待て!」状態だった。
そして今回の騒動を身近で見聞して、シェリーは酔狂な事に探偵業に興味を持った。
で、今回の事件を纏めた「青火花草の企み」を現在、資料を纏め乍ら執筆中。
緑藍はシェリーが助手に成るのを反対し、記録係と言う秘書にした。
助手は当てに成る人間が大学に居るので連れてくる、と緑藍は俺たちに伝えた。
クロエ事、シュリンク夫人は、「人が多くなるから会社にした方が良いわね」と昔商会を起こした手腕を発揮して「ジェローム探偵事務所」を設立した。
経理は勿論クロエ。
そして諸経費を除いた値段料金メニューを作成し、玄関ホールや緑藍の談話室に設置。
「私は浮気調査や身上調査なぞ、しないぞ!殺人オンリーだ。」
「「はいはい。」」
などと言う怒れる緑藍を手玉に取り、「頭の体操だから」と、渋々納得させた。
流石に母と祖母を経験したクロエは強かった。
俺は逃げ回っていたのだがクロエ事、シュリンク夫人に摑まり相談役兼代表者に据えられた。
「俺さー、探偵とか全く興味ないんだけど。」
「あら私だって全然興味無いわ。」
「ええー、だったら何故、探偵事務所の設立を?」
「はいどうぞ、エイム卿からの指示、命令書。」
シュリンク夫人から渡された5枚に及ぶ指示書には人材配置から値段設定など細かなマニュアルがびっしりと綴られていた。
当然に俺の名が、代表者蘭へ記されていた。
そして但し書きに、ジェローム(緑藍)の立場や身に危険が及ぶ時には「俺が代われ」と、注意書き。
俺って、単なる身替り要員かよっ!
でも1年で100ポンド報酬は嬉しいけどなっ!
畜生、人の足元を見やがって。
グレタリアンなぞ、フロラルスに攻め滅ばされしまえ!
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
アリロスト歴1886年 1月
一発の銃声でジェロームが世界を変えた当初は、ジェロームは純な17歳有閑学生、俺、ジャック・スミスは世を拗ねた傷痍軍人21歳、未亡人子無しで未来を憂うサマンサ・シュリンク夫人26歳で下宿と言うには、やや豪華な2階建ての屋敷で、今世での再会を神か悪魔を罵倒しながら、3人で祝った。
そして、それから2年が経った。
俺は、リアル悪魔エイム卿に日々殺意で調教されながら、ブレード通りに在る112Bの殺意アリアリの広い下宿で居住させれていた。
そして偶に呼ばれて防弾馬車、鉄製内装の個室でエイム卿は俺を監禁し、俺の神経衰弱に興じた。
又、エイム卿御贔屓の「人間嫌いクラブ」で、エイム卿やプチ・エイム卿達に取り囲まれては圧搾され、ジャック油を搾り摂られている。
つれよー、マジで辛い。
俺、この2年で6㎏痩せたぞ。
お金もチョイ溜まったし、俺は逃げる。
緑藍やクロエとは楽しいから今後も生活して行きたいが、流石に俺も限界だよ。
そんな俺の憂いはさて置き、シェリーが頑張った。
ジェロームの秘書シェリー・バーグ19歳は昨年末に1884年に起きた「オラン・ホールによる聖職者ノック・H・レッカー、秘書タンカ殺人事件」を纏めて1886年に一冊の本にした。
【青火花草の企み】
別に青火花草は何一つ企んでは居ないのだが、オラン・ホールの娘が自死する所から父親が復讐を終え自死する所までを自生している青火花草や室内に飾られている青火花草の視点で描かれていた。
いや、別に青火花草の想いや感情では在りません。
目の高さの事ですね。
青火花草が在る場所や状況説明が事件説明にも成っていると言う面白い表現だった。
特に今回は、ノック・H・レッカーや秘書タンカ達の被害を受けた方が、多く生きているので、其方方面に好奇の目が向かない様に配慮されていた
弟ラブなエイム卿は装丁から何から力を入れ、「エイム卿が!」出版した。
当然のように書評も絶賛され、著者のシェリー・バーグは顔色を悪くしていた。
ホントさー、悪魔エイム卿は他人の迷惑を考えて欲しいよね。
シェリーの才能を潰す気か!
って、俺は内心で怒ってるだけなんだ、何時ものように。
溺愛されている当の本人緑藍ことジェロームは、すっかり青火花草事件への興味も記憶も無くして、今は助手にしようとしていた友人から誘われ、霧のロンドを抜け出し友人の領地で冬休みを満喫中。
こうしてジェロームは、華々しくロンドで探偵デビュー?した。
今は、探偵デビューしたジェローム本人はロンドに居ないけどね。