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エイム迷走ス  作者: くろ
19/111

取り調べ

  アリロスト歴1888年   12月





 カレッジサイドホテルの受付にエイム卿と俺は共に行き、アシェッタ王国の外務官テロウスと会う約束がある事を伝えた。

 暫くして受付の男がポーターを呼び、俺とエイム卿をテロウスの部屋へと案内させた。

 ポーターがドアを叩いて俺達の来訪を告げると、中から少し低い男の声で応対があり、内からベージュのドアが開いて俺達は室内へと通された。


 清潔に整えられた部屋には、クラシカルな応接セットが置かれ、其処に座していたテロウスと思われる長身の男が立ち上がり、俺達の来訪を歓迎した。

 薄い胡桃色の髪に水色の瞳の彼は外交官というよりも軍人を彷彿とさせた。

 彼も貴族で軍属経験後に役人に成ったのかも知れない。

 しかしアシェッタ人とはもっとエキゾチックな顔立ちだった気がする。

 昔アルフレッド時代に会った事のあるアシャッタ人たちの容貌を俺は思い浮かべていた。


 エイム卿は、俺をグレタリアン側の「通訳だ」と、たどたどしいアシェッタ語で外務官テロウスに紹介し、3人での会談が始まった。


 ルドア帝国から逃げて来た元皇子アルドラ君。

 放蕩三昧だったが愛する娘が出来て婚姻した。

 問題は、アルドラ皇子がルドア正教会以外の宗派で婚姻し、その娘が農園主の娘だった事。

 怒った皇帝は皇子を廃嫡し皇帝宮から放逐した。

 「ラッキー」

 そう喜んでアルドラ皇子は農園で楽しく娘とイチャラブしていた。


 

 そこで不幸な報せ「皇帝死去」。

 悩んだアルドラ皇子は足掻くことにした。

 父の弟である息子(又従弟)に手紙を送ってアシェッタ王国へ逃亡した。


「俺は廃嫡された身だし、皇帝に成りたく無いから又従弟の君が頑張れ」


 驚いた臣下と又従弟。

 又従弟も「皇帝に成りたくない」と辞退した。

 大国ルドア帝国は今、皇帝が居ない空白状態。


 -------------------- 今ココ。


 はー、時代は変わるんだね。

 昔なら皇帝の座を巡り、血みどろの内紛劇が起こっていただろうに。

 ライバルを次々と謀殺していたアノ愛人ポナションの子孫とは思えん行動に俺は驚いた。

 エーデンのアホとランツ義兄と共にポナションの魔手から北カメリアに逃がしたルドア帝国の正式な皇女の子孫は元気でいるだろうか。

 そんな事を考えながら、外務官テロウスの説明を聞いては、エイム卿へと通訳をしていた。


 うーん、何だろうな此の違和感。

 えーと言葉が少し変なのだ。

 コレってルドア語訛りなんだよな。

 まあトルゴン帝国から独立しようと戦って居るアシェッタ王国と、トルゴン帝国を我が物にしようと攻めているルドア帝国とが、仲良くして行くのは不思議じゃ無いけど。

 エイム卿は、アシェット語を読む事は出来るのだが、会話言葉のヒアリングが心許ない状態。

 ふむ。



 「~~~と、私達もアルドラ皇子を説得したのです。今ルドア帝国に政治空白が生まれるとあのトルゴン帝国が牙を向き、我がアシェッタ王国も滅亡の危機に瀕すると。そう話したら漸く理解して下さり、一度ルドア帝国に戻り又従弟殿と話合いをして下さるそうです。」

 「では此方に相談されていたアルドラ皇子の保護は必要なくなったと。」

 「はい、お騒がせして申し訳ありません。このお詫びは後程十分にさせて頂きます。」

 「いえお気遣いなく。クリスマス前に問題が片付き良かったですよ。」

 「ええ、本当に。では私共はこれで失礼します。エイム卿に良きクリスマスを。」

 「どうも、テロウス氏。」


 そう互いの挨拶を終え、俺とエイム卿は3階にあるテロウス外務官の部屋を出て、1階のホールへ向かい早足で階段を下りて行った。

 そして人気のない事を俺は確認し、エイム卿に気付いた事を小声で語った。


 「テロウス氏はルドア帝国の人間だと思います。訛りがルドアのモノでした。それにアシェット王国民はクリスマスを祝いません。主が地上から還った日なので。」


 俺の言葉を聞いた悪魔エイム卿は目を細め、射殺しそうな視線で俺を見た。

 それからエイム卿は冷たい声で俺に告げた。


 「1人で帰れるか?」

 「はいっ!イエス、サー。」


 元気良くそうエイム卿に返事を返し、俺は此れ以上の厄介ごとに絡まれない為に、フロントで馬車を手配し、愛しい「レコ」の待つウェットリバーの屋敷を目指したのだった。

 暮れ行くチェスタの街に燈って行く白熱ガス灯の明かりを見ながら、俺は此の侭グレタリアン帝国(悪魔エイム卿)から、「レコ」と一緒に逃げ去る術は無いモノかと思案にくれていた。










  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 クリスマス休暇で下宿に戻って来たシェリーを交えて久し振りに皆で晩餐を食べる。

 まあ、ジャックに言わせば「晩飯を食う」かな?

 俺とクロエとシェリー、そして少し離れた席でクロードとトマス。

 クロエが「分けるのが面倒だから同じ食卓で食べて」と頼んでも、2人共固辞した。

 俺からすれば、同じ部屋で食事を摂らせる事に成功させた、クロエの手腕は凄いと感心した。

 執念深く2人を説得していたクロエへ、代々エイム家に仕えるクロードとトマスの許容範囲が、此処までなのだと、以前クロエに説明した事が在った。



 「そう言えばシェリー、家庭教師の求人てそんなに少ないものなのか?」

 「ええ少ないわ。海外に出兵している若い男性が多いから若い女性は婚姻出来ないもの。でも女性の仕事先って家庭教師かコンパニオンしか無いから大変よ。私は運良くサマンサさんと親戚でそう言う苦労はしていないけど。」

 「へぇー、まあブルジョワジーの数もそんなに一気には増えないから供給過剰にもなるか。」

 「ええ、でも最近は中産階級の人も家庭教師やコンパニオン、シャベロン(目付)を雇う人が多いのよ。かと言って求職者の人が圧倒的に多いのだけど。それに未亡人も増えたし。」

 「シェリーったら私に気を使わなくても良いのよ。」

 「おおー、そうだった。サマンサも未亡人だったな。」


 「そう言えばジェロームさんはマーサの家族への説明を考えてくれました?」

 「うん、子供の父親はイラドで戦死。兄がその勇敢さに感動して亡くなった彼に替りマーサーへ恩給を支払う。もう手続きも出来てるから出産して落ち着いたらマーサの家族に知らせたら?」

 「、、、有難う。マーサの為に其処まで動いてくれていた何て。ジェロームさん本当に有難う。」

 「まっ、シェリーの友人の為だ。」



  シェリーにジュリア・アセット嬢の話をしようとして俺は止めた。

 きっとセインと同じ様に、アホみたいな正義感を出して「直ぐにジュリアを助けて上げよう」と騒ぎ出すシェリーの姿が目に浮かんだからだ。


 トマスの調べではエルマー・ゼロ―スは再婚を機に再婚相手の屋敷で暮らし始めたそうだ。

 元は株屋で資産管理の仕事をし、ソレが縁でボーラに住む未亡人と再婚。

 未亡人にはジュリアと似た年頃で黒髪の娘がいたそうだ。

 その娘を助けられるかは、時の運に賭けるしかない。

 現状ではまだ、「何も起こっていない」のだから、エルマー・ゼロースの屋敷へ、強引に押し掛ける理由もないしな。

 取り敢えずは、法治国家であるらしいグレタリアン帝国を面倒臭いと思いつつ、俺はサマンサが差し出したマロン・グラッセを口に放り込む。








  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




   アリロスト歴1888年   12月





  悪魔エイム卿に囚われた恐怖の一夜が明け、弱い冬の陽射しが俺の起床を妨げる。

 身も凍える冬の朝は2度寝が最高に気持ち良いよなー。

 自分の体温で温まった布団に包まり、もう一度「おやすみなさい。」

 そう言う至福の一時に曾孫ウィルが俺にダイナミック目覚ましを仕掛けて来た。


 「ウィル、重いー。」

 「おはよージャック。少し聞きたい事が或るけど、良いかい?」

 「んー、いいよー、何?」

 「昨夜ね、チェスタの街近くを流れている川に、2人の遺体が流れていたんだ。ウェットリバーからチェスタへ流れてる川なんだ。その遺体も、もう少し頑張ればチャスタだったのだけど、運悪くウェットリバー領内なんだ。まあ自殺らしいけどね。」

 「うん。それで?」

 「正かとは思うけど、ジャックは知らないよね。薄い胡桃色の髪に水色の瞳をした軍人風の男なんて?」

 「あー、、、うん、知らんなー。」

 「ふーん。」

 「で、念の為に聞きたいけど死因は?」

 「両方とも心臓に弾丸が。まあ拳銃だよね。」

 「そっそうか。うん、クリスマス前に嫌な事件だったね。」

 「うん、それでジャック、本当は?」

 「う、うん。御免ウィル、本当に言えないんだ。勘弁してくれ。」

 「ジャックが容疑者とかでは無いよね?」

 「あほっ!ないないない。マジで関係無いからな。」

 「昨夜はチェスタから何時に帰宅したの?エイム卿と一緒では無かったみたいだけど?」

 「先に1人で帰って来たヨ。カレッジサイドホテルから馬車に乗って、領主館迄真っ直ぐに帰って来たから、その時の御者に聞いてくれ。ナニコレ取り調べ?」

 「まあね、一応ジャックに何か火の粉が飛んで来たら僕が困るからね。じゃあエイム卿か?」

 「それもない。あの人は、視線で人間を殺すだろうけど、そう言う荒事は遣らないよ。」

 「苦手そうなのにエイム卿を信頼はしているんだね。」

 「信頼つーか、もし誰かを殺しても遺体とかを人目に晒さない?そう言う怖いサイコホラーな人?どっちかと言うと人外だと俺は思ってる。」

 「あははぁー。」

 「いやウィル笑い事じゃ無いからな。」

 「まあー、奇跡的にパーティーで会っても僕はエイム卿と丸で接点がないからね。」

 「それはウィル、滅茶苦茶にラーッキーなことだぞ。」


 「で、薄い胡桃色の髪に水色の瞳な人にジャックは会った?」

 「あっ、、、、、、、、、そんな手に引っ掛かるかー。」

 「惜しかったー。」


 そして、ベットに押し倒した侭の俺にウィルは被さって来て、執拗な取り調べが昼まで続いた。

 俺のライフはもうゼロだ。

 







  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




アリロスト歴1889年   4月




 年が明け、4ヶ月が経ちジュリア・アセットから「助けて欲しい」と言う内容の穴の開いた手紙がジェローム探偵事務所へ届いた。

 その手紙を受け、セインは元気良く休みのレイド警部と共に馬車でボーラの地へ、姫ジュリアを助け出す騎士の如く、意気揚々と出掛けて行った。


 ロンドで気前が良かった筈のゼロ―ス邸は広い邸内に妻と4歳の息子、老いた下女に御者も務める雑夫が1人、そしてエルマー・ゼロース本人と家庭教師のジュリアしか居なかった。

 病で身体が弱っている言う夫人の代りに、朝10時と午後3時に夫人のいる部屋の窓を5分程開け、息子の家庭教師以外に夫人に頼まれた詩の朗読を続けて居た。

 時々窓の外の林からジュリアを見詰める視線を感じながら。


 そして荒れて寒々しい庭には雑夫にしか扱えない2匹の猟犬が放たれていた。


 昼間は夫人と息子に、夜はエルマーに監視されるような日々が続いた。

 ジュリアはジェロームに救いを求める手紙を書き、エルマーが月に1度ロンドへ御者と共に出掛けた隙を衝いて、壁に飾ってあった弓矢と弓で手紙を力一杯に林へと射った。


 「お願いです。この手紙をジェローム探偵事務所に届けてください。」


 監視者はジュリアの願いを叶えてあの手紙を俺へと届けに来た。

 親切な監視者オニールは姿の見えなかった娘セリアの婚約者だ。

 セリアと3年前に婚約した後に出兵していたが、昨年6月にイラドから無事に帰還した。

 早速セリアに会いにゼロ―スの屋敷に向かうと、病に掛った母を看病していたセリアも発病したと、義父エルマーはオニールに告げ、病気の為に婚約は破棄すると言い屋敷から追い払った。


 姿の見えない婚約者親子を不信に思ったオニールは、つい林からゼロ―ス邸を伺うようになった。

 しかし年が明けてからセリアによく似た黒髪の女性が痩せた中年女性の介護をし、部屋の窓を開けるようになった。

 無事だったとオニールは安堵した。

 だが、何処となくセリアとは違う。

 疑念を抱きつつ、屋敷の中を見ていたオニールの方角へ白い鳥の様なモノが飛んできた。

 そしてオニールはそのジュリアからの手紙を読み、急いでジェローム探偵事務所へと現れたのだ。



 ボーラの地方判事と共にレイド警部とセインそしてオニールが猟犬2匹を射殺した後、ゼロ―ス邸に踏み込み、エルマーを確保した。

 御者兼雑夫は逃亡した。



 屋敷を家宅捜査すると地下室に埋められたエルマーの本物の妻と娘セリアの遺体があった。


 オニールと婚姻すれば財産の半分を娘セリアが受け取ると知ったエルマーは、昔の仕事仲間だった御者に相談し、使用人を全員解雇して、愛人と息子、愛人の母と御者をゼロ―ス屋敷に住まわせた。

 そして塗装屋で購入した毒で妻を殺し、その後セリエも殺し財産を自由に使えるようにした。


 エルマーは勿論のこと全てを知っていた愛人と愛人の母も裁判で裁かれることに成る。

 幼いエルマーの息子は、名を変え何処かの保護施設で育てられるそうだ。

 ジュリアは気の毒がっていたが今は俺達に出来る事は何もない。

 そんなジュリアにセインはナニー(子守)の職を与えた。

 お人良しめ。



 オニール封じで使われたジュリアは、救出された後にオニールと手紙の遣り取りをしているらしい。


 恋愛小説大好きなクロエとシェリーの取り調べを、休日の一階談話室でジュリアは顔を真っ赤にして受けていた。

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