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エイム迷走ス  作者: くろ
18/111

純愛

アリロスト歴1888年  12月





 「サマンサ、その連載を、また読んでるのか?」

 「あらジェローム、悪い?来週次号が発売されるもう一度読んで於こうと思ったの。」

 「何の本?」

 「コーデル夫人の恋。」

 「サマンサが好きな恋愛小説だよ。」

 「へぇー、僕は読んだことないな。恋愛小説は。」

 「いいのいいのセイン、偶然好きになった男とは結ばれなかったのに、延々とその男とのコンタクトした日々を書いてるだけなんだからさ。色気ないし。」

 「煩いわね。コーデル夫人はジェロームみたいに穢れた感性をしていないのよ。そんな事を言うならカフェオレはもう淹れて上げません。」

 「うそっ!悪い、いやー良い話だよねサマンサ。純愛って良いよね。」

 「まったくー、想ってない癖に。」


 そう言うとクロエは頬を膨らませ「コーデル夫人の恋1巻」を抱えて一階の談話室から出て行った。

 セインはクロエの機嫌を損ねた事を気にしていた。


 「大丈夫だよセイン、サマンサはカフェオレを淹れに行ってくれただけだよ。」

 「そうなのかい?なら良いけど。」


 まあ俺とクロエ、ジャックは言いたい事を言える関係だからね。

 何だろうな。

 俺の中でのアルフレッドは、身長が約2mチョッとあって威風堂々しているのに、品も在ったあのアルフレッドなんだよな、正に王の中の王だった。

 偽物の俺では及ばない、そう感じた相手だ。

 ジャックは中身がアルフレッドだと判ったけど、うん、ジャックだ。

 ルネって強者を従えてたアルフレッドが、兄にビビるとかやっぱり有り得ねえ。

 クロエは貫禄を増したけど感情が豊かだったあのクロエの侭だ。

 俺は自分ではジェロームに成って滅茶苦茶変わったと思うけど、時折ジャックもクロエも俺を緑藍て呼ぶから中身は余り変わってないのかもな。



 「オリビアが最近は、あーあーっと僕を呼ぶんですよー。」


 そう嬉しそうに娘オリビアの事をセインは俺に話す。

 殺害されたトレバーにロハでホームドクターにされていたので、今年5月に生れた愛娘オリビアと余り触れ合えなかったセインは、俺の所から夕方定時に帰宅して、現在娘とのスキンシップを満喫中。


 「グレタリアン男性って不純過ぎる。」


 何だか勝手に俺とセインとの関係に絶望したクロエが逃避先に選んだのが件の恋愛小説。

 優しい俺は会えて言わないが断言してあげよう、クロエ。

 次巻では必ずコーデル夫人とヒーローはエロイ関係に成る。

 いや、1巻で終わっていたなら純愛小説・完、だろうが、2巻も胸キュン擦れ違いドキドキ話で終わるとか普通に無理だからな。

 つーか、純愛って言ってるけどコーデル夫人婚姻してるし。

 旦那は直ぐ戦死したけどな。

 其の事をジャックと一緒にネタにして笑ってた、これギャグじゃね?的な。


 


 そんな事を考えていると部屋の外からトマスが来客を告げた。

 クロードが流れる様に漆黒の扉の前に行き、真鍮のドアノブを掴み静かに扉を開いて、来客を招き入れた。

 クロードに案内されて女性は応接セットの椅子へと腰掛けた。

 俺はセインに目で合図して来客の応対を任せた。

 何せ俺は、夜着にシルクのローブその上に、毛足の長い茶と黒のコートを羽織った、寝起きの侭の恰好だったからだ。

 まあ不信な若い男が嫌なら早々と帰って行くだろう。


 「あの綺麗な若い男性がジェローム探偵。僕が助手のセイン・ワートです。宜しく。彼は若いですがとても優秀なのです。」

 「は、はい。えと宜しくお願いします。私はジュリア・アセットです。本日此方に参りましたのは、、、。」


 馬鹿セイン、なんで俺を紹介するんだよ。

 彼女も困って口籠ってるじゃないか。

 俺は仕方なく空気を変える為にクロードに紅茶を頼んだ後、彼女に話の続きを促した。


 ジュリア・アセットと名乗った20代前後の女性は、ロンドでは珍しい波打つ黒髪後ろで括り、キラキラとした灰色の瞳を輝かしていた。

 彼女ジュリア・アセットは3カ月前までロンド郊外で家庭教師をしていたのだが雇い主が旧ポガール王国へ転勤に成り失職した。

 雇い主の推薦状を携え家庭教師紹介所へ行き登録したが、中々次の紹介先が無く貯えも下宿の家賃を支払い日々の生活費に消えて行き生活も困窮して来た。

 いよいよ生まれて一度も会った事の無い親族を頼って北部へ引っ越そうかと悩んでいる矢先に、紹介所から面接したいとの連絡があったと言う。

 ジュリアが喜び勇んで紹介所に行くと恰幅の良いゼロ―スという50代過ぎの紳士が待っていた。


 ゼロ―スは人の好い笑顔でジュリアを褒め称えた。


 「紹介所副所長さんの仰る通りなんと素晴らしいお嬢さんだ~~~~(略)」


 そしてタップリとジュリアの容姿を褒めた後に彼女が教えれる教科を告げるとまるで奇跡に出逢えたかのように感嘆し、ジュリアに教えて貰える息子を羨んで見せた。

 そしてジュリアに月5ポンドの給金を支払うという。

 今までが2ポンドだったから2倍以上の給金だ。


 「ただロンドから南へ約10km離れたボーラと言う場所に在るので住み込みでお願いしたいのです。」


 今の下宿先は両親と共に暮らしたジュリアに取って思い出深い場所だった。

 出来る事なら生まれ育ったロンドを離れ難くて勤め先をロンドかロンド近郊を捜していたのだ。

 しかし、今月来月と家賃を払えば資金が枯渇する、そう思い直してゼロ―スの話を受けた。

 引っ越しの準備があるのでゼロース宅には一月後に向かうことに成った。


 「それで就職先が決まったのに如何して私の事務所に来られたのですか?」

 「はい、冷静に成ってゼロ―ス氏との会話を想い出すと、変な話なのですがあそこ迄褒められる事に何か違和感を覚えてしまって。」

 「ふふ、その違和感は大切なシグナルだね。」

 「矢張り危険でしょうか?」

 「そうだね、でもジュリア嬢は行く気なのでしょ?」

 「はい、実は準備金として2ポンドもう頂いてますし。」

 「そう、では折角来てくれたので私がサービスをしよう。また何か違和感を感じたら探偵事務所へ郵便で連絡をしてくれ。くれぐれも気を付けて。」

 「はい、有難うございます。では相談した料金は幾らお支払いすればいいでしょうか?」

 「んー、まあジュリア嬢が無事にロンドに戻ってから貰う事にするよ。」

 「ロンドに?」

 「そう。だから頑張って。」

 「はい。」


 俺がそう話し終えるとジュリアは静かに椅子から立ち、礼儀正しく礼をして、クロードの案内でジェローム探偵事務所から帰って行った。

 クロードの黒髪も目を引いたがジュリアの艶やかな波打つ黒髪も十分に目を引きそうだ。

 ゼロ―スという男もジュリアの黒髪に注目して雇うことにしたのだろう。

 俺はトマスにジュリアから教えられた名前と住所を告げ調べる様に頼んだ。

 出来れば彼女の様な勇敢だが用心深い知的な女性には無事でいて欲しいモノだ。

 何時もとは違う俺の態度に疑義を述べたセインにそのことを俺は淡々と説明した。

 すると心配性なセインは直ぐにジュリアを止めるべきだと俺に勢い込んで話して来た。


 「まあ、トマスの調べが終わって来月になれば、セインにもボーラーへ行って貰う心算だから、その時にジュリアを守ってあげてよ。」

 「ジェロームは?」

 「行く必要があれば当然行くよ、勿論ね。」


 そうセインに応えて俺は紅茶のお替りをクロードに頼んだ。 

 


 

 






 氷点下の悪魔エイム卿に連れられ、アシェッタ王国の外務官が宿泊すると言う、チェスタのカレッジサイドホテルへと到着した。

 

 「えーと何でアシェッタ王国の外務官とエイム卿が会われるのですか?普通は外務担当が?」

 「知りたいか?」

 「いえ、知りたくありません。エイム卿が会われるのは普通の事でした。」

 「実は彼の元へ、ルドア帝国で廃嫡に成った息子が、逃げて来ているのだ。此の侭ルドア帝国に居たら、皇帝にされかねないと言ってな。」

 「へええー(棒)。」

 「そこで詳しい話を聴こうと、アシェッタ語が出来るジャックを連れて来たのだ。」

 「あのー、良く俺がアシェッタ語が出来るとお判りに成られましたね。」

 「ああジェロームの部屋へ行った時に、アシェッタ語の本が有ったのだ。ジェロームにアシェッタ語が読めるのかと、聞いたらジャックが持って来た本だから、自分には読めないと話してくれた。」



 嘘つけ、緑藍。

 お前だって読めるだろうがー。

 くそ緑藍め、面倒事から逃げやがって。

 つうかマジで関わりたくねー。

 なんでエイム卿はパンピーな俺にこんな問題を関わらせるかな。

 やはり国外逃亡一択しか道は無い。

 問題は、俺が悪魔エイム卿から逃げられる気が1㎜もしない事かな、ははっ。




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