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エイム迷走ス  作者: くろ
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私設秘書?


  アリロスト歴1887年  6月



 ふむ、男の就職先が炭鉱労働課、期間働きの肉体労働、そして兵しかなかった。

 改めて新聞に載った就職斡旋記事を俺は見る。

 ああ、俺は転生しても就職氷河期なのかよ。


 怪盗バートの金塊盗難事件は、グレタリアン帝国をアッサリと信用不安に陥れ、幾社かの企業や工場を薙ぎ倒して不況にした。

 実はワート君が勤務していた病院も患者が消えて閉鎖に成った。

 本当は院長が投資に失敗したと言う噂もあるけどね。

 そんな訳で、大怪盗バートの友人しょぼくれワート君は、昼間「ジェローム探偵事務所」で、勤務する事になった。

 シェリーの取材攻撃に辟易しつつも丁寧に答えるデッカイ栗鼠のワート君は、矢張りワート君だった。




   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 以前座っていた俺のワークデスクはシェリーに盗られたので、大人しく応接セットの椅子に腰掛け俺はアシェッタ王国の童話を読む。

 古代ロマン文明より古い文明都市に俺は想いを馳せる。

 嫉妬深くて人間臭い神々は何処か大らかで楽し気だ。


 「なあジャック、最低だと思わないか?」

 「うん?何が?」

 「国が馬鹿高い懸賞金を出すから、私が捕まえる予定の犯人達が、仲間に密告されて殆どが判事達に逮捕された。」

 「えとっジェローム、最低なのは国?それとも密告した仲間?」

 「両方に決まってるだろジャック。犯罪起すならもっと気合を入れろよ。」

 「そんな無茶なー。まあ無理矢理でもクラッシャーパフォーマンスしている活動家を今回の強権で鎮静化出来て議会はホッとしていそうだ。ジェロームもこんなモンに熱くなるなよ。」

 「ジャックさんは労働者達の打ち壊し運動に反対なのですか?」

 「いや、別に反対じゃ無いよ。暗殺は遣り過ぎだと思うけど。シェリーは応援つうのも可笑しいけど運動には賛成なの?」

 「私も暗殺には反対ですけど、機械を壊して声明出すしか労働者の意見を表明する場所が無いですよね?16時間や18時間労働なんて酷過ぎると思って。」

 「だねー。適度な労働時間でが大切だよ。それに俺なら昔ながらの熟練工を大事にする法律を作るのにな。」


 「ふふ、で、次に言うんだぜ。やっぱりフロラルスの製品はモノがいいなあ。ってね。」

 「いやだってジェローム、考えて見ろよ。今のグレタリアン商品で是を輸入したいと思う物が在るかい?」

 「ないなー。強いて言えばアヘン?」

 「阿保っ!グレタリアン製品はヨーアン諸国ではトルゴン帝国、ルドア帝国その周辺でしか売れないし、まあ植民地にしている所は押し付けるか。でもその2ヶ国も何れ自国生産出来る。」

 「つまりジャック先生は自国の労働者を消費者にしろと言いたいんだよ。まあ私達が頑張らなくてもそうなる、だろ?ジャック。」

 「はい。ジェローム良く出来た。」


 俺と緑藍は互いの瞳を見詰め合って肩を竦めた。

 折角クロエが入れてくれていた冷えていた麦茶が少し温く感じる。

 そうだからさウィル、余り危ない事はしないでくれよ、折角こうしてまぐれ会えたのだから。






 


   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 アリロスト歴1887年  8月




  そんな中、俺は悪魔エイム卿に仕立てられた貴族風な格好をさせられ、彼の下僕としてシーズン中のサロンをエイム卿と共に渡り歩いていた。

 俺は何をしているのか。

 はいはい、社交っすね。

 珍しくエイム卿が議会工作なんかを遣っている訳だ。

 イラドに出している6割の兵を一度グレタリアンに戻し再度カメリアに出兵させる。

 つうエイム卿の望みを達成する為に発言力の有る上院議員のお屋敷を巡り、御機嫌伺いをしている。

 でもって何故、俺がいるのか?

 エイム卿曰く、俺が側にいると場が和、相手に「イエス」と言わせ易く為るそうな。

 ソレってさーエイム卿が無自覚に周囲を威圧していただけじゃないっすかねー。


 だって紳士の皆さん会話する時、視線は隣に居るエイム卿を外し、俺にしか合わせて無いからな。


 ジェロームの事以外では動かないと思って居たエイム卿がこんな面倒な事をしている理由。


 進軍していたイラドのヤートナ地方で疫病が発生した。

 約10万の兵でヤートナ帝国と反乱軍を抑え、イラド中央地帯をグレタリアン占有地域に筈が風土病に3万以上の兵が感染し、そして発症した多くの兵が死亡しているとの報告が入った。

 症状聞くと多分「麻疹」だと思うんだよね。


 兵士達の士気は最底辺に成り戦闘する所では無いのだが、撤退命令がイラドにいる指揮官に本国から降りない。

 でもってエイム卿にしては珍しくコミュニケーションが取れている陸軍元帥に「イラド撤退を可能にして欲しい」と頼まれ動いていた。

 まあ撤退を渋っているのは不況時に多くの男手など要らん。

 なてトコなんだよな。


 しかし議会休会中にこんな面倒な事をせねば成らぬとは、やっぱり議会制って面倒過ぎるわ。

 まっ、此の不況時、雇用主の命令は絶対なのでエイム卿について廻る、当然。


 「私の所にいるジャック・スミスだ。」


 うん、エイム卿がするそのいい加減な俺の紹介にも随分と慣れたしね。








  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 

  俺の部屋で隣に居座るジェロームこと、緑藍を見て俺は考える。

 まあ頭脳は俺より良い、容姿も抜群に美しい、資産も兄持ちだがある、背は俺よりは低いが細身中背で何一つ欠点が無い。

 いや、欠点はある。

 緑藍が探偵である(自称)こと。

 探偵である為に緑藍に足りないモノ。

 それは年齢と貫禄である。

 緑藍の頃も美少女的に細かったが、今世ジェロームの肉体も美少年的に細い。

 おかしい。

 前世でもドラマであらゆる美少年から美青年探偵迄いた筈なのに緑藍と探偵の等式が完成しない。


 「なージャック、下らない事で悩んでるだろ。」

 「おおージェロームに心を読まれた。」

 「分かるんだよ、ジャックが下らい事を考えてるときは眉間に皴が無いから。」

 「えっ、マジ!」


 俺は慌てて眉間に人差し指を置いてみた。

 緑藍の小さな頭がコトリと俺の左肩に乗った。

 如何やら今日は甘えたいモードらしい。


 「あのさ考えたんだけど、兄が婚姻しないと私つうか俺、ヤバく無いか?」

 「あー、前にワート君が談話室の空気を凍らせた奴ね。ジェロームより18歳年上だっけ?」

 「そうそう、38歳かな。」

 「エイム公爵家の後を継げるのはエイム卿とジェロームだけか。んーエイム卿の後継を作らせたいなら婚姻させないと子作りが難しそうだよな。血も濃いみたいだし。」

 「だよなー。」

 「問題が在るとしたら家格の合う若い女性がいるか如何かだな。」

 「おっジャックの事だから兄の気持ちがどうこうと言うのかと思った。」

 「流石にね、前回、俺も伊達に王太子として生きてない。高位の者なら血を繋ぐ事を教えられるからね。其処ら辺は血にあれだけのプライドを持って居るエイム卿が否と言わないとある意味信じてる。」

 「血を繋ぐかー。」

 「お前は緑藍の時に繋ぎ過ぎだけどな。」

 「ふふ、フロラルスの女性達は良いよね。綺麗だし奔放だし、俺は大好き。でもエル4世には、俺も負けたよ。」

 「じじいの絶倫に勝とうなんてホントに100年早いわ。」

 「あはは、確かに。」



 それから俺と緑藍はじじいや眩いフロラルスでの思い出を語り、2人でバーボンの水割りを呷った。

 俺の恋人だったソニアやオデットの美しさを揶揄われた後、緑藍が今交際しているエミリー・ラットン子爵夫人の話でも花が咲いた。


 気が付けば、昔トゥリー城の寝室で眠ったように俺は緑藍を抱き込んで眠りに付いていた。

 アレ?

 これって悪魔エイム卿からの圧迫案件に成ってしまわないか?








    ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 アリロスト歴1887年  9月





 シェリーがワート夫人から頼まれて知人宅の娘さんへ家庭教師をすることに成った。


  「週末は帰って来ますね」


 そう言ってシェリーは、泣く泣く~~はい、有り得ません。

 元気な笑顔を俺達に振り撒いて、馬車で約2時間程離れた高級住宅街へ出掛けて行った。

 もう序にワート君ちの子に成っちまいなさい。



 そしてワート君は緑藍をしかと抱き締め離れない。

 こらこらエロイ事は、、、。

 此方も主に夜勤メインの宿直勤務が決まったようだ。

 またもワート君は精神科病院勤務だそうな。

 勿論、週末は妻アリッサの元へご帰還、まあアリッサは現在懐妊中だしね。

 緑藍と友情を育みつつ、妻アリッサとも愛を育む。

 たかが大きな栗鼠の癖に、やるなワート君、栗鼠の癖にチッ(舌打ち)。




 そして。俺は悪魔エイム卿に、ウッカリとフロラルス語が出来るのを知られてしまい、エイム卿の私設秘書にされてしまった。

 別に先週の緑藍との添い寝がバレた訳では無い、と俺は思いたい。

 まあ俺の体調の所為で11月~3月まではウェットリバーで休暇を貰えるから、良いか?



 エイム卿が何をしているかと言うと、各閣僚から欲しい情報のオーダーが入ると順次それを調べて(部下が)纏め上げ(部下が)、注文通りの情報をオーダー相手に届ける(部下が)簡単なお仕事。

 本来なら此処で帝国の為に成るような動きや決定をするのもエイム卿の仕事らしい。

 故あって決定事項を放棄中。(緑藍談)

 そして俺のお仕事は、エイム卿の呟きを聴き、たまーに必要な事を発言するので、それを補佐官に伝言すると言う、俺を苛めてるだけの様な事をさせられてる。

 イヤ俺は思ってないっスよ。

 此れって俺を緑藍の傍から離して置きたいだけだ、とか。(クロエ談)


 そう俺が嫌なのが、悪魔エイム卿の囁きは外交上締結されるまでマル秘案件が多い事。

 そして次の議会での議題案件がてんこ盛りな事だ。

 俺って拉致られたら案外ヤバくない?

 まあパンピーの俺を拉致る奴もいないだろうが、俺が怖いわ。

 俺のモットーは危険な事に触れない、近付かないなんだぞっ!


 こうして成り行きで、悪魔エイム卿の私設マル秘な人間蓄音機へと俺は改造されている。

 フロラルス語、全く関係ないじゃん!

 俺は契約破棄を申し出たが、機密事項を知り過ぎだと却下された。

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