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エイム迷走ス  作者: くろ
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レッツ・ダンシング


  アリロスト歴1901年  2月




 不況ってのもあるのかも知れないが、猛スピードで再開発が進んでいるロンド東部の状況に、俺とセインは日々驚きの連続である。

 再開発を大分進めていたアンジーチャペル地区は兎も角も『ショーデー』、『ピスタール』、『バージーズ』地区の開発つうか、解体作業の速さに俺とセインは慄いた。

 幾ら古びた壊れそうなバラック建ての建物でも2日もあれば1ブロックが更地に成っていた。

 一応報告しないといけないので、解体前と解体後を写真で撮って貰っているのだけど、此の俺でも「住民の安全確認は大丈夫?」って聞いてしまう位、早いスピードで建物が消えて行っていた。

 3地区を根城にしていた移民や貧民はロンドの市外へと移っていると工事統轄をしている人は説明したけど、察しの通り碌な補償もせずに引っ越しをさせられていた。

 元は勝手に住み着いただけの住民だとは言え、時は真冬、、、。


 「凍死者を出さないように気を付けてください。」


 って、つい俺は言ってしまった。

 パンデミックが起きにくい街へと再開発をしているのに、ソレが理由で凍死者がワンサカとか成ったら本末転倒じゃん。

 まっ少々粗略(ぞんざい)に扱っても、人って逞しいから新たな街にしてしまうのだろうけれど、それでも何もない所で冬を越すのは至難の業だ。

 救民所は作って居るとは言っていたけど、後でトマスに様子を見て来て貰おう。


 俺は届いた報告書を読み終えて、銀色のシガレットケースから一本を取り出し口に銜えると、セインがシュっとマッチを擦って銜えた煙草に火を付けて呉れた。


 「お疲れジェローム、一息つきなよ。クロードが珈琲を淹れてくれたよ。」

 「ああ、セイン、有難う。いやー早く終わらせないと青い疾病が猛威を振るってからは、依頼を断ってばかりだからね。いい加減来月位には、探偵事務所を再開させたいんだよ。」

 「ジェロームを手伝いたかったけど僕も忙しかったからね。医師としてこんなに多忙な3ヶ月は初めてて戸惑ってばかりだった。」

 「セインは医師として遣るべきことを遣っていたんだ。私もセインのような有能な友人を持てて鼻が高いよ。オマケに責任感も強いしね。」

 「有難う、ジェロームにそう言って貰えて僕も嬉しいよ。僕もジェロームの的確な指示を貰えたから動けたんだ。ジェロームの考えは本当に素晴らしいモノばかりだった。」

 「ふふ、お互いに褒め合っていると照れ臭いね。私も頂くから、セインも珈琲を飲もう。」

 「うん、いいね。」


 はあー、全くジャックは。

 全てジャックが書いてあったレポートをセインに教えただけなのに。

 セインに褒められ過ぎて俺が気不味いじゃんか。

 グレタリアン嫌いな所為もあるけれど、ジャックは自分の知識をこの時代の人には、教えないのを信条にしている。

 俺やクロエがセインやルスラン、ニック、ダリウスと守りたいと考えていることを知ったから、今回は俺とクロエに青い疾病の対象法を教えてくれたに過ぎない。

 そう言う俺も、薬に成るモノが作れても毒としての利用価値が高くなるモノは、封印して誰とも共有はしていない。

 ジャックと話して居たのだけど、この時代はこの時代で生きる人のモノである、と言う考え方には概ね俺も賛成だ。

 俺は既にジャックやクロエの話す前世の記憶はもうない。

 ただ緑藍時代に身に着けた薬学や護身術などは確りと記憶されているけれど。

 でも俺はセインやオリビアを助ける為なら、ジャックと意識が戻った頃に約束した禁を破るだろう。

 それをジャックは分っているから、今回は渡した情報を俺とクロエが他の人間に教える事を許してくれたっつーのが俺には嬉しかった。

 俺やクロエの意思に委ねると書き記して。

 俺とクロエはそれを紙に書き写し、ジャックの望み通り彼が綴った手紙やレポートを暖炉の炎へと放って燃やして於いた。


 俺はクロードが淹れて於いて呉れた珈琲を口にして、恐らく俺よりも多忙だったであろう痩せたセインを見、2本目の煙草を銀色のシガレットケースから取り出した。






 

 

 あのパンデミックの最中でも当然世の中は好き勝手に動いていて、南プリメラのレンジ王国へグレタリアンは武力外交中である。

 責任者がトリス・ローデって所でグレタリアンが交渉とは考えていないのが丸判りである。

 それでもプリメラに或る国とグレタリアンが交渉しようとするのはレンジ王国が白人国家だったりするからだ。

 矢張、王族や国中枢に居る人間が白人だと、行き成り大砲を打ち込む強盗外交はし辛い?


 レンジ王国は、1600年代後期にランダ人がヒャッハーし乍ら移り込み、その後ヨーアン諸国で其々の国の体制に逆らった者達もランダ人たちと合流し、紆余曲折あってレンジ王国を建国したのだ。

 なので有色人種が治めているプリメラ大陸には珍しい白人国家つう訳だ。

 その為に武力外交では無く、普通の外交交渉をするべきだと言う議員も一定数居たのだけどな。

 緑蘭だった頃の俺は有色人種だったから、その記事を微妙な気分で読み飛ばした。




 そしてハンリー王国を助ける為にオーリア帝国はプロセン連合王国へ即時撤退しないと戦争するぞって脅したけれど、前回勝っているプロセン連合王国は強気でバッチコーイつう返答をした。

 比較的ヨーアン諸国とは争わなく成っていたモスニア帝国もオーリア帝国に協力してプロセン連合王国争うようで、宣戦布告をして戦闘。

 グレタリアンはフーリー党の時代の反省も込めて、今回、モスニア帝国と歩調を合わせ、オーリア帝国とも共同戦線を張りハンリー王国の救助へと向かった。

 バンエル王国も婚姻同盟を結んでいたのでグレタリアンと共にハンリー王国救助へと向かった。


 イヤーでもさ、ハンリー王国って其処まで救助を望んでない気がするんだよな。

 心情的にはオーリア帝国と歩みたい貴族もそこそこ居るけど、出来ればプロセン連合王国と工業化の道を進んで儲けたいつう資本家や金融関係者も多くて割れている状態なんだよね。

 

 大国がプロセン連合王国から助けるつうので「お願いします。」って、頷いている状態のハンリー王国に見えないことも無い。

 俺とかは新聞で得られた情報でしか推測できないからハンリー王国の実情は分からないし。

 兄は余り俺にそう言う情報を流しては呉れないからな。

 下手に俺の好奇心を刺激したくないと言う兄の過保護故の予防的措置。

 幾ら俺でも、国外で好き勝手が出来るなんて思える程、能天気じゃないのでいい加減に、兄も落ち着いて欲しい。









 俺は広げていた新聞を軽く畳んで椅子から立ち上がり、2重に重ねたレースのカーテンに覆われた背の高い窓まで歩いて行った。

 俺はレースのカーテンを左手て僅かに繰ってガラス窓の外を眺めた。

 霧が立ち込め乳白色で染まったロンドの冬は建物や人々も濃い靄へ溶かし込み、通りで馬の嘶きや蹄の音、人々が歩く靴音や声で、まだ昼過ぎだと俺に教える。

 其処へクロードが俺に近付き、耳元で3人目を捕まえたと報告して来た。

 俺は頷き、クロードへ次の指示を与えた。



 俺はモーランド公爵に対して可成りムカついて居たのだ。

 セインやセインの娘オリビアが居た会場で俺を狙撃なんかさせやがって。

 騒ぎ起きれば混乱した群衆にセイン達の身が危険に晒されるし、俺に何か在った時、セインに与える精神的ダメージの大きさを、まざまざと狙撃事件後に実感させられマジで腹が立った。

 つう訳で色々と仕返しの方法を考えた。

 いやー、俺はジャックがロンドに或るモーランド公爵家のタウンハウスへ、糞尿爆弾を投げ込めばと言うフザケタアイデアを出して来た時は、思わずジャックを蹴り飛ばした。

 その糞尿爆弾を誰が用意して作るのさ。

 そりゃー元は、俺がモーランド公爵の屋敷を次々と爆破してやるという事を言った所為だけどさ。


 全く、、、ジャックはモーランド公爵に無意識で心酔してるんだから嫌になるよ。

 きっと内心では穏便に済ませたいとか甘い事を考えているのだろう。


 そんなお気楽なジャックの意見を無視して、俺はモーランド公爵の手足に成っている人間を奪って行く事にした。

 モーランド公爵やモーランド公の爵周囲に居る人間たちを監視させ、一先ずヘクター大佐の知人と呼ばれていたサイモン、そしてラビット・クラブに居たボーイのノリス、で、今回カーター・シンプソンを捕獲した。

 ヘクター大佐がグレタリアンに居ない今、モーランド公爵の右腕ってカーター・シンプソンぽいから慎重に取り扱わないとね。

 実は贋金作りをしていたマカロック邸に勤めていたメイドと下男も確保したんだけど、2人とも隙をみて自死しちゃったんだよ。

 それから捕獲時や捕獲後は徹底した監視体制を敷いている。

 南グロリアのマフィアだったリチャードもそうだったけど、サイモンもノリスも鋼のような忠誠心で何も話そうとはしない。

 でもってジャックですらモーランド公爵には好感を持って居る始末。

 まあジャックは俺の味方をしてくれるって言って呉れたから俺も安心してるんだけどね。


 だって悪のカリスマ・モーランド公爵と変人ホイホイのジャックが組んだら、俺って絶対に敵わない、つうか勝てる気がしない。

 今だってなんとか成っているのは、兄のお陰で俺達の方が僅かに戦闘能力がモーランド公爵達より上回っているだけって話だ。

 俺だってモーランド公爵が只の悪党なら放置しても良いけど、俺を狙撃迄して敵認定をしてるから、本気で俺の弱点であるセインやオリビアを襲ってくることを考えたら、キッチリ身動き出来ないように処置して置かないと安心出来ない。


 ジャックの忠告のお陰で、俺とセインのグレタリアン流マッスル熱い友情関係は、下宿112Bの昔からの住人にしかバレていないのも幸いしている。

 オリビアの為に秘密を死守しろと、俺に代表者(仮)命令してくれていたジャック大明神サマサマだ。

 何処までも父親目線の優しいジャックだ。

 セインの扱いは酷いけどね。



 さて、そんなモーランド公爵は1831年生まれで現在ピチピチの70歳。

 糖尿病で亡くなる人間が多い中、前回ゴールデン銀行で運ばれていた様子を見ると、血色も良かったし、まだまだ長生きをしそうだった。

 チッ、くそっ、。


 俺とジャックは欠伸して眠り込んでしまうローデアン王国の騎士の末裔のモーランド家の話。

 兄は、それに対抗してエイム家は滅ぼされずに今も続いている云々かんぬん、その話は聞き飽きた。

 そう言う由緒正しき家系を継いだモーランド公爵だけど、結局は後継も戦争で亡くし、彼が亡くなればスチュアート家へと丸っと全て渡すことに成る。

 息子が生きていた24年前までは、オルテシア皇帝の血族を皇族へ復帰させる活動に勤しんでいたみたいだけど、息子が戦死してからは領地運営と偶の公務で大人しく生活していた。

 表向きは、と言う但し書きが付くけどね。


 息子を亡くしてからは4年位ヨーアン諸国へセンチメンタルジャーニー巡りをして帰国。

 オーリア帝国やモスニア帝国の真似をして、趣味を話し合うサロンなど催して有閑貴族な生活を送っていた。

 交流する人も幅広く学者や芸術家、庶民議員や資産家そして庶民達とも付き合う社交家だ。

 人物評も穏やかでウィットに飛んだ会話でゲストを持て成すと評価も高い。

 そう言う訳でモーランド公爵は、まあ、俺や兄の対極に居るような人物だ。


 モーランド公爵と俺との邂逅は、お互い意識もしなかったけど、1888年に起きたジュリアの身替り事件の時だった筈。

 俺とジャックの間では通称『矢文事件』と呼んでいる。

 俺がエドガー以外を意識し始めたのが遅くて、1893年にエドガー・ワインドが殺された後だった。

 つうかエドガー・ワインドに注目し過ぎていた俺が踊らされたって感じだ。

 その間に怪しい失火や殺人もあったけど、それらは事件として認知されていなかった。

 だって、エドガー・ワインドはマジで碌でもない悪党だったからさー、奴を何とかしないでどーするんだ?って言う極悪ぶり。

 

 リチャードに娘を誑かさせ銀板写真で恐喝していた事件は、娘のその親がエドガー・ワインドの政敵や商売敵だったし、ノルセー伯爵の経営していた『ラビット・クラブ』で背負わせた借金をネタに保険詐欺とかを働かせさせているし、俺が捕まえられなかった私娼連続殺人事件の黒幕だし、アヘン売買も主導していたしな。

 エドガーが死んで、奴の関わった事件をセインにも纏めさせて居たら、「公開処刑にすべき人間だった」と激怒していた。

 公開処刑制度廃止をジャックの次に喜んでいた優しいセインがそう言う位である。

 俺がそんなセインに苦笑するしか出来なかったのは、兄が通したかった法案をエドガーが協力してくれていたから、兄に頼まれ見逃していたつう罪悪感もあるんだよな。


 そんな訳で目立っていた張子の虎エドガー・ワインドが居なく為って、やっと登場の黒幕モーランド公爵だったりする。

 でもって釣り針を用意しているだろうモーランド公爵が撒き餌をしても、俺は2度と張り子の虎に釣られてレッツ・ダンシングしないと決意している。

 そ、そんな餌に俺は釣られないからなー。


『 怪盗バートが銀行強盗!!』


 そんな記事がロンド・ポストの見出しを賑わせていた。

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