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拝啓 魔法使いの貴方へ

story1


「いってきまーす!」


私、涼森ここあはは家を出た瞬間に隠し持っていたスマホをポケットから出す。


「歩きスマホは…いけましぇーん!」


小学生がうざいですが、それも私が歩きながらスマホをいじっているせいで…。


まあ、交通事故には遭わないはずだけど、スマホを持っていっていることがバレると嫌だし、しまいますか。


ってちがーう。


私は私自身に突っ込む。


今日スマホを持って行っているのは(まあ学校にはほぼ毎日スマホ持って行っているけどね…まあ学校の方もそれくらいは良くあることだから黙認しているからで…私が決して悪い子だということにはなりません、と呟き)

ある大事なことがあるからで。


『リボンさん、おはよう御座います。』


メッセージを送ると、すぐに既読がついた。


『ここあさん、おはよう〜!』


『もうすぐ発表するから待っててね!って言ってもう学校か〜w』


ぴこん、ぴこん、とスマホが明るい音を鳴らす。


反対に私の気持ちが沈んでいるかと言われればそれも違って…。


今日、私が入っているリボン村では、これから始まる企画の発表が村長様(リボンサン)からあるのだ!


『はーい!8時になったので企画発表するよ!』


私は小さくガッツポーズ。


スマホが、再び小さく震えた


リボンさんが送ると同時に、既読がぽつ、ぽつ、と新たに2つ増えた。


『いえーい⭐︎』


『うえーい!』



リボンさんの幼馴染(で実は彼氏の)なっぎーさんと私と同じくリボン村の3ヶ月前に入ったばかりライトさん。


『じゃあ送るね!』


そんなメッセージと共に送られてきた企画は、こんな内容だった。


『ペアでスターゲーム、二人で勝利を掴め!』


今回リボン村が挑むのは、ペアで一つの役職を持つスターゲーム。


黒猫(人狼)人狼白猫(村人)エンジニア(村人) 占い師(村人) 神(第三陣営) てるてる(第三陣営) 村人(村人) などの役職を使って,二人で勝利を掴みましょう。


では、ペアをご紹介。


リボン × なっぎー


ティナ × ラテ


ここあ × ライト


ニコ × ラベル


ココ × コーラ


では、ペアで二人で勝利を掴むために作戦を立てましょう!


配信予定日:10月4日。



という内容だったわけだ。


「へえ、懐中電灯(ライト)さんと一緒か。」


私の声は通学路に響く。


ちなみに、懐中電灯とは、いつのまにかライトさんについていたライトさん専用のあだ名だ。


誰が作ったんだっけ?


あ、自分か(と笑いながら心の中で自分に突っ込む)。


ちなみにライトさんからは私は飲み物と呼ばれている。


ココアっていう飲み物があるからだそうだが、それにしてもひどいあだ名だ(思い出すと笑いそうになるから)。


「まあ、メッセージくらい送っておいてやるか。」


『懐中電灯宜しくお願いします。』


『ああ、飲み物と一緒ですか。宜しくお願いします。』


『作戦たてますか〜。』


『そうですね、飲み物ってどこに住んでいるんです?ああ、飲み物だから、お店の中かなw』


『そうだと思うか、懐中電灯?あ、懐中電灯もお店の中かなw』


『一緒のお店だったりして。』


『くさ。』


『え、で本当に何犬です?』


『何犬って草。まあ、東京に住んでますけどね?』


『え、同じw』


それから送られてきた住所は、同じ市&めっちゃ近くだったのだ。


『え、全く同じ市で家も結構近いんですけど。』


『あ、まじか。じゃあ今日学校終わったら作戦立てます?』


『あ、ライトさんも学生なんですね。』


『そう言うということはここあさんも学生か。』


『中央駅の近くにある、猫カフェ知ってます?』


『知ってますよ!』


『じゃあ、そこで作戦立てましょう。』


私はライトさんに了解!と吹き出しを出して笑っている猫のスタンプを送った。


「まじか,ライトさん猫カフェ知ってるんだ…。」


もしかして…。


「私が猫好きなのを知って…?」


まさか、と私は笑う。


でも私、猫カフェ好きなんだよね。


猫を触れ合えるし、コーヒーが美味しいし。


それに…中央駅の近くだけど路地の中だからクラスメイトに会わないですむから。


「よし、行くか。」


私は遅刻しない様に、早歩きで学校のへ向かい始める。


story2



「おはよう御座いまぁす。」


さっきまで開いていたはずの教室のドアを開け(嫌がらせかよ)、私は教室に向かってつぶやく。


私の小さなつぶやきは教室の騒がしさに溶け込んで、消えてしまう。


まあ、もっとも誰も聞いていないから良いんだけどね。


「今日、雨降るらしいよ〜。」


「えっ、まじぃ?」


「ほら、雷鳴ってるやん。」


「え、雷なってないんですけどぉ。」


「…空耳じゃね?」


弾ける様な、騒がしい教室に大きく響く笑い声。


会話の声、大きい…。


しかもそこ、私の席なんですけどぉ。


ふーっとため息をつく。


「そこ、私の席なんだけど。」


「あっそ。」


そう言って、そこに座っていたぶりっ子女子が椅子を蹴って立つ(絶対わざとだろ)。


そして、通り過ぎわにこうつぶやく。


「消えろ。」


「…。」


…毎日この繰り返し。


もう飽きました。ってか慣れんのはっや〜(ぶりっ子たちを真似して高い声で心の中で笑う)。


嫌がらせをされ、こっちから話しかけようとすると無視され、消えろと言われる。


「はあ、今日も変わんないか。」


同じ毎日の繰り返し(厳密に言うと少しずつ違うけれども)。


それでも心の中で期待をしてしまう。明日になったらもしかしたら、無視が終わっているかもしれない、もしかしたら心の優しい転校生が現れて、この日常を変えてくれるかもしれない、誰か私の味方ができるかもしれない,と。


それでも私は知っている。


私の味方はいないのだと。私の味方がもしもできたとしても…あの子みたいに直ぐに私を嫌ってしまうのだと。


知っているのだ。泣きたくなるほど経験したのだ。そう、思い込むほどに。


ピコン。


いつの間にか授業が終わり、みんなが帰っていく。


ザーザー。


あの人たちが話していた様に、外は灰色の雲で覆われて、雨が降っている。


へへっ、今日実は私傘持ってきたんだ。


そういえば、とさっき聞こえた着信音を思い出し、スマホをタップして、メッセージを確認。


『ごめん、明日にしよ。』


懐中電灯(ライト)さん。


きっと急いで書いたのだろう。


冷たいと思うほど短い文章。


それでも私にとっては大切な、話してくれるリボン村の人たちからのメッセージで嬉しかった。


了解!そう吹き出しを出して笑っている猫のスタンプを送る。


『そのスタンプ好きだよね。』


ライトからのメッセージが新たに追加される。


『俺も持ってるぜ!』


『あ、私も〜。』


次々と既読が増えていって会話が始まる。


私はまた、ため息をついて、スマホを暗くさせてから教室を出た。


story3


「くしゅ。」


自分のくしゃみで、目が覚める(こんなことあるんだね)。


朝起きると頭が痛かった。


昨日、傘ぼきぼきに折られてたんで濡れて帰ってきんだよね。


お母さんが心配したら行けないから駅に傘を捨ててきたら、なんでそんなに濡れてるの!とか、傘はどうしたの!とか叱られる。


やっぱり下手に言い訳したらダメだよね。


「友達に貸してあげた。」


そう言ったら私が友達がいないのを知っている(らしい)お母さんはお説教をやめてしまって、そのままお母さんは仕事に出掛けてしまった。


そのまま過ごしていたのだから、風邪を引くのは当たり前だ。


そう思っていたんだけれど、やっぱり風邪を引くのは嫌だなあ。


「ねえ、頭痛いから学校休んでいい?。」


相変わらず幼稚な嘘ばっかりつくわね、そう叱られていると思っていたけれども、返ってきた答えは意外だった。


「ここあ、今日は学校の創立記念日だよ。」


忘れたの?と言いたげな口調。


そういや、先生もそんなこと言っていたっけ。


そんなことをぼんやりと考えながら私は、また眠りの世界につく。


「わああああああっ!」


私が起きたのは、家に私以外の人がいなくなった後だった。


「もうすぐでライトさんとの約束の時間だ。なんで忘れてたんだろ…。」

お母さんは仕事に行ったらしい。


お父さんは元々居ないし…。


お兄ちゃんも見当たらない。きっと、何処かへ遊びに行ったのだろう。


「もうっ。」


私も、ついつい寝てしまう癖を自覚しているんだからタイマーでもかけておけば良かったのに…。


1時間後。


急いで着替えたりして、私はドアを開けた。


もうすぐ通常の授業が終わる時間なはず…!


「いってきまーす!」


いつも通っている道を早歩きで歩いていく。


その間、私の鼓動はずっと早くてワクワクしていた。


ライトさんに嫌われないといいな,とも思いながら。


チャリン。


ドアを開けると心地よい鈴の音が鳴った。


私はざっと店内を見回す。


そういや私、ライトさんの姿知らないんですけどぉ…。


「本当に懐中電灯っぽいのかな。」


そんなわけないだろ、と自分の心の中に突っ込む。


そんなことを考えていた瞬間。


ふと、此方を向いた男性と目が合ってしまう。


気まずくて目を逸らそうした矢先、あれと思って、驚く。


…あの人、大人じゃ無い?


よく見てみると、彼は制服を着ていた。


さっき男性と思ったのは、綺麗な透き通った金色の髪の毛のせいかもしれない。


と、その男性も驚く様な表情をする。


「あ…!」


「え、…?」


やっぱり、あの人がライトさん…?


再び彼の方を向くと、彼は早く早く、というように笑みを浮かべて手招きをしていた。


私は店の奥に進んだ。


「普通に懐中電灯っぽくないんですけど.」


そりゃあそうだろう、彼も人間なんだからな、と自分自身に私は突っ込む。


「宜しくね、ここあさん。」


「あっ、はい。よろすくお願いします。」


緊張しすぎて噛んじゃった。


ライトさん、小さく笑ってるし。


「あのっ、今回のアモアスの企画、どうしますか?」


「そうでしたね〜。

まず、何の役職があるか確認しませんか?」


ライトさんが持ってきた紙をテーブルに広げて,黒いペンを2本取り出した。


「えっとー。

クルー、シャリフ、黒猫…。

あとは、何があったけ。」


「普通のインポスター、シェイプシフター、金庫破りとかもありましたよ!」


ライトさんが教えてくれる。


「そ、そうでしたね…!」


ライトさん、顔近い…。


ライトさんの顔が近くて,思わず顔を赤く染めてしまう。


それを隠すようにして,私はそっと顔を遠ざけた。


「えっと、アサシン、ゲッサー、イビルゲッサー。」


神を見て真剣に役職を書き出していくライトさんの顔を見ながら,ふっと他のメンバーはどうしているかな,と考えだしていた。


「ーラバーズ。」


「え…?」


ライトさんって改めて見るとかっこいいな…。彼女っているのかな。


そうぼんやりと考えていた時に聞こえた「ラバーズ」と言う単語に思わず反応してしまう。。


「なんです、じーっと見て。」


「い、やなんか…ライトさんっていけm…懐中電灯っぽくないなって思って。」


イケメンと言いそうになったところを慌てて誤魔化す。


「当たり前じゃないですか…!

俺だってかいちゅでんと…哺乳類なんですからね!」


「あ、今懐中電灯って言いかけましたよね?w」


「気のせい気のせい!」


あはは、と二人で笑い合う。


その時間はとても幸せで、お砂糖みたいに甘い。


そう思いながら、こんなに歳が近い人と話したのは久しぶりだな、と思った。


でも、ライトさんもいつかきっと…私のこときらいになっちゃうんじゃないかな。


「ううん、そんなことならないよね!」


思わず呟いてしまう。


「え、今なんか言いました?」


まだ笑っていたライトさんが私に問いかける。


ううん、と首を振る。


誤魔化すようにして,ごくりと最初に頼んでおいたココアを飲む。


ココアはこの甘い時間に合わずに,とても苦かった。


「苦いな、もしかしてコーヒーラテ頼んじゃってたかな。」


え?、と真剣な顔で呟いた目に前のライトさんの澄んでいる綺麗なはちみつ色の瞳がゆらゆらと不安げに揺れて、次第にライトさんの姿ごとぼやけていく。








違う、ココアが苦いわけじゃなかった。



苦かったのは…、



私、の、なに…?


そう思いながら,透明な涙が目から溢れ,ほおに落ちていく。


「ちょ、ここあさん…?」


「あ、れ、おかしいな…。」


半笑いを浮かべた私の視界は真っ黒に染まっていった。


story3


「ん…あれ?」


目が覚めると,私は見知らぬお部屋にいた。


「あっ!

ここあさん!

目が覚めて良かった!」


いきなりライトさんが目の前に現れ、驚く。


「え、ここは…?」


自分のものとは少し違うベットの感触。


そのベットをそっと触りながら、私はライトさんに聞く。


「あー、ここは俺の部屋だよ…?」


「わ、すみません!」


思わずベットから飛び出す。


そうすると、また頭が熱を持ったようにじわり、じわり、と痛み出した。


「ちょ、ここあさん!

熱あるんだから寝てくださいよ。」


「えっ、私熱があったの…?」


そうだよ、と言いながらライトさんは自分の額に手を当ててから、私の額に手を当てる。


「っ!l」


「あっ、いきなり触ってごめんなさい。

でも、まだ熱いからて寝た方が良いかと…。」


ライトさんはそう言って謝ったが、ライトさんの手をひんやりとしていて、気持ちが良かった。


「ううん。大丈夫。

えっ、でもここってライトさんのお部屋なんですよね?」


「そ、そうだけど…。」


そう言いながら、ライトさんは目を伏せる。


「俺の家族、今いないので…。

気にしないでください。」


ありがとうございます…。


ライトさんが部屋から出ていき,私は眠りにつく。



次の日。


朝起きると,自分のベットに寝ていた。


「イケメンの男の子が運んでくれたのよ。かっこよかったわ〜。」


お母さんが言って,私は驚く。


「えっ、ライトさんが運んでくれたんだ…。」


できるだけ動揺しているのを悟られないよう、落ち着いて答える。


「ライトさんって言うの。珍しい名前ね…、まあ今度あった時にお礼でも言っておきなさいな。」


ん、と言うとお母さんがさらに付け足した。


パカ、と卵を割る音。


「あ、それと今日は学校をお休みしなさい。」


もう元気だったけれど,今日1日だけでも学校に行かないで入られるんだったら嬉しい!


「はーい!じゃあ寝てるね。」


私の大好きな卵焼きの匂いが部屋に入ってきた。


『ここあさん、今日の調子いかがですか?』


スターゲーム中、ライトさんにそう聞かれた。


『それがですねえ。

もう元気なんですよ。」


スターゲームでは近くの人と喋れる機能があるのだ。


だから私たちは毎回スターゲームではその機能を使っている。


『ここあさん、昨日どうかしたんですか?』


『ああ、昨日お会いしたんですね』


流石我ら村長。察しがいい。


『そうなんですよ!

でね、昨日お会いしたら実はここあさんに熱があって…。』


ライトさんが続きを言いかけたので私は慌てた。


『ちょっと、乾電池!それ以上言うな。』


思わず乾電池(ライト)さんの話の続きを遮る。


『ここあさん、大丈夫ですよ。今ライトさんおマイクをミュート致しましたので。』


だと良いんですけどね。


でもなっぎーさんの言葉が珍しく丁寧で怪しい。


『おい、なっぎー。嘘つくな!』


『しかもおマイクってw』


『わーそんちょうさまが壊れたー。』


『棒読みすぎてくさ。』


『壊れてるわけないでしょ。私はいつだって立派な村長なんですよ、、』


『あ、リボンちゃんごめん…。』


理由(わけ)がありそうな雰囲気に、私たちは沈黙する。


その雰囲気はりぼんさんがなっぎーさんをキルしたことで破られる。


『インポスターの勝利だ!』


そうリボンさんが叫んで、みんなが笑った。


『リボンさんとなっぎーさん仲良いなあ。』


『同感』


『どうかん。』


『私も。』


私たちが言うと、リボンさんのところから声が聞こえてくる。


『なわけないでしょう!』


『なわけないじゃないですか。』


ハモった…。


言い方は違うけれど、流石幼馴染の二人。仲良いなあ。


そんな気を許せる人が,私にもできるのかな。


「できると良いな。」


そう一人の部屋に呟いた。


story4


「ふわあ。あとちょっとで夏休みか…。」


窓の外の眩しい太陽と、ライトさんを想像させるようなはちみつ色の光を見てあくびをしながら,私はそんなことを考えている。





「んん、あとちょっとで夏休みか〜。」


(ライト)はそう呟いた。




「さようならー。」


「さよなー。」


「なあなあ、今日お前の家で。」


「はいはい、3時からでしょ。」


「かーえーろっ。」


「じゃあ、またな。」


放課後になり,教室内には陽キャたちの声が響いている。


「ふう。」


出来るだけ放課後の教室の様子が目に入らないように、と逃げるみたいに私は教室を出る。


いつまでこうやって逃げなきゃいけないのかな。


「これも、あの人たちがいなくなったら終わるのにな。」


教室を出て静かな廊下でそう呟いた矢先、まだ陽キャたちがウヨウヨしている教室という名の監獄から「またね」と聞こえてくる。


もちろん私にかけられた言葉じゃないから振り返らない。


「またね、か。」


私にはそんな言葉をかけてくれる人はいない。


一人でもいれば良いのにな…。


昇降口を出ると,一気に熱気に包まれた。


涼しい教室とは大違い。


「あっついなあ。」


私はそう言って汗を拭い,家へと駆け出した。



「ただいまあ。」


家のドアを開けると涼しい空気が肌を撫でる。


「おかえりなさい。

アイスが冷蔵庫に冷えてるわよ。」


そう言ってくれたお母さんにお礼を言い、アイスを冷蔵庫から取り出す。


と、その時ぴろんとスマホが鳴った。


「誰だろ。

お兄ちゃんかな。」


でも、お兄ちゃんは滅多にメールもくれないし。


「本当に誰だろ。

あっ、ライトさんだ。」


着信はやはり、メールが来たという連絡で、ライトがメッセージを送りました。という文字が表示されている。


『今日って飲み(ここあ)さんは時間あります?」


『暇人とでも言いたいのか、乾電池!』


私、ここあを飲み物と言ったライトさんに、怒った猫のスタンプと共にそう送る。


『そんなわけないでしょ。今日,よかったら図書館の近くの〇〇公園に来れません?』


『行く,行きます!』


考えるよりも先にそう私は打っていた。


「え、今から?まあ良いけど…。」


はい、とそう言いながらお母さんがアイスを渡してくれる。


ありがと、そう言って私はアイスを入れた袋を持って〇〇公園へと急いだ。



「あ、のみものがあるいてる。」


開口一番、ライトさんがそう言う。


「飲み物じゃねえ!乾電池め。」


おっと、そこ少し口が悪かったかな。


「どうせ乾電池ですよ〜♪光り輝くエネルギーに溢れてますから。」


「むっ。」


そしてめっちゃむかつきます。


今更でけど,アイスって何を持ってきたんだっけ。


袋の中をのぞく。


ーチョコアイスとソーダ味のアイスが寄り添っていた。


私はそれを掴む。


「はい、どっちが良いですか?」


「えっ、ここあさんアイス持ってくれたんですか?」


ありがとうございます。


そう言いながら,ライトさんがソーダ味のアイスを受け取った。


「いただきまーす。

う、うまっ!」


「ね、美味しいでしょ?

これ私も好きでいつも家で買い置きしてるんですよね〜。」


ライトさんが褒めてくれて、私は少し自慢げに言う。


「そうなんんですね…。」


ライトさん…?


ライトさんが目を伏せて何故か寂しげに言う。その拍子に目に影がかかった気がした。


どうしたのだろう、と思ったけれど,ライトさんと一緒に話しながら食べた棒付きアイスはとても美味しくて,甘かった。


story5


もくもく大きく空に浮かんでいる入道雲。


近所の花壇にいっせいに咲き誇っているのは背が高い黄色くて眩しいひまわり。


そして…涼しい風が吹いて、風鈴がチリンとなる。


「夏だーっ!!」


夏休み初日、私は宿題を終わらせてのんびりしていた。


「おかあさーん。アイスない?」


「素麺食べたばっかりでしょう?

しかも今はうちにアイスないわよ。」


「そうめんだとすぐにお腹へっちゃうんだもん。」


「じゃあ,自分で買ってきたら?」


今は手が離せないから、とお母さんが言う。


「じゃあコンビニ行ってくるね。」


お財布を持って私はドアを開ける。


外に出ると、熱気が私を包む。


それでも私はワクワクして。


「アイス、アイス♪」


と歌うように言いながらスキップしてコンビニへ向かう。


「あれ、ここあさん…?」


ちょうど公園のわきを通り過ぎた時、そう聞き慣れた声が私を呼んだ。


story6


「あ、乾電池だ。」


「どこに行くんです?」


珍しく私の言葉に反応せずにライトさんは私に問いかける。


「今からコンビニに行くんです。」


「この間の分でアイスがなくなったのでね。」


へ〜、と言ったライトさんをチラッと見て、私がそう付け足すと、ライトさんは私の予想を大きく裏切る反応をする。


「俺がこの間アイスをいただいたからじゃん。ごめんなさい!」


そう慌ててライトさんが言ったのだ。


「ライトさんだけのせいじゃないので。」


「あ、でライトさんはどこにいくんですか?」


「俺はですね、先程まで友達と公園で遊んでいて,良いものをもらったんですよね。」


そう言いながら,彼はポケットから大事そうに2枚の紙を取り出した。


スペシャルプールチケットと書いてあるその2枚の紙を優しくライトさんは撫でて、説明をする。


「実はですね,このプールがあるも俺の友達の親が主催の遊園地で。」


貰ったんですよね、とライトさんは続けながら、私の正面に立った。


「へえ、すごいですね。

流石陽キャの乾電池だ!」


そうふざけながら、私の身体全体から血の気がさあっと引いていくような気がした。私、実は泳げないんだよね。それがバレたら本当に馬鹿にされちゃうかも…。


「で、ですね。流石乾電池だわ…。」


私の正面に立ったライトさんは珍しく歯切れ悪く言う。


「ペアチケットなんだけれど…一緒に行きませんか?」


「えっ、良いの?」


「俺は一緒に行きたいです。ここあさんが良かったらですが。」


「行きたいです!」


だけど、と続ける。


「私実は泳げないんですよね。」


「じゃあ泳げるようになるまで毎日一緒に練習しましょうよ!

此処のプールに行くのは夏休みの最後の方にしましょ。」


「い、良いんですか?」


友達とプールに行ったことがないから,とても嬉しい。


しかもライトさんと一緒に行けるなんて最高だな。


目を輝かせている私を見て、ライトさんはさらに私の表情を明るくすることを言った。


「じゃあ、一緒にコンビニ行きながら予定立てましょ。」


今年の夏はとても楽しくなりそう!


そう思いながら、私はライトさんと一緒に歩き出した。


story6


その日の午後5時、リボンさんがメッセージをみんなに送った。


『スターゲームやりましょ〜!』


『やりましょ。』


今日、スターゲームをリボンさんが開催しようとしているのをもう知っているのだろうか、なっぎーさんがすぐに反応する。


『やりましょ、師匠立ててください。』


リボンさんを師匠と呼んでいるココさん。


『いいですね〜、やりましょ。』


『YEA!YEA!』


『ニコさんもやるらしい。』


これは、私には理解できない言葉を翻訳してくれるラテさん。


『あっ、ちなみに僕もやるね。』


ラテさんもやるらしい。


『わあ、私もやります!って言うかラテさんニコさんの言葉わかるのすご。』


『ニコさんもやるん、ですよね。』


『YES!YES!』


『あ、僕もスターゲームやります!』


ライトさんのメッセージを見た瞬間、私の心臓がどくん、と言う音とともに跳ねる。


『ミルクも〜。』


弾んだ口調は癒し系のミルクさん。


『部屋立てたんで来てくださーい。』


今日もメッセージアプリは賑やかだ。


そう思っていたら,リボンさんからスターゲームの部屋が送られてきた。


よし、部屋に入れた。


『こんにちは〜。』


『あ、ここあさんこんにちは。』

優しく私に反応してくれたのは…。


『こんちゃ〜。』


なっぎーさんとライトさん。


来ました、と言おうか迷いながらスターゲームの部屋をお散歩していたら、


『遅れました〜。』


『もう入っちゃったけど入っていいですよね?』


『メッセージ強制退会させてあげましょうか?』


『わあ、辞めて〜。』


『冗談ですってw』


『賑やかだなあ。』


ライトさんがそう,寂しげにつぶやいた気がしたけれど…気のせいかな。


『あれ、ティナもんは?』


ここの村ではティナさんのことはティナもんと呼ばれている。


それがだんだん広まって,今ではリボン村が大好きな視聴者さんたちもティナさんのことはティナもんと呼んでいる。


『忘れ去られる?』


『ティナもんなのだ〜!』


タイミングよくティナさんが部屋に入ってくる。


『あ、僕よりも遅刻した人いて草。』


『さっき遅刻人は強制退会だって話してんですよねw』


『え、遅刻は冤罪なのだ(?)強制退会させないで欲しいのだ!』


『遅刻冤罪は流石に嘘w』


『どうしますか?師匠。』


『始めますよ。〜。』


『おい、私が村長なんだよ、なっぎー。』


ゲームを開始します。


テレン、テテン。


明るい音楽が鳴り、スターゲームが始まる。


〜第3陣営・インポスター〜


今回の貴方の役職はラバーズと黒猫です。


と言う表示とともに私とライトさんの姿が暗闇に浮かび上がる。


「えっ、ライトさんとラバーズ?」


思わず一人の部屋に呟いてしまう。


『よし、始めますよ~!』


リボンさんの声とともに,カフェテリアにいるみんなの姿が画面上にあらわれる。


今回のマップは…ハッピーランド。


『はい、じゃあ行きますか〜。』


『行きましょ、乾電池さん』


そして,試合が始まった。


しばらくしてから、リボンさんの声が聞こえた。


『あ、なっギーそれ以上近づかないでください。』


『キルしますよ!』


『自白していて草。』


『ちなみに俺魔法使いなんでね』


どうやらリボンさんと一緒にいるのはシェリフのなっぎーさんのようだ。


『あ〜、僕自宅警備員ですねw』


あれ?この声はインポの相方、コーラさんみたい。


3人でいるのかな。


『騒がしいですね。』


『そうだね,違うとこ行きます?』


『いや、行こ!』


『行くんだw』


『行きましょう♪』


『まあ,ライトさんがそう言うなら。』


『こんちくは〜。』


『魔法使いのライトだよ〜?』


あ、ライトさん魔法使いなのね。


『聞きましたか?

ほら、ライトさんが魔法使いじゃないですか。なっぎーが人外だ〜。』


『吊るぞ〜!』


『いや、お前ら人外じゃん。』


『人外吊るぞ!』


ここぞとばかりに私も参戦する。


『あ、ここあさんお仲間なんですね。』


『そうですよ、純粋な村人の仲間です。』


『いや,こっちから見ればお前ら全員人外なんだけどw』


『ってゆーかココアさん今日、空いてます?』


『あっ,ライトさん今私のこと暇人と言いましたねヒドイ。』


『いやいや,冤罪だってw』


『冤罪なのだぁ〜。』


遠くから聞こえたティナもんの声とともに,キルの音。


『あっ、これティナもんきられましたね。』


なっぎーが言う。


『そう言うならここあさんだったら火魔人でしょ。』


『くさ。』


今度はインポの相方のコーラさん、


『ちょ、火魔人はひどいですよ。許せん,懐中電灯(ライト)さんとコーラさん!』


そう言いながらも私はクスクスと笑っていた。


やっぱ,リボン村って楽しいな。


リボン村は私にとって家族のような存在。


リボンさんに感謝だね。


「でも,現実(リアル)にも居たらいいのにな…。

楽しく話せるような家族のような人。」


私は呟く。そして、気づいてしまった。


『今の声入ってました?』


『全然〜。』


『あ、なら良いんです。』


『って言うかここあさんなんて言ってたんですか〜。』


『ひっ、秘密です!』


『え〜、告白とかだったりして〜。』


『そんなわけないでしょう。』


『じゃあ行きますか。純粋な村人を率いて。』


『おい、先頭は私だよ。』


『なんでですか?俺にもたまには先頭歩かせてくださいよ。』


『私は村長だから。尊重してよね。』


『じゃあ,リボンさんを銭湯に行きますか。』


『ちょっと待って,今誰か銭湯に行こうとしたよね?』


『お、ココアさんは優しいですね。

では,純粋な村人たちよ、れっつごー!』


『おっー!』


『お〜』


『お〜っ』


『おー。』


私たちはまた歩き出す。


story7



「そういえば私,なんで泳げないんだっけ。」


ふと、自転車を漕ぎながら私はそう思った。


確か,学校のプールに入らなくなったのは小学校の4年生の時。


確か、その頃までは〝あの子”ともまだ仲良しで…。


それで、いつ仲が悪くなったんだっけ。


キュ。


ブレーキの音に思わず顔を上げるとそこのはライトさんが居た。


そう、私たちは今日プールに行く約束をして、待ち合わせをしていたのだ。


「着いてきて。」


ライトさんはそう言ってまた走り出す。


キラキラと光を受けて輝く金色っぽいライトさんの髪を見つめながら,ひたすらと自転車を漕ぐ。


「着いたよ。」


そう言って来たところは…私が良く、『知っていた』場所だった。


「なんでだろ…来たとあった気がするけれど。」


その時の記憶が全くない。


そんなに昔だっただろうか。


「ん、どうしたの?」


前を歩いてたライトさんがこちらを振り向く。


ううん、と首を横に振る。


私たちはプールの入り口へと向かった。


2名様ですね〜、チャリン、お金を支払う音、また後でね、ライトさんに手を振られてうん、と手をふり返す感覚。


女性用更衣室のドアを開けた瞬間、塩素の匂いとともに私は驚く。

ーあの子、たちがいる。


うっ、と気持ちの悪さが押し寄せてくる。


トイレの個室の中に入ってやっと私は落ち着いた。


大丈夫、大丈夫。


あの子たちは今着替えていた。


きっと出ていくところ。


だから、大丈夫。私が狙われることなんて、ないー。


そう頭ではわかっているはずなのに、それに関係なく私の心臓はどくっ、どくっ、と音を立てて跳ねている。


はあ、はあ。と荒い息をしながら個室を出て口をゆすいで顔を洗う。


もう大丈夫、だよね…。


そっとドアを開けるともう人はいなくて,外から賑やかな声がしていた。


でも着替えている間中,ずっとなにかに睨まれているような感じがした。


ライトさんはもうプールサイドに立って私を待ってくれていた。


「遅れてごめんね。」


「いや、良いけどー。」


今日のライトさんは何か変だ。喋らなかったり,喋ってもすぐに何か言いかけて口を閉じてしまうし。


大丈夫だよね。そう思って私はプールに目を向ける。


ゆらゆらと揺れている水が光を受けてキラキラと輝いている。


「入りましょ?」


ん、と頷く。


「ここあさんって何処ら辺まで泳げるんですかね。」


「いやあ、全然泳げなくて…。」


「あ、なら良いですよ!まずは遊びましょっか。」


そうライトさんが言った瞬間、キラキラっ。と水しぶきが上がって水が私にかかる。


「やったな、懐中電灯!」


「ふふっ、やりましたよ。」


そこから水の掛け合いが始まって、水しぶきがたくさん上がる。


私たちは休憩二時間になるまでたっぷりと,遊んだ。


「あー、楽しかった〜。」


「でしょ、俺こうやって遊ぶのもプールの醍醐味だと思ってて、プールに来たら毎回やってたんだよね。」


「そうなんですね〜。」


「じゃあ休憩終わったら初めはけのびから、練習しましょっか。」


「します、します。ライト先生宜しくお願いします。」


私は立ち上がってぺこり、とライトさんに頭を下げて,私たちはまた笑い合う。


「じゃあ,行きますよ。」


「はい!」


さっきもなんの抵抗もなく水の中に入れたし。


と,思いながら水中に入る。


「えっと,体を浮かせられます?」


どうやるのだろうか…。私が困っていたら,ライトさんが見本を見せてくれる。


「こうやって〜,手を伸ばして,足で床を蹴って浮かぶんです。」


「やってみます。」


手伝います。


初めは一人じゃ難しいと思うので。


そうライトさんに言ってもらって,私は安心する。


手を,伸ばす。


足で床を蹴ろうろしたら,ライトさんが手を伸ばして。


どくん。


体に当たる,人の感覚。


水に顔をつけて。水に全てを委ねる感覚。


ドクン,トク。


と,心臓が嫌な音を立てて,頭が真っ白になって。


苦しいはずなのに信じられないほど時間はゆっくりに感じて,自分のもののはずの

体は上手く動かせなくてー


  そのまま視界は暗くなっていった。



story8


そうだ。


思い出した。


忘れていたんじゃない。思い出そうとしなかったのだ。


苦しくて,辛い記憶。


だからだ。


あの子と過ごした最後の2年間,そして今も何故自分が虐められなくてはならないのか。


全て,封じていた。自分で。


目を逸らして,知らないふりをして。でも,全部思い出してしまったー。



小学校の中学年で始まったプール。


3年生の頃は怖くて,プールサイドで震えているだけだった。


気づいてくれたのは,ある一人の高学年の男の子。


その子が生徒代表,学校1のイケメンだなんて知らなくて。


教えてやるよ,そう言ってもらえて。


こっそり放課後に水泳部に混ざって練習してたな。


それが,バレてしまったのだった。


誰にも言わずにこっそり二人でする練習は水が怖かったこのなんか忘れさせてくれるくらい楽しかった。


でも,女子たちに詰められて。


仲良かったあの子は,ここあちゃんがそんなことするはずない,と守ってくれて。


水着,上着。


隠されて。


トイレに閉じ込められたり。


あの子たちの怒鳴り声。


そして,ここあちゃんには近づかないほうがいいよ,と誘惑させる声。


水を見るたびに脳裏に反射して。


あの日にワンシーンと共に。





「こ,ここ…飲み物!」


ライトさんの声で私は,目を覚ます。


「大丈夫ですか?」


「私っ私,ごめんなさい。」


関わってしまって,御免なさい。


元気で面白いここあなんて,


ネットだけの,妄想。あっけないな,空想。


自分を傷つけるものから守っていたはずが,いつの間にか大切な君を傷つけていただなんてー。


君を傷つけたくなくて,そう思って。


一番傷つけてしまう言葉を吐き捨てて。


私は君の元を去ってしまった。



story9


「あーあ。」


なんとか携帯のマップを頼りに,家に帰って。


なんで,あんな事を言ってしまったのだろうか。


彼だって。


私にために,来てくれたのに。


なのに…。


「私,酷いこと言っちゃった…。」


もう会ってはくれないだろう。


自分で招いてことなのに。


悲しくて…。


スマホの電源を切ってしまった。


1週間後。


久しぶりに,学校から帰ってきてスマホを立ち上げる。


やっぱり,私にはネットが必要。


ネットなら…,リボン村の人たちとお喋り出来るから。笑い合えるから。


どうしても,私はネットに依存してしまう。



「しばらく,動画投稿ができていなくてすみません。」


とりあえず,リボンさんにメッセージを送ってみる。


こんな時なのに,優しいリボンさんに頼ってしまう自分が情けなくて恥ずかしい。


それでもー。


「大丈夫ですよ,辛いことがあったら,休憩してくださいね。」


すぐに既読を付けて,返信してくれるリボンさんの優しさがじわりと,心に染み込む。


「何か,あったら言ってください。いつでも聞きますから。」


「実は,ライトさんに酷いこと言ってしまって…。」







冷ややかな視線を感じる。


じわり,握りしめた手に汗が滲む。


「光川くん,じゃあね〜。」


可愛らしい女の子がそう言って、敷地内から出てくる。


ちらり,と校門から覗くとー,


「わっ!」


と。


前から来た生徒にぶつかってしまう。


「ここあ,さん…!」


よく見てみると,彼はライトさんだった。


「ライトさん!御免なさい。私っ,私!」


落ち着いて。


そう言ってくれて,私はやっと乱してしまった息を整えられる。


「大丈夫です。僕も,急に水なれもそこそこに練習せてしまってごめんなさい。」


「ライトさんのっ,せいじゃないです…。本当にごめんなさい。」


二人で,顔を見合わせる。


そして,何故かわからないけれどたちはは微笑みあっていた。


「って、ここ,高校の前なんですよ!」


あたりを見てみると,ライトさんと私をちらちらと白い目で見てくる高校生の姿がある。


し,視線が冷たいよ…!


そして,私たちは赤い顔でまた笑いあってしまったのだった。


story 10


それから,毎日のように私とライトさんはプールへ通い,私が泳げるようにと練習を手伝ってくれた。


水に慣れてくると,水中から外の世界を一緒に眺めるのが好きになった。


ゆらゆらと,窓から差し込む光が水面と共に揺れて。


とても綺麗で,美しい。


彼とプールに通う時間は,私にとって最高な瞬間(とき)だった。


〜その頃〜


あき…,あき!


俺は病院へと向かう道を急いでいた。


大好きな,彼女の名前を呼びながら。


あき…水野あき,リボン村の村長は今年の7月の中旬から目を覚ましていない。


夏休みに入ってからも,ずっと…。


そして,今はもう8月が終わろうとしている。


「ハッ…先生!あきは?」


病室に駆け込むなり,俺は先生にそう叫んでいた。


叫んだ後もはあ,はあ,と肩で息をしている俺に向かって先生は,「落ち着きなさい」というように頷いた。


「…いるよ。」


先生から発せられたその一言に,俺は内心


いるのは分かってんだよう!


ってかいないと話にならないじゃねえか!


と思っている。


それでもー,


「あきさんの状態は…今夜,変わるだろうね。」


先生の次の言葉で,あきに駆け寄るしかなかった。


変わる…どう変わるんだ?お願いします,もし神様がいらっしゃるなら…あきを,どうかー。


あきの冷たく白い,華奢な手を握ってー。


そう,祈ってることしか俺にはできないのだった。


story 11


朝。


目を覚ます。


いつもとは,何故か違う感じ。


何故なら…ちょうど,通知が来た。


「飲み物さん,今日楽しみにしてる。」


夏休みの最終日,ライトさんと一緒にー遊園地兼,プールへ行くから!


いつもとは違う今日にドキドキしながら,私は返信を何度か誤字りながら何度か直して,送信する。


今年,私はすっかり泳げるようになっていた。




もくもく大きく空に浮かんでいる入道雲。


近所の花壇にいっせいに咲き誇っているのは背が高い黄色くて眩しいひまわり。


涼しい風が吹いて、風鈴がチリンとなる。


そして…隣にいるのはライトさん。


それだけで,眼に映る景色,それ全部がキラキラと光に,洗練されたような色に染まって見える。


好きな人が隣にいるだけで。


この景色の全部を,好きになれる。


ガタンゴトン,電車に揺られて20分。


すれ違う女の子たちの視線が,ライトさんに集まる中。


私たちはまるで恋人にように2人吊り革にもたれかかって他の誰も知らない,2人だけのお喋りを楽しんでいた。


「着いたー!!」


目の前には大きな遊園地に,キラキラと水面が光るプール。


ガヤガヤと楽しそうなお喋りが四方八方聞こえる中,私ははしゃいでいた。


「ここあさんは…遊園地来たことないんですか?笑」


「ん…幼稚園以来ですかね…。」


少し笑いながら聞くライトさんに,少し考えてから言葉を返す。


目の前の景色にワクワクしていた私はライトさんの顔がふっと,曇ったのに気づかなかった。


否,一瞬だったから他の時でも気づかなかったのかもしれない。


「とりあえず,遊園地から行きますか!」


「え,良いんですか…?」


「勿論です!!」


それから私は色々な乗り物を楽しんだ。


メリーゴーランド,おばけ屋敷(2人とも全く怖がらなくて逆に怖がられた),コーヒーカップとか。


2人で遊ぶのは,すっごく楽しかった。


「そろそろお昼時にもなるので、売店でも行きますか?」


「そうですね。」


「あ,じゃあ俺一度トイレに行ってきます。」


「了解です!!ご飯食べられるとこ探しときます。」


私はスマホで遊園地の全体地図を見て,食事処を探していた。


数分後。


「あれ?」


ライトさんが,帰ってこない。


そういえば,トイレってどこなのか。


そういえば,ここはどこなのか。


待って,私ー迷子になっちゃった!?


やがてパレードが始まり,あたりは熱気と音楽に包まれる。


そんな中でも私はずっとライトさんを探していた。


スマホを手にして焦って,周りの景色も見ずにいたから,さっきいたところも分からないしー。


貴方は,何処へ行ってしまったの?


隣にいたはずの私を,置いて。


まあ…動いたのは私なんですけどね?


四方八方,人の囲まれているけれど…見知った顔は,ひとつもない。


怖くなって,寂しくなってー。


さっきまで輝いていた景色が急に色褪せていくよう。


私はしゃがみ込んだ。


私なんて…ライトさんが貰ったチケットでタダで遊園地来て,ライトさんの夏休みまで練習に付き合わせたことで奪っちゃって…おまけに,自分で迷子になって…。


悲しいことがどんどん積もっていくのに,心はぽっかり空いたようで。


その穴から隙間風が吹いてきて,感情まで取り去っていく。


いつの間にかパレードも終わっていたみたい。


あたりはさっきまでいた人はみんな,人気の乗り物の方に行ったのかな。


人気があっという間に少なくなって,空もどんより曇ってきてー。


涙色の空を見つめた時ー。


「ここあさん?」


後ろから,聞きなれた声。


思わず,振り向く。


「ここあさん,探したんだよ?」


大好きな,声が耳に届いて。大好きな,あなたが視界に入って。


私は思わずライトさんに。


抱きついた。


「寂しかった,です…。迷子になっちゃって…知ってる人,何処にもいなくてー。」


大好きな人にも,置いてかれちゃった。


そんな気分になってー。


「大丈夫,大丈夫だから。」


よしよしと頭を撫でてくれたその人に,私は生まれて初めての恋を知った。


story 12


その後,急に雨が降ってきて,レストランで食事をすることになった。


見ているだけで甘いお菓子をモチーフにしたレストラン。


そこで私たちは,偶然同じものを頼もうとして,お互い顔を見合わせてー笑った。


店員さんは,苦笑してたけどね。


お揃いのミートソーススパゲッティ。


真っ赤で,美味しいスパゲッティ。


食べ終わって外に出た頃には雲は何処かへ行っていて。


「わぁ,虹ですね!」


「あ,もう2時ですね。」


言ってることが微妙に違くてまた笑っちゃった。


綺麗な虹を眺めて写真を撮ってから,次はいよいよー


「それじゃあ,プールに行きましょうか。」


私たちはプールに向かうのだった。


チケットを交換して,更衣室で着替えて。


プールに2人,出ると。


「あれ?」


何故だろうか。


知ってる声が後ろから(さっきもこんな事あったような)。


振り向くと,後ろには数人の男女が立っていた。


「あ,リボンさん!」


「なっぎーさんと…リボン村のみなさん。」


そう,そこにいたのは私が所属するグループ,リボン村のみんな。


「奇遇ですね。私たちもプールに来たんです!」


リボンさんが嬉しそうに話す。


と,私は違和感に気づく。


「リボンさん…なんか,細くなった?しかも…白くなったよね。」


そう私が口にすると,リボンさんが固まって,なっぎーさんが微妙な顔をした。


私,なにかまずいことでも言ってしまったのだろうか。


「仕方ない,この際みんなに話すか…。」


そうして,傍にあったベンチでリボン村のメンバーは,なっぎーさんを囲んで話を聞くことにした。


リボンさんは,5月頃,つまり私たちがリボン村に加入してから1ヶ月くらい経ったある日,倒れてしまった。


それから入院して一度は退院したものの通院は続いていて,通院した間もどんどん病気が悪化していた。


そしてー彼女はもう一度入院し,手術をすることを決めた。


でも,手術が成功したのにも関わらず7月の半ば頃から目を覚まさなくなりー8月の中旬頃,やっと目を覚まして,2回目の手術も成功して。


「この間,やっと退院できたの。リボン村のみんなには迷惑かけちゃったよね。」


申し訳なさそうなリボンさんに,なっぎーさんは優しい言葉を呟く。


「完全に完治することは不可能と言われているけれど,退院祝いに遊びに来たんだ。」


そう言ってなっぎーさんは話を締めくる。


「何くらい雰囲気になってるの。私はもう元気よ。」


さ,みんなで遊ぼ?


そう言ってリボンさんは明るく笑ってくれた。


水鉄砲,どちらが早く泳げるかの競走,潜った時間の長さを競い,また水鉄砲。


ウォータースライダーを待っている時,ティナさんはこっそり教えてくれた。


「リボンさん,すっごく大変だったの。2回も大変な事があったけれどーいや,私たちが知らないだけでもっとあったかもしれないわ。」


だからこそ,


「ああやって明るく笑って,1日1日を幸せに,大切に。生きれるのかもね。」


story 13


沢山遊んで,私たちはいつも間にか帰りに電車に揺られていた。


そして,思い出す。


今日,地元で花火大会があったことを。


「一緒に…行きませんか?」


ライトさんを誘いたいな,そう思っていたことを。


だから,


「勿論です。一緒にいきましょう。」


彼がそう言って笑ってくれた時は,最高に嬉しかったっけな。


帰ったらすぐに,浴衣に着替える。


これは今年の夏が始める少し前,お母さんと買いに行ったお洒落な浴衣。


白に水色の線が走っていて,そこに金魚が泳いでいる涼しげな浴衣。


それを身につけて,お母さんに髪を綺麗に整えてもらいー,私は待ち合わせの場所へと急いだ。


ガヤガヤとした他人(ヒト)の喋り声,歓声,ひたすら子供が騒ぐ声…。


河辺のお祭りの会場にはこの街にこんな人がいたと思うほどいっぱいで,屋台も沢山並んでいる。


みんな楽しそうで,とても賑やかだ。


香ばしいソースの香りやお砂糖が焦げたときの甘い香りが,あちらこちらから漂ってくる。


そんな人混みの中に彼が,立っている。


そして,その隣にある決意をした私がいて。


「お待たせ。」


「全然。まだ10分しか待ってないです。」


大好きな彼に,近づける一歩を。


その頃彼もある決意をしているだなんて,夢にも思わず。


人にぶつかったり,押しつぶたりされないよう,ライトさんは自然に,柔らかく手を繋いで守ってくれた。


甘い林檎飴,ヨーヨー釣り,輪投げ。


どれも幼稚だと思っていたがーライトさんと一緒だと,どんなことでも楽しくて。


冷たくてひんやりとしたライトさんの手を握りながら頰を熱くしていた私は,まるで甘い綿菓子を歩いているようにふわふわとした感覚に包まれる。


お祭りの屋台も楽しんで,休憩にとベンチへ着く。


いつの間にか空は,暗くなっていたようだ。


私はふと決意を決める。


「ライトさん…!」


花火の時間を確認していた彼がふと此方を向いた。


「ライトさんって…」


付き合っている人,いますか…?


準備していたはずなのに,頰がどんどん熱を増していく。


「ノー,だけど。」


驚いたようなライトさんの声。


「私…ずっと,ライトさんのことが好きでした!」


どうか,どうかー。


「私と付き合ってくれませんか?」


月明かりに照らされて,川の水面はキラキラと輝く光の衣を纏ってゆらゆらと。


雲が動き,ふと月が影った。


それに合わせ,ライトさんは綺麗な目をそっと伏せる。


「ごめん。」


すっと,知らぬうちに息を呑んでいた。


ショックを受けるのは分かっていたのに。ライトさんが凄くモテるくらいかっこいいのも分かってたのに。


次の,言葉を待ってしまう。


「ここあさんとは,付き合えない。」


「俺明日引っ越すんだ。」


雲がまだ動き,月が雲から出る。


月の光に照らされて,ライトさんのゆらゆらと揺れる蜂蜜色の瞳は綺麗に輝いていた。


「なんでっ,そんなことー。」


私に教えてくれなかったの?


明日,だなんて。


ひどい。


お別れも言えないじゃん。


知らぬうちに目に涙が盛り上がって来るのを感じていた。


そして,くすくすと笑う女の子たちの声が耳に入った。


お祭りで気分が上がっているのだろう。


「もうっ!」


「いやだ〜,あはは。」


黄色い声をキャーキャーとあげながら,はしゃいでいる声。


その声がーいじめっ子たちの声と重なって脳裏に響いた。


と同時に遊園地の出来事が脳裏にフラッシュバックされて。


私は,私の心は,再び孤独となるということに,気がついてしまう。


「そう,なんだー。変なこと言って,ごめんね…。」


寂しそうな顔をするライトさんに必死に謝罪の言葉を投げ私は走り出した。


辿り着いたのは川にかかってる短い,橋。


川を覗き込んでいる私が水面にゆらゆらと映されてー。


とても,惨めな気持ちになる。独りぼっちになる。


もうー,こんな世界ー。


ごめんね,私はこの世界では生きていけない。


いじめられて,嫌われて。嘘の笑顔を張り付かせて,ネットでただただ生きていた


私はーこの社会の,不適合者だ。



橋の端に立って,息を吸って。


身を投げる。


川に,水面に,身体が叩きつけられた感覚がして,私の視界は真っ暗に染まった。


story 14


ただただ,彼が好きだった。


彼がいなくちゃ独りぼっちになってしまう気がした。


でも,そんなの妄想で,夢で。


私は最初から独りぼっちだった。


何もない世界で,感情も無しにそんなことを考える。


何もなくて,冷たかった世界に。



ー温度が宿った。


息が吸えなくなっていって,沈んでいくはずが,ぐっと引っ張られる。


誰かが,いる。


そのまま。水面へー,明るい方へー。


身体が再び叩きつけられる。


でも,そこは水中なんかではなくて草の上。


ふかふかで,柔くて,暖かい芝生の上だ。


そう,気がつく。


目を,開ける。


視界が開く。


誰かが騒いでいる声が。誰かが,否,大勢が楽しんでいる音が,耳に届く。


匂いを感じる。


焼きそばのソースの香ばしい匂い,お砂糖が焦げた時の甘くて,良い匂い。


感覚が戻ってくる。


手を,誰かが握っている感覚が。


辺りを見回すと,びしょ濡れになっているライトさんが私の手を引っ張って起こしてくれた。


「ここあ,さん…。大丈夫ですか?」


そこで私は気がつく。


あゝ,彼がー私を助けてくれたのだと。


この世界に留めて,くれたのだと。


「大丈夫です…あの,ありがとうございます。」


「何してて溺れちゃったんですか?」


そう心配そうに聞いてくるライトさんを前にして,自殺しようとしていただなんてー言えなくて。


「泳ぐ練習,ですかね…。」


そう言い,愛想笑いを浮かべる。


そう言った途端視界が真っ暗になって,ぎゅっと,抱きしめられたのだと気づく。


「十分,上手ですよー。」


耳元で,そう囁かれる。


「だから,死のうだなんて。思わないでください。」


そう言われ,私はついに全身から力が抜けて。


泣き崩れてしまった。


ぎゅっと,大好きな人に抱きしめられながら。


story 11


涙が落ち着いてきた頃,じっと黙って口を注ぐんていたライトさんが喋り出した。


「自分も昔,虐められてたんですよ。」


え,ライトさんがー?


「今となったら友達は多いですけど。親も滅多に家にいなくて。」


そんな,ことがあっただなんて。


「はい,寂しかったです。でもネットというものを知って。」


「ある時見て興味をもったゲーム実況を始めて。」


初めて,と彼は続ける。


「自分の居場所ができました。」


え。


「ここあさん。自分も,ここあさんのこと大好きです。」


居場所を初めて俺にくれた人だから。


だからこそ,


「淋しそうな,悲しそうな,顔が見たくなかったんです。」


引っ越してしまったら,きっと飲み物はそんな顔をするんでしょう?


久しぶりに,懐中電灯の煽りを聞いた気がした。


告白された時はびっくりしました。


あゝ,引っ越したら悲しませちゃうな。


だから,断ろう。


そう決めていたはずなのにー。



「大好きです,ここあさん。」


蜂蜜色の瞳には真剣な光。


「俺と,付き合ってください。」


はい,


「もちろん。」


今までの中で最高の,1番の。笑顔を交わした。


私たちは,今日。


飲み物と懐中電灯と呼ばれる2人は,ラバーズとなった。


そして。


次の日。


彼は引っ越したー。


住所も,言わずに。


私にそっと別れを告げて。


寂しくて,君に会えない時間は空白のようで。


私たちはしばらく連絡を取り合っていたが,1ヶ月程メッセージが来なくなって。


いつの間にか動画投稿もぴたり,と止み。


いつの間にかリボンさんに伝えていたみたいだ。


暫くしてから,ライトさんのリボン村卒業・一時活動休止が発表された。


ぽつぽつ,とメッセージを送り合って,いつもきちんとしていた彼は,


体調を壊してしまったのだろうか。


段々口調が砕け,一言だけになって。


いつの間にかメッセージのやり取りは途絶えてしまった。

でもー,


いつか会える日まで。


この繋がりは一生忘れず。



story 15


貴方は,何処へ行ってしまったの。


繋がっていたはずの私を,置いて。


私は毎日貴方にことを思い出すの。


毎日,写真の中で息をしている貴方に会いたいと,願っているの。


もう二度と,会えないのかもしれない。


繋がりは,断たれてしまったからー。


でも,絶たれていない限りは。


貴方が,何処かで生きているというならば。


私たちが繋がりあっていたということを,忘れずに覚えていれたならばー。


きっと,いつか会えるはず。


そうだよね…懐中電灯(ライト)さん。


そして,


今度こそは,現実(リアル)での居場所になれると良いな。



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