リボンチャンネル
「ふわあ」
私…水野あきはパソコンの前であくびをした。
パソコンにはスターゲームという人狼ゲームに似た人気のゲームのホーム画面が映っている。
時計を見ると針が10時のところを指している。
なぜ私がこんな夜遅くまでゲームをしているかというと…仕事だから!って、言っても。
ゲーム実況者だからってこと。
どうして平凡な私がゲーム実況をしているかというと…
半年前の朝のこと。
「おはよっ」
犬のここあの散歩していると隣の家から今出てきて,同じくトレーニングのために散歩をし始めた藤原渚君が声をかけてくれた。
「今日は、曇りでうれしいな。」
私が笑う。
「うん。僕たちが好きな天気だもんね。」
渚君も笑い返してくれる。ドキっとする。私は実は、渚君のことが好き。
渚君は4つ上の隣の男の子。優しくて、小さい頃からいっぱい一緒に遊んでもらっていたんだ。
「そうだ。あきちゃん、ゲーム実況って知っている?」
「ううん。」
私は首を横に振った。
「あのね、ゲーム実況っていうのは、自分がしたゲームを実況することだよ。」
渚君に今流行っている「スターゲーム」という人狼ゲームに近いゲームをしている動画を見せてもらった。
「わあ、すごい。」
私は思わず声を上げた。
だって、人狼になってどんどん村人たちを騙していって勝ったんだもの。
キャラクターたちがトリオでたまに説明したり、冗談を言っているのも面白い。
「これ、実は僕がネットにあげたんだ。」
「えっすごい。」
これ、渚君がやったんだ。すごいな。
「そこで、いつも面白くて、ゲームが得意なあきちゃんにやってもらおうと思っているんだ。」
えええ?
私がやるの?
「やり方は僕が教えてあげるよ。」
ということがあったの。
無理だよって、思ったんだけれど渚君に教えてもらったら、できるようになった。
ちなみに私のキャラクターは…レオちゃん、ひまわりちゃん、リボンちゃん。
リボンちゃんが主に説明をする、レオちゃんが冗談を言う、ひまわりちゃんがつっこむという感じ。
ちなみに、リボンチャンネルという名前で、主に「スターゲム」をしているよ。
きりが良くなったのでパソコンを閉じてベットの中に入った。
次の日。学校で、おしゃれグループの、りさちゃんとゆきちゃんが寄ってきた。
「ねえ、あきちゃんって絵得意でしょでしょ。リボンチャンネルのリボンちゃんを描いて。」
ぎくりとする。私がリボンチャンネルのリボンだってことは渚君以外のみんなには秘密なのだ。
「リボンチャンネルって何?」
こわばった笑みをりさちゃんとゆきちゃんに向ける。
「知らないの?」
知らないわけがない。私がリボンチャンネルのことを一番知っているはずだ。
「今、有名だよ。ゲーム実況者で、すっごく面白い動画をいっぱい作っているんだよ。」
「ねー。」
「あ…ありがとう。」
「え?」
「あ、何でもない。」
つい、嬉しくなって口走ってしまった。いけないと思っても、笑ってしまう。
「えっとねえ、リボンちゃんは肩につくくらいの栗色の髪でハーフアップをしていて…頭に大きなリボンをつけているの。
目がきゅるきゅるで可愛いんだよ。」
私は、いつも通りにささっとリボンちゃんの首から上を描く。
「ありがとう。すっごく可愛い。本物のリボンちゃんみたい。」
「ねえ、あきちゃんてもしかして、リボンだったりしない?」
「ないない。」
「あるわけないでしょ。」
りさちゃんとゆきちゃんは笑っていってしまった。
私は学校から帰ってきて自分の部屋へ向かった。
あれ?パソコンがないな。
「あきちゃん、ちょっといいかな?」
ぞぞっ。母がこういう言い方で私を呼ぶときは、絶対に真剣な話をするのだ。
「何?」
私は仕方なく母が待つリビングへと向かった。
「あのさあ、このパソコン、しばらく没収ね。」
ええ…。
「ちょっと待ってよ。あの…」
「何よ。」
「えっとあのう…。」
母にはゲーム実況のことは秘密にしているんだ。
「昨日夜遅くまでゲームしていたでしょ。バレているんだからね。」
「はーい…。」
私は自分の部屋に戻るとスマホで渚君にメッセージを送った。
あき 「どうしようパソコンを母に没収されちゃった。」
なぎさ 「あきちゃん落ち着いて。とりあえず僕の部屋で作戦会議をしよう。」
あき 「ありがとう。今から行くね。」
なぎさ 「オッケー。」
渚君からはすぐに返信があった。
私はお気に入りの白いワンピースを着て薄い黄色のカーディガンを羽織った。
そして愛用しているポシェットにスマホとメモ帳を入れた。そして仕上げに時計をつける。
「お母さん渚君のうちに行ってくるね。」
「5時までには帰ってきてね。渚君に迷惑かけないようにするのよ。行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」
私は家を出て渚君のうちのインターフォンを押した。ピーンポーンと音がしてからすぐに渚君がドアを開けてくれた。
「お邪魔します。」
私と渚君は階段を駆け上がって渚君の部屋に入った。
そして話し合った結論、渚君が「僕が勉強とか教えますのでスマホを返してください」と、言ってくれることになった。
そして、私は時間を守るというルール付きでパソコンを取り戻すことができた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
一週間後。
それから私は渚君の部屋によく行くようになった。
少し,うれしいな。
「ねえあきちゃんグループ結成しようよ。」
「いいよ。」
と、いうことでメンバーを集めた。
リボン村という名前で、私が村長。メンバーは全部で7人。
私リボン、なっぎー(渚君)、ニコさん、ラベルさん、ラテさん、ココさん、ティナさん。
ちなみに、ラテさんは今めちゃくちゃ有名なゲーム実況者また,配信者でもある。
特徴は常に微笑んでいる立ち絵。
リボン村のメッセージグループも、もちろん作った。主に「スターゲーム」を、しているよ。
ある日。スターゲームで私となっぎーとラテさんが残ったとき。
3人で距離をとりながら私は聞いたから。
「ラテさんはいつもどうやって勝っているんですか。」
「負ける人の原因はね、自分でルールを作るところだよ。」
ラテさんが答えてくれた。
「2人が大事にしていることやものって何ですか?」
私は2人ともからはファンだよという答えが返ってくるかと思ったけれどー違かった。
なっぎーは
「ファンだよ。」
と、言ったけれど、ラテさんは
「完全勝利。」
と、言った。ラテさんは続けてこう言った。
「僕が欲しいのは完全勝利だ。」
と。
「ファンがいなかったら僕たちはゲームをしている一般人だぞ。」
「ファンの代わりなんていくらでもいるんだ。でも、僕たちには才能があるからね、代わりはいない。」
「!!」
私はびっくりした。あのラテさんがファンのことをそう思っているんだ。
「ファンは僕たちの大切な人だ!」
「ファンなんて笛の音色に聞き惚れた虫と同じだ。」
「違います。ラテさん、あなたの考えは間違っています。」
「考え方に間違えなんて無いよ。」
「!!」
そして、私たちがびっくりしている間にラテさんはなっぎーをキルしてゲームを終わらせた。
私はティナ。
ゲーム実況者なんだ。
リボン村っていう実況ゲームグループに入っているんだけれど、この間のゲームでびっくりしたことがあって。
聞いてくれるかな?
スターゲームというリボン村がよくやっている今人気の人狼ゲームに近いゲームをやっていた時。
私がラテさんにキルされたあと、村長のリボンさんとなっぎーさんとラテさんが残っていた時にリボンさんが質問した答えに、
「僕が欲しいのは完全勝利。」
「ファンなんて笛の音色に聞き惚れた虫と同じだ。」
なんて言って、なっぎーさんと言い合いになったんだ。
あの,私、ラテさんのこと好きなんですけど…。
私は自分自身では何をすればいいのか分からなかったのでこれ取りあえずリボンさんに「これからどうしましょう。」と、メッセージを送っておいた。
そうしたらすぐに返信がきた。「今は混乱しているので、落ち着くまでしばらく活動休止した方がいいみたいですね。」と、書いてある。
今リボン村はすごく人気で、私が行っている中学校でもしょっちゅう話題にリボン村のことが出てきているのに。
しばらく休止したら、この勢いがなくなってしまうんじゃあ無いのだろうか。
そんなの、困るよ。
せっかく人気になってきたのに…私はある日のことを思い出した。
急ブレーキの音。
血生臭い匂いがあたりに広がり,私はもしかして思い辺りを見た。
そうしたら見てしまった
んだ。目の前に見える、お母さんとお父さんの…
「お母さんっ、お父さんっ。」
私はそこに座り込んでしまう。
体全体に走る痛みに私は顔をゆがめ,そ視界が真っ暗となった。
目を開けると私は病院のベットに寝かされていた。優しそうな看護師さんが来て
「あなたは交通事故に遭ったのよ。だから、救急車に乗ってここにきたのよ。」
と、言った。
その時からだ。私が声を出そうとしてもあの時のショックで声が出ないのは。
だから、スターゲームでは本当は周りの人と話せるのに私はチャットモードを使っている。
ピロンとスマホの着信音が鳴った。
リボンさんからだ。
「一度みんなで集まって話し合いますか。」と、書いてある。
リアル,で。
リボン村のみんなで集まるのはリボンさんのおうちになった。
私は普通に外に出てリボンさんのうちに向かった。
ラテさんとなっぎー以外リボン村のみんなゲームのライブ配信はしていなのだ。だから、顔を見られてもいいし、声を聞かれてもいいんだ。
本当,年上の二人には凄く憧れる。
リボンさんの部屋に入った私を、リボンさんとなっぎーさんが笑顔で迎えてくれた。
そうか。
2人は幼なじみで、家が隣だったのだ。
ちなみに私とリボンさんは中学一年生で、ニコさんとラベルさんが中学二年生で、ラテさんとなっぎーさんが高校三年生なんだ。
リボンさんは私がラテさんのことを好きなのは知っているし、私はリボンさんがなっぎーさんのことが好きだと言うことが知っている。
みんなが集まった。
「皆さん、混乱していらっしゃるみたいですし、一旦活動休止にしましょうか。」
と、リボンさんが言ったので、私はタブレットの上に指をはしらせた。
「でも、この人気が衰えてしまうのは嫌です。」
みんなはいきなり電子音が響いたからびっくりしたみたい。目を丸くしている。
「ティナです。交通事故以来、声がでないんです。ですがアイパットでさっきみたいに話せはします。」
「だからティナさんはスターゲームでもチャットモードなんですね。」
と、ニコさんが、言う。
「そうです。」
私は小さく微笑む。
「あの、恋愛禁止にしたらどうでしょうか?」
と、ニコさんがいきなり言った。
「どうしててすか!」
慌てて言ったからか,舌を噛んでしまい,痛い。
「本当に、いきなりなんですか。」
「落ち着いて、ティナさんとリボンさん。」
と、ラベルさん。
「ラテさん、この間の話、本気ですか?」
「本気だよ。僕はプロだ。ゲームに、プロだ。ファンを喜ばすプロではない。」
「ファンは僕たちの大切な人たちだ。」
すぐになっぎーさんが言い返す。
「ファンからは金を吸い取る。僕たちを漫画とかと同じように消耗品扱いしているなら、僕たちもファンを消耗品がわりにすればいい。それだけの話だ。僕の,どこが違うの?」
「違うかどうかは知りませんが,そもそも。それは、正しい生き方プロの生き方ではないと思います。」
リボンさんも言い返す。
「生き方に正しい正しくないはないよ。むしろ,プロだったらそれぞれ自分の生き方があっていいんじゃない?」
ラテさんが,眉を顰める。
「というかーその人の生き方を否定してる方が,間違いじゃないの?」
「!?」
「ちょっと混乱しているみたいですね。やはり、活動を休止しましょう。」
なっぎーさんの一言で.みんなが口を閉じた。
私は家に帰ってスマホを開いた。
ネットを開くとリボンさんが「リボン村活動一週間休止します」と、書いていた。
結局こうなってしまったか。少し残念だ。
あっ,お知らせのコメント欄にもコメントがもうきている。
「とても残念です来週を楽しみにしています」とか、「いつもリボン村を見ているので、理由を知りたいです」と、書いてある。
待っててもらえるのは,嬉しいな。
夜になったので、私はベットの中に入った。
綺麗な茶色い目。透き通っている声。
ラテさん、おやすみ。また明日。
次の日。
朝から会議が始まってから4時間経った。今は12時。
お昼ご飯としておにぎりを食べながら、グループ電話でみんなと話す。
「あの、私が恋愛禁止にしたらどうですかと言ったのは、恋愛が今の状況に交わるともっと混乱してしまいますし、自分はただの実況グループだからです。」
と、ニコさんが言う。
私はおにぎり,ぽろりと落としそうになって持つ手を強める。
「なるほど確かにそうですね。」
ココさんが言う。
「どうしてですか。」
「どうしてですか。」
電子音とリボンさんの声が重なった。
私、水野あきだよ。実は私リボン村の村長なんだ♪
色々と混乱して一週間の休止を決めたんだ。(詳しくはリボンチャンネル1と2を読んでね)
それで電話で会議をしていたんだけれど、なんと恋愛禁止にしない?という提案が出て幼馴染の渚くん(なっぎー)が好きな私とラテさんが好きなティナさんがびっくりしたんだ。
結局それは今度話し合いましょうということになったんだ。
「ようし、編集するぞ!」
その日,ベットの中に入ったのは11時だった。
次の日。
私は起き上がった途端ベットの中にふらりと倒れ込んでしまった。
なんだかだるい。
体温を測ると40度もあった。
母に言うと病院に車で連れていってくれた。
「睡眠不足とストレスからの風邪ですね。」
と、お医者さんが言った。
でも母は
「あなたがストレス溜まっているわけたいんだけれどねえ。」
と言って怪しんだ目で私とお医者さんを見ている。
風邪の薬をもらって帰った。
私は薬を飲んでからベットに入った。
ふとして目を開けると長針と短針がそろって仲良く12を指している。
物音がした方を見るとなんと藤原渚くん(なっぎー)がいた。
「ごめん起こしちゃったみたいだね。これ、食べてみて。」
そう言って渚くんが差し出したのはうどんだ。
卵が丸ごとかけている私が好きなやつだ。
一口食べるとうどんのコシの強さと卵のまろやかさが口の中に広がった。
「美味しい。」
「よかった。それ、実は俺が作ったんだ。」
「作ったって言っても,調理しただけなんだけどな。」
渚くんが微笑む。
うどんをすすりながらふと思う。
今、私の部屋に渚くんと二人きりなのでは?
ドキドキと胸の鼓動が速くなる。
その時渚くんがくしゃみをした。
「ごめん。移っちゃったかな。」
「ううん。大丈夫。」
そして渚くんは帰った。
次の日。
熱が下がったので私は学校に行くことにした。
まだ咳は出るのでもちろんマスクはしている。
昼休み。
私は携帯を使ってリボン村の皆とスターゲームをしていた。活動休止中だけれど一応腕磨きのためにやっているんだ。
その時後ろから突然親友のみさきちゃんの声が後ろからした。
「あきちゃんそれもしかしてリボン村のメンバー?」
あっまずいと私は思った。だってみんなには私がリボンだってことを言ってないから。
しかも今日はメンバーの…リボン、なっぎー(渚君)、ニコさん、ラベルさん、ラテさん、ココさん、ティナさん。
全員が揃っている。
周りがざわざわしてきた。
「私…実はリボンなんです!」
私はそう言った。
それから毎日のようにいろいろなことを聞かれるようになった。
違う学年の人にも声をかけられる。
3日後。
「おはよう。」
私はいつもと同じように挨拶して教室の中に入った。
みんなの視線がふと私に集まる。
友達リコちゃんに目を合わせたらふとそらされた。
他の人にやっても同じだ。
みさきちゃんに聞くとなんでも、私が偽リボンちゃんだと言う噂が流れているらしい。
という情報をもらった。
犯人がこの教室の中にいるかもしれない。と、思った瞬間寒気がしたのは風邪のせいだと思おう。
それから私はみさきちゃん以外の皆に無視され続けた。
私が帰ろうとした時鋭い声が飛んできた。
「あきちゃんちょっといい?」
クラスのボス如月夏美だ。
「リボンちゃんのことは,皆好きなの。リボンちゃんのフリをしないで。」
夏美の声で教室の中がシーンとした。
「リボンちゃんのことは,皆好きなの。リボンちゃんのフリをしないで。」
夏美の声で教室の中がシーンとした。
「私、本物,だよ。」
私の声が教室に響く。
「そうだよ。あきちゃんリボン村の人たちと一緒にスターゲームをやってたもん。」
親友のみさきちゃんも言い返してくれる。
「でも、調子乗ってたのはムカつくし、
リボンちゃんなら普通にバラしたりしないわ。」
「調子になんて乗ってないよ。」
泣きそうになる。
本物なのに。
夏美は帰ってしまった。
「どうしよう。」
今は私の部屋でリボン村の人たちと会議中。
ネットのリボン村掲示板でも色々と囁かれている。
「リボンちゃんって調子乗っていたのか。ひどいな。」
「面白くないくせに偉そうに言ってるんだな。」
なんて悪口や嫌な噂もいっぱいだ。
「リボンちゃんは面白いよ。なんでそんなこと言うの。」
というファンたちの温かい言葉もあるけれど。
「ごめんなさい。バレただけでもいけないのに、炎上しちゃって。」
涙声でみんなに謝る。
「リボンさんのせいじゃないと思います。」
ティナさんが言ってくれる。
「そうですね。確かに気づいてもそっとしておいてくれなかった親友の方もひどいですし、偽物呼ばわりしたクラスメイトの…誰でしたっけ,ああ。夏美さんはもっとひどいと思います。」
ニコさんも怒って言う。
「なんとかしないといけませんね。」
ラテさんが言う。
「脱退。」
ボソッと言ったラベルさんをココさんが一瞬ギロッと睨んだ。
でもすぐに笑顔になって、
「脱退は考えられませんね。」
と、抗議してくれている。
「うーん。やっぱり動画で謝ったほうがいいのかな。」
なっぎー (私の隣のおうちの幼馴染の渚くん。実は私は渚くんのことが好きなんだ。) が言う。
「それは絶対にダメだよ。謝ったと言うことは自分が悪いと認めたと言うこと。そうやって受け止める人がいっぱいいるんだ。」
ラテさんがアドバイスをくれる。
みんなが一生懸命に考えてくれている。
私のために。
それが最高に嬉しい。
でも、
「私は本当にここに居てもいいのかな。みんなの身の安全を守るにも私は脱退したほうがいいんじゃないのかな。」
「それはダメです。」
大きな声を出したのはココさんだ。
いつもは大人しいココさんがハッキリと言ってみんなびっくりしている。
「こんなことになったのはひどい奴らのせいなのに。どうして優しいリボンさんが脱退しなくちゃいけないんですか。」
ココさんが私を抱きしめてくれる。
「確かに。村長のリボンさんが抜けたらリボン村じゃなくなるぞ。」
ラベルさんの一言に、
「リボンさんが抜けるなら私も抜けさせてもらいますよ!」
ココさんが泣きそうになる。
「なあ。今みたいにリボン村の人たちはみんなリボンさんが大好きです。みたいな動画を作ればいいんじゃないのか?」
ラベルさんが提案をする。
「確かに。そういう動画だったら謝っているわけでもないし。」
なっぎーも賛成をする。
「じゃあさっきの抱きしめたところも撮っておけば良かったかも。」
ココさんが言う。
クスッ。
と言う笑い声にみんながラテさんの方を見る。
ラテさんの手にはカメラ。
「僕が撮ったよ。」
「よし,よくやったな,ラテさん。これで動画を作れるよ。」
なっぎーが言うと、
「これでリボンさんへのアンチを収められますね。」
ココさんが泣きそうな顔で言う。
みんなは動画作成のために渚くんのうちへ行った。
私はー学校をしばらく休むことに,なった。
私抜きの企画だなんて,初めて。
どんな動画になるのかな。
一週間後。
「いよいよですね。」
ココさんが言う。
「ああ。」
なっぎーが疲れたように笑う。
「この動画はね、1番年上のなっぎーさんとラテさんが中心となって作ったんです。」
ラベルさんが説明する。
「特になっぎーさんはリボンちゃんのために頑張るぞ!って張り切っていましたね。」
と、ティナさんがいたずらっ子ぽく笑う。
実はね私が渚くんのことを好きだと言うことをティナさんだけに言ったんだ。
そのかわりティナさんがラテさんのことが好きだってことを教えてもらったんだ。
そして、動画が始まる。
「今回は実況ではなくお知らせです!僕が入っているリボン村の人たちとコラボをしました!」
なっぎーが嬉しそうに言う。
見ると、みんなが画面に現れた。
「こんにちは。リボン村のココです。リボン村の村長のリボンさんを知っていますか?」
「こんにちは。リボン村のラベルです。最近リボンさんの噂が広がっているのを知っていますか?」
「こんにちは。リボン村のラテです。リボンさんの悪い噂は全部嘘です!本当のリボンさんはとても優しくて頼りになる村長さんです。」
ラテさんは微笑を浮かべる。
「こんにちは。リボン村のティナです。実は私声が出なくてタブレットの読み上げ機能を使って話しているんですけれど、リボンさんはそんな私のことを軽蔑せずに,ある大切な秘密を教えてくれました。」
「こんにちは。リボン村のニコです。ティナさんの秘密をとても知りたいです。では、リボンさんとの映像をご覧ください。」
ニコさんが言って,画面が暗くなり。
映像と共に優しい,音楽が流れ始めた。
リボン村がグループ結成した時の写真、みんなで会議をしている写真、みんなでスターゲームをしている写真。
そしてココさんが私に抱きついている写真で終わった。
動画が終わると自然とパチパチと拍手をした。
みんなもしている。
「再生回数を見てみて。」
ラテさんにそう言われて再生回数の場所を見る。
たった1日前なのにもう100万回再生いっている。
「わあ…。みんなありがとう。」
嬉しくて涙が溢れてきてしまう。
コメント欄を見ると、
「リボンちゃんがひどいのかと思ったけど違くて安心。」
「この動画でリボン村を知りました。これから推したいです。」
「リボンちゃんの推しをしていてよかった。」
「リボンちゃん大好き。」
「リボン村の人もすごく優しいですね。」
などの嬉しいコメントがいっぱいあった。
「じゃあ、遊びに行きますか。」
ココさんが笑って言う。
「賛成です。」
私も言う。
「チェリーランドにでも遊びに行く?」
ラテさんが言った。
「はい!行きましょう。」
ティナさんも乗り気で
「来週なら良いぞ。」
「なっぎーさんも賛成ですか?」
ニコさんが驚いたように言う。
「俺も行きたいです。ニコさんは行きたくないんですか?」
ニヤニヤしながらラベルさんが言う。
「僕も行きたくないなんて言ってませんよ。」
顔を赤くしてニコさんが反応した。
「じゃあ、来週の土曜日に行こうか。」
ラテさんがまとめてくれた。
次の週の土曜日。
お弁当を持ってチェリーランドに来た。
今日はからっと晴れている。
入道雲が夏らしく浮かんでいる。
家を出たら渚くんが居た。
今日の服は白いワンピースに麦わら帽子。
「服、似合っているよ。」
渚くんが囁くようにしていってくれる。
ドクン。
心臓が飛び跳ねる。
渚くんの服は白いTシャツに青いジーパン。
「渚くんも服似合っているよ。」
私は微笑んで言った。
ゴトンゴトンと電車が揺れている。
混んでいるから渚くんに抱きつくような形で立っている。
ジーと視線を感じて視線の先を見ると、可愛らしい数人の女の子がいた。
私と同じぐらいの歳だろうか。
渚くんの方を見て、
「あの子、カッコいいね。」
「芸能人かな?」
「きゃっ。ラッキー。」
などとささやき合っている。
チャエリーランドに行くとみんなが居た。
みんなで写真を撮ったり、ポップコーンを買ったりした後、渚くんとラテさん先頭で歩き始めた。
メリーゴーランド、ジェットコースター、コーヒーカップを楽しんだ後にお化け屋敷に行こうと言うことになった。
「私は遠慮しておきます。」
ティナさんがキーボードに打ち込んで,言う。
「じゃあ、僕も休もうかな。」
ラテさんが言う。
あれ?もしかして…。
「ラテさんお化け屋敷苦手なんですか?」
ラベルさんがニヤニヤして言う。
「そう言うの良くないですよ。人の好き嫌いはそれぞれ違いますから。」
淡々とした感じで電子音が言う。
「ティナさん。ありがとう。」
ラテさんが呟く。
なんかいい感じ!
「恋が実るといいね。」
私はティナさんに囁く。
それからみんなでお化け屋敷に向かった。
『骸骨診療所』
そう書いてある看板がかかっている建物の前で私達は立ち止まった。
このお化け屋敷は骸骨に乗っ取られた診療所から抜け出すと言う設定だ。
「みんな、行こうか。」
渚くんの声にみんなが歩き始める。
順番が来て、二人組に別れた。
私は渚くんと一緒。
ドックンと心臓の鼓動が速くなる。
暗いジトジトしている道を少し通っていくと看板が見えた。
『もし、骸骨に会ったらどうする?
1、諦める。
2、戦う。
3、逃げる。 』
なんなの,この怖すぎる選択肢は…。
「ひっ。」
私が小さく悲鳴をあげると、
「3にしよう?」
渚くんが笑って言ってくれた。
小さく頷いて3と書かれたドアを潜った。
少し歩いていくと、コツン、コツンと後ろを誰かが歩く音が聞こえた。
後ろを振り向くとそこには…骸骨!
「きゃあ。」
小さく悲鳴をあげると渚くんが私をぎゅっと抱きしめてくれた。
目の前を見ると行き止まりになっていた。
視界に飛び込んでくる骸骨。
どうしよう。
「あきちゃんを傷けるな!」
カツン。
音がして前を見ると私を庇うように前に立っている渚くんが近くにあった偽物の骨を掴んで骸骨の腕を止めている。
ドクン。
と、心臓が飛び跳ねる。
渚くんが私のために戦おうとしてくれている。
と、その時。
スタッフ用のドアからお姉さんが出てきた。
「すみません。戦うのところに出るはずの骸骨がこっちと間違えて出てきてしまったみたいなんです。」
ペコペコと頭を下げてお姉さんは骸骨と一緒のドアの向こうへ消えた。
「良かった。」
ほっとしたように渚くんは笑う。
「うん。」
私も笑った。
その後も、しっかりと追いかける骸骨が追いかけてきたが人間だと知った今、全然怖くなかった。
お化け屋敷を出るとみんなが居た。
「遅かったね。心配したよ。」
ラテさんが言う。
「ごめんな。実は…。」
渚くんはさっきのことを説明した。(もちろん私を抱きしめたことは除いて。)
「と言うことがあったんだ。」
渚くんが言ったあとみんなが笑った。
「あのお化け屋敷って消える人たちが多いみたいですよ。よかった。帰ってきてくれて。」
と、ココさんは泣きそうになっている。
お姉さんは戦うところに出るはずの骸骨って言ってたけれど、もし、諦めるところに出てくるはずの骸骨だったら…。
私は背筋が寒くなった。
「あとは、観覧車に乗りましょう。夕焼けの眺めは絶景らしいですよ。」
ティナさんが言う。
「いや、俺は疲れたからいいです。」
ニコさんが言うとティナさんとラテさんと私と渚くん以外のみんなが頷いた。
「じゃ,四人で行こうか。」
ラテさんが言う。
「そういえばこの遊園地の観覧車の頂上で告白すると付き合えると言う噂があるらしいですよ。」
ティナさんがそっと耳打ちして教えてくれて。
私達は歩き始めた。
観覧車には人がいっぱい並んでいる。
私達の番になった時はもう太陽が傾き始めていた。
四人が観覧車に乗ろうとした時。
「俺、あきちゃんと二人で乗っていい?」
渚くんが言った。
もしかして…。
ティナさんが教えてくれたことを思い出す。
まさか…まさか,ね。
「わあ。きれい。」
観覧車が上がっていくにつれ空の色がピンクへ、黄金へ変わっていく。
「こう言うあっという間に暗くなる時間帯のことをマジックアワーって言うんだよ。」
「へえ。」
渚くんは物知りだ。
頂上に来た。
「俺、実はあきちゃんのことが好きなんだ。付き合ってください。」
太陽が山の沈む直前の、黄金の光が差す。
沈みそうな太陽をバックにして、渚くんは私に告白してくれた。
「私も渚くんのことが好き。よろしくね。渚くん。」
山に沈んだ太陽の破片がキラリと光った。
観覧車を降りるとラテさんとティナさんが控えめながらも,赤く頬を染めてで観覧車から降りてきた。
うまく行ったんだな。
私は悟った。
「リボンさん!」
ティナさんが私に駆け寄る。
私は驚く。
ティナさんの声を…初めて,聞くことができた。
私は嬉しくて泣きそうになってしまった。
「声が元に戻りました!ありがとうございます。」
ティナさんの声は美しく、鈴を鳴らすようなきれいな声だった。
そして、ティナさんの笑顔は眩しかった。
渚くんとラテさんは二人で仲良く喋っている。
私とティナさんはベンチに座ってティナさんが告白された時のことを教えてもらった。
私はティナだよ。
リボンさんとなっぎーさんが観覧車に乗った。
「僕たちも乗ろうか。」
ラテさんに言われて頷く。
今はラテさんと一緒に観覧車の中にいる。
何だか,ものすごくードキドキする。
「ティナさん。」
ラテさんが急に言う。
あたりを見ると頂上へ近づいていた。
「僕、今まで勝利さえあればなんでもいいと思ってた。」
でも、ラテさんが続ける。
「僕、ティナさんと一緒にいて気づいたんだ。」
うつむいていたラテさんが顔を上げる。
「僕はティナさんが好きです。付き合ってください。」
琥珀色の目には真剣な光がある。
「私、」
気づいたら口に出していた。
「ラテさんのことが好き。よろしくね。」
そういうとラテさんはほっとしたように笑顔を浮かべた。
いつもの微笑じゃなくて、優しさが満ちているような笑顔だった。
私もほほえみ返す。
黄金の光が差す中、私達は笑い合った。
気づくとみんなが居た。
「よかった。どちらとも告白が成功したんだ。」
ニコさんが言う。
「え。知ってたの?」
ラテさんが驚く。
「気づいちゃいました。」
てへ、とココさんが笑った。
「みんなで、ダブルカップル誕生のお知らせの動画でもみんなで作ろうなのだ!」
ティナさんがわくわくとする提案をしてくれる。
「賛成〜!」
私達はそう言って笑い合った。
『今日からリボン村の新メンバーの紹介で〜す!』
その私,リボンの発表から始まった動画は好評だった。
「ここあさん、ライトさん入村おめでとう御座います!」
「期待の新人発表来たあああああ!」
「ここあさんもライトさんのことも推しまぁす!」
などと好評なコメントがたくさんついた。
「ふーっ。」
私(水野あき)は、小さくため息をつく。
なっぎー(渚)が、そんな私の肩にポンっと手を置いた。
「ため息ついたら幸せが逃げちゃわない?」
「そうだね、幸せが逃げっててしまったら治るものも治らない、かな。」
「うん…。」
彼は静かにそっと辺りを見回した。
真っ白い壁に、たった一つの家具である引き出しの上に置かれた花瓶。
その上には、真っ白い部屋に似合わないぐらいのたくさんの花が華やかに咲いていた。
ここは、病室。
たった1ヶ月前は、元気にリボン村のみんなで遊園地で遊んでいたのにー。
炎上が終わってどんどん人気が急上昇して、コメントもたくさんついて、新メンバーも2人入ってくれることになって、最高に幸せだった、1ヶ月前。
ある日突然、倒れてしまう前までは。
私が熱で倒れてしまったのを発見して、なっぎーが救急車を呼んでくれて。
そこから、お医者さんが病名を告げられた瞬間、ぼんやりしていた頭がはっきりとした。
ーこれからリボン村はどうなってしまうのか。
でも、なっぎーが毎日のように病院に通ってくれて不安だったら私を慰めてくれた。
「ねえ,あき。」
いつの間にかあきちゃん、からあきに呼び方を変えたなっぎーは、また背が伸びてかっこよくなったように見える。
なのに私は、病室のベットの上で過ごす毎日。
このままで、私はいいのだろうか。
俺(渚)は今にも泣きそうな顔のあきに目を向けてから、また花瓶に映えているたくさんの花の方に視線を戻した。
「あきが悲しい顔をすると俺も悲しくなるから。」
帰る。
背を向けてそうまざと冷たく言い放った途端、後ろでひゅっ、と息を呑む音が聞こえた。
ふっと微笑む。
「そう、」
「言ったらどうするー?」
微笑んだ顔のまま、振り向く。
あき、あの花ってな、つぼみをつけて花が咲いてから実を結ぶんだよ。
咲く…つまり人間で言うと笑う、だな。
だから、笑っていると良い結果がついてくるはず。
「だからさ,あきには笑っててほしい…。」
俺がそう伝える。
あきの心に響きますように、そう思いながら。
答えが返ってこなくて,俺は思わず振り向く。
そこにはー,
目の袖で涙を拭いて,少し寂しそうな笑顔を見せたあきがいた。