エピローグ2
「カーマインさん、これ旨いです!」
「でしょー!」
王都の下町の一画、カーマインとグレイはようやく休日が合い、かねてから約束していた臓物の煮込を食べに来ていた。
「うわ、このニンニクがたまらない! やみつきになる! おうきゅ……職場じゃこんなの食べれないし」
「でしょ。でも、食べた後、口臭をどうにかしないと怒られるよ。あたし、上司にすっごく怒られた」
「でしょーねー。でも旨いですよ~」
お互いの主あるじが婚約し、結婚も間近なので、話題が色々あって盛り上がる。
勿論、王宮や王太子といった言葉は、このような場所で出せないので、適当にぼかしながらおしゃべりに沸く。(いくらこの二人とはいえ、その程度の常識はあった)
「そういえば、ヒューさんに女の影が、という話が」
「え? あの鬼に!?」
「いえね、あの人、あまり服装を飾りたてない人なんですけど、最近、ハンカチを胸に挿してるんですよね。で、ハンカチに鳥の刺繍がされてるんですが、あれは絶対、ご婦人の手仕事だと仲間内で話題になってるんですよ」
「ちょっとちょっと、相手は誰よ?」
「そこが分からないんですよね~。あえて問う勇者はまだいないんですよ。聞けるとしたら、ジェラ……若様くらいかも」
「グレイ君、君が勇者になるのだ」
「……無理です」
「骨は拾ってやるから! 絶対、あいつの弱みを握ってやるんだ!」
カーマインはダンッと拳で卓を叩く。
グレイは、あの刺繍はもしかするとアンジェリーナ嬢の手によるものではないかと思っているが、確証がないので黙っておいた。
下手に話を広げると、絶対にヒューにいびられ倒される。
グレイはカーマインの気を逸らせるべく、話題を変えた。
「そういえば、カーマインさんのところのお嬢様に求婚していた、ロッシュ家の次男坊が、町娘と駆け落ちしたって噂ですよね」
「そ……そういう噂らしいね。あの貴族的な人が町娘と駆け落ちだなんて、人生いろんなことあるよね~」
本当は駆け落ちなんかではなく、多分、ヤバい組織にゴニョゴニョされたのだと思うのだが、それを口に出すと、カーマイン自身も行方不明になりそうな気がしたので、黙っておいた。どこで誰が聞いているか分からない。くわばらくわばら。
こんな風に二人はおいしいご飯を食べ、おしゃべりをし、楽しい時間をすごしていた。
しかし──
(あたし、一体どうしたんだろう?)
(僕は一体どうしたんだろう?)
なぜか涙が出てきたので、カーマインは目にゴミが入ったふりをして、ハンカチをそっと押し当てた。
なぜか涙が出てきたので、グレイは落とした物を拾うふりをして、袖口でぐいっとぬぐった。
なぜか知らないが、涙が出るほど幸せな気持ちがあふれでてきて、波のように寄せては返すその温かい想いに揺られ包まれた二人は、不可解なことだと思いつつも、貴重なそのひとときを宝物のように大切に大切にかみしめた。




