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涙が出るほど幸せな  作者: ねこすけ
エピローグ
14/15

エピローグ1

 尼僧長との二回目の会見は、尼僧長、王太子、ウェズリー伯爵令嬢だけで行なわれ、余人を交えなかった。

 これについてキャンベル侯爵から激しい抗議があったものの、尼僧長の強い要望ということで却下された。


 最初に口火を切ったのはジェラルドだった。


「もう、ご存知かと思いますが、我々はオレイリー公とマグダレーナ王女の生まれ変わりではありません」


 ユーリカはうなづき、続きを促した。


「私の侍従チャールズ=グレイがマグダレーナ王女の、彼女の侍女エリザベス=カーマインがオレイリー公の生まれ変わりです。ですが、本人達にその認識はありません」


 マリーが続きを言った。


「でも、わたくし達が過去の夢を見ていた──いいえ、見させられていたのは事実です。殿下はマグダレーナ王女の夢を。わたくしはオレイリー公の夢を。占術士の診立(みた)ては、マグダレーナ王女の願いを叶える為に、そういう夢を見させられているとのことでした」


 ユーリカが問うた。


「王女の願いとは?」


 ジェラルドとマリーは同時に言った。


「世の中がずっと、平和で穏やかでありますように」


「……そうですか」


 ユーリカの目にうっすらと涙が浮かんだ。

 それを見てマリーは、かの占術士と同じく、この人もまた、あの悪夢のような時代を実際に目の当たりにしたのだ、と知った。


「今でも、夜毎、夢を見ます。あの悪夢のような時代の夢を」


 マリーはささやくように訴えた。


「私もマリーも生きている限り、世の中が平和で穏やかであるよう、誠心誠意務める所存です」


 ジェラルドが力強く決意を述べた。


 ユーリカは目の前の若い二人を見た。

 夢越しとはいえ、あの麻のように乱れた時代を見た、マグダレーナ王女とオレイリー公に容姿が似ている二人。

 だが、運命に翻弄されたあの二人にはなかった希望の光が、そこにはあった。


 ユーリカは頭を下げた。


「どうぞよろしくお願いします。私にできることがあれば尽力いたしましょう。これで──」


 ユーリカは微笑んだ。


「王女も安らかになれましょう」




 その夜、ユーリカは付き添いの尼僧の目を盗み、祭壇の前に行き、石造りの冷たい床に(ぬか)づいた。

 今日、生まれて初めて──八十年近くを僧籍に身を置いて初めて、ユーリカは大神カディスの恩寵を知った。

 初めて心の底から感謝と祈りを捧げた。




 ありがとうございます。

 大神の深い恩寵に感謝申し上げます。

 しかし、我が身は浅薄で卑しくありますから、まだまだ欲深な望みがございます。

 慈悲をもって、ユーリカの最後の望みを聞き届けて下さいませ。


 どうかこの平和で穏やかな世がいつまでも続きますよう、お導き下さいませ。

 どうか王太子とその伴侶の道行きが平らかでありますよう、お見届け下さいませ。


 そして──どうか、生まれ変わったあの子達が幸せでありますよう、お守り下さいませ。




 初めて二人に(さち)あれと思うことができ、ユーリカは祭壇の前に額づいたまま涙を落とした。

 ずっと心の奥底につき刺さっていた棘が溶けさり、ユーリカはマグダレーナ王女と出会って以来、初めて心の平安を得た。




 三ヶ月ほど後、尼僧長ユーリカはその生涯を閉じた。

 眠り落ちるような穏やかな最期で、口元には幸せそうな微笑が浮かんでいたという。


 ジェラルドとマリー──後の国王と王妃は、季節ごとの墓参を欠かさなかったが、墓前で二人が何を想い、何を決意していたのかを知る者は少ない。

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