戸張さんとおじさん
「開いているよ。入ってくれ、戸張くん。ノエルくん」
「榎田! 君の助けが必要だ! 頼む捜査協力してくれ!」
大川さんが内側からドアを開けた。すると慌てた戸張さんと、ホワイトシェパードのノエルおじさんが部屋に入って来た。
「用件は分かっているよ。こちらに座りたまえ、軽食も用意してある」
「……っ、嗚呼。すまない、取り乱したよ……」
榎田と戸張さんとの会話を聞きながら、僕はクッションに飛び降りノエルおじさんの元に駆け寄る。榎田が大学に行く時のような格好をしていたのは、二人が来ることを知っていたからだ。
『ノエルおじさん! こんにちは!』
『ロロ、おはよう。今日も元気だな……』
僕が挨拶をすると、彼は伏せの体制になり僕と目線を合わせてくれる。優しいおじさんなのだ。
『戸張さん如何したの? 凄く焦っていたよ?』
『嗚呼……厄介な事件が起きたからだ』
戸張さんは刑事さんだ。そしてノエルおじさんは、彼の相棒であり警察犬である。戸張さんは普段は温厚で落ち着いている人だ。そんな彼が焦っているということは、一大事である。おじさんは疲れた様子で頷いた。
『どんなの?』
『……耳飾りが盗まれた』
『戸張さんが駆り出されて、忙殺されているということは……名のある家的な?』
『……そんな感じだ』
僕の質問に歯切れの悪い返事を繰り返すノエルおじさん。守秘義務や機密事項を話す訳にはいかないのだろう。戸張さんの疲れ具合とおじさんの話から、想像していたよりも事は深刻かもしれない。榎田に話が来るわけである。榎田は趣味で探偵をしているのだ。
『よし! 耳飾りを探しに行こう!』
『待て、何故そうなる』
ノエルおじさんの頭の上によじ登る。すると何故か、おじさんから待ったがかかる。
『ん? だって、榎田に頼むぐらいに戸張さん困っているのでしょう? 忙しくて時間が確保出来ないから、おじさんのブラッシングも充分じゃないよ? ボール遊びもしてもらえていないじゃない? 何よりノエルおじさんに元気がないもの!』
『名探偵だな……』
観察したことを口にすると、おじさんが青い瞳を見開いた。
『へへっ……。早く事件を解決して、一緒に遊ぼう』
『……仕方がないな。協力してくれるか?』
『勿論!』
ノエルおじさんは、面倒見がよくて一緒に遊んでくれる。声が明るくなった彼に元気よく返事をした。