仔猫の疑問
「みゃう……」
「良く寝ているね、君は」
微睡を楽しんでいると、無骨な手に頬を撫でられた。落ち着いたテノール声は、僕の同居人のものである。
「にゃぁ……」
重たい瞼を持ち上げると、ベッドから体を起こして背中を伸ばす。僕の名前はロロ。マンチカンという猫種の仔猫であり、毛はクリーム色である。
「おはよう、ロロ」
「ん、にぁ!」
同居人であり、僕の飼い主である榎田が僕に笑いかけた。
僕は朝の挨拶を口にすると、彼の膝の上に乗り榎田を観察する。癖のある黒い髪に丸い眼鏡を掛け、濃いブルーのスーツ姿だ。彼は既に仕事用に身支度を整えている。しかし今日は確か大学は、休みであった筈だ。僕は首を傾げた。
「おや、『今日は休みじゃないのか?』って顔をしているね」
「なぅ」
アーモンド色の目を細めると、彼は僕の背中を優しく撫でた。僕は考えていたことが悟られ、驚きながらも頷く。
「まあ、直ぐに分かるよ」
「にゃ……」
彼は悪戯っ子のように笑うだけで、理由は語らない。僕は小さな手で榎田の手を叩く。
「旦那様、お茶のご用意が出来ました」
「有難う」
苦い香りと共に、執事の大川さんがカートを押しながら現れた。大川さんは、白髪がカッコイイ初老の男性である。彼は僕のことも世話をしてくれる優しい人だ。
「ロロ様は御機嫌が悪いようですが?」
「ふふ、私が仕事に行くと思っているようだ」
大川さんからカップを受け取ると榎田は笑う。基本的に榎田は優しいが、時々こうして意地悪をするのだ。
「んなぅ……」
僕は早く答えを知りたくて、催促するように榎田を睨み上げる。しかし彼は優雅な所作で、カップを口にした。彼が飲んでいるのは、苦い飲み物とされている珈琲である。泥のように黒色のそれは、眠気覚ましに良いそうだ。
寝たいなら寝てしまえばいいのに、我慢するなんて人間とは不思議な生き物である。
「ロロ。そろそろ、答え合わせのお客様がいらっしゃるよ」
「にゃ?」
榎田がカップをソファーテーブルに置くと、向かい側のドアがノックされた。