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8回目の嘘コクは幼馴染みからでした  作者: 東音
嘘コク一人目
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柳沢梨沙 茶髪美少女と出会う

 掃除当番でゴミ出しの帰り、教室へ戻ろうとしていた私は、階段の踊り場で二人の女子が何やらヒソヒソ話しているのを聞いてしまった。


「ええ?あんた、本当に矢口先輩に告白したのぉ?」


 え?矢口?まさか、矢口京太郎の事?

 私は思わず足を止めて、そこにいる女子達をガン見してしまった。

 一人は茶髪セミロングのものすごい美少女。

 もう一人は物言いのはっきりしたショートボブの小柄な少女。

 どちらも、制服のリボンの色からするに、一年生のようだった。


「う、うん…。だって、マキちゃんが矢口先輩に告白した女子がいるらしいって言ってたから、焦っちゃって。」

「私が、あの情報は怪しいから詳しい事聞くまでちょっと待てって言ったじゃん。」

「だ、だって、まさか7回も嘘コクされてるなんて思わないじゃん?」


 間違いない。彼女達は矢口京太郎の事を話している。

 バスケ部の友達から今日、矢口が屋上でまた嘘コクをされたらしいと聞いたばかり。


 入学したばかりの後輩の女の子にまでからかわれるなんて、私はちょっと黙っていられなかった。


「あなた達、ちょっといいかな?」


 私が呼び止めると、二人の一年生は不思議そうにこちらを見た。


「「?」」


「今言ってたのって、二年の矢口京太郎の事だよね?

 私、同じクラスの柳沢っていうんだけど、あいつ、すごいいい奴なんだよね。

 だからもう嘘コクとか、そういうあいつを傷付けるような事はやめてもらっていいかな?」


 できる限り険しい顔を作り、そう言うと、茶髪美少女の表情が一変した。


「確かに、私は矢口京太郎先輩に8回目に告白をした後輩=氷川芽衣子ですが!

 そういう柳沢先輩は、矢口先輩の何なんですか…?」


 氷川芽衣子という後輩に、いきなりバックに炎が見えんばかりの敵意をぶつけられて、私は戸惑った。


「え?と、友達…かな?」


「ただの友達が異性関係にそこまで口を出しますか?もしかして、あなた矢口先輩の事が好きなんですか?」


 可愛い顔を般若のように歪めて問いかけてくる氷川さんに、慌てて否定した。


「ち、違う違う。私、同じ部活内に彼氏いるし!」


「ホッ。よかった…。ん?でもそれなら何故…?…もしかして以前矢口先輩に嘘コクした人だったりしますか…?」


 !!

 私は思わず口元を手で覆って青ざめた。


 氷川さんは、私をぎっと睨みつけてきた。


「そうなんですね?だとしたら、どの口がそれを言うって感じですよ!あなたみたいにひどい女子達から告白されて、優しい京ちゃんがどんなに傷付いたか!嘘コク対応のプロなんて言って…。

 私の一世一代の告白を信じてもらえなかったのは全部あなた達のせいですよ!

 どうしてくれるんですか?がるーっ、がるるる…!」


「きゃあぁっ!」


 一気にまくし立てると氷川さんは両手を上げて襲い掛かって来た…と思ったら、友達のショートボブの子が、間一髪で頭を抑えて止めてくれていた。

「うーっ。」

「こら、芽衣子!どうどう!落ち着けっての!

 えっと、柳沢先輩でしたよね。ちょっとお話聞かせてもらっていいですか?」


 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


 階段の踊り場に右から順に私、ショートボブの子(笠原真希子さんというらしい)、氷川さんと並んで腰掛けながら、私は今までの矢口京太郎への嘘コクの顛末の全てを話した。


 途中、氷川さんは堪えきれず、私に襲い掛かってきそうな時があったけど、その度に笠原さんが止めていた。


「こらっ、芽衣子、めっ!ごめんなさいね〜。いつもはこいつこんな凶暴な奴じゃないんですが、矢口先輩の事になると途端に理性を失くしちゃって。半分は嫉妬もあると思いますけど…。」


「うっ、うっ、何で京ちゃんはこんなひとに…。中学の時から高校まで京ちゃんの心を奪うなんて羨ましすぎる…。

 でも、私にはない魅力…。ショートヘアーのスポーツ少女…。元からの陽キャ…。すらっと手足の長いスレンダー美人…。あああぁん!!」


「はいはい。芽衣子よーしよしよし、いい子だから落ち着いてねー。」


「クゥンクゥン…。ぐすっ、ぐすっ。」


 氷川さんは飼い主に宥められる小型犬の如く、笠原さんに頭を撫でられながら私に対する文句を言って嘆いていた。


 何というか…。この子とっても可愛いけど、かなりのポンコツじゃない?…と思っていたら、次の瞬間正鵠を突く事を言われてしまった。


「そりゃ、柳沢先輩は思ったよりはいい人っぽいけど、嘘コクで京ちゃんを傷付けた事に変わりはないじゃないですか?

 友達に無茶ぶりされたからって、そんなの断ればよかったじゃないですか。クラスで孤立したのも、彼氏さんに告白を信じてもらえなかったのも、自業自得ですよ!

 それなのに、京ちゃん、彼氏さんとの仲を取り持ってあげるなんて優しすぎます…。」

「こら、芽衣子、言い過ぎ…!」


 私は氷川さんの言葉を真摯に受け止めて、苦い顔で頷いた。


「いいの。その通りだと思うよ。氷川さん。私は過ちを犯してしまった。

 あの時、私は新しいクラスに必死に馴染もうとしてて、クラスの中心的な役割の子が、クラスの男子に嘘コクしてみようって提案されたときに嫌だって言えなかった。ノリが悪い奴と思われてハブられるのが怖くて。

 矢口なら中学の時から知ってるから、後で説明すれば分かってもらえると勝手に思っちゃってた。

 謝っても謝りきれない事をしてしまった。だから、その結果起こった事は全部私の自業自得。それなのに、矢口は私を助けてくれた。だから、私は今度は矢口の力になりたい。」


 私は険しい表情の氷川さんを見て、笑顔を浮かべた。


「さっきは変な事言っちゃってごめんね。

 氷川さんは、矢口の事が本当に本当に大好きなんだね。彼女になりたいって心底願っているんだね。」


「ええ?いきなりな、な、何を言うんです…。」


 途端に真っ赤になって狼狽えながらも氷川さんはポソっと呟いた。


「そ、そんなの、当たり前の事ですよ。」


 紛うことなき、恋する乙女の顔をしている氷川さんを見て、私は大きく頷いた。


「うん!そしたら、氷川さんと矢口がラブラブカップルになれるよう、私も協力するよ!」


 氷川さんは目を剥いた。


「ええっ。冗談はよしてください!嘘コク一人目のひとに力を借りる程落ちぶれてはいません。」


 そう言い放つ氷川さんに、私は目一杯意地悪な笑顔を浮かべた。

 矢口と氷川さんの恋物語にとって、嘘コク女の私は悪役だ。どうせなら、自分の役割をとことん演じきってみせる!


「あれー?本当にいいの?氷川さんは幼馴染かもしれないけど、今の矢口の事はあまり知らないでしょ?嘘コクニ人目〜七人目の情報は知らなくていいの?」


「うっ、そ、それはっ!」


「私なら知っている限り氷川さんに教えて一緒に対策を練ってあげられるよ?バスケ部の情報網はあるし?クラスメイトだし?協力出来ることは山程あるよー?」


「うっ、うぐぐっ。」


 顔をクシャクシャにして、葛藤している様子の氷川さんの脇腹を、笠原さんが肘でツンツン突いた。


「願ってもない事じゃん。ホラ、芽衣子ぉ!」


「せ、背に腹は代えられません。お、お願いします…。」


 氷川さんは脱力して、悔しそうに頭を下げてくるのを見て、私はニンマリ笑った。


「そうこなくっちゃ!」



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