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8回目の嘘コクは幼馴染みからでした  作者: 東音
嘘コク四人目
67/255

お母さんはサラブレッド

ベッドの上で向かい合う男女。


  男=股間全勃ちの京ちゃん。


  女=ガッツポーズをして喜ぶ私。


ドア越しには私のお母さん。


  京ちゃんと会う。


  →私がめーこだと即バレる


未だかつてない修羅場的状況に私はなけなしの脳をフル活動させて事態の収拾を試みた。


まず、ドア越しのお母さんに必死に叫ぶ。

「お母さん!今、出て行くから開けるのちょっと待ってて!!」


続いて京ちゃんに向かってヒソヒソ囁く。


「きょ、京先輩。《《その子》》はどれぐらいでおさまるものなんでしょうか?」


「え。ま、まぁ頑張れば10分位で抑えられると思うけど…。」


「じゃあ、私がお母さんを引き付けている間になんとか鎮めて下さい。お母さんには学校の先輩に勉強を教えてもらいに家に来てもらっていると説明しますから。また頃合いを見計らって呼びに来ますね。」


「お、お、おう。分かった。」


「では、健闘を祈ります!えっと、お利口さんにしていて下さいね…。」


私はついつい京ちゃんの《《その子》》にも、親しみを込めて語りかけてしまっていた。


そして、ドアを、少し開けると中が見えないようにぎりぎりの隙間に体を滑らせるようにして、廊下へ出た。


ドアの前で、心配そうなスーツ姿のお母さんが待ち受けていた。

「お、お母さん。お帰り。今日はどうしてこんなに早いの?」


「今日はお客さんのとの会合が急遽キャンセルになったから、早めに帰ってきたのよ。

それより、芽衣子。お友達でも来ているの?それなら、ご挨拶するからちゃんと言ってくれないと…。」

「お母さん、全部説明するからちょっと来て!」


「ちょ、ちょっと芽衣子?」


私はお母さんをリビングに引っ張っていくと、全ての事情(嘘コクミッションと京ちゃんの全勃ち以外)を説明すると、両手を合わせて頼み込んだ。


「お母さん、一生のお願い!京ちゃんには私がめーこだと言わずに仲良くなってるから、絶対バラさないで!お母さんが京ちゃんに合うとバレちゃって、今までの苦労が全部水の泡になってしまうの!」


お母さんは困り顔で、私を諌めるように言った。


「芽衣子…。事情は分かったけど、そんな事いつまでも続けていけないでしょう?いつかどこかから分かってしまうことよ?」


「分かってる!時期が来たら、私が自分の口からちゃんと京ちゃんに伝える。でも、今はその時じゃないの。少しの間だけでいいからお願い!お願いします!」


深々と頭を下げる私を見て、お母さんはふーっとためいきをついた。


「分かったわ。少しの間だけね。」


「お母さん!ありがとう…!!」


私は涙目になって礼を言った。


「小さい頃は大人の事情で、京ちゃんとの仲を裂いてしまって、あなたに申し訳ない事をしてしまったと思っているの。

娘の為とあらば、私も一肌脱ぎましょう!」


お母さんはそう言うと、力強く頷いてくれた。


「だからといって、ご挨拶もしないってのはどうかと思うから、お母さん、少し変装するわね?」


と言いながら、リビングの棚をガサゴソやり始めた。


「サングラスでもするの?」


「いいえ、お父さんが春先に、会社の催し物で、当ててきた景品があったでしょう?」


「え?まさか、アレ…?う、嘘でしょ…?」


一肌脱ぐどころか余計なものを被りそうなお母さんに、私は青褪めたのだった。


         *

         *

         *


芽衣子ちゃんが、お母さんに応対してくれている間、一人芽衣子ちゃんの部屋に残された俺は、必死にありとあらゆる萎える想像をして、なんとか元気になった自分のモノを鎮めた。


うう…。人にはとても言えないようなひどい想像をしてしまった。ウエッ!

吐きそうになって口元を押さえているところへ、コンコンと部屋のドアをノックする音が響いた。


「京先輩。大丈夫…そうですか?《《その子》》…。」


芽衣子ちゃんが心配そうに声をひそめて、問いかけてくる。


芽衣子ちゃんさっきから《《その子》》って…、個別の生き物じゃないから…。


「あ、ああ…。なんとかおさまったよ。」


「よかった。」


俺が答えると、芽衣子ちゃんはドアを開けるて、満面の笑みを浮かべた。


「それで、あのぅ…。お母さんが、京先輩にご挨拶したいそうなのですが、ちょっとだけリビングにお付き合い頂いてもいいですか?」


!!


一難去ってまた一難!

後輩の女の子のお母さんに会うイベント発生!!


「あ、ああ、いい…よ?」


俺は、口元を引き攣らせて頷くしかなかった。


芽衣子ちゃんに先導されて、俺は緊張でロボット歩きになりながらリビングに向かっていた。


「ごめん、今更だけど、俺、家族の留守中に女の子の家に来ちゃって、よかったのかな?

何のお土産も持ってきてないし…。」


「それは心配しなくて大丈夫ですよ。

私が強引に誘ってしまったんだし、お土産も私がいいと言ったので。逆に、京先輩に気を遣わせる事態になってしまってすみませんね。」


縮みこまる俺に、芽衣子ちゃんは申し訳なさそうな顔で答えた。


「えっと、それと、お母さん、極度の恥ずかしがりやで、初めて会う人に素顔を見せるのが恥ずかしいみたいで、ちょっと変わった格好をしているんですが、驚かないで下さいね?」


「変わった格好?」

「え、ええ…。」


芽衣子ちゃんには、最近毎日お弁当を作ってもらっているが、お母さんと一緒に作っているものだと聞いている。

いつも栄養バランスのとれた美味しいお弁当を食べさせてもらい、

芽衣子ちゃんはもちろん、芽衣子ちゃんのお母さんにも感謝の気持ちと好感を抱いていた。


俺の中で芽衣子ちゃんのお母さんは勝手に

美人で品のよいママというイメージを抱いていたため、変わった格好をしている姿が想像つかなかった。


しかし、芽衣子ちゃんがリビングのドアを開けた瞬間、俺の描いていたお母さんのイメージは跡形もなく、霧消した。


「お母さん、先輩に来てもらったよ?」

「あら?こんにちは。あなたが矢口くん?

こんにちは。芽衣子の母です。芽衣子がいつもお世話になってます。今日は来てくださってありがとうね。」


!!?


キッチンからこちらを振り向いて、優雅な仕草でお辞儀をする薄紫色のスーツ姿の芽衣子ちゃんのお母さんは、雰囲気も、全て俺のイメージ通りだった。ただ、《《馬の顔》》をしているところを除けば。


単に馬面をしているとかでなく、首から上が完全に馬そのものなのだ。

鹿毛色の毛に立派なたてがみ。むき出しの歯。馬の瞳は生き生きと光っていて、いかにもサラブレッドらしいいい走りを見せてくれそうだった。


首から下は無論女の人。神条さんに負けるとも劣らない巨乳をお持ちで、スタイルがよいだけによりシュールな絵面となってしまっている。


パーティーグッズの馬のお面をすっぽりと被っている、芽衣子ちゃんのお母さんに、俺は心臓をバクバクさせながら挨拶をした。


「ここ、こんにちは。や、矢口です。お邪魔してます。

こちらこそ、いつも芽衣子ちゃんにはお世話になってます。お弁当いつも美味しく頂いています。ありがとうございます。いつもすみません。」


「あらあら、ご丁寧に。こちらこそいつもお弁当きれいに食べてくれてありがとうね?

芽衣子とキャーキャー言いながら、楽しく作ってるから、気にしないでね。もう、芽衣子ったら一日中あなたの話ばっかりで…。」


「ちょ、ちょっと、やめてよ、お母さん。京先輩の前で、余計な事いわないでよぅ!」


赤くなってお母さんに文句を言っている芽衣子ちゃん。


「ふふっ、もう、芽衣子ったら矢口くんの事になるとムキになっちゃってぇ。」


「もぅ、やめてったら〜!」


どこから見ても、仲の良い母娘の微笑ましい図だが、だが、母は馬…。何故…?


どうしていいか分からず視線を逸らせると、察したように、お母さんは苦笑いした…ように見えた。


「ごめんなさいね。私、こんな格好で。恥ずかしがりやで、初めて会う人には、お面を被らないとうまく話せないの。」


どんなに恥ずかしがりやと言ったって、馬のお面被って、初対面の人に挨拶するより恥ずかしいことがあるものなんだろうか?


「そそ、そうなんですね。」


「でも、芽衣子からよく聞いていた矢口くんに会えて嬉しいわ。

随分、大きくなっ…、い、いえ、器が大きそうなカッコいい子ね?

ささっ。そこのソファーにでも、座って?お菓子でも食べながら、色々お話聞かせてくれるかしら?」


「あっ、はい。すみません。」


俺はお母さんとお菓子の出されたテーブルを囲むように座ると、今だ鳴り止まぬ嫌な胸の鼓動を抑えながら、なるべく普通に対応しようと心がけた。

       

         *

         *

         *


その後、芽衣子ちゃんのお母さんの出してくれた手作りお菓子を食べながら、学校の事や、俺や芽衣子ちゃんの事、義弟さんの試合の事、色んな話をしたような気がするのだが、正直あまり、記憶に残っていない。


お母さんの馬の顔が気になり過ぎて…。


もうすぐごはん時というとき、夕食も誘われたが、流石にそれは遠慮して、二人に別れを惜しまれながら、玄関口でお暇を告げる事となった。

「今日は矢口くんとお話できて楽しかったわ。また、ぜひうちにいらしてね。

これからも、芽衣子と仲良くしてやって下さいね。」

そう言って、芽衣子ちゃんのお母さんはヒヒンと鳴いた…間違えた、ふふっと笑った。

「は、はい。」


「あ、待って、京先輩、駅までお送りします。」


部屋着の上にパーカーを羽織り、慌てて追いかけてくる芽衣子ちゃんに、叱るように言ってやった。 


「何言ってんだよ、芽衣子ちゃん?この間ストーカーに遭ったばかりだろ?こんな遅くに、そんな薄着で出歩くなんて、危ないだろ。」

「ええ、そんな、大丈夫なのに〜。」

「絶対駄目!」


「あうぅ〜。じゃ、じゃあ、せめて、マンションの下まで送らせて下さい…。」


大きな目をうるうるさせて、制服のYシャツの袖口を指でキュッと掴んでくる芽衣子ちゃんを振り払うことはできなかった。


エレベーターで一緒に一階に降り、マンションの出入口のところで、芽衣子ちゃんは俺にペコリと頭を下げた。


「今日は京先輩、嘘コクミッションの事といい、母の事といい、付き合って下さってありがとうございました。

いっぱいセクハラしちゃって、ごめんなさい。京先輩の嫌がることはもうしないから

嫌いに…ならないで下さい…ね?」


「べ、別にそんな事で芽衣子ちゃんの事嫌いになったりしないよ。それに、全部がセクハラってわけでもなかったし…。」


「?」


「ミッションの内容も嫌じゃなかった。

可愛い女の子にくっつかれて嫌な男はいないよ。」

「京先輩…!!」


全勃ちした姿を見られてしまったせいなのか、芽衣子ちゃんのお母さんの馬の顔に呆けてしまったせいのか、今は思ったことを思ったままに、言ってしまっていた。


「俺の方こそごめんね。なんか、今日、芽衣子ちゃんを傷付けるような事いっぱい言っちゃったみたいで。

芽衣子ちゃんがいつも俺を元気づけてくれるように、俺も芽衣子ちゃんの力になってあげたかったんだけど、うまくできなくて、本当にごめん…。」


芽衣子ちゃんは一気にまくし立てるように謝り出す俺に目をパチクリさせていたが、やがて、花が開くようなふんわりした笑顔になった。


「ふふふっ、京先輩がそんな事言うのおかしい。京先輩は私を一番元気づける技をもう持ってるじゃないですか。」


「??」


芽衣子ちゃんは人差し指を立てて、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「マキちゃんから伝授されし、頭ナデナデの術ですよ。」

「!!」


「嬉しいときはもっと、嬉しく、落ち込んでるときは、元気になります。一度試してみてはいかがでしょうか?」


「芽衣子ちゃん…。え、い、今?」

「はい。お願いします♡」


差し出すように前に出してきた芽衣子ちゃんの頭をそっと触り、その絹糸のように細くて滑らかな髪をゆっくり撫でた。


ああ、この子の髪は本当になんて、柔らかくて手触りがいいんだろう…。


本当はギャルゲーの主人公でもなく、この子の彼氏でもなく、ただの先輩の俺がこんなに何度もこの子に触れるのは、ルール違反だって分かってる。けど、今だけ、この子が気持ちよさそうにしているという理由を言い訳にもう少しだけこのまま撫でていたい。


「クウゥーン…。ああ、今日も一日中幸せでした…。」


芽衣子ちゃんが幸福そうに小さくこぼした。


         

         *    

         *

         *


「ううんっ…、あっ芽衣子ちゃんダメだ、そんなとこ触っちゃ…って芽衣子ちゃんのお母さん!?馬の顔をそんな風になすりつけてこないで下さいっ。ああっ…!!」


その夜、白いレースの下着を身に着けた芽衣子ちゃんと芽衣子ちゃんのお母さんに迫られる夢を見て俺は一晩中うなされていた…。

        

         *

         *

         *


「ああ、京ちゃんの匂いがする…。きゅうぅん!全然寝れないよぉっ!!」


その夜、京ちゃんの残り香に興奮して眠れず、私はベッドの上で悶えていた。

暴れ過ぎて、勢いで枕元にあったお守りを

床に落としてしまった。


「あっ。マキちゃんにもらったお守りが…!」


慌てて拾おうとすると、封が開いて、封筒から中身が出てしまっている。


「??」


中身=小さな薄い袋を拾い上げてよく見ると、丸く薄い何かが入っているようだった。


これ、何だろう…?

数秒考えて…私は固まった。


「ピギャっ!!」

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