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8回目の嘘コクは幼馴染みからでした  作者: 東音
嘘コク一人目
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柳沢梨沙 嘘コク後の顚末

 まぁ、その後の事はよく覚えていないし、思い出したくもないけど、自分のおちゃらけキャラを利用して、その場をうまく取り繕った気がする。

 その場でキレたり、落ち込んだりする事は、しなかった。というか、できなかった。そんな事をしたら余計に惨めになることが分かっていたから。


「あ、やっぱ嘘コク?柳沢レベルの女が俺に告白してくるなんて、おかしいと思ったんだよね。やっと俺にも春が来たと思ったのに、まだ遠かったか〜!」


 そんな事を言って、へらへら卑屈に笑った。その後何度も謝ってくる柳沢に、いいって、その代わり今度、俺が宿題忘れたときに写さしてくれ!とよく分からない要求をした。


 その時はそれでよかったが、次の日俺が柳沢に嘘コクされた事が、学校で噂になっていた。


 俺はもちろん、誰にも言ってない。

 柳沢は…、噂されているのを青い顔で耐えているところを見ると、おそらく誰にも言ってないだろう。


 とすると、姿は見えなかったが嘘コクを見て陰でクスクス笑っていた女子達…。


 その日から、柳沢はクラスの上位グループと話す事はなくなり、一人でいる事が多くなった。

 俺は、友人に多少同情的な目で見られたものの、へらへらしてやり過ごした。

 所詮俺の立ち位置はカーストの下の方。おちゃらけキャラから弄られキャラになったものの、大した変わりはなかった。

 しかし、柳沢は…。


 案外、標的は俺ではなく、柳沢だったのかね。

 可愛くて誰からも好かれる柳沢をカースト上位から追いやるために、俺は道具にされたのに過ぎないのかも。


 見えない誰かの悪意が、俺を惨めなピエロ役にして、柳沢を蹴落としたのだと思うと、

 俺はなんだかやり切れないような気持ちになった。


 そして、それから程なくして、運悪く俺が部活に所属してないという理不尽な理由で

 担任に用事を頼まれ、下校が遅くなった帰り道、中庭のベンチに座って泣いている女子に行き会った。


 柳沢梨沙だった。

 ジャージ姿で、ハンカチを顔に押し当てて、人目も気にせず嗚咽をもらしている。


 そのまま、通り過ぎようかとも思ったが…。


 迷った末、一声かけてみた。


「柳沢、青春してるな。試合で負けでもしたのか?」


 柳沢は、ビクッと肩を震わせ、弾かれたように顔を上げたが、俺の顔を見ると、更に滂沱の涙を流した。


「違う…。矢口…には…、全然関係ない…から…。」


「その言い方は俺に逆に関係あるような感じじゃね?」


「大丈夫…。自業…自得だから…。」


 そう言って、さめざめと泣く柳沢を見て俺はため息をつくと、時間をかけて泣いている理由を聞き出してやった。


 何でも同じバスケ部で前からいい感じの男子がいて、部活の終わりに、告白のような事を言ったんだが、俺に嘘コクをしたという噂を聞いていた相手に、まさか嘘コクじゃないよね?と言われてしまったらしい。


 ショックを受けた柳沢はそのまま飛び出して来てしまったという事だった。


「自業自得だよね。矢口をあんな風に傷付けてしまったのに、自分だけ幸せになろうなんて、虫が良すぎた…。ごめん…。

 矢口、話聞いてくれてありがとう。

 本当はこんな事聞いてもらう資格、私にはないのに。」


 柳沢は涙を拭くと、気丈に笑った。


「ありがとう。もう大丈夫だから。」


 俺はイラッとした。

 完璧なリア充と思っていた柳沢が、実はこんなバカな奴だったとは…!


「柳沢、何も大丈夫じゃないぞ?」


「?」


「お前はそれでスッキリできたとしても、俺はどうなる?その告られた相手の男はどうなる?俺に関わったせいで、柳沢がこの先幸せを逃し続ける罪悪感をかかえてなきゃいけないのか?

 相手の男は、好きな女に告られて、それが本当なのか噓なのかも分からないままにずっと引きずってかなきゃいけないのか?」


「え。い、いや、そんな事言われても…。そしたら私はどうしたら…?」


「噓で相手を傷付けたのだったら、謝って今度は真実を告げるしかねーだろ。

 ホラ、ちょっと来い。」


「え、ええっ。ちょ、ちょっと矢口?」


 俺は戸惑う柳沢を追い立てるようにして、バスケ部の部室へ向かった。


 すると、部室の前で心配そうに周りをキョロキョロしているイケメン男子がいた。


「涼くん…。」


 柳沢が気まずそうにしているところを見ると、奴が告った相手らしい。


「柳沢。どこ行ってたんだ。心配したよ。えーと、君は…?」


 柳沢の姿を見て、ホッとした様子だったが、不審そうに、こちらを見てくるイケメンに、俺は全ての事情を説明した。


 そして、柳沢とイケメンは無事仲直りをして、熱い抱擁まで交わした。


 いや、そーゆーのは後で、二人きりのときにやってくれや。

 羨ましいぞ。畜生め。


 何度も二人にお礼を言われつつ、俺は柳沢達と別れ、一人帰途についた。


 あーあ、なんか、疲れたな…。

 胸がズキズキと痛みながらも、どこかすっきりしたような複雑な感情を抱えていた俺は、その日風呂にも入らず早々に寝てしまった。


 翌日、一時間目の授業の宿題を忘れて頭を抱えていた俺の前に、一冊のノートを差し出してきた女子生徒がいた。


 満面の笑みを浮かべた柳沢梨沙だった。


「矢口。宿題写さしたげる。約束だもんね!」


 ああ、そういえばそんな事も言ったね。

 よく覚えてたな…。


 俺は柳沢の手からありがたくノートを受け取ることにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 糞お優しい主人公様ですね
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