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8回目の嘘コクは幼馴染みからでした  作者: 東音
嘘コク四人目
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メガネ女子との選書な関係


「これ、返却お願いします。」

俺は、図書委員のメガネ女子に本を渡した。


「はい。()()()()()()()()は借りますか?」

メガネ女子は、いたずらっぽい笑みを浮かべて、俺を見上げてくる。


「はい。ぜひお願いします!」


俺が笑顔で答えると、一瞬メガネ女子は何とも嬉しそうな表情になり、すぐにそれを抑え込むように難しい顔を作った。

額に皺は寄っているが、よく見るとピクピクと頬が動き、ともすれば口角が上がりそうになっている。


「で、では、少々お待ち下さいね?」


バーコードリーダーで読み込むと、


「返却期限は今月の28日になりますっ♪」


はずむような声で神条さんは俺に本を手渡した。

『花祭の後に』というタイトルの

藍色の夜景にイルミネーションが浮かぶイラストの書いてある本の表紙を見て、俺も口元が緩むのを感じた。


(家まで我慢、我慢だ…!)


俺はそう自分に言い聞かせ、図書室を出ると、階段を降り、足早に下駄箱に向かったが…。


(ちょっとだけ、ほんのちょっと見るだけだから…。)


結局、校舎を出たすぐのベンチに腰を下ろしてしまった。

さっき図書室で借りた本を取り出し、中を確認すると、本の中ほどに二つ折りにされた花柄のメモが入っていた。


用紙を広げて見ると、ペン習字のお手本のような綺麗な文字で、以下のように書かれていた。

『矢口京太郎様

読後感のよいものをという事でしたので、この本を選びました。幻想的な花祭の後で起こった事件の謎を解き明かすミステリーとしても、三十年前と今、二組の家族の人間ドラマとしても、楽しんでもらえるのではないかと思います。また、感想を教えてもらえると嬉しいです。

            神条桃羽   』



俺はメモを見て、思わずニヤニヤしている自分に気付き、頬を軽く叩いた。


いかん。俺一人でベンチでニヤける怪しい奴になっていた。


今頃は、返却した本に、俺がはさんだ本の感想メモが神条さんの手に渡っていることだろう。

彼女も少しは嬉しいと思ってくれたりしているのだろうか?


俺は神条さんに図書室の一件のお礼として、

オススメの本を紹介したいと言われたときは、正直「は?どゆこと?」と思ったけど、

要は選書のサービスをしてくれるって事らしい。


神条さんは、俺が今まで読んだ本や、興味あること、希望する分野の本について、聞き出すと、俺にオススメの本を提案してくれた。


最初は、神条さんの気が済むなら一冊だけと、提案された本を借りてみたところ、これが大当たり…!笑いあり、涙あり、ちょっと毒のあるところも、ツボにハマってしまい

夢中でその日の内に一冊読み切ってしまった。


翌日、感激冷めやらぬまま、面白かったと

神条さんに伝えると、彼女は頬を高潮させて

喜んだ。


以来、彼女に選書してもらった本を予約していることにしてもらい、図書室で借りる事が習慣になっていた。


しかも、噂になるから接触は必要最低限にしたいという俺の要望に、カウンターでの短いやり取りのみにしてくれたり、

試験前は長いものが読めないだろうと、気分転換に読めるような短いエッセイや写真集を選書してくれたり、

嘘コクされたという事を話しただけで、何も言わずとも恋愛物はなしにしてくれたり、いや、もう、ホント気遣いがすごいの!


神条さんは、将来絶対、本に関わる何かのプロになると俺は確信していた。


別に全然恋愛とかに発展するような奴じゃないんだけど、俺は本を介した彼女とのやり取りがちょっとした楽しみになっていた。


リア充の奴らみたいにガッツリ彼女作ったりとかは俺には無理だし、それを目指すのももう懲り懲りだけど、こういう心温まる交流が

あるのは、悪くはないな…と思っていた矢先だった。


『矢口京太郎様

明日の昼休み、屋上前の扉の前に来て頂けないでしょうか。

           神条桃羽』


借りた本の中にこんな手紙が入っていたのは。    

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